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escape!!
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しおりを挟む「寝てる……」
「寝てるな」
獅之宮先輩に運ばれてやっと着いた河川。その芝生の上で4人で寝ているものだからすぐに見つかった。穏やかに寝ている親友が神様みたいな2人と一緒に。
「な、なぜだ……どんなハイタッチ交わしたらそんなに仲良くなるの?」
とりあえず写メを記念に1枚。速攻でお気に入り登録。あとで2人に送ってあげよ。
「珍しいな瑠衣はともかく暮刃までこんなとこで寝るなんて……」
「……あれ、氷怜?……寝てたのか俺……」
声で1番に覚醒した天音蛇先輩は寝ていたことに自身も驚いたようで、すぐに腕の時計を確認した。おれはその時計を雑誌で見たことがある。車が1つ買える値段だ。
「10分ほど……」
「すげえなお前芝生で寝れたのか」
「……呑まれたかな」
困った顔をして優と秋を見た。まだぐっすり眠って起きなさそう。
2人に掛けられてるコートもしかしてしなくても先輩のだよね……2人ともなんて贅沢者か!
「車用意したか?」
「ああ、来てるみたいだよ」
スマホを確認し、立ち上がった暮刃先輩に思わず視線が奪われる。
長めのクリアブラウンの髪に軟骨と耳たぶにつけられたピアス。灰色の目は天然モノのようだ。
あんまりにも、華麗に微笑まれるとほんとにこの人が喧嘩なんてするのだろうか。そんな思いがよぎる。
でも制服のボディラインから鍛えられてる身体つきに納得。
眠っている豹原先輩もまた極上だ。
顔の美しさから言えば俺は3人の中で1番綺麗だと思う。まるで作り物のようなのだ。それでいてどこか可愛く綺麗で儚い。ただファッションが奇抜なものが多いため、あまり同じような意見は聞いたことがなくていつも服装のどこかに強い色を入れて髪の毛も色がころころ変わっている。
「ひゃあ……やっぱもう造形から次元が違うんだよなぁ」
自分の声に驚いた。
は、やばい、またやってしまった。独り言がデカすぎて本当に口にテープした方がいいかもしれない。
きょんとした天音蛇先輩はすぐに何かに気付いたようにおれの顔を見て笑った。
「ああ、なるほど。君が唯斗くん?」
「え、あ、はい」
まさか名前を呼ばれるとは思っておらず、ドキッとしちゃう。イケメンに弱すぎるこの心臓、いつか鍛えられるのか。
「1番面白いって紹介されたから」
にっこり笑って絶望的な事を言い渡された。
誰だハードルを届かなそうな高さに設定したのは。おれは2人のもとに駆け寄ってほっぺたをこれでもかとつついた。
嫌そうに身動いで覚醒し始めたのを見計らいおれは畳み掛ける。
「起きて2人とも勝手にお笑い予選会にエントリーしたんだから起きてくれないという困るよ~!おれたちトリオでしょも~!」
きゃんきゃん騒ぐおれに優が嫌そうに起きて口を塞がれる。
「唯うるさい」
「んーあれ……寝てたわ」
「だいたい2人とも先輩のコートかけてもらうなんてどんだけ仲良くなったの!」
「え」
おれの言葉にすぐに自分にかけられたコートを掴むと1番最初に立ち上がった優は天音舵先輩に駆け寄った。気付いた天音蛇先輩が微笑む。
「おはよう」
「これごめんなさい……!」
「うーん、違う言葉がいいな」
優は考え込むとご所望の言葉を言う前に先輩の後ろに回って肩にコートをかける。男の優が少し背伸びして丁度良い高さってどれ程足が長いことか。
優はまた先輩の前に戻るとありがとうございますとにっこり笑った。
「どういたしまして」
甘く微笑むと、ポンと優の頭を撫で何事もなかったようにコートに袖を通した。優も特に気にしていなさそうだが、おれだったら赤面の一途を辿る。
「豹原先輩起きて下さい~コート着ましょう?寒いですよ~!」
となりでボフボフ音がすると思えば、秋が丸くなって寝ていた豹原先輩のお腹らへんをたたいていた。痛くはないだろうが、そんな兄弟やおれたちを起こすようやり方で良いのだろうか。
「んー、あれまた寝てた~?」
「あ、おはようございます。コートありがとうございます、めっちゃ良い匂いしました!」
最後のいる?
きょとんとした豹原先輩は起き抜けだと言うのに腹を抱えて笑いはじめた。丸い顔の爆笑している絵文字に似ている。とんでもなく綺麗な顔だが、格好も仕草もポップなのだ。
「あー笑った。はいはーい、ドウイタシマシテっと」
言葉の最後の部分で豹原先輩は手も使わずに起き上がった。それだけで運動能力の高さが伺えるし、おそらく腹筋は割れている。
「やっぱりお友達もお前に似てるな」
ひとしきり見守っていた獅之宮先輩はおれの横で楽しそうに笑った。1番の仲良しが似ていると言われるのは嬉しい。
あくびをしながらコートを肩にかける豹原先輩がおれに気付くとにんまり笑う。
「あーその子が唯太郎ね~」
おれはいつのまにかどこかのハムスターにでもなったのだろうか。とりあえず目を輝かして小動物らしい顔で自己紹介をした。
「高瀬唯斗でチュー?」
「ね、唯がいちばん頭やばいでしょう先輩?」
「え!?」
秋がニコニコしながら先輩に告げるのでおれは衝撃が走った。面白いじゃなくてやばいって紹介されてたのおれ。
「獅之宮先輩、はじめまして。俺、野島秋裕って言います。こっちは坂下優夜です」
おれを他所に秋も優も獅之宮先輩に挨拶をし始めた。
ひどい、さっきの写メあげないからな。
「あ、ああ。獅之宮氷怜だ」
一瞬驚いた先輩はすぐにいつもの男らしい声で返事をした。体格の違いから、獅之宮先輩の前では年の大きく離れた弟のよう。
それなのに秋も優も畳み掛けるように失礼な事を言い出したのだ。もちろんおれの。
「ごめんなさい先輩、唯うるさくなかったですか?」
「2人っきりの時もあんな感じでした?本当にすみません」
「ちょっと2人とも失礼なんですけど?おれ静かに出来ますけ……ど」
唯は黙ってと横目に言われてしまい思わず口をつぐんだ。そんなこと言ってるけど2人もまあまあ自由なところあるからな。目だけで言い返すもこっちを見ていない2人には届かない。
しょんぼりしたおれに大きな手のひらが頭に乗ってきた。
「大丈夫だ、可愛がらせてもらった」
笑いを含んだ言葉に思わず先輩の顔を覗き込む。そんな言葉もらってしまって良いのだろうか。
先輩の反応に安心したのか、2人が安堵のため息をつく。
「よかったぁ」
「ちょっとぉ、おれちゃんと空気読めるよう……」
たしかに口が滑ることはあるが、それが理由で喧嘩になったことはない。自分で言うのもなんだが、人とのコミュニケーションであまり困ったことはないのだ。相手の空気感で距離も図るし、それによって話し方も変えられる方だ。
「いや、そうじゃなくてさ」
「唯、追われた時謝ってたし俺たちのこと心配してたからペース狂っただろ?」
「今だって安心したからかテンション高いじゃん」
たしかに、そうかもしれない。2人の顔見たら安心しているし、元気が出た。しかしどうこのエネルギーを出したらいいかわからない。
「うん……ごめんな2人とも、寝ちゃうくらい逃げさせちゃって」
「だからいいんだって……じゃあAランチ、おごってよね」
「いえっさ!」
それだけの会話でなんだか安心してしまって思わず2人に飛びついた。ああ、この同じサイズ感が安心する。
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