sweet!!

仔犬

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theory!

5

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「なんかこの感じ久しぶりだ~。落ち着く~」

ひとりしきり食べ終わりへにゃりとソファに倒れ込む唯。その身体が持ち上げられて氷怜先輩の膝の上へいくと猫みたいに撫でられくすぐったそうに身を捩る。

「あんだけ豪快に家出てったしな」

「あう、いや、その節はごめんなひゃい」

ほっぺが横に引っ張られて柔らかい頰がさらに伸びる。
先輩に怒っている様子は全くないが暫くはそのネタでからかわれそうだ。とは言え俺たちだって家出している間に驚くことをされている。

「でも先輩たちもずいぶんと忙しそうでしたけど!あんな雑誌に載っちゃって。今まで顔は暮刃先輩と氷怜先輩出してなかったのに」

「あれカッコいいっしょー?」

ゲームを終えたにもかかわらず瑠衣先輩がこちらに向けて口を開けた。いやいや自分で食べてくださいよ。とか言うけど食べさせてあげる俺もなかなか甘い。

「クラブの宣伝と虫除けにはもってこいだったな、諸刃の剣でもあるけど」

「え?」

虫除けはなんとなく察しがつく。わざわざ指輪の話までインタビューで持ち出したのだから、この先輩たちが何も考えずにそれを話すとは思えなかった。心配性と言うか、今更だけどこの人達が独占欲を持ってたなんて意外だ。

でも諸刃の剣?公表したのだから、ある程度の人は近づかなくなる、と思うけど。優が首を傾げた。

「人のものが余計に欲しくなる、とか?」

「ああ、世の中にはそんな悪趣味も居るけどね。強いて言うならあのクラブに通っていれば君達だと特定出来るでしょ。俺たちと君たちのつながりを知っても尚手を出してくるとしたら抗争相手か、それなりの野心家か……」

「つまり数は減るけど、近づいてくるとなれば厄介者の可能性大と」

優が野菜のスティックを片手に暮刃先輩の話を分かりやすくまとめた。なるほどな、有名人の世界も大変な訳だ。

「ま、どこかの誰かさん達も大分顔を出してくれたから、そんな頻繁にはないと思うけどね」

それはすみませんと苦笑い。
まあどうせ、勝手にやったけど赤羽さんと柚さんから話はいっていたはずだし、この人たちが本当に嫌ならやめさせただろうな。

暮刃先輩の意味ありげな笑顔に気まずそうに優が目を逸らした。けどすぐにいつものクールな表情で口を開く。

「でも後悔してないです。少しは同じ世界見れた気がしたし、先輩達に近づけたかなって」

お、スッキリした顔。綺麗で大人しそうな顔してんのに、しっかり男子なんだよな優は。俺の隣では間反対な性格の瑠衣先輩が不思議そうに言う。

「なんでそんなムズカしく考えちゃうわけー優たん。世界なんて同じ場所にいれば同じで、オレたちと一緒にいるなら尚更近い存在ヨ」

「んー俺の頭、整理整頓して物事を定位置にしないと安心できないんですよ」

くしゃりと笑った優の頭を暮刃先輩が撫でる。ああ、たしかにこの雰囲気は落ち着くわ。
唯が何気なく薬指の指輪を見ると氷怜先輩がその指を撫でた。

「あんな良い顔してたら、相手のレベルは関係無さそうだけどな。欲しいと思ったやつは誰が隣にいたって来る」

「良い顔、出来てました?」

褒められて嬉しいのか唯が氷怜先輩に両手をかける。
ご褒美のように唯の髪を撫でるとこめかみあたりにキスをした。
この人たちの動きって綺麗だから、見ていて恥ずかしいとかは全くない。たまに驚異的な色気を出されたらそりゃ照れますけどね。
それでもだいぶ甘さに毒されたせいで唯だってくすぐったいと笑うだけで出会った頃ならある意味衝撃だったけど見慣れたものでもある。
 
優がでも、と眉を下げた。

「まあ……未だにいまいち実感は無いんですよね」

「あーね、それに撮影中の記憶も実はそんなないんだよなぁ。本当に楽しくて一瞬だったし、なんかテンション上がってスイッチ入っちゃったから」

「ね、撮られるって気持ち良いんだなって」

優も頷く。
俺はダンス中も見られることを意識して踊るけど、モデルの撮影は服を見せることがプラスされる。一瞬一瞬で動きも表情も変えて全てをカメラに出し切る。

「それにさすが柚さんって感じで。もう楽しかった~」

思い出したのか唯が膝の上で目をキラキラさせた。あの雑誌が出来た時、やっぱり柚さんの凄さを実感した。俺なのに俺じゃないと思うくらい写真の出来がよすぎて、でもこれは自分なんだと嬉しくなるしちゃんとしたモデルってこんなに楽しいものかと実感してしまった。

「あ、編集長にも良かったらモデルやらないかって言われましたよ」

優が鞄から編集長の名刺を取り出した。暮刃先輩はその白地の名刺を綺麗な指で受け取ると数秒見つめてため息をつく。

「これはまた、相変わらず人たらし込むのうまいなぁ君達……」

「まー止めなかったからショーガナイっしょ。ナニー、みんなやりたいのー?」

あ、やっぱ撮影すんのは知っててやらせてくれたんだ。それにモデル上級者としてはやるのかが気になるのか、瑠衣先輩が確認をする。これについては特に深く考えていなかったから俺は撮影を思い出す。

「え?うーん、たのしかったですけどそんな時間いまは無いから現実味無いなぁって感じですね。まだバイト入れまくりたいし」

「相変わらずだな」

氷怜先輩が腕の中の唯にお前はどうだと促す。唯は考えが決まっていたのか、にこりと笑って返した。

「メイクも撮影も楽しかったけど、写真なら柚さん普段から撮ってくれてるしおれもまだまだ春さんのところ離れたくないんですよねぇ。メイクもまだまだ趣味なんで仕事にしたいかって聞かれるとまた話が違うので。優は?服選ぶの楽しかったよねぇ」

「うんもちろん楽しかった。でもモデルっていう仕事を一生するつもりで挑んだ訳じゃなかったし、今は真面目に考えるステージじゃないですね」

俺たちの意見が大体同じで、先輩達は目を合わせるだけでそれ以上は聞いてこなかった。これはもしかしたらやりたいならやれば良い、そういう意図の質問だったのかも知れない。先輩達のツテならどうにでもなりそうだしね。
 
暮刃先輩がでもねと最後にまとめるように話し出した。

「モデルだけの話じゃ無いけど、こうやって名刺を渡されるって言うのは柚が凄いだけじゃないってちゃんと分かってね。取られる側の技量だって写真に出るから、よく自分を魅せていたよ。雑誌を見た人間に嫉妬するくらいに」

「……いやあ、それこそ、その言葉お返しします」

優がジト目になるのも頷ける。あんな良いもん見せられて流石に俺たち凄い!とか素直には受け止められない。

「そりゃ初心者と回数こなしてる側じゃ経験が違うし、でも見られる側として注目を浴びる才能は君たちだって同じくらいある」

「そーそー、それにこーんな美形で才能マンと比べなくて良いからー!」

「自分で言うんかーい……いやまあその通りですけどね」

俺のツッコミに瑠衣先輩がゲラゲラ笑うが暮刃先輩は至極真面目なので頭を小突いた。瑠衣先輩ははいはいくれちん怒っちゃヤダーとか言いながら俺の頰を痛くない力でつねる。何故。

「自分がどー見られてるのかー、ちゃーんと考えてバリア張ってよねーってコトでしょー」

あ、目が真面目モードだ。案外まともに聞いていたらしい。はいはい、つねらなくても俺だってわかっているとも。

「もちろん今回でクラブでも普段でも気をつけないとってめちゃくちゃ思いましたよ」

「どっちにしろ、その指から虫除け外すなよ。意味がねぇ」

氷怜先輩が唯の指を上げて俺らに見せる。虫除けと言うには嬉しすぎるプレゼントなので唯が反応した。
 

「そんな意味じゃなくても外しませんよー。もし無くしたらなんでも言う事聞きます!」

自信たっぷりな唯に優が口を開く。

「唯下手な事言うとフラグが立つよ」

「ん?」

そうだ、なんか俺たちだからあり得そうな事件じゃんかそれ。お前の口から聞くと余計にリアルだ。

それにそんな条件、狼の前に提示してはいけない。当然、意味ありげににやりと笑う氷怜先輩。


「そりゃ無くして欲しいくらい美味しい条件だな」


唯はそろそろ自分の発言の威力を思い知った方がいい。


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