sweet!!

仔犬

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escape!!

3

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「あ、先輩こいつ名前は坂下優夜さかしたゆうやです」

まだ復活しない優の代わりに自己紹介をしてみる。聞こえた優も頭だけ下げていた。

「俺達の事は知ってるみたいだし名前は大丈夫そうだね。何年?」

「1年です」

「何組?」

「え?C組です……」

組まで訊かれるとは思わなかった俺は優と目を合わせる。優も不思議そうにしている。

「ヨッコイセー」

どうかしたんですかと聞く前にまた呑気な声が聞こえてくる。そしてやはりやっている事と全く合っていない。豹原先輩が赤髪の不良を担ぎオレンジの人の隣に並べ始めたのだ。やめてくれ、揃えなくていい。

「せ、先輩……?」

思わず豹原先輩の横に向かうと気絶した2人の哀れな姿が。2人とも一撃のはずなのにかなり腫れて同情しそうな程ボロボロだ。それほど彼らの実力差は大きいのだろう。

「もっと綺麗に染めたらいいのに~」

恐らく不良2人の髪の毛をみて言ったのだ。たしかにどちらも何度もブリーチして髪の毛がボロボロ。色にムラもあってあまり綺麗ではない。
もちろん、そう言った豹原先輩の髪の毛はいつもサラサラで色味も完璧だ。
今は茶髪に金メッシュだが前見た時は青がインナーカラーで入っていた。痛み知らずでツヤもある。色落ち後までちゃんと想定してありそうなヘアカラーだった。

「先輩いつも綺麗に染まってますもんね」

「みたことあるのー?」

「目立ちますもん」

「いやーん、えっちー」

「えっち!?…………あれつーかこの人なんか濡れてません?転がった時水に濡れました?」

「最初から濡れてたよソイツ」


 不良の横にしゃがんだ先輩はさらりと答えた。え、そうなんだ。赤髪の人、そんなびしょびしょではないけど制服が心なしか濡れている。最初からわかっていたということは豹原先輩は走ってきた段階で濡れていたのが見えた事になる。もしかしてめちゃめちゃ目がいいのかもしれない。

「先輩視力いくつっすか」

「2.5」

「ええ、すげえーー!」


ふふーんとドヤ顔してきた先輩がなんだか可愛くて、しゃがんで小さく座っていると余計に俺の妹と弟に重なって見えた。えらいことをするとすぐに褒めて褒めてと目が輝くのだ。


「うん。すごいな」

気付いたら豹原先輩の頭を撫でていた。  

先輩もまさか頭を撫でられるとは想定していなかったのか、形のいい猫目がまん丸になっている。俺は笑顔のまま固まった。ど、どうしよう。

パシャ!

謝ろうと思ったら音でびっくりして思わず両手をあげて無罪ですのポーズ。

やべえ。やってしまった。
俺の弟と妹は5歳だ。いつもいつも腰に抱きついてくるから頭を撫でるのが習慣化している。しかも上から目線に褒めてしまった。

「ご、ごめんなさい!ちっこい兄弟ふたりもいるんでつい癖で!!……ってパシャ?」


いつのまにか豹原先輩の手にはスマホ。スマホ越しに先輩の目だけが覗いている。


「……秋だっけ?」

「え、あ、はい秋っす」

「うん……いい顔するじゃん


恐らく撫でている時の俺の写真だろか。画面を見ながら先輩が笑った。
お咎めなし、という事だろうか。代わりにお前の顔撮ってやったぜ的なやつなのか。

理解が追いつかない俺を置いて、先輩は流れるような手つきで今度は気絶したふたりをスマホに楽しそうに写真を撮りだした。

「え、え、先輩?」

「こっちはひーに送ろっかなって」

「ひー?」

「ひさと」


ひさと。もうこれはすぐにピンときた。獅之宮先輩だ。ニッと笑って画面を見せてくれた。送り先はひーとなっている。

「ボスに報告?」

「な、なるほど?」

よくわからないがとりあえず返事をするとほら戻るよ~と背中をぐいぐい押され優たちの元に戻る。天音蛇先輩の横にやっと上半身を起こす優が見えた。

「優復活したか?」

「うん。秋、背中大丈夫?」


すっかり忘れていた。言われれば痛いがそこまでのような気もするが鉄の棒で叩かれたわけでも無いし。
大丈夫と伝えれば困った顔をしながら優が話し始めた。

「悪かった……俺あいつ挑発しちゃって余計に怒らせた」

「いやいや、あいつらしつこくなかった?」

「……うん、しかもあいつ後ろから物投げてきて」


優は制服の袖をまくると少し赤くなっていた。何を投げられたのかわからないが腫れていて痛そうだ。

豹原先輩も天音蛇先輩も一緒になって話を聞いていた。

「周りの人にも御構いなしだから頭にきて……」

「あーお前許せないもんなそういうの」

優は嫌なことは嫌ってはっきりさせるタイプだ。しかも自分が原因で他の人に迷惑がかかるのも許せない。俺の言葉に頷いて優は言いずらそうに話の続きを始めた。


「それでその……この河川に入る前隠れてやり過ごせそうだったんだけど」

「おおすごいじゃん」

「あいつ通りかかったおばあちゃんに当たってよろけてつまずかせたのに謝りもしなくて……」

「何だよそれ最低じゃん!」

「だからもうムカついて、卑怯だけど後ろからお尻蹴って川に落とした」

「ゆ、優様……」


思い出して本当にムカついたのか、また眉間にシワが入っている。俺が蹴られたことには申し訳ないと思っているが、あの人を蹴ったことに後悔は無さそうだ。


「あ、だからあいつ濡れてたのか!!!」


俺が手のひらをポン!と叩くと、もう限界!と叫んで豹原先輩が崩れ落ちるように地面に転げ回っている。爆笑しすぎてこのままでは芝生まみれになりそうだ。

隣の天音蛇先輩もよく見れば口元を隠して肩を震わせている。一見大人しそうに見える優が尻を蹴った想像をしたのだろう。






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