10 / 13
10.犬猿の仲、ドラゴンとアイツ
しおりを挟む「散歩行くんなら誘えって言った」
珍しい。ものすごく怒ってる。
レイガってふざけて拗ねたりよくするけど本当になんでも笑い飛ばすし、ちょっとやそっとじゃ怒らない。怒った記憶があるとすれば今日みたいに眠気に負けて公園で寝ていた時くらいだろうか。
「危ないよ、そこ」
そんな縁に立ったまま怒らんでもいいよな。ただの散歩がドラゴンに乗って夜間飛行に切り替わっただけなのだから。
じっとオレを睨んだままレイガがようやく腰くらいの高さの縁から降りた。金色の髪がやけに明るく見えるのは夜のせいだろうか。
「てゆか、さっきからそこにいた?」
無視。
そんなに怒る事ないのに、もしかして急いで駆けつけてなんだかやるせない気持ちになったのか。息ひとつ乱れてないけど。
レイガはスタスタとこっちまで来ると鋭い目つきで自分より遥かにでかいドラゴンを睨みあげる。スターもスターで無言で睨み返すし、なんなんだろうかこの2人は。
いや、1匹と1人?
ドラゴンの数え方って、体?
青い目の2人が揃ってると思うとなんだか見応えがある。ゆっくり離れて2人を見ていたら何故かオレの腕を引っ張って自分の後ろに隠すレイガ。
聞こえてきたのは聞いたこともないきつい口調。
「さっきの鳴き方、何?」
「何って、君を呼んだんじゃないか。ツバサが君に僕を紹介したいって」
スターもレイガに負けず劣らず鋭い目つきに口調。さっきまで怖がられるとかなんとか言ってなかったかスターよ。まあ良いか、犬猿の仲だし無礼講って事なんだろう。
レイガが嘲笑するように鼻で笑った。
「あれが?自慢にしか聞こえなかったけど」
「勝手にそう感じただけでしょ」
「人間らしいこと言ってんじゃねえよ、ドラゴン」
おー、すごい仲悪いな。
人間でもここまで険悪なの見たことないかも。いやオレがぼーっとしてる間にどこかしらであったのかも知れないけど、とにかく目の前では初めてだ。しかもそれがドラゴンと人ってそりゃまた貴重な体験。
「君は回りくどい絡み方でじわじわ攻めてるくせに」
「オマエだってペットのフリして馬鹿みたいに近寄ってるじゃん」
木枯らし吹き荒れるくらいひどい。
ってこの2人のせいにしたくなるけど普通にビル風が寒い。下からぶおってたまに来るから余計に寒さがくるね。でもレイガを呼んだのはオレだから話を回しますかね。
「あのさーふたりは、お知り合い?」
オレがレイガの肩越しに聞くと2人は一瞬固まった。
「……まあ」
「知ってるけど……」
何でここに来て気まずそうにするの。
知り合いですら嫌なほど嫌ってる訳?変なペアだ。オレはレイガの後ろから移動して2人の間に立った。まずはレイガの方を向いてスターに手のひらを向ける。既に知ってるみたいだけど、状況報告から。
「えーと、レイガ。隠してて悪かったんだけど最近ずっとこのドラゴン、スターが見えてまして。まあ可愛いくて気に入ってたんだけど今日は何と初めて会話しちゃって、背に乗せて夜間飛行にも連れて行ってもらったんですよ」
「……へぇ」
何でさらに機嫌が悪くなるのかオレには分かりませんが、とりあえず続ける。
「そんで、やっぱりそんな良い事があったらお前に紹介したいなって。そしたらびっくり、お前もドラゴンが見えるって言うんだ」
「……まあ」
今度は気まずそうにされた。
でも続ける。
「だから、2人はどうか知らないけど。今オレちょっと嬉しいの」
「え?」
「1番仲良い幼馴染と可愛いドラゴンがこうしてオレ交えて話してる事が」
そう、見えてるって聞いた時嬉しかったんだよね。だってどうせ誰にも見えないって割り切ってたからこのファンタジー共有出来る人がいるなんて嬉しいじゃん。しかも幼馴染とくれば気兼ねなく楽しいし。
「可愛い……」
「1番仲良い……」
それぞれがなんか呟いてるけどちょっと場が和んだ気がする。まあ、何で仲悪いかは知らないけどそのうち普通になるんじゃないかね。世の中の8割は時間が解決するって思ってるからオレ。
それにしてもレイガも来て報告も済んだし幼馴染はファンタジー仲間になってオレとしては大満足、夜間飛行のテンションもピークをすぎて眠くなってきた。しかも寒いし、そろそろ帰らないと冬眠しちゃう。
スターの足元までいって大きな白い手をポンポンと叩く。長い爪がカッコいいんだよなぁ。
「なあ、スター。オレの家まで送ってくれる?」
「もちろん!」
パッと輝く青い瞳。
守りたくなるくらい可愛いなドラゴン。まあおれなんてスターのデコピンで倒される様なサイズだけど。
「おれだってお前のこと家まで送れるけど……」
オレの後ろでムッとした表情で言うレイガ。
いや送れるけどこっからオレの家までまああるよ。てかお前も乗せて貰えば良いのに。超気持ちいいよ、このローテンションのオレでもちょっときゃっきゃしちゃうくらい良いよ。
「あれ、てかレイガまじでどうやってきたの?」
「飛んできたんだよ」
返事は高い声で返ってきた。スターの声って本当に良く通る。レイガは何も答えずただオレをじっと見つめていた。
スターがフンっと鼻を鳴らす。
「そいつだって、ドラゴンのハシクレ何だから」
なんか、ドラゴンから端くれって言葉を聞くとすごい違和感。電話知らないのに端くれは知ってんだ、みたいな。
「って、ドラゴン?」
「……ああ」
レイガの瞳が揺れた。いつもみたいにギラギラじゃなくて光ったり、鈍くなったり、そんな不安そうな瞳。スターもレイガも繊細というか何というか、オレの何に遠慮してるんだ。
そんなオレが気にしてる事と言えば。
「羽は?」
「……え?」
「見たい、羽。やっぱり金色?ゴールデンレトリバーみたい?」
キョトンとしたレイガ。
今日はよく相手をこんな顔にさせる日だな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる