波紋

茉莉花 香乃

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おまけ

ーーー

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郁己が二十歳になった。

これで堂々と飲みに行けると喜ぶ。

今までは俺のビールや焼酎を少し飲んで『苦っ』っと顔を顰めてた。だから、たまに缶の甘いカクテルを買っておく。俺にしてみたらジュースみたいな飲み物だ。
それを少し飲み美味しいねと言いながら、最後には全部飲んでしまう。

楽しみにしてたんだと笑う顔はまだ幼く、お酒を買うのさえ何か証明するものが必要じゃないかなと思うくらいの可愛さだ。

『明日の朝一の授業なくなったんだ。今、電車。もう直ぐ着くから、迎えに来て』

そんな連絡があったのは月の綺麗な平日だった。今日は来る予定じゃなかったのに無理して来てくれることに心配と嬉しさが同時に押し寄せる。

「こんばんは」
「こんばんは。いつも仲良いね」

部屋を出て鍵を掛けていると、隣の人に声をかけられた。一人は俺と同じくらいに住み始めて、今声をかけてきた人はこの四月に越してきた。

二人で住んでるみたいだ。
恋人同士だろうか?俺たちがそうだからと言って、みんながみんな男同士で付き合ってるとかないか?でも、二人の雰囲気は恋人のそれだ。

「今からお出かけですか?」
「ああ、呼び出されたんだ。参るよ」

郁己が待ってるんだ。早く行かないと。

「行ってらっしゃい」
「…行ってきます」

この人は愛想が良い。誰にでも声を掛けているんだろうか?笑顔で挨拶されたら嫌がる人はいないだろう。

スーツを着てるけどどこか可愛らしい感じがして二人を見ていると微笑ましい。

あと二年もしたら郁己もスーツを着るのか?あまり想像できないな。

軽く会釈して出掛けた。

「俊一さん!」
「お帰り」
「ただいま。ねえ、あそこ行こ?」
「ああ…郁己は好きだね、あの定食屋」
「だって、美味しいだろ?」

郁己と始めて昼飯を食べた定食屋は二人でたまに食べに行った。何故か気に入っていて、特にお酒が飲めるようになると度々行きたがる。

今では顔を覚えられているくらいで所謂、常連になった。どこかの店の常連になる程同じ店に通ったことがなかったので、店員に名前まで覚えられていて不思議な感じだ。

「いらっしゃいませ…ああ、永岡さんと郁己くん。珍しいねウィークデーに」

ここの店員には確認された訳じゃないけど、郁己は恋人だと気付かれてると思う。プライベートに入り込まない距離感で、居心地は良い。

聞かれれば言うつもり。いつも二人で来ていて、多分普通の友だち同士とは違う雰囲気で話しているだろう。年も離れてる。高校生の頃から来ていたのを覚えられていたので、会社の同僚とも違う。

郁己は最近ビールが飲めるようになった。でも、ワインの方が好きみたいだ。甘いカクテルやサワーも好き。

「今日は何にする?」
「ハイボール!」
「珍しいな?」
「大学の友だちと飲みに行った時、始めて飲んだんだ。美味しかった」

俺の知らない郁己。

仕方ない。ここから通うと言うのを無理矢理向こうに住まわせたんだ。
高校の時から友だちと出掛けるのは良いことだと勧めた。友だちは大切にしなくちゃ。
でも、飲みにか…。
何もないだろうとは思うけど、酔った郁己を誰かに見せるのはちょっと嫌だな…。

「心配なんかいらないよ?一杯だけって決めてるから…酔うのは俊と一緒の時だけ」

耳元で、俺の不貞腐れた顔を見て笑いながら言う。
大人気ないな。
でも、郁己に関することは違うんだ。一杯くらいならほんのり赤くなる程度だけど、そのほんのりも他の野郎には見せたくない。

まだ限界まで飲ませたことはないけど、一度じっくりどのくらい飲めば酔うかを知っておく必要があるかな…。もちろん外では飲ませない。店員だろうと見せたくない。

どんなふうに可愛くなるかわからない。泣き上戸じょうご…笑い上戸…まあ、どんな郁己だって可愛いだろう。

「何ニヤけてるの?」

そんなことを考えていたから顔に出てたみたいだ。

「今度、郁己を酔わせて啼かせてみたいなって考えてた」

耳元で囁くと途端に耳から、首筋から赤く染まる。

失敗した。

俺の微妙な言い回しがしっかりどんなふうに啼くのかわかったのか少しの酒だけでこれだ。

「うぉっ」

丁度店員のマサくんが肉じゃがを持って来てくれたとこだった。

「可愛っすね?こりゃ永岡さん、心配だね」

そんなことを言われて益々心配になる。
少し睨んでおく。
俺は大丈夫っすよ?って言われてやっぱり心配になる。

俺は?じゃあ、他の野郎は?

心配の種は尽きない。


おまけのおわり
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