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care!!
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しおりを挟む「唯、佳乃達と遊んでるのかあ」
「カラオケとか行ってないね最近」
グループチャットに飛んできた連絡をバイト前に読めば唯からの一報。先輩達も見ているそのチャットに最近は自分の予定を書き込むことが増えてきた。まあ、俺たちの予定なんてほとんど同じだけど。
とりあえずバイトのシフトは出た瞬間に先輩達に送っている。
流石の唯も責任感を感じているらしい、やっとかと笑いがこみ上げる。
とは言えシフトを教える前に知っている口ぶりで話す先輩達を見たこともあるし、色んな情報が色んな経路であの人達の元に向かっているように思える。
「先輩達ってどこまで俺らのこと知ってんのかね」
「先輩達が知らなくても赤羽さんは知ってるんじゃない?」
「ああ……」
多いにあり得る。
たまに赤羽さんはこのカフェに現れるんだけど、いつのまにか春さんと仲良くなってるし、お客様とも話してるし本当にどこに現れるか分からない。
控え室にはロッカーが数個と1つのテーブル、奥の壁一面は備品や食器がぎっしり詰まっている。
着ていたニットを脱いでロッカーから制服を取り出して袖を通す。黒シャツもかなり着慣れてきた。
「そろそろ制服変える?」
「次、フーディーパーカーでカジュアルに着ても良いかなって」
「良いじゃん」
春さんが優しいお陰で制服まで好きにできるのは本当に素晴らしい。その分働いて恩返しと意気込んでいく。
「春さんにも色々お返ししないとなぁ」
「クリスマスあたり何かする?」
優の言葉に頷いた。正直これだけバイトしてるのでお金ならば貯まっている。春さんなにが欲しいかリサーチしよう。
優がシャツを着終わるとスマホを覗く、ふっと笑ったのは多分暮刃先輩からの連絡のせいだろう。言うとツンデレ発揮しそうだから言わないけど。
「てゆか先輩達にもだよね」
「それなぁ」
クリスマスかあ。今までなら彼女がいる時はどっかお出かけとか、いない時は3人で遊んだり家族巻き込んでパーティ。
……瑠衣先輩なにが欲しいんだろ。
「うわあ、悩むやつ……」
「取りあえず唯はリボン巻いて氷怜先輩に渡そう」
「え、それ最高じゃん」
お互い親指を立ててにやり。唯は多分ノリノリでリボン巻いてくれる。どうせあほの子唯はどうなるかまで考えられないだろうし、それがまた氷怜先輩が色気で煽り唯の照れが見れそうで面白そうだ。
控え室に戻ってきた春さんが俺たちの顔をみて苦笑いした。
「何かいけないこと考えてる?」
「いえいえ、クリスマスプレゼントの計画です」
「そんないい話をする顔じゃなかったけどなぁ」
テーブルに座った春さんが壁のカレンダーを見ると申し訳なさそうに眉を下げて俺たちを見た。
「クリスマス……その時期……」
「あ、大丈夫ですよバッチリ出勤します!」
「うう、ごめんねぇ。やっぱり君たちがいると回りが良くて……当日はどっちかはお休みにするからさ」
本当に申し訳ない、という感情が表情も雰囲気も全部出るものだから春さんの優しさがよくわかる。
「唯もそれまでには復活すると思います」
「唯斗は落ち込んでる?」
「落ち込んでますけど、どうせいろんな人に遊び誘われるんで忙しくしてますよ」
「さすが唯斗はどこにいても人気者だね。息抜きになればいいけど」
ふふと笑った春さんなんか休みなく働いてると言うのに、俺たちバイトのことをいつも気にかけてくれるのだからたまらなくあったかい気持ちになるね。
「お好きにシフト入れてくださいね」
優がそう言えば春さんがふんわりと笑って俺たちの頭を撫でる。お父さんのようなお兄さんのような暖かさだ。そう言えば最近また椎名さんが遊びに来て春さんと話していた。
この2人結構良いんじゃないかと俺たちの中で話題なのだが実際のところはまだ分からない。
「本当にいつもありがとうね。あ、お客様来てたよ?」
「え?」
首を傾げた優とお店に出ればカウンターに見知った制服の人が。
さわやかな笑顔に軽く流した黒の短い髪の毛。きらきら眩しい笑顔なのに、内面を知っているせいか企みの笑顔に見えてしまう。
「やあ」
「赤羽さん本当突然現れるなぁ」
「あれ、驚いてくれるかなと思ったんですけどね」
「さっきちょーど赤羽さんの話をしてたもので」
それは嬉しいなと言いながらコーヒーを一口、珍しい黒のカップを選んだ春さんはさすがとしか言いようがない。
「どうしたんですか今日は」
「たまたまですよ……良い香りですね」
戻ってきた春さんにカップを持ち上げた赤羽さん。春さんがにこにことフロアから手を振った。
たまたまと言うが、この人が無駄に動いたりしないというのは流石に俺達も学んでいる。しかもこうして俺たちと接触を図った事にもなにか違和感を感じた。
いつもは明確な用があって俺達の所に来るのだ。
「今日クラブに行っても良いですか?それとも帰った方がいいですか?」
「どちらでもお好きに。どちらにせよ送りますよ」
微動だにしない笑顔が向けられる。本当にこの人から一本取れるなんて日は無いのだろうか。
「……本当は送るためにきたんですよね」
「俺は情報を集めるのと、脚に使われるのも好きなだけですよ」
さらりというがそれだけではないような気がする。苦笑した俺をよそに優が真面目な顔で赤羽さんの耳元で囁いた。
「何かあったんですか」
「いいえ」
きらんと輝く笑顔で優の言葉は否定されてしまった。
なんだー、と不満げな優。
それを見た赤羽さんの唇が綺麗に上がった。
「これから、ですよ」
「やっぱりあるじゃん!」
俺と優の言葉が重なれば、高らかに笑い出した赤羽さん。結局この人には遊ばれてしまう。悔しい、いつか一度くらい出しぬきたい所である。
「結構やばい感じですか?」
「いえ今の所はそうでもないです。いつもの小さな抗争ですかね……なので念のためですここに来たのは」
よくあるいざこざが発生したらしい。
たまにクラブに乗り込む人や、街中で街中で狙われることがあると言っていた先輩達。実際見たことがなくて、赤羽さんが先回りしていることが大きいという。
そんな彼の口から発せられる言葉もやっぱり俺たちの数歩先。
「ちなみに春さんは髪型とか服装変えようか迷ってましたよ。君たちの得意分野でプレゼントが叶いますね」
「え、え、え?なんでプレゼントしようとしてたの知ってるんですか」
「あと、氷怜さん達は君たちクリスマスバイトだと思ってるのでサプライズなんかが丁度いいかも知れません」
にっこり。
つまり、赤羽さんは春さんが俺たちがクリスマスのどちらかが休みにならことを知っているという事になる。しか氷怜先輩達にそれを言わないところがなんというか、彼らしいというか。
優が苦笑いで空いたカップにコーヒーを注いだ。
「赤羽さんって……」
「コーヒーが好きなのはまぎれもない俺のプロフィールですよ」
俺たちが聞きたいことまで先回りして答え、爽やかに笑うと白い歯が見える。
彼は謎めいているのが良いんだと、誰かが言っていた。
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