sweet!!

仔犬

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ちょっと唇荒れそう。
暮刃先輩のグレーの瞳が輝いて、当然怒りと、でもどちらかと言えば心配が多く混ざった揺れ方をした。

ようやく満足したのか袖を離したところで、静かな声でこう言われた。


「今回は、あまりにも無防備かな」


ちゃんと俺がやった事に対しての注意に、俺が言いたかった事がようやく言える。降りた腕に手を乗せて俺も見つめ返した。


「ごめんなさい」

「うん」


ここまでは良かったような気がする。
俺の反省が伝わらない人では無いし、至ってお互い冷静だった。
 
体調が最悪なことを除いては何も問題もなし。がんがん鳴るように痛い頭が暮刃先輩の声をかき消しそうな勢いだけどまだ大丈夫。手を伸ばすといつものように抱きしめ返され、首筋の小さい痛みにびくつくと暮刃先輩が顔上げた。

「あいつの匂いがする……」


ものすごい嫌そうな顔するなぁ。


「あー……車から出してもらえなくて、コートもそれまではと思って……すみません……」

寒さで死にそうとは言え敵みたいな人のコート借りるのはよした方が良かったな。眉間にシワを寄せたままの暮刃先輩が不機嫌そうに続けた。

「他には?」

「え?」

「何かされなかったの」

「キスくらい?」

「……くらい、ね」


うん、黙ろう。

この人達は存外素直で全部が目に出るから分かりやすい。欲に忠実でそれが余計に魅力的なんだけどね。暮刃先輩だけじゃ無くて瑠衣先輩も氷怜先輩も。

痛くて重い頭が鈍く回ると、抱きしめられている力の強さにつられてふと過るものがあった。今回ばかりは自分が悪いしそれに間違いは何も無くて、だから暮刃先輩が怒っていることは当たり前だ。


でも俺はどうだろう、あいつにキスをされた今、どう思っているのだろう。
単純にムカついた、それに酔っているし力では敵わなそうだからあの場を逃げ出すことを優先した、それで……それで?
今はもうそれだけだ。悲しいとかそんなか弱い事は思わない。深追いしたくもないしこれだけで終わってくれるなら榊李恩は自然消滅でいい。


暮刃先輩の目が榊李恩に向けて冷ややかなものに変わっている。その心の中の黒い感情はかなりのものだ。

なのに俺はこの程度で、大丈夫なんだろうか。
この気持ちの差は許されるものなのか。



「先輩はどこまで許せますか?」

「なに…」

「俺が何かをされて、もしくはして、どこまで許せますか」



また寒さの波が来てしまい身体が震え始める。それと同時に頭の痛みも増して、今話すべきじゃないのに痛みでおかしくなったのか逆に冴えた頭で話し続ける。

「お酒を飲んでとかでは無くても、俺達三人もともと問題を呼び寄せやすいような気がします。やりたい事をやり通してきましたし、何か問題が起きて助けに突っ走るのは性格上変えられません。出来る事を探して突っ込んでいきます」

静かな瞳が俺を見ていた。
暮刃先輩は俺の足元にしゃがみ込み諭すように話す。

「……問題に当たらないようにするし、君たちのそう言うところは好きなところだよ」

「でもどうしたって今日みたいに避けきれない事もあるし、その度に俺達は立ち向かっていくから」

「それで何がダメなの、お互いやりたいようにやってるんだからそれで良いんだよ」

「結果的に先輩達にはやらせてしまっているんじゃないかって、思うんです」


俺の言葉が優しくない事はわかっている。
でもこれは一緒にいる限り付き纏うものだから蔑ろにしては、優しさに甘えている事になる。今でさえもらってばかりいると俺達が感じていて、それを全て返しきる術があるのかもわからないのに。

暮刃先輩は首を横に振った。


「違うよ。お互いやりたいことをした結果で、負い目を感じるものじゃない。それとも何?その程度だと思われてるのかな。君達への感情がその程度の事で無くなると思って言ってるの?」


まさか。そうじゃない。
そんな薄っぺらいものだったら、今こんな話をしていない。これほど心配されて、感情を見せてくれるこの人が愛おしいなんて唯にも秋にもバレている。

でも、今日みたいな事が先輩達にあったとする。散々嫉妬をしないと言われていた俺達は確かにそれが異様に薄いから、こんなふうに怒ったり出来ないのだ。

それでは片方だけが強い想いに駆られてしまう。

前も言った通り全部を先輩達に託してズブズブに愛されて動かなくなるのは自分じゃないと感じて、だから自分を持った上でこの人達を愛したいのにそれやったら振り回すことになる。


「結局最後に振り回してしまうの俺達だと思います……」


この事に優しいあの2人はぶつかる筈だ。
それぞれの性格は違くても根本的な精神は同じだから。2人が悩むのは俺がこれをある程度飲み込んでからが良い。


「随分な事を言うんだね」

「……いっ」

握られた手に痛いほどに力が入ると、抑揚のない声で暮刃先輩が話し出した。綺麗な目が余計に冷たく見えるのは俺が寒いからだろうか。


「そんなに情けない男に見えるのか?」

「違いますよ……」

「同じだよ。それにその話、離れることを前提にしてるんだったら、本当に君達を閉じ込めたって構わない。誰にも見えない所で君たち全員丁寧に愛してやる。俺達はそれくらい簡単にするよ」

ああ、痛い、寒い。
離れたいなんて言ってない、なんでそんな話にもっていくんだ。


「わざと……そんな話、言わないでもらえますか」

「それくらいの事を言ってるのは君だ。あまりにも甘く見てるよ俺達を」

「違いますよ……!大切だから……離れたいなんて、思ったことありませんよ。ただ……これがずっと続くなら負担が……」


だんだん寒さと痛みで体勢を保てなくなりソファに上半身を寝かせようとすると、暮刃先輩に抱き寄せられる。

「すみません、ありがとうございます……」


砂嵐のような視界の中で耳元で聞こえてきた暮刃先輩の声だけがやけにリアルだった。





「俺がやりたいと思う事を負担なんて言葉にしないでくれ」





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