262 / 378
word!
6
しおりを挟むちょっと唇荒れそう。
暮刃先輩のグレーの瞳が輝いて、当然怒りと、でもどちらかと言えば心配が多く混ざった揺れ方をした。
ようやく満足したのか袖を離したところで、静かな声でこう言われた。
「今回は、あまりにも無防備かな」
ちゃんと俺がやった事に対しての注意に、俺が言いたかった事がようやく言える。降りた腕に手を乗せて俺も見つめ返した。
「ごめんなさい」
「うん」
ここまでは良かったような気がする。
俺の反省が伝わらない人では無いし、至ってお互い冷静だった。
体調が最悪なことを除いては何も問題もなし。がんがん鳴るように痛い頭が暮刃先輩の声をかき消しそうな勢いだけどまだ大丈夫。手を伸ばすといつものように抱きしめ返され、首筋の小さい痛みにびくつくと暮刃先輩が顔上げた。
「あいつの匂いがする……」
ものすごい嫌そうな顔するなぁ。
「あー……車から出してもらえなくて、コートもそれまではと思って……すみません……」
寒さで死にそうとは言え敵みたいな人のコート借りるのはよした方が良かったな。眉間にシワを寄せたままの暮刃先輩が不機嫌そうに続けた。
「他には?」
「え?」
「何かされなかったの」
「キスくらい?」
「……くらい、ね」
うん、黙ろう。
この人達は存外素直で全部が目に出るから分かりやすい。欲に忠実でそれが余計に魅力的なんだけどね。暮刃先輩だけじゃ無くて瑠衣先輩も氷怜先輩も。
痛くて重い頭が鈍く回ると、抱きしめられている力の強さにつられてふと過るものがあった。今回ばかりは自分が悪いしそれに間違いは何も無くて、だから暮刃先輩が怒っていることは当たり前だ。
でも俺はどうだろう、あいつにキスをされた今、どう思っているのだろう。
単純にムカついた、それに酔っているし力では敵わなそうだからあの場を逃げ出すことを優先した、それで……それで?
今はもうそれだけだ。悲しいとかそんなか弱い事は思わない。深追いしたくもないしこれだけで終わってくれるなら榊李恩は自然消滅でいい。
暮刃先輩の目が榊李恩に向けて冷ややかなものに変わっている。その心の中の黒い感情はかなりのものだ。
なのに俺はこの程度で、大丈夫なんだろうか。
この気持ちの差は許されるものなのか。
「先輩はどこまで許せますか?」
「なに…」
「俺が何かをされて、もしくはして、どこまで許せますか」
また寒さの波が来てしまい身体が震え始める。それと同時に頭の痛みも増して、今話すべきじゃないのに痛みでおかしくなったのか逆に冴えた頭で話し続ける。
「お酒を飲んでとかでは無くても、俺達三人もともと問題を呼び寄せやすいような気がします。やりたい事をやり通してきましたし、何か問題が起きて助けに突っ走るのは性格上変えられません。出来る事を探して突っ込んでいきます」
静かな瞳が俺を見ていた。
暮刃先輩は俺の足元にしゃがみ込み諭すように話す。
「……問題に当たらないようにするし、君たちのそう言うところは好きなところだよ」
「でもどうしたって今日みたいに避けきれない事もあるし、その度に俺達は立ち向かっていくから」
「それで何がダメなの、お互いやりたいようにやってるんだからそれで良いんだよ」
「結果的に先輩達にはやらせてしまっているんじゃないかって、思うんです」
俺の言葉が優しくない事はわかっている。
でもこれは一緒にいる限り付き纏うものだから蔑ろにしては、優しさに甘えている事になる。今でさえもらってばかりいると俺達が感じていて、それを全て返しきる術があるのかもわからないのに。
暮刃先輩は首を横に振った。
「違うよ。お互いやりたいことをした結果で、負い目を感じるものじゃない。それとも何?その程度だと思われてるのかな。君達への感情がその程度の事で無くなると思って言ってるの?」
まさか。そうじゃない。
そんな薄っぺらいものだったら、今こんな話をしていない。これほど心配されて、感情を見せてくれるこの人が愛おしいなんて唯にも秋にもバレている。
でも、今日みたいな事が先輩達にあったとする。散々嫉妬をしないと言われていた俺達は確かにそれが異様に薄いから、こんなふうに怒ったり出来ないのだ。
それでは片方だけが強い想いに駆られてしまう。
前も言った通り全部を先輩達に託してズブズブに愛されて動かなくなるのは自分じゃないと感じて、だから自分を持った上でこの人達を愛したいのにそれやったら振り回すことになる。
「結局最後に振り回してしまうの俺達だと思います……」
この事に優しいあの2人はぶつかる筈だ。
それぞれの性格は違くても根本的な精神は同じだから。2人が悩むのは俺がこれをある程度飲み込んでからが良い。
「随分な事を言うんだね」
「……いっ」
握られた手に痛いほどに力が入ると、抑揚のない声で暮刃先輩が話し出した。綺麗な目が余計に冷たく見えるのは俺が寒いからだろうか。
「そんなに情けない男に見えるのか?」
「違いますよ……」
「同じだよ。それにその話、離れることを前提にしてるんだったら、本当に君達を閉じ込めたって構わない。誰にも見えない所で君たち全員丁寧に愛してやる。俺達はそれくらい簡単にするよ」
ああ、痛い、寒い。
離れたいなんて言ってない、なんでそんな話にもっていくんだ。
「わざと……そんな話、言わないでもらえますか」
「それくらいの事を言ってるのは君だ。あまりにも甘く見てるよ俺達を」
「違いますよ……!大切だから……離れたいなんて、思ったことありませんよ。ただ……これがずっと続くなら負担が……」
だんだん寒さと痛みで体勢を保てなくなりソファに上半身を寝かせようとすると、暮刃先輩に抱き寄せられる。
「すみません、ありがとうございます……」
砂嵐のような視界の中で耳元で聞こえてきた暮刃先輩の声だけがやけにリアルだった。
「俺がやりたいと思う事を負担なんて言葉にしないでくれ」
13
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる