sweet!!

仔犬

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escape!!

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「ふっ……あはは、それで君はあんなにヘロヘロになるまで走ってた訳か」

笑いからいち早く復活した天音蛇あまねだ先輩は目に涙を浮かべて納得していた。綺麗な指が目の下を拭う。

「面白いなぁ君大人しそうなのに」

「よく言われます……」

助けてもらった天音舵先輩に言われて少し反省したのか優はしょんぼりしていた。でも俺は優のクールとホットの使い分け気に入ってる。面白いし、ちゃんと戦う優はカッコいい。

「おばあちゃん平気だったか?」

「あ、うん。川に落とした隙に手を貸したらありがとうって」

照れ臭かったのか目線が少しずれた。自信満々に褒めてとされるのも可愛いが、この照れ方はちゃんと褒めないとな、と保護欲が出るんだよな。

「おつかれ」

「ん」


こういう時悪戯っ子のようにニッと笑うのが優の可愛いとこだ。頭をくしゃっと撫でてやれば、やめろとヤジが飛んできた。

俺たちのやりとりに天音蛇先輩が笑う。

「なんか君たち兄弟みたいだね」

「あーそれまじでよく言われます。マンションも隣同士なんすよ俺ら。だから一緒にいる時間も家族並みです」

「それはすごいね」

天音蛇先輩が興味を持ってくれたのが嬉しくて俺はさらに意気揚々と話し出したのだが。


「俺と優の部屋を挟んで唯が…………」

「「あ」」


同時に立ち上がった優と見つめ合った俺はすぐにスマホを掴んだ。まだ連絡はない。優の腕が俺を掴む。また眉間にシワが入ってしまったがそれでも俺は叫んだ。

「忘れてた!唯!」

「っていっても場所分かんないし連絡待つしか……とりあえず、行きそうなとこまで行ってみる?」


頷くまでもなく放り投げていたカバンを掴み最後にもう一度先輩達にお礼だけでもと思ったその時。

「はーいストップー」

「え?」

豹原先輩が芝生にあぐらをかいて、印籠よろしくスマホを俺たちに掲げていた。夕日に照らされて全く見えない。

「ひーが最後の1人潰したって」

「あいつも手が早いな……まあ、人のこと言えないか」



豹原先輩の言葉に天音蛇先輩が呟いた。俺達は走りだそうとしていた体制を元に戻し、スマホの元に駆け寄る。

最近メールよりも主流になったチャットアプリ、talkieとーきーだ。
さっき豹原先輩が送っていた不良の気絶写メの下にハートを持ったクマのスタンプ。高低差の激しいトークチャット画面だがそれに返信が来ている。



いま金髪もやった。


なんて簡素な答えだろう。これが先輩達の日常なのだろうしそれなら唯は助かったと言う事になる。分かればあとはもう安心して地面にへたり込んだ。


「あーー良かったーー」

「もう明日絶対筋肉痛……」



一日の疲れが全部押し寄せてきたように今このまま寝れそう。なんか笑えてきて優と一緒に豹原先輩みたいに転げ回った。

ひとしきり笑って豹原先輩が上から覗き込んできた。

「唯斗って子一緒にいるってー」

「それもトモダチです」

にんまり笑えば隣に豹原先輩も転がってスマホを弄りだす。片手で天音蛇先輩も捕まえて倒していた。

「まさか芝生に寝転ぶなんて……」

「くれちんはもうちょっと庶民に近づいたほうがいいって~ここ気持ちいいでしょ」

「たしかに天音蛇先輩がこんなとこで寝てたら叫びますね……」

「瑠衣がどこでも寝すぎなんだよ」

空が全部赤くてものすっごい綺麗。まさかあの先輩達と寝っ転がってこんな青春みたいなことしてるなんて夢か幻か。

「ねぇねぇ唯斗って子も面白い?」

豹原先輩が肘をついて興味津々に聞いてきた。この質問に関しては自信を持って返す事が出来る。優と視線が合って思わず笑ってしまった。

「俺たちのやべぇ代表は唯なんで」

「なにそれ気になるー!」


恐らく唯のヤバさは会えばわかるだろう。色んなところが振り切れてる。

「まあ、じゃあお楽しみはとっておこー!ひーに写真送るからみんなこっち見てー」

「え?」

「ちょせんぱ!」 

陽気に押された送信ボタン。天音蛇先輩が苦笑いしていた。
見てと言われて先輩の長い腕の先のスマホに向かって思わずピースしてしまった。反射神経恐ろしい。先輩達と撮ったら顔面格差が激しくなってしまう。まともな顔をしていただろうか。


俺の心配をよそに優は唯の心配をしていた。母親みたいな顔をして。

「唯先輩に失礼なこと言ってないかな……」

「唯なら誰とでも仲良くなれるし、あの獅之宮しのみや先輩だって例外でじゃない気がしてきた」

「確かに……」

「アハハ!本当だ面白そうー!」

ケラケラ笑い始めた豹原先輩を不思議に思うとまた同じようにスマホを掲げられる。今度は近いので画面がちゃんと見えた。

「唯ってやっぱ頭がちょっと……」

「俺達も感化されてるのかって思うとちょっと怖いよね」

優が真顔で言ってくるのでなんだか恐ろしくなってしまった。せめてもと、俺は画面に写った超美形を眺める。黒髪に赤のメッシュ。高い鼻にキリッとした目。画面越しでも最高にカッコいい男、獅之宮氷怜しのみやひさと先輩。
なのに、その隣に映る少し長めのミルクティベージュの髪の唯がダブルピースをしているせいで違和感がある。
女の子寄りの造形の唯は、たまに仕草を真似するのだ。ピースの人差し指と中指の間に目を挟むように置いてウィンクにアヒル唇。これが絶妙に似合う。

でもなぜそれを獅之宮先輩の前でやるのだろう。お前の隣にいる方、このテリトリーでどれほど有名か。恐れ尊敬され羨望されるようなお人だぞ。
肝が座ってるような、ただのアホのような。


「女の子みたいだね」

「中学の時から知り合ったんすけど、今より女の子みたいでしたよ」

楽しそうに唯のことを聞いてくれる天音舵先輩やっぱ優しいな。本当にあの不良と言われていた人なんだろうか。そう思っているとポケットからタバコを取り出して優雅に吸っている。あ、そこはちゃんと吸っちゃうんですね。

「会うのが楽しみになってきた……瑠衣、氷怜連れてくるんだろ?その子」

「うん、コッチくるってー」

「やっぱり気に入ってるし……」


楽しそうに笑い出したので、唯はイヤがられてはないようだ。唯って女の子とつるむことが多くて同性から反感食らう時がある。逆に可愛い女の子みたいだから気に入られる場合もあるから周りの反応が極端で大変だろう。それでも本人は至って普通にしているつもりだし、すぐ打ち解けるとこが唯の凄いポイントだ。

豹原先輩がスマホをお腹の上に置いて、就寝モードにはいった。

「俺は散々笑ったから、これ以上笑わせられたら腹筋割れちゃう~」

「もう割れてるだろ」

割れてるんだ。
先輩2人の会話を聞きながら、唯達を待つ。きっと獅之宮先輩も2人みたいに良い人に違いない。優も眠気が来たのか目が虚ろだ。そう思ったいたら俺も眠くなってきた。

シャットダウンだ、俺。









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