sweet!!

仔犬

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care!!!

13

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入り口から聞こえた声に振り向くより先に、黒い影が男をめがけて飛び込んでいった。ありえない速さで動いたというのに榊はそれを避けていく。
持っていたタバコを捨て、今まで一度も見せなかった生き生きとした目にやっぱり先輩たちが目当てなんだと分かる。

臨戦態勢を取りつつ、余裕そうに笑いながら戦いの始まりに目を奪われていたせいでお迎えに気づけなかった。その声にびくりと身体がはねる。


「しらねぇ顔だなやっぱ」

「行っちゃったよ瑠衣のやつ」

「あ」


ドアからゆっくりと暮刃先輩と氷怜先輩が入ってくる。
瑠衣先輩から始まり、空気が一気に変わったような安心感に胸が熱くなった。


「唯斗」

聞きたかった、あの男と同じ低い声でも全く別物だ。重かった呼吸がそれだけで軽くなる。ゆっくりと近づいてくる氷怜先輩がおれを抱きしめ、よく頑張ったなと呟いた。
頬を撫でる指がおれの表情を確かめていつものニヒルな笑み浮かべる。

おれの横で優のもとに暮刃先輩が向かった。

「暮刃先輩……」


優が小さく声を上げると花が舞うような笑顔。


「本当に違う人から電話来るからさ、すごく嫌だった」


にっこり。
あ、怒ってる。これは確実に暮刃先輩怒ってる。
優がピシリと表情を固め笑ってごまかした。
でもすぐに陰ってしまい、暮刃先輩は仕方なさそうに眉を下げた。


「ごめんなさい」

「…………本当、焼けるね。俺こんな顔、一度もさせた事ないのに」


優の頰に手を重ねて、いつもの上品な笑み。腕をゆっくりと優の背中と腰に回して抱き寄せる。すると少し、優の表情が和らぐ。

「本当、そんな顔しなくていいのに……ねえ、瑠衣?」

激しい攻防をひたすら繰り返す瑠衣先輩はそれでも暮刃先輩の問いかけが聞こえたらしい。相手の足が顔をめがけて蹴り出されたのを避けるついでにちらりとこちらを見る。ニッと笑って叫んだ。

 
「っと……アッキー、ご褒美ちゃんと用意してよね~!」

「え?ご褒美?瑠衣先輩なに……うお」


その時後ろ手に違和感を感じたのか驚いた声の秋。式がなにも言わずに秋の縄を後ろから解いていた。いつものように眉間に皺を寄せて。


「馬鹿」

「……うん、ごめん」


静かに謝った秋に式は更に皺を深めた。暮刃先輩が優の腕を差し出すと続いて縄も解いていく。

優が曖昧に笑ってお礼を言う。


「式も来てくれたんだね、ありがとう」

「なんだよ、お前ら。調子狂うな……」

「え、なんか変かな」

そのやり取りを見ていたおれの腕が勝手に持ち上がったと思えば桃花が複雑な顔で縄を解いていた。おれの肩越しに見てため息をつく。そう言えばリュウジ達はまだ倒れていたはずだ。


「俺の出番は無いようで。だからせめて無茶するあなたを叱ろうかと思ったんですけど……そんな顔してるから」

「え?」

どんな顔してるんだろうおれは。
首を傾げて答える。


「みんなが来てくれて安心してる」

「こんな時くらい弱音言ってもいいのに」


桃花こそ、こんな時だけ敬語を外すから情けない顔になってしまった。
あんな話をしたせいで意地が出たんだ。うまく言葉が出てこなくて悔しいんだ。優も秋もいつもよりしおらしいのはおれだってよく分かる。
人との関わりをあれほど大事にしてきたのに、1番大事な人の事をうまく伝えられていないから。


壁を蹴って瑠衣先輩の攻撃を避け着地するとニヤリと笑う。

「まさかな……本当にお姫様だったわけだ。よかったなあ、少しは信じられる愛だったみたいで」


煽り文句とは分かってはいるがおれたちも男なもので反応してしまう。多少睨んだところで意味はないのは分かっているけど、恋人のことをそんな風に言われてぬくぬくと黙ってはいられない。


「チョット、ウチの子いじめていいのオレたちだけなんだけど」

「威勢が良い可愛いもん捕まえたな……なあ、その味はどうだ?」

「教えるわけない」



榊の動きは独特で足技がメインとなって繰り出していく、しかも重心の取り方が上手く、片足でも瑠衣先輩の読みづらい動きをするりと躱す。

でもそれは瑠衣先輩にも言える。
戦いを楽しんでいるのだろうか、決着をつける気はまだ無さそうに、間合いを取りながら。


なんて言えば伝わるんだろう。
あの人になんて言えば。


いつのまにか顔に出ていたのか氷怜先輩の手が頬を撫でる。少し驚いた顔、でもすぐに笑った。


「機嫌悪いなんて珍しいな」

「機嫌というか……」


それがものすごく暖かい。
おれは、何か出来たのだろうか。
やっと会えたこんな時こそうまく笑いたいのに、先輩達が来ると余計にあいつに教えてあげたくなってしまう。こんなに優しい目をして笑う人なんだと、意地でも言い張っていたかった。

おれの頭を撫でる大きな手、もう片方の手で秋を引っ張ると一緒に抱きしめた。


「怪我は」

「ない、です」

俯きながら、困ったように笑った秋。

もっと知って欲しいんだよね。
同じ気持ちだ。おれもそう、もちろん優も。




「あー、ダメージ受けたのそっちな」

「なにがー?」

「……やめだ」



とつぜん、全身の力を抜いてても広げて無抵抗のポーズ。榊がおれたちをみて興味深そうに笑う。


「これじゃあ、あんたらに美味しい思いさせただけだ。違う方法にする。なあ、豹原瑠衣ひょうはらるい。俺は強いぜ、今だって本気じゃない」


なに言ってんの?と顎を上げた瑠衣先輩に蛇は笑った。


「俺以上のスリルはなかなかない、それに今は慰めてやれよ。王子の仕事放棄してないで涙でも拭ってやれって」

「……逃がしてくれってイッテル?」

「頭が良くて助かるよ」


腕を静かに下ろした男に瑠衣先輩は身体ごと傾け聞く。


「まだ、諦めてないんでしょ」

「当たり前だ、まあでもいい方法思いついたからな……どうせヤルなら本気がいいだろあんただって」

「ふーん……まあいいや、逃げれば?」




意外にあっさりと瑠衣先輩が許可をする。


「アンタが言った通り~、オレも早く食べたいんだよね」

「う、え?」


明らかに自分に向けられた言葉に思わず変な声を出した秋。氷怜先輩も暮刃先輩も、クスリと笑って頷いた。


「いくなら行けよ、お前の顔は覚えたし…………ただ、次こいつらに手を出したら」

「手は出してねぇだろ……まだな」


氷怜先輩の言葉にもうすでにドアへと歩き出していた榊は鼻で笑った。ちょうどおれの目の前を通る時に呟いた。


「次はダンスでも申し込むよ」


黒い髪が暗闇に一体化して見えなくなるまでその言葉が頭の中で響いていた。




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