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仔犬

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「おー!スタジオだ!」


秋の声が響いて返ってくるほど高い天井と真っ白な背景。光が集まったそこに近寄って優が手を滑らせたのは椅子だ。


「これひとつだけなんだ」


そう言いながら腰掛けるアンティーク調の皮張りのソファは真っ白で、1人用だがかなり大きめだった。優が座っても唯くらいなら横に並んで座れそうだ。

その光景を密かに見つめる柚だけがそのソファの意味を知っている。
デザイナーからそのソファまでデザインした事、その椅子をどう使って欲しいのかも。ただ、3人にわざわざそれを伝えるよりは好きにさせたほうが彼ららしさが出る予感に口角を上げた。


「好きにして良いぞー!」


カメラを掲げた柚が声を張ると唯も秋もソファに向かう。3人とも緊張している様子もなくいつも通り話し出すと両手を広げ唯が嬉しそうにくるりと回る。
そのメイクは男とも女とも取れないものだが唯の元の顔を1番よく知っている本人だからこそ映え、小ぶりな唇と丸い目がより印象的になる。奇抜な髪だが緩くハーフアップし崩す事でより男女どちらかの確信を謎めかせていた。

「やっぱりkeinoは最高だよぉ~」

「唯も良くまとめたな、メイク」

褒める秋は清爽な目に合わせ眉を整え、バランスの良い骨格が引き立つように髪の毛を片方だけ耳にかけたことにより数段その色気が増す。その横で優が微笑むとミルクティベージュの髪がふわりと揺れる。元々ストレートの髪を唯がゆるく巻いたことで線の細い綺麗な顔が外国の血を混ぜたように見せている。


「うん、理想通り」

「本当?やったー!」


きゃっきゃと楽しげな声に柚もつられて笑い出す程で、秋が爽やかに笑うとスタジオの雰囲気を作るために流している音楽にノリ出した。優も唯もけらけらとそれを楽しむ。

カメラの中の彼らにため息混じりに柚は笑った。

「一応ヘアメイクに最終チェック入れさせたけど完璧過ぎて直し要らないってよ」

「元が良いのは分かりますが、ここまで見せ方が上手いのは圧巻ですね」

ただ、本人達はいたっていつも通りだ。
3人の気の抜ける会話に赤羽も爽やかに微笑んだ。


「緊張感ねぇなぁ~」

「それがいい所ですから、それに……」

「柚!!」


赤羽の声を遮って1人の男がスタジオに駆け込んできた30代前半の小綺麗な男は実年齢よりも若く見られる。柚は来ることがわかっていたかのようにニンマリ笑って答えた。


「よ!」

「よ!じゃないんだよ柚!こんな勝手に素人連れてきて!!」

「えーちゃんと連絡したしー!」

言い合う2人に唯達が首をかしげると、すっと柚達から離れた赤羽は耳打ちをしに3人の元までくると小声で教えた。


「編集長です、今回の雑誌の」

「え?!」

「あー柚さん勝手に決めてたっぽいしな」


苦笑いの秋に赤羽は爽やかに微笑む。
唯は驚きながらもあんなに若い人なのになぁと感心しその横で優が赤羽の袖を引っ張った。覗き込む黒い目が透き通って、その中に光る意志が透け赤羽は笑みを深める。


「あの人に納得してもらわないといけないですね」

「そうですねぇ」

「あの人1人に納得してもらっても意味がないけど」


静かな声でじっと編集長を見つめた優がそう言うので秋と唯が思わず笑い出した。この状況でそんな事を言うからだ。


「吹っ切れたら基本優はさらっと男らしいよね」

ソファの後ろからふんわり笑った唯の頭を秋が撫でる。同意した3人の視線が柚と編集長に移るとお互いの顔も見ずに笑った。


「でも、少しくらいいつも通りじゃない方がいいかもな」

「そうだね」


散々言い合っていた2人が柚が押し切る形で撮影の許可が下りたようだ。それでも柚の隣で腕を組みイライラと3人を睨む。お前らの撮影が酷かったらいますぐにでも中止させる。そんな目だった。
見ていた赤羽が楽しそうに口角を上げる。


「おや、また挑戦的な」

「試されちゃってるよ……」

「色気、必要かなぁやっぱり」

「心を擽るような顔はそそられますよ」

「それどんなですか……」



くすくす笑いながら赤羽が離れていく。爽やかな笑顔、白い歯を覗かせるのは何かを企んでいる時だ。


「期待してます」


頷いた優はもう一度ソファを撫でた。
いま自分達の着ている服がどれだけこの椅子で完成に近づいたか見た瞬間に感じていた。今回淡い色が多い服のデザインだが甘いだけではない。良く効かせたスパイスのようなデザインが大人を感じさせ遊びも混ぜた服はデコルテの出し方、手首の出し方まで服が教えてくれるように導くことが出来た。

所々に仕込まれているこのデザインはその姿が完全だと思わせる勇気が湧くのだ。


「踏み出す、立ち上がる、あとは宣戦布告だよ」

「ん、なるほど」


優の言葉に頷いた2人。
視界の端でレンズを捉えひとたびシャッターの音が響いた瞬間、その表情が一変した。

足も指もその目線すら無駄な動きがない。
唯が数ミリ目尻を下げ口角を美しく上げると優がその顎に指を引っ掛けて不敵に微笑んだ。秋は背もたれに腕を乗せ挑戦に応える目で笑って見せ、それもすぐにポーズを変えて目を細めちらりを歯を見せて笑う。いたずらをする子供の笑みと大人の計算高い目を同時に表すような、そんな笑い方を柚は一度だって見たことがなかった。

唯はあの氷怜がお気に召した微笑みだがそれもいつも不意に見せるものとは違っていた。確実に意識してその表情を引き出し女性と男性の狭間で揺れるような危うい雰囲気に背筋がなぞられる。


「柚さん」


優が足を組み替えその名を呼んだ。
いつもの静かな瞳が水が流れ光が反射しているかのように光ってカメラを真っ直ぐに見つめる。
その目は撮れと言っているが柚はもう自然にシャッターを切っていた。いつも意外にも少年のように可愛らしく笑う優だが今回ばかりはその綺麗な顔で挑発をするような目だ。

自分の意志を超えて身体が反応しシャッターの音ともにコロコロと変える表情が指を止める事を許さない。今まで柚が瞬間を狙って撮っていたというのに立場すら逆転してしまう。

衣装を変えそのたびにヘアメイクも唯は変えていた。優が組み合わせた服はそれぞれの体の線によく合ってそれをさらに魅力的な相乗効果をだす。柚が花をブースに散らせ花束も持たせると器用に花と自分を魅せさえするのだから。


この時のために生きていたのだと、こう言うことがあるたびに思う。掻き立てられる欲望に呆然とする横の男に今日1番のギラついた目で指を止めずに柚は言った。


「この俺が撮らされてる」


ああ、これだから堪らない。
本当良いもん拾ったよあの人達は。








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