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theory!
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しおりを挟む先輩達によって丸く収まった榊李恩との出来事から数日。またバイト終わりに拾われてクラブに来た俺たち。
「麗央、いい加減やめさせろ」
「まだ体力残ってるんでしょ。はい、次」
「じゃー次は俺!」
今日はクラブは営業しておらず、試合が行われていた。とは言えいつもの他チームとの試合ではなく主にあの榊さんがメインで戦っている。
「どんだけ相手させんだ……暑苦しい奴らだなぁおい」
「別にギブアップしてくれたっていいけど?」
「あ?ハンデやっても良いくらいだな」
売り言葉に買い言葉が飛び交うホール。観戦する人たちも盛り上がり、いつかの試合を見ているようだ。
あの日、氷怜先輩が麗央さんに榊さんの躾を願いのようでほとんど命令を口にした結果、それを聞いた麗央さんは榊さんに優に手を出さない約束をさせた。結果的に初恋の人の存在を赤羽さんがちらつかせると優だけでなく俺たちも安全に。あれはもはや初恋を人質にとっているのでなんだか心苦しい。
実はさらにそのあと、麗央さんがこのクラブに通うにあたりチームの人たちを納得させるためにもう一つの条件を出した。榊さんがチームの相手をする事、だ。
氷怜先輩達と同等の力があるのならば戦ってみたい、と同時に野放しするには何も知らなすぎる。その妥協点としての試合らしいけど、いくら麗央さんがそれを榊さんに命令したとしても頷くのが俺は驚き。初恋の力ってすごいなぁ。
スパイラルのきいた黒髪が少し濡れている。あの人汗かいたりするんだなぁと試合を見ながらぼんやり思う。階段に座って観戦していた俺の横に氷怜先輩がしゃがみ込んだ。
「飲むか?秋」
「おお、ありがとうございます」
グラスに入った美味しそうなオンジジュース。縁にはご丁寧にオレンジが刺さっている。
「あれ唯のやつ先輩のとこに行きませんでした?」
「あそこ」
目線だけで教えてくれたその場所では、試合を真横で見ている麗央さんがいる。腰に手を当てて不機嫌そうなそのお顔は今日もお人形のようだ。一番最初に桃花を見た時もお人形だなとは思ったけど、彼は表情があるのにそう見えるベクトルの違う美しさ。
よく見るとそんな彼にゆっくり近づいていく唯を発見。
そして後ろから肩を突いた瞬間、麗央さんの不機嫌な顔が案の定さらに嫌そうな顔に変わる。あんなに分かりやすい人も今時珍しい。
「懲りないなぁ唯も」
苦笑した俺に氷怜先輩がつられて笑うことはなかった。思わず首をかしげる。
「何かありましたか」
「いや」
真顔のまま目線だけが俺に向く。よく見れば今日は黒のコンタクトを入れている。俺たちが来る時はほとんどしなくなっていたのに、しかもクラブはやっていないのに。ただの気分だろうか。それともチーム以外の人間がいるからだろうか。
「唯もそうですけど、俺も麗央さん嫌いじゃ無いんですよねぇ。だから唯もああして仲良くなりたがってるし、まだ全然話してはくれないですけど」
「お前らに嫌いな人間なんてほとんどいないだろ」
ようやく小さく笑った氷怜先輩。
「で、結局あいつの初恋の相手はわかったのか?」
「あ!まだなんですよー!でも知ってる人って言われたんで見つけるまで教えないで欲しいっす」
「分かった分かった」
喉を転がして笑いながら俺の頭に大きな手が乗っかった。
視線の先ではもう何人目かも分からないチームの人を投げ飛ばした榊さん。やっぱ強いな。桃花と式も当然榊さんに手合わせに行くがいつもよりも硬い気がする。蹴り飛ばされたって言ってたしかなり警戒して、乗り越えなければいけない存在として認識してる感じだ。
少し離れたところで瑠衣先輩が嬉々としてその光景を見つめていた。楽しそうにその技を見ては戦いたくて堪らない感じが最近では可愛いと思うから慣れって怖い。
「麗央さんに振られた~!」
「ほい、おかえり」
唯が泣き真似をしながら戻ってくるのでオレンジジュースを渡してみた。ぐすんとか言いながらそれを飲み出す。
「なんて?」
「うざいって」
「それはまた、ははっ」
素直な人だ。
唯もそんな事言われた事無いだろうから余計におかしくて笑っちゃう。
「でもやっぱり近づいて見るとさほんとにほんとーに可愛いんだよなぁ。桃花とはまた違って繊細に作られたドールみたいな綺麗さ!うー最高!」
うざいって言われた人間とは思えない褒めっぷり。そういうところ好きだぜ唯。それに可愛いのは同意だし、潔い性格も嫌いじゃない。
「俺も話してみるかなぁ」
「秋と優は嫌われてないから普通に話してくれると思うよ。多分合理的な考え方するから優と特に相性が良さそうだし、アゲハさん情報によると頭もすごい良いんだって、絶対お話楽しいよねぇ」
「そこまで聞いたの?」
「もちろん、仲良くなるには色んな面からアタックしないと。アゲハさんもおれと麗央さんが仲良くなったら嬉しいって言ってたし」
さすが唯。コミュニケーションハイレベル保持者はやることが違う。本人にそんな気は無いだろうけど外堀から埋めてくる。
「あ、氷怜先輩今日シェアハウス帰りますか?」
「行くなら俺らも行く」
「やったー!」
唯が手をあげるといつもの自信と色気のある氷怜先輩の笑みが出た。バイトがある日は基本的に自宅に泊まることが多い。近いからね。
だからしばらくはシェアハウスに行っていない。飛び出て以来の久しぶりのシェアハウスは俺も嬉しい。
「久しぶりにみんなでゆっくり出来るね」
優と暮刃先輩がいつのまにか後ろに来ていた。すっかりいつも通りの距離感に戻った2人を見ると安心する。
「やっぱ強いな、彼」
「ああ、いつもチームのやつら相手するのが瑠衣だけじゃ教え方に偏りが出るからな。あいつが居てちょうど良いんじゃねえの」
「赤羽も彼の情報操作能力に興味持ってたよ。かなり自分の情報厳重にしてるみたいだし」
「意外と思わぬ拾いもんかもな」
先輩達にして見たら榊李恩って落ちてた骨のあるやつ、くらいなのか。俺たちは暮刃先輩と優の喧嘩ばっかりに囚われてたけど、この人たちは色んなところに目をつけてるし、榊さんのこと案外嫌っていたイメージもない。まだまだ子供なのかね俺たちは。
「俺はまだちょっと違和感ありますけど……」
「まあまあ俺がいるから、ね?」
複雑な顔の優の頰を暮刃先輩が撫でる。
そう言えば送り迎えについても、俺たちが毎回申し訳ないって思う事をこれを機にしっかり伝えてみたのだが、暮刃先輩の巧みな甘え方によりついに折れた。これはもう俺たちすら完敗の「送る時はちゃんと帰れたか安心したいし、早く会いたいから迎えに行かせて」だって。ずっる。
それを氷怜先輩に話したら鼻で笑っていた。
「暮刃の得意分野だからな」
「人聞き悪いなぁ。こんなに必死なのに」
「余裕たっぷりに言われても……」
優が遠い目をすると暮刃先輩が余計に眩しい笑顔。
結局まだまだ、この人達には勝てないわけだ。
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