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しおりを挟むもしかして先輩達はここまで予想していたのだろうか。
鹿野さんがスムーズに唯がいる席まで俺たちを案内してくれた。タイミング見計らって交代してあげると一旦鹿野さんが次の席に離れたところまでは良かった。
俺と優を目にした時に飼い主とはぐれた愛犬のような唯の顔に思わず吹き出したのは良い思い出だが今の状況は宜しくない。
唯が紹介してくれたレイラさんという方がこれまたお優しい女性で、しかも唯が元気付けていた理由が分かり大人しく帰るはずの俺たちが大いに励まし会を初めてしまったのが事の発端である。
俺たちまでスイッチが入ってしまったのだ。
唯がレイラさんに笑う。
「つまり今日はイノさんを探してたんですね」
「そうなの、でもお休みって聞いて可愛い感じが唯くんに似てたからせめて代わりにと思って。ごめんなさいあんまりこんな素直に話すべきではないのだけど……」
この上品なレイラさん、ホストクラブが初めてだと言う。全く関係ない場所でイノさんに助けられたことがあり、そのお礼をしたかったのだが断られてしまい心残りだったとか。そしてたまたま看板でイノさんがホストをしていると知ったため律儀にも売り上げで貢献したいと思ったらしい。
クラブが初めてのために緊張していた事もあって落ち着かなかったと話してくれた。
しかしあまりにも唯が気にしている様子からすると何か他の事情がありそうだ。あの唯が女性の細かなサインを見逃すはずがない。
唯が微笑んで優しい声音で話す。
「いえいえ俺たちも今日初めてなのでなんでも話してください。遠慮なんていりませんよ」
「そうですよ、レイラさんと話せてるだけでおれらは嬉しいですから」
「……ありがとう」
困ったように笑ったレイラさん。唯が元気付けていたがやはりその笑顔が完全には晴れない。
ますます、離れるタイミングを失っていく。
この人何故こんな悲しげに笑うのだ。
無理だ。それじゃあさようならで帰れるほど他人に無関心じゃない。
イノさん、いるけどこの人の性格上休みの上に呼んだりしたら申し訳ない、なんて言われてしまいそうだ。しかもトップスリーに入るほどのイノさんを誰か1人のために呼んだとわかってしまうことが不平等と言われてしまっては元も子もない。
レイラさんの隣の唯が一切の幼さを隠しレイラさんに穏やかな笑顔を向けている。女性の味方代表の彼ももちろん彼女が本当に笑うまで離れることはないだろう。
こうなったら完全に心をほぐしていくしかない。
せめて俺たちだけでどうにかできるならば。
「レイラさん。もしよければ、イノさんと会ったときのこと聞いても良いですか?」
「…………それは」
視線を下げたレイラさんが小さな口を動かそうとした時、静かで上品なその空間に異質な音が響き渡った。
「お客様勝手に入られては困ります!!」
「うるさい!俺を誰だと思っている!」
案内役のホストさんが静止して伸ばした腕も振り払い、その男がずかずかとフロアに入ってきた。目は釣り上がり、神経質そうに整えられた黒髪が目につく。
しかも後ろから黒いスーツをまとったガタイのいい男がゾロゾロと入ってくる。
「レイラ!どこだ!ここにいるのは分かっている出てこい!!」
すぐにレイラさんに視線を移せばその細い肩が恐ろしいほどに震えていた。目は叫ぶ男を捉えていたが真っ青だ。唯がすかさずレイラさんをテーブルの下に隠す。
この席はあの男がいる場所からはコの字型の席になっているためすぐには見つからないだろう。
ざわつく店内、あの男からそれぞれのお客様の担当のホストさん達がかばっているが動きは止まらず激しい足音を立て続け未だに声を荒げてレイラさんを探していた。
「他のお客様の迷惑です。お帰りください」
凛とした声は胡蝶さんの声だった。隣に座っていた怯える女の人を背にしながら言い放つ。
「黙れ、お前に用はない!ここにレイラという女が来ているはずだ。忌々しい……こんな下世話なところに行く女だったとはなレイラ!」
何だよそれ何を見てそんなこと言うんだ。
心底ムカついた。その言動全てが癪にな触る。
優も唯もあの顔は確実にブチ切れている。
でもだめだ動き出しちゃだめだ。
唯、いいぞえらい、動いちゃだめだぞ。
「失礼ですが、レイラ様という方はいらっしゃっておりません」
いつのまにか鹿野さんが男の前に立っていた。落ち着いた笑顔で出口を案内する。
「何かお困りのようでしたら外で伺いますので」
どうにかしてこの場を納めようと流れるように誘導していく。トップ3らしい堂々としたその動作に一変の迷いもなく、彼の肝は座っていた。
それでも男は品のない気味の悪い笑みで叫び続ける。
「お前を助けたイノって男もここのやつなんだろう、底が知れてるな。こんな所で臆病で1人では何もできないお前にぴったりだ!レイラ!良い加減に出てこいお前なんかが生きていけるのは私の隣しかないのだから!」
失礼どころかその神経を疑う。
これだけ叫んでる大迷惑どころか女の人を怖がらせてるような奴が何を偉そうに言っているんだ。
俺も拳を握ってどうにかこうにか抑えていた。
あの唯が女性をここまで言われても抑えていたのが唯一の救いというか……あれ、まて、唯がいない。
「お客様、取り消してください」
「……ですよね」
すでに鹿野さんの隣にいたし、もう後ろ姿でわかる。
ブチ切れだ。くるくるの髪の毛が怒りのオーラで動いているようにさえ見える。
あーあ、と小さく優が声をあげた。せっかく我慢したのにとでも言いたげだ。俺もだよ、優。
「それが出来ないのなら、今貴方がここに居ることが迷惑になっています。どうかお引き取りください」
淡々と話す唯の口調はいつものゆったり感などもうどこかにいっていた。
俺はいつも思うのだ、唯だけは怒らせてはいけないって。しまいには綺麗に微笑まれるのだ、あの目を見たら誰もが縮こまる。
それなのにそんな判断すら出来ない男は心底嫌そうな顔をした。
「何だお前!子供みたいなやつを相手にしているほど俺は暇じゃないんだ!レイラをとっとと出せ!!あんなイノとかゆう男に媚びへつらった女でも許してやろうって言ってるんだ!!」
これ以上聞かせたくもない言葉だ。レイラさんと目が合えば、恐怖だけではく怒りも含んだ感情が溢れて涙を流していた。
「レイラさ……」
「あの方は…………貴方みたいな人じゃないわ!!!」
細い腕で必死に自分を奮い立たせた彼女が立ち上がってしまった。イノさんへの暴言が彼女に火をつけたのかもしれない。あんな男に近づけさせるわけには行かず、男の方に進み出す彼女の後を優と追った。
男はレイラさんを見つけるとニヤリと笑う。あんなの人を見る目じゃない。それなのに打って変わって紳士的な言葉遣いに変えたのだ。
「レイラ、やっと出てきてくれたね。さあ帰ろう私のレイラ」
乱れた髪を整えて大げさに手を振った。血走った目がそのセリフとは全く合わない。
汚い言葉は使ってはいけないのだ。
そう、だめだ、唯は抜けてるところがあるけど決して汚い言葉使わない。それでも俺は聖人君子じゃない。
だから心の中だけで言わせてくれ。
きも。
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