波紋

茉莉花 香乃

文字の大きさ
29 / 41
第五章

08

しおりを挟む
二人で映画館に来たのは初めてだった。

暗闇の中で手を繋ぐのはドキドキした。暗闇とマフラーに隠れて隣の人には見えないところで繋がる手。
指先で俺の掌に円を描いたり、指を絡めたりする。

二人きりの部屋の中では普通に出来ることだけど、わざわざ外で繋がなくてもって思うけどいつでも触れていたい。
…いけないことをしている感じがドキドキ感を更に増していく。

男二人が横に並んでても誰も気にしないだろう。一人で観に来たか、俺たちの年齢差だと兄弟とか、叔父と甥。

「…郁己」

小さな声で呼ばれた。
映画はそろそろ終わる。

「俊、何?」
「愛してるよ…お昼は何食べる?」

誰にも聞こえないように俺の耳元で囁く。
それ、今要る?
一気に顔に熱が集まり映画に集中できない。あと少しで終わるのにどんな結末かわからなくなる。

映画は面白かった。
最後は全然集中出来なかったけど。

涼しい顔で隣に立ち、俺を見下ろす。

「寒くない?マフラー貸してやるよ」

外に出ると冷たい風が髪を踊らせる。首が寒く見えたのかな。
映画館の中で繋いだ二人の手を隠していたマフラーは今、俺の首を北風から隠すように巻かれた。

「えっ?いいよ。俊一さんが寒いだろ?」
「全然平気。行こっか?」

かっこいい。何さらりとキザなことをしてくれるの?

何度か一緒に来たことのある定食屋さんでお昼を食べた。友だちとならこんな渋いお店には入らないだろう。夜にはお酒も出すみたいで、一品料理も品数が多かった。
俺がお酒の飲める年になったらここで一緒に飲みたいな…。

少し買い物をしてマンションへ帰った。

冬休みのほとんどを俊一さんと過ごした。泊まったのはあの日だけ。必ず帰れと言うんだ。構わないのにさ…。
俊一さんの仕事の日には、バイトの時間を昼に変えられる時は変えてもらった。毎日は無理でも、少しだけでも一緒にいたい。
家にはおじいちゃんの顔を見るために渋々帰った。出かける時に部屋を覗くと、いつもと変わらない寝顔だった。

「行ってきます」

返事はないけど、頬がピクリと動きまるで「ああ、行っといで」と優しく送り出される気がする。


俊一さんの居ないマンションに入るのは慣れない。

『今日は少し遅くなるから来るなら先に部屋入ってて』

そんな連絡が来たのはバイトが無い日の昼休み。最初の頃なら『今日は遅くなるから…ごめんな』だった。これはもう来るなと暗に言ってる。でも、今は違う。そのメッセージの裏には『部屋で待ってて』って意味があると思う。
俊一さんは俺が一人で外で待つのを嫌がる。今は寒さもあるだろうけど、違う心配をするんだ。誰も襲わないさ!誰が見ても男子高校生だ。でも、心配されるのはこそばゆいけど、嬉しい。

「何、ニヤニヤしてんの?」
「えっ…ニヤニヤなんてしてないよ」

携帯を見ていたらいきなり声をかけられた。ニヤニヤしてたかも…。俊一さんからの連絡はあまり無い。あっても必要事項だけの簡素なものだ。でも、最初の頃に比べたら少し俺に対する感情が変わってると思うんだ。ぐふっ…これは嬉しいよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ボーダーライン

瑞原唯子
BL
最初に好きになったのは隣の席の美少女だった。しかし、彼女と瓜二つの双子の兄に報復でキスされて以降、彼のことばかりが気になるようになり――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

処理中です...