オレの魂はいずれドラゴンかアイツに食われるらしいが死んだ後のことに興味はない。

仔犬

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10.犬猿の仲、ドラゴンとアイツ

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「散歩行くんなら誘えって言った」

珍しい。ものすごく怒ってる。
レイガってふざけて拗ねたりよくするけど本当になんでも笑い飛ばすし、ちょっとやそっとじゃ怒らない。怒った記憶があるとすれば今日みたいに眠気に負けて公園で寝ていた時くらいだろうか。


「危ないよ、そこ」


そんな縁に立ったまま怒らんでもいいよな。ただの散歩がドラゴンに乗って夜間飛行に切り替わっただけなのだから。

じっとオレを睨んだままレイガがようやく腰くらいの高さの縁から降りた。金色の髪がやけに明るく見えるのは夜のせいだろうか。

「てゆか、さっきからそこにいた?」

無視。
そんなに怒る事ないのに、もしかして急いで駆けつけてなんだかやるせない気持ちになったのか。息ひとつ乱れてないけど。

レイガはスタスタとこっちまで来ると鋭い目つきで自分より遥かにでかいドラゴンを睨みあげる。スターもスターで無言で睨み返すし、なんなんだろうかこの2人は。
いや、1匹と1人?
ドラゴンの数え方って、体?


青い目の2人が揃ってると思うとなんだか見応えがある。ゆっくり離れて2人を見ていたら何故かオレの腕を引っ張って自分の後ろに隠すレイガ。

聞こえてきたのは聞いたこともないきつい口調。


「さっきの鳴き方、何?」

「何って、君を呼んだんじゃないか。ツバサが君に僕を紹介したいって」

スターもレイガに負けず劣らず鋭い目つきに口調。さっきまで怖がられるとかなんとか言ってなかったかスターよ。まあ良いか、犬猿の仲だし無礼講って事なんだろう。

レイガが嘲笑するように鼻で笑った。

「あれが?自慢にしか聞こえなかったけど」

「勝手にそう感じただけでしょ」

「人間らしいこと言ってんじゃねえよ、ドラゴン」


おー、すごい仲悪いな。
人間でもここまで険悪なの見たことないかも。いやオレがぼーっとしてる間にどこかしらであったのかも知れないけど、とにかく目の前では初めてだ。しかもそれがドラゴンと人ってそりゃまた貴重な体験。


「君は回りくどい絡み方でじわじわ攻めてるくせに」

「オマエだってペットのフリして馬鹿みたいに近寄ってるじゃん」


木枯らし吹き荒れるくらいひどい。
ってこの2人のせいにしたくなるけど普通にビル風が寒い。下からぶおってたまに来るから余計に寒さがくるね。でもレイガを呼んだのはオレだから話を回しますかね。

「あのさーふたりは、お知り合い?」

オレがレイガの肩越しに聞くと2人は一瞬固まった。

「……まあ」

「知ってるけど……」

何でここに来て気まずそうにするの。
知り合いですら嫌なほど嫌ってる訳?変なペアだ。オレはレイガの後ろから移動して2人の間に立った。まずはレイガの方を向いてスターに手のひらを向ける。既に知ってるみたいだけど、状況報告から。


「えーと、レイガ。隠してて悪かったんだけど最近ずっとこのドラゴン、スターが見えてまして。まあ可愛いくて気に入ってたんだけど今日は何と初めて会話しちゃって、背に乗せて夜間飛行にも連れて行ってもらったんですよ」

「……へぇ」



何でさらに機嫌が悪くなるのかオレには分かりませんが、とりあえず続ける。


「そんで、やっぱりそんな良い事があったらお前に紹介したいなって。そしたらびっくり、お前もドラゴンが見えるって言うんだ」

「……まあ」

今度は気まずそうにされた。
でも続ける。


「だから、2人はどうか知らないけど。今オレちょっと嬉しいの」

「え?」

「1番仲良い幼馴染と可愛いドラゴンがこうしてオレ交えて話してる事が」


そう、見えてるって聞いた時嬉しかったんだよね。だってどうせ誰にも見えないって割り切ってたからこのファンタジー共有出来る人がいるなんて嬉しいじゃん。しかも幼馴染とくれば気兼ねなく楽しいし。


「可愛い……」

「1番仲良い……」


それぞれがなんか呟いてるけどちょっと場が和んだ気がする。まあ、何で仲悪いかは知らないけどそのうち普通になるんじゃないかね。世の中の8割は時間が解決するって思ってるからオレ。

それにしてもレイガも来て報告も済んだし幼馴染はファンタジー仲間になってオレとしては大満足、夜間飛行のテンションもピークをすぎて眠くなってきた。しかも寒いし、そろそろ帰らないと冬眠しちゃう。

スターの足元までいって大きな白い手をポンポンと叩く。長い爪がカッコいいんだよなぁ。

「なあ、スター。オレの家まで送ってくれる?」

「もちろん!」

パッと輝く青い瞳。
守りたくなるくらい可愛いなドラゴン。まあおれなんてスターのデコピンで倒される様なサイズだけど。


「おれだってお前のこと家まで送れるけど……」


オレの後ろでムッとした表情で言うレイガ。
いや送れるけどこっからオレの家までまああるよ。てかお前も乗せて貰えば良いのに。超気持ちいいよ、このローテンションのオレでもちょっときゃっきゃしちゃうくらい良いよ。


「あれ、てかレイガまじでどうやってきたの?」

「飛んできたんだよ」


返事は高い声で返ってきた。スターの声って本当に良く通る。レイガは何も答えずただオレをじっと見つめていた。

スターがフンっと鼻を鳴らす。


「そいつだって、ドラゴンのハシクレ何だから」


なんか、ドラゴンから端くれって言葉を聞くとすごい違和感。電話知らないのに端くれは知ってんだ、みたいな。


「って、ドラゴン?」

「……ああ」


レイガの瞳が揺れた。いつもみたいにギラギラじゃなくて光ったり、鈍くなったり、そんな不安そうな瞳。スターもレイガも繊細というか何というか、オレの何に遠慮してるんだ。

そんなオレが気にしてる事と言えば。


「羽は?」

「……え?」

「見たい、羽。やっぱり金色?ゴールデンレトリバーみたい?」


キョトンとしたレイガ。
今日はよく相手をこんな顔にさせる日だな。




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