sweet!!

仔犬

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たっぷり日も暮れて、ようやく宮子さんに自由な時間が出来たらしい。おちょこを片手に上機嫌でこちらに来ると腰を下ろした。


「悪い事したね、招待した本人が手が空かないなんて」

「色んな人と話せて楽しかったですよ~」


先輩もいる、優も桃花も式も秋もいる。
それに幸せな気持ちでお酒を飲んでいる人が多いせいかたくさんの人に声をかけてもらった。親戚のおじちゃんおばちゃんが出来たみたいだ。

少し遠くではいつもよりも爽やかさを増した赤羽さんが品のいいおじ様と握手をしている。人脈を作りに来たので、と少しだけ先輩達のお酌をした後は宴会に来ている人に話しかけ始めた。彼の情報収集能力はああ言うところから来るのだろう。


「おれ、親戚いないんで賑やかなの嬉しいです」

おれの言葉に何故か寂しそうに笑った宮子さんが頭を撫でる。

「優も秋もいて、今年は先輩達も桃花も式も居て。宮子さんにも会えて、おれ幸せなんですよー」

「……何でこんなに強い子なのかねぇ」

強い子ではダメなのだろうか。
切ない表情に首を傾げたが、宮子さんはおれを改めて見ると話しは違う方向に変わってしまった。

「それにしてもすごい縁の持ち主だね、唯斗」

「ほらほらやっぱり」

体育座りで見ていた秋がにやにやと横から言う。なんだい、ニューヘアでイケメンが増してもおれが変人扱いはまだ認めませんから。

生年月日も個人情報も必要ない。宮子さんはじっと瞳を見るだけでいろんな事を言い当てた。家族構成も性格も最近あった出来事も、おそらく父さんの事も見えているんだろうけど宮子さんは触れなかった。

一通り全員を見終わるとニヤリと笑った宮子さん。

「欲に忠実な人間ばかり集まったのはわざとかい?」

「どうでしょう」

ふっと笑った氷怜先輩は宮子さんの力には驚いたりしていない。
不思議なことばかりだけど、宮子さんの言葉はすんなりと受け入れられるんだよな。

「凄いなぁ、縁も見えるんですねぇ」

「赤い糸ってやつもね」

「え?!」

これは良いことを聞いたかも知れない。食いついたおれたちに宮子さんは首を振った。

「赤い糸は切れるし相手は変わるんだ、あんなもの運命でも何でもない。ようは気合、本物の赤い糸無理矢理結んだ方がよっぽど効果があるね」

「なるほど……」

運命の赤い糸も宮子さんを前にしたら跡形もない。恋に悩む女の子に運命の赤い糸の話をされたらおれが相手と赤い毛糸で結んであげよう。
おれの手を滑る宮子さんの暖かい手が何かを確かめるように動く。

「秋裕、優夜も手を貸して」

ひとつ後ろに下がって見ていた2人がキョトンとしながらも前に出て差し出す。同じように触り確かめると納得したように笑った。

「私が赤い糸で好きなところは友人でも成り立つところさ。ちゃんと繋がってる、良いバランスだね。お互いを大切にしなさい」

その言葉がどれほど嬉しいかなんて顔を見なくても2人には伝わっているはずだ。

「千切れませんから」

秋と優がいい笑顔で答えるから思わず抱きついた。よろけた2人を後ろから支えた式がため息をつく。

「仲の良さは納得だな」

「式も桃花も繋がってると思うけど!」

試しに薬指をアピールしてみたら式の微妙に嫌そうな顔。式のそう言う素直なところ好きだよ。桃花は頰染めちゃうんだね。

優が倒れながら手をあげると宮子さんが笑って返す。

「もしかしてこれからどんな事が起きるのか……なんてのも見えたりしますか……?」

「おや勘がいいね、そうだね見えるよ。でもまあ、あまり当てにはならない。赤い糸と同じように運命はいつでも変えられる。でも、おみくじ的に使うなら……言わなくてもいいかと思ったがあんた達は女難、男難とかもあるけど……」

「ああ……」

小さく嘆いた優が眉間にシワを寄せると隣の暮刃先輩が思わず吹き出した。優様素直だからすみませんねぇ。

人気があってそれ故にトラブルが起きるのは先輩達からよく聞く話だし、納得だ。

「先輩達は今年もモテモテって事ですねぇ」

「何言ってんだい、あんた達もだよ」

「あれ?」

空振りのおれに苦笑いの桃花がデザートのつきたてのお餅が入ったおしるこを渡し、その代わりに小さい子にお願いするようにおれに目線を合わせた。

「それは俺も気をつけるので、唯斗さんは去年よりもっと気を付けてください」

「ええ、おれだけに言わないでよ桃花……」

「言わなきゃいけないの唯斗さんくらいですから」

「もお反抗期だなぁ……あ、おしるこ美味しい」

「ほらどれだけ言ってもおしるこで気が逸れるくらいなんですから……あ!」

今にもお説教が始まりそうだった桃花が突然声を上げる。見上げる先で入り口に眩いばかりの黒髪美男美女が。

「皆さん、母と父が来たのですがお会いになられますか?」

「ほらやっぱり超絶美人!!会いたいに決まってるよー!!」

それはもう絶対行かなきゃだめじゃん。息子さんの師匠の高瀬唯斗です。いや、なんか違うな、息子さんにお世話になっております師匠です?
とにかく桃花のご両親なんて確実にいい人だろうし感謝を込めてちゃんとお話したい、同じく立ち上がった秋と優がさあ行くぞと裾を正す。

式と先輩達に目線を向けたら行ってらっしゃいと手を振っている。

「報告しまーす!」

「走らないでゆっくり、ね」

暮刃先輩の言葉にすでに駆け出しそうになっていたおれたちは動きをピタッと止めてしっかり歩き出す。桃花がくすくす笑いながらこちらへと、手で促した。

その先で何を話していたのかはおれたちの知らない事だ。最後に一瞬見えたヘーゼルグリーンの瞳がおれを写していたことしか分からない。





「おそらく、今年は波乱の連続だ」






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