sweet!!

仔犬

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care!!!

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男が消えた瞬間、瑠衣先輩が両手を上げる。


「アッキ~!」

「え、あ、はい!」

「なにその反応!」


異様に上機嫌な瑠衣先輩の抱きつきに秋は頭がついていけず、それでも条件反射で腕を回す。けらけら笑う瑠衣先輩は秋の額に口づけを落とすと横にいたリュウジ達に目を向けた。


「ふーん、一撃かあ」


何故見るだけでそれがわかったのか理解する前に氷怜先輩が呟いた。心なしか嬉しそうな声に式もおれも首をかしげる。


「掴めねぇヤツだったな」

「良かったんですか逃がして」


式の言葉になんとも言えない表情をしてしまったおれに、氷怜先輩の大きな手がくしゃりと頭を撫でる。

「放っておいてもまた来る、ああ言う奴はな。それに、面白い奴だった」

「面白い?」

聞き間違いか。
気に入ってさえいるような言葉におれは驚いて見上げるがリュウジ達の処分討議が始まってしまう。
とは言え、当の本人達は未だ夢の中。


「俺が持ち帰ります、流石に懲りて貰わないと。まあ俺と話して何か変わるかは分かりませんが」

「何言ってんだよ、ほっとけこんな奴ら」


どこまでも律儀な桃花に式が反論する。そんな2人に暮刃先輩が笑った。

「そうだ、そこまでしてやる必要ないよ……それにこういう馬鹿にはもっと効果的な方がいい」

「サクラちゃんがね~」

「え?」

何故そこでサクラ姉さんの話が出るのか桃花には不思議でならなかったが、氷怜先輩も暮刃先輩までも頷くので任せることにしたようだ。

式と桃花がリュウジ達3人を軽々とを持ち上げ赤羽さんに報告に行くと言って上がって行く。



暗かった部屋は明るさも変わっていないのに賑やかに感じる。
まだ、さっきの事が頭を離れない。おれと秋と優はそれを少し離れて見ていた。


「怒られると思ったけど、なんか上機嫌だよな先輩達」

「うん、それに気に入ってるしアイツのこと……」

「え、そうなんだ……」


黙ったおれたちに手招きする先輩達はやはり上機嫌だ。


「おれたちも上に行きま」

「で、何をそんなにいじけてんだお前は」

「え、わ!」

ドアに向かったおれの腕を氷怜先輩が引っ張って胸の中にしまった。びっくりして見上げた瞳はどこまでも優しい。同じくそれぞれに捕まった秋と優も驚いたのか小さく声を上げる。

「上に行く前にね、話してよ」

「ソウネー吐いてしまえ」

「吐くもなにも……」

後ろから瑠衣先輩に乗っかられながら秋がうーんと唸る。代わりにその隣で優がお腹に回った暮刃先輩の腕を掴み、不満げに呟いた。

「先輩達の事悪く言われてムカついただけです」

「へえ」

暮刃先輩の穏やかな返事は特に気にしていない様子だった。でもおれたちとしては大事なことだ。

「しかもそれをあいつに覆させる言葉を、うまく言えなかったしな……」

瑠衣先輩が秋の肩に顎を乗せると頭をそちらに傾けた。ニンマリ笑う瑠衣先輩は秋の言葉をウンウンと受け入れる。

2人の言う通りだ、それに……。

「愛が軽いとか重いとか薄っぺらいとか厚いとか、もうそんな域の話じゃないのに、だいたい先輩達が悪魔って天使の間違、いうわ?!」


突然抱きしめる力が強くなって前も何にも見えないほど氷怜先輩に包まれる。苦しさに目がチカチカする頃には身体が震えだした。いやまって、震えているのはおれじゃない。


「え、氷怜先輩…………まさか笑ってます?」

「……っ、ちょっと、待て……くっ……はは!!」

「おれ今真剣に」


「天使!!」

気付けば瑠衣先輩も爆笑しているし暮刃先輩も肩を震わせている。おれたちとしては猛抗議の時間である。


「ちょっと、なんで笑うんですか。まじめに話してるのに」

「そうですよ。先輩達の話ですよこれは」

「いやそうなんだけどさ、あはは!」


ついに暮刃先輩も声を上げて笑い出した。こんな時に限って蛍光灯までご機嫌で光を照らし始める。


「ふっ……悪い……くっ」


本当に悪いと思っているなら涙をためて笑うのはやめてほしいです。壁に寄りかかって笑う氷怜先輩に抱きしめられたままのおれがジト目で見るとどうにか笑いを抑えたようだ。


「はーあ、なんでこんな可愛い事ばっか言うかなお前らは」

「え?!」


なんでそんな話になってしまうのか、おれとしてはもう大パニックだ。暮刃先輩も笑い終えると優の髪の毛をすいてその毛先に口付ける。


「本当食べちゃいたいよ、喜ばせる天才」

「だからなんでそんな喜んで」

「それにほら、オレら本当に悪魔だし?」


暮刃先輩に言い返した優に同じく笑いから復活した瑠衣先輩がにやりと笑った。もちろん秋もそれには反応する。
 

「違いますよ!悪魔じゃない」

「うんうん、よしよし」


なぜか諭されている秋は何故と首を傾げた。なんでこんなに先輩達が喜んでいるのかおれたちには謎なのだ。


納得がいかない俺たちにくすりと笑った暮刃先輩。
優にさらに寄り添って首を傾ける。


「だって嫉妬すらしない君達が俺達のために怒って、不機嫌になって、挙げ句うまく伝えられないから悔しいって……正直何よりも嬉しいね」

「しかもさあ、あーんな愛の告白までくれてえ。オニイサン超嬉しい~」

「え……ま、まさか少し前からあそこに」

あれを聞かれていたのか、そんな顔の2人がピシッと固まった。次第に顔を赤くした2人に瑠衣先輩も暮刃先輩もそれはもう嬉しそうに笑う。


おれとしてはそれでも納得がいかない。


「でもおれあの人にうまく言えなくて……」

「お前の言葉でこんなに俺が喜んでるのにか?」 

「今までそんな事無かったし……だってしかも、何故か先輩達あの人のこと気に入ってるし……」

「お前それ……」


思わずそらした視線。それなのに勢いよく顎を持ち上げられると柔らかい唇が降りてきた。本当に上機嫌な氷怜先輩はそれがいつもみたいに一回では終わらない。1秒2秒……甘い、甘い、それしか分からない。


「キャー良い子は見ちゃダメ~!」

「ちょっと氷怜、俺たちも抑えてるんだけど」

器用に秋と優の視界を手で塞いだ2人が囃し立てるように言うが目の前の男は不敵に笑う。


「うるせえよ」

急激にリアルな情報がなだれ込み、理解する一方で耳までもが赤くなっていく。
やばいこのままじゃ、死ぬ。
恥ずかしさと何かの感情が爆発して死ぬ。
不機嫌なことなどもう、ふっとんでいた。


やっと攻撃をやめるとおれの肩口にうずくまる。ショートした頭が先輩の服を掴むことだけは信号を送っていたらしい。真っ赤になっている顔を思わず指で隠すが顔を起こした氷怜先輩の目が指の隙間から見えてしまった。



「ひ、さと、せんぱ……」

 
ニヒルな笑みから見えた牙。


「なぁ……天使に見えるか?」



前言撤回。
羽の生えた、狼で。












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