sweet!!

仔犬

文字の大きさ
284 / 378
theory!

1

しおりを挟む


先輩達によって丸く収まった榊李恩との出来事から数日。またバイト終わりに拾われてクラブに来た俺たち。

「麗央、いい加減やめさせろ」

「まだ体力残ってるんでしょ。はい、次」

「じゃー次は俺!」

今日はクラブは営業しておらず、試合が行われていた。とは言えいつもの他チームとの試合ではなく主にあの榊さんがメインで戦っている。

「どんだけ相手させんだ……暑苦しい奴らだなぁおい」

「別にギブアップしてくれたっていいけど?」

「あ?ハンデやっても良いくらいだな」

売り言葉に買い言葉が飛び交うホール。観戦する人たちも盛り上がり、いつかの試合を見ているようだ。
あの日、氷怜先輩が麗央さんに榊さんの躾を願いのようでほとんど命令を口にした結果、それを聞いた麗央さんは榊さんに優に手を出さない約束をさせた。結果的に初恋の人の存在を赤羽さんがちらつかせると優だけでなく俺たちも安全に。あれはもはや初恋を人質にとっているのでなんだか心苦しい。

実はさらにそのあと、麗央さんがこのクラブに通うにあたりチームの人たちを納得させるためにもう一つの条件を出した。榊さんがチームの相手をする事、だ。

氷怜先輩達と同等の力があるのならば戦ってみたい、と同時に野放しするには何も知らなすぎる。その妥協点としての試合らしいけど、いくら麗央さんがそれを榊さんに命令したとしても頷くのが俺は驚き。初恋の力ってすごいなぁ。

スパイラルのきいた黒髪が少し濡れている。あの人汗かいたりするんだなぁと試合を見ながらぼんやり思う。階段に座って観戦していた俺の横に氷怜先輩がしゃがみ込んだ。

「飲むか?秋」

「おお、ありがとうございます」

グラスに入った美味しそうなオンジジュース。縁にはご丁寧にオレンジが刺さっている。

「あれ唯のやつ先輩のとこに行きませんでした?」

「あそこ」

目線だけで教えてくれたその場所では、試合を真横で見ている麗央さんがいる。腰に手を当てて不機嫌そうなそのお顔は今日もお人形のようだ。一番最初に桃花を見た時もお人形だなとは思ったけど、彼は表情があるのにそう見えるベクトルの違う美しさ。
よく見るとそんな彼にゆっくり近づいていく唯を発見。

そして後ろから肩を突いた瞬間、麗央さんの不機嫌な顔が案の定さらに嫌そうな顔に変わる。あんなに分かりやすい人も今時珍しい。

「懲りないなぁ唯も」

苦笑した俺に氷怜先輩がつられて笑うことはなかった。思わず首をかしげる。

「何かありましたか」

「いや」

真顔のまま目線だけが俺に向く。よく見れば今日は黒のコンタクトを入れている。俺たちが来る時はほとんどしなくなっていたのに、しかもクラブはやっていないのに。ただの気分だろうか。それともチーム以外の人間がいるからだろうか。

「唯もそうですけど、俺も麗央さん嫌いじゃ無いんですよねぇ。だから唯もああして仲良くなりたがってるし、まだ全然話してはくれないですけど」

「お前らに嫌いな人間なんてほとんどいないだろ」

ようやく小さく笑った氷怜先輩。

「で、結局あいつの初恋の相手はわかったのか?」

「あ!まだなんですよー!でも知ってる人って言われたんで見つけるまで教えないで欲しいっす」

「分かった分かった」

喉を転がして笑いながら俺の頭に大きな手が乗っかった。
視線の先ではもう何人目かも分からないチームの人を投げ飛ばした榊さん。やっぱ強いな。桃花と式も当然榊さんに手合わせに行くがいつもよりも硬い気がする。蹴り飛ばされたって言ってたしかなり警戒して、乗り越えなければいけない存在として認識してる感じだ。

少し離れたところで瑠衣先輩が嬉々としてその光景を見つめていた。楽しそうにその技を見ては戦いたくて堪らない感じが最近では可愛いと思うから慣れって怖い。

「麗央さんに振られた~!」

「ほい、おかえり」

唯が泣き真似をしながら戻ってくるのでオレンジジュースを渡してみた。ぐすんとか言いながらそれを飲み出す。

「なんて?」

「うざいって」

「それはまた、ははっ」

素直な人だ。
唯もそんな事言われた事無いだろうから余計におかしくて笑っちゃう。

「でもやっぱり近づいて見るとさほんとにほんとーに可愛いんだよなぁ。桃花とはまた違って繊細に作られたドールみたいな綺麗さ!うー最高!」

うざいって言われた人間とは思えない褒めっぷり。そういうところ好きだぜ唯。それに可愛いのは同意だし、潔い性格も嫌いじゃない。

「俺も話してみるかなぁ」

「秋と優は嫌われてないから普通に話してくれると思うよ。多分合理的な考え方するから優と特に相性が良さそうだし、アゲハさん情報によると頭もすごい良いんだって、絶対お話楽しいよねぇ」

「そこまで聞いたの?」

「もちろん、仲良くなるには色んな面からアタックしないと。アゲハさんもおれと麗央さんが仲良くなったら嬉しいって言ってたし」

さすが唯。コミュニケーションハイレベル保持者はやることが違う。本人にそんな気は無いだろうけど外堀から埋めてくる。

「あ、氷怜先輩今日シェアハウス帰りますか?」

「行くなら俺らも行く」

「やったー!」

唯が手をあげるといつもの自信と色気のある氷怜先輩の笑みが出た。バイトがある日は基本的に自宅に泊まることが多い。近いからね。
だからしばらくはシェアハウスに行っていない。飛び出て以来の久しぶりのシェアハウスは俺も嬉しい。

「久しぶりにみんなでゆっくり出来るね」

優と暮刃先輩がいつのまにか後ろに来ていた。すっかりいつも通りの距離感に戻った2人を見ると安心する。

「やっぱ強いな、彼」

「ああ、いつもチームのやつら相手するのが瑠衣だけじゃ教え方に偏りが出るからな。あいつが居てちょうど良いんじゃねえの」

「赤羽も彼の情報操作能力に興味持ってたよ。かなり自分の情報厳重にしてるみたいだし」

「意外と思わぬ拾いもんかもな」

先輩達にして見たら榊李恩って落ちてた骨のあるやつ、くらいなのか。俺たちは暮刃先輩と優の喧嘩ばっかりに囚われてたけど、この人たちは色んなところに目をつけてるし、榊さんのこと案外嫌っていたイメージもない。まだまだ子供なのかね俺たちは。

「俺はまだちょっと違和感ありますけど……」

「まあまあ俺がいるから、ね?」

複雑な顔の優の頰を暮刃先輩が撫でる。
そう言えば送り迎えについても、俺たちが毎回申し訳ないって思う事をこれを機にしっかり伝えてみたのだが、暮刃先輩の巧みな甘え方によりついに折れた。これはもう俺たちすら完敗の「送る時はちゃんと帰れたか安心したいし、早く会いたいから迎えに行かせて」だって。ずっる。
それを氷怜先輩に話したら鼻で笑っていた。

「暮刃の得意分野だからな」

「人聞き悪いなぁ。こんなに必死なのに」

「余裕たっぷりに言われても……」


優が遠い目をすると暮刃先輩が余計に眩しい笑顔。
結局まだまだ、この人達には勝てないわけだ。




しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...