sweet!!

仔犬

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care!!!

9

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作戦はシンプルで、まずはおれたちがおとなしく差し出されて堂本兄弟はお金を得る。おれたちは捕まりながらいつもの調子で話しかけて、相手から聞き出しタイミングを図ってこっそり戻ってきた堂本兄弟に脱出を手伝って貰う。

それに今まで捕まった人もいるらしいが、取り引き相手は1人でしかも用済みだとわかればすぐに捨て置かれるパターンが多いという。多分捕まった人はあのサイトに間違えて載せたられた事によってそういう事が起きるのだろう。
ならチームの人間じゃないおれたちもそうなるはずだ。




その相手が到着したと聞いて足だけ動かせるようにしてもらう。


自由になった足で部屋から出ると、どこもかしこもぼろぼろの階段を降りて地下に降りていく。薄暗い廊下から見えてきた鉄製のドアはペンキも剥がれてふるめかしい。




「失礼します」


 
緊張した声の紅。
ノックしたドアの向こうから返事はない。
数秒たって開けた部屋は暗くて蛍光灯がふたつ灯っていたが片方は機嫌が悪そうに点滅していた。

砂も混じった床はほとんど外の地面と変わらない汚さで、歩くたびにじゃりという音が響くといよいよ緊迫感が漂うのだ。

感じたことの無い威圧感を纏った背の高い男が1人。
黒い髪に黒い服。全く似てもいないのに氷怜先輩を思い出すのはきっと会いたいからで、めずらしく人を怖いって思ってるおれがいた。



 「連れてきました……」



紅と愁が緊張した様子でおれたちを前に進ませると男が首をこちらに向けた。



「ここまで来い」

よく通る声が静かな空間に響く。
ゆっくりと目の前に足を進めれば加減の知らない力で顎を掴まれ品物でも眺めるような視線が移動する。
二十代後半の男はパーマの効いた髪をセンター分けにして額を出していた。感情の読めない真っ直ぐな瞳は冷たく紅を睨む。
鋭い目がまるで蛇みたいだ。

背が高いせいで目の前にきた薄い唇がひどく冷たい印象を与えた。
視線を秋と優に移すと同じように上から下まで見定める。



「高瀬唯斗、野島秋裕、坂下優夜……お前らは誰のものだ?」



誰のもの?
限定的な質問。
誰かの物前提の会話に何の意味があるんだろう。



「俺は俺のものです」



秋の答えに男は小さく反応した。
瞬きが遅くなったのだ。



「ハズレ……か?」

「……何がで」

「質問が、出来るとでも?」



抑揚のない話し方なのに威圧的で、秋は思わず押し黙った。怖いよなこの人、こんなに自分勝手な人間も珍しい。タバコを取り出して火をつけた男が飽きたように呟いた。



「お姫様は以外と出てこないもんだな」



お姫様が居ない?
それはおかしい。この世の女の子全ては尊い尊いお姫様だ。そこんとこ間違ってもらっちゃ困る。



「お姫様は居ますけど」

「あ?」

「この世の女性は全てお姫様……ですよ」
 


ばかなおれは思わずむっとして答えてしまい、慌てて語尾を付け足した。それでも怒る事はなく、それどころか驚いた表情まで見せてくれる。



「…………3人組…………そうか、そうかよ。まさかこんな……はっ」




何がそうなのかと思ったその時、開け放たれたドアがけたたましく音を立てる。振り向けばゲラゲラ笑いながら派手な頭の3人が入ってきた。その光景がもはや安心して見えてしまうのだから絶対的な恐怖経験とは恐ろしい。


「おい、連れてきてやったぜ?金よこせよ」


マサトがいつもの生意気な口調でニヤリと笑った。縄でグルグル巻きにした4人を部屋の中央に蹴り出した。どう見ても先輩のチームの人ではない。相変わらず気絶したスウェットのお兄さんが最後にヒカルによって投げられた。


「十分貢献したはずだ。それなりの報酬よこしてもらおうか?あ?」



相変わらず空気が読めないと言うか、わがままボーイは健在だ。あんな人一目見ればやばいとわかるのに生意気な態度を取れる彼らはある意味すごい。


「…………俺が1番嫌いな奴はなぁ、礼儀がなってない奴だ」

「あ?誰がてめえなんか…………グッ?!」



移動した速度が早すぎて気付かない程、瞬きをした時にはもう全てが終わっていた。タバコを加えたままリュウジのお腹に足が食い込む。そのまま体を回転させ遠心力でリュウジを取り飛ばすと横にいたマサトとヒカルがくの字に重なって壁に打ち付けられ、力が抜けたように床に崩れ落ちる。



「もう、用済みだ」

吐き捨てるように笑って茶色の封筒を堂本兄弟に投げるとパシンと乾いた音が響いてキャッチしていた。

ほんとに羽振りが良い。
端金だと、見向きもしないその動作から読み取れるほど。


「お前たちは仕事をした。もう帰っていい」

「…………あ、あのこいつらはどうな」

「聞こえなかったのか?」


威圧するような大きな声。
心配そうな表情で兄弟が出て行こうとしない。

大丈夫こんなんでも男だよ、おれ。


「紅、愁」


おれの声にすぐにハッとして兄弟が気を引き締めた。



まだ用があるのかと兄弟を見る男の視線は冷たい。蛇に睨まれた2人は顔をひきつらせてゆっくりとドアに向かっていった。


ドアの閉める隙間から見えた絶望と後悔した顔。
今にも泣き出してごめんって言いたそうな表情だ。
大丈夫だから。





「皮肉だな」


冷たい言葉。
この男の人が怖いと思う理由の1つに絶対に話の主導権を握らせない所があるからだ。あと目。絶対逸らさないその目はおれたちが噛み付くなんて思ってもいない、絶対に優位だと語るその瞳。

どんな事が有ればそんな目をするのだろう。



「友達に売られたか?」



今度は馬鹿にしたような声だけど本人は面白いわけでは無さそうだ。おれたちに興味なんてなさそうで、まるで仕事だからと割り切って冷めた目。


「そう、見えますか?」


優の声。
飲み込まれそうなおれを引き戻した優に首を向ければいつもの澄ました顔でこっちを見ていた。その横から秋も少しだけ顔をずらしておれを見た。


そうだよ。今日は2人も一緒なんだ。


飲み込まれるな。
大丈夫。多分今までと同じように耐えれば良いとはいかない人だけど、この人はきっと頭が良いからわざとおれ達から主導権を握る。おれたち相手にそこまでしなくてもいいとは思うけどきっとそう言う生き方をしている人なんだ。



だったらおれたちもおれたちの生き方で取り戻さなきゃ。
何にこの人は反応するんだろうか、自分の力と地位を知り尽くしたこの人は何笑うだろうか。

探した言葉を口に出す。



「おれたちは利益になりますか」



ずっとおれをみたままの瞳が、ゆっくりと目を閉じる。
そうしてここに来て初めて男の口角が上がった。


かかった。



「最高の餌だよ」



人がしてはいけない、もしくは人がするべきではない笑顔からよくわかったこと。あの人たちを引きずり出す気なんだ。
そんな事絶対にさせない。



大丈夫、おれは人を見るのも人のことを考えるのも得意だから、この人のこともちゃんと知る事ができるハズだ。大丈夫。
ゆっくり、深呼吸して秋と優を見る。
言葉なんて要らない、笑い返してくれるから。




「おれ、知っての通り高瀬唯斗って言います」




おれの言葉に驚いた目とかち合う。すぐに逸らして1秒開けてまた見つめ返す。


「それで、貴方の名前は?」

「は?」


変なものでも見るように男がおれを見ている。
それでいい。
だっておれの話聞いてくれてるってことだ。


だからもう一度、今度ははっきりと。




「貴方の、名前は?」




頰に笑顔の感覚、いつも通りだ。
こう言う時でも笑える男でありたいから。









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