sweet!!

仔犬

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care!

3

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叫んだおれの声に瑠衣先輩の笑い声が後ろから響く。


「ひーも必死だねぇ」

「氷怜って言うようになった訳でも話してよ」

「みんなだって詳しく話しては無いじゃんー」


その会話で思い出した。そうそれだ、秋から軽く聞いてはいたがちゃんとお祝いしたい。
どうせみんな笑っているんだから顔を隠しても意味がないと顔を上げれば、秋があははと少し照れたよう笑っていた。
瑠衣先輩は別段恥ずかしがる様子もなく、からかうように笑いながら綺麗な指で秋のほっぺをつつく。


「このオニイチャンが構ってくれるらしいよ?」

「そう言うこと言うからお兄ちゃん感抜けなかったんですけど……」

むくれた秋が瑠衣先輩を睨むがそれに笑ってさらりと答えが返ってきた。

「知ってマース」

「え、じゃあなんで」

秋からは好きと尊敬の間にずっと居たのが、この前瑠衣先輩に助けられてそれが動いたと言う。簡単にまとめて話してくれだが秋の性格上恐らくしっかり考え出した答えなんだと思うと、瑠衣先輩の行動が頷けた。

この前暮刃先輩が言ってたように1番気長に待てるタイプだと言うならば尚更。


「秋お兄ちゃんが身についてるから、わざとやってたんじゃないですか?秋が考える時間くれたんですよね」


自分としては何気なく言ったつもりだったのだが、先輩たちが狐にでも化かされた顔をしている。え、おれ間違ってたのか?

あの瑠衣先輩までも驚きの表情だ。


「唯ちん、そう言うの分かる子だったんだ……」

「え?!」


なんて事だ。
どれ程おれはアホの子だと思われているのか。絶望的な意見をもらってしまったと言うのに秋が追い打ちをかけてきた。

「唯は自分の事にだけ頭のネジが外れてるんです」

「それが失礼だって事はおれわかるからね?!」

ひどい言われように悲しくなってきた。おれそんなにやばいのか。
氷怜先輩がじゃあと投げかけると長い手がおれの頰を撫でた。


「……この前の事で胡蝶がお前の事気に入ってた。ちなみにアイツ男もいけるって聞いたか?そんな奴がおまえを食事に誘いたいってよ」

「あ、聞きましたよそれ!……と言うか先輩と付き合ってるおれもそうなるなから、みんな共通項目があるから話しやすいですね。あ、もしかして男同士だから相談とかですかね」

「ほら」

何がほらなのかわからないが秋がこうなると思ったと悟った顔。優がため息をつき、俺は知らないからねと呟いた。

何が?

「唯」

暮刃先輩が微笑んで指をさした先に突き刺さるような氷怜先輩の視線。頰の手が顎を掴み動けなくなった。

「え?」

「え、じゃねぇよ……」

「唯ちんってホントあほだねぇ~!」


本日何度目かのアホ認定が爆笑の瑠衣先輩によってされてしまった。アホギネスがあるなら一位をもらえるかもしれない。

「胡蝶と仲良くしても構わねえが男として警戒しろ」

「あいた」

警戒しろのところでおでこに小さな痛み。
氷怜先輩からのお仕置きのデコピンを貰ったところで笑い終わった瑠衣先輩が頬杖をついた。

「まあ……特に唯ちんは死ぬほど警戒心つけた方が良いけど、オレはー3人ともなかなか無防備だと思うネー」

「そうですか?」

「それは俺もそう思うよ」

いつでも余裕な暮刃先輩が困ったように笑うので、優が気をつけますと頭を下げた。そうなのか、おれ達そもそも先輩から見たらかなりゆるゆるしてるのかもしれない。

最近では出歩くたびに誰かしらを付けてもらっているし、こうしてご馳走を頂くのも数え切れないほどだ。

「たしかにこうしてお世話されてる」

「瑠衣だけは世話される側だけどな」

「オレひーと暮ちんより我慢したしー」

「そんな話してねぇよ……ま、お世話するのは残念ながら俺らだけでもなさそうだけどな」

「え?」

ここにいる他に誰がと思ったその時、インターホンの音が響く。おれのマンションみたいにピンポンと言うありきたりな音ではなく。ビーーっと言う低い音だったことに少し驚いた。

広く黒を基調としたシックなキッチンの横にあるインターホンのモニターが光っていた。立ち上がった氷怜先輩がそこを覗き、解錠のボタンを押す。

ふっと笑った親指で玄関を指差した。

「ほらきた。玄関で待っててやれよ」


首をかしげるも広い部屋を移動して玄関の前で来客を待つと、ドアが開いた。

同じくらいの身長の2人は短髪と長めの黒髪から覗く白い肌と何故か不満げな顔。


「やっほ、桃花!」

「お邪魔します……」

「ん?どしたの?」

「…………いえ何も」


とても何でもないようには見えない。思わず首をひねるが思い当たる節がない。助けを求めるために不機嫌な桃花の隣に立った式を見つめた。

まだ挨拶のしていないのに、眉間に深いシワ。

「式くん、おはよう。すまないが桃花の不機嫌の理由を教えて頂けぬか……」

「何キャラだよ……番犬の機嫌直すのは飼い主の仕事だろ」

「ふむ、一理ある。桃花おれの胸に飛び込んでこい!」

「…………行きません」


おお、これは相当不機嫌だ。いつもの桃花なら恥ずかしがっても何だかんだ来てくれそうなのに。今日はうさ耳よりも猫の耳が似合いそう。
桃花がボソリと呟いた。

「…………だって、腕が」

「腕?…………腕か!」


合点。そうだ今日の朝桃花に腕にヒビ入ってたよ☆ってメッセージ送ったまま返事が来てなかった。なるほど心配させてしまった訳か。

「大丈夫だよ桃花、すぐ治る!」

「俺の存在意義……」


何だかどんどん気分が落ちてきたのか背が高い彼の背中が小さく見えてきた。やばい止めなくては、桃花のネガティブスイッチを入れてしまいそうだ。

「桃花、ほら腕以外はこのとおり元気だしこれもすぐ治るよ。ね?」

うつむいた美人を下から覗くもその瞳は怒りなのか悲しみなのか分からないが綺麗な目が歪んでいる。

「あ、桃花さんに式!」

秋と優がなかなか玄関から戻ってこないおれの様子をドアから顔を出す。式はよおと手を挙げたがおれを見たままの桃花の表情は晴れない。

どうしたものかと考えていると秋と優が茶化し始めた。

「唯が桃花さん凹ませてるよ」

「ええあんな優しい桃花さんを?!ひどーい!」

「2人とも助ける気ゼロだね……」


まあ、おれのせいなんだけどさぁ。
なのであまり強く出れない。

「あ、そういえばタイミングがなくて言えなかったんですけど優夜さんも秋裕さんも俺のことはさん付けも敬語もいらないので」

「やったー!」

バンザイした2人に笑った桃花。


「桃花2人にはふつうに話すんだね?!」


おれが茶化す2人と桃花を交互に見ているとため息をついた式が取り敢えず上がるわと部屋の中に進んでいった。

それについていく秋と優が小さく手招き。確かにいつまでも玄関では落ち着かないと不機嫌な桃花ごと部屋に押していく。テーブル横の黒の革のソファに移動していた氷怜先輩が軽く手をあげた。

「お邪魔します」

頭を下げた2人にいいから座れとテーブルーを指差す。桃花の様子にいち早く気づいた暮刃先輩が優にくすりと笑いかける。

「あらら、随分落ち込ませちゃったね」

「唯が桃花さ……桃花に怪我した事軽ーく言うからですよ」


敬称をとる優は微笑ましいが続く言葉はやはりおれのせい。

「主人を守るワンコとしてはそりゃカナシイヨネ~」

「しかも頻度高そうですしね」


瑠衣先輩に続いて秋まで賛同すると流石にそわそわしだしてしまう。わざとではないが心配症な桃花なら尚更驚かせてしまったのだろう。

「みんなにも迷惑かけてごめんなさい」


流石に申し訳なくて謝ると氷怜先輩がおれの表情を読み取ったのか助け舟を出してくれた。


「悪かったなこいつに怪我させて」

「え!いえ、氷怜さんが謝ることでは」

「あんましこいつせめてやるな、俺からも言ってるし。今回わざとじゃねえから」

「はい……」

鶴の一声で桃花が少し明るくなる。おれは嬉しくなって暮刃先輩の料理を桃花の口に持っていくと遠慮がちに開かれた。


「……心配かけてごめんね?」


こんな時でもしっかりゆっくり噛んで飲み込んだ桃花。謝ったおれについてないはずの耳を下げてしょんぼりと頭も下げる。

「俺も不機嫌になってごめんなさい……」

「…………可愛いなぁ桃花!」

女の子のような可愛さにがばっと抱きついたはいいがまたもや腕の存在を忘れていた。

「いった!」

「ちょ、でも俺本当に唯斗さんには自分の事大切にしてほしいと思ってますからね!」

「ひーごめんなさい!」


叫べば桃花がやっと笑ってくれたので一安心。いい感じにまとまってきたところで式が名案とでも言いたげに氷怜先輩に声をかけた。


「リードでも付けましょう」

「ああ、いいな」

「うえ?!」

「それは後々……ほらみんな冷める前に食べちゃお」

まさかの賛同。
みんなウンウンと頷きながら暮刃先輩の言葉で穏やかに食事を始めてしまった。呆然とするおれに暮刃先輩がくすりと笑った。

「唯は氷怜の膝の上」

「え?!」

「お前は何もしなくていいぜ」

腰を引かれて流れるように氷怜先輩の上に座ったおれの口元までスプーンを運ばれる。
べつにあーんはおれもするし、それ自体はどうという事ないのだが、いかんせん氷怜先輩がおれにするこれは全く雰囲気が違うのだ。
思わず固まったおれの耳元で低い声が響いた。  


「食わねえの」

「へ、あ……」


何もいえずに取り敢えず口を開けるとゆっくり唇を滑ってスプーンが口の中にスープを流していく。美味いかと耳元で聞かれると思わず身を捩りそうだ。

美味しい、美味しいのだが、近いしみんな居るし氷怜先輩の目が、目が獲物を捕らえる目だし。耳元が熱いし。

なんかもうだめだ。あたまが真っ白。
  

「唯斗さん飲み物……あれ?」

「ふっ、ははっ……フリーズした」

桃花がコップを渡そうとしてくれたがおれの反応がなくて手を振っている。
それを見てくつくつと笑い出した氷怜先輩の振動が伝わり余計に近さを感じながら、瑠衣先輩と目が合えば手を口の横に当てて無音で何かを言っていた。


良かったネ


にんまりと、あの綺麗な顔がそうなる時は確実に遊んでいるし面白がっている。しかも秋はもう料理に夢中だし、暮刃先輩はいい笑顔で桃花と式にドリンクを渡していた。

そんな中、式が怪訝な顔で優に耳打ちする。



「あれじゃあ甘やかされてねえ?」

「唯には先輩の色気が1番効くから」



へえと2人でニヤリとこちらを見られてしまった。
居たたまれなくなったおれにはもう、逃げ場がない。

もしかしたら心配をかけたお仕置きなのかもしれないが。それでもこれは。


「みんなの意地悪ーーー!」

「はいはい」



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