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その隣を歩くのは
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しおりを挟むno nameの中には唯、秋、優を「姫」と呼ぶ者がいる。
親しい者はからかい半分で言っているが本気でそう呼ぶ者も少なくない。なぜならあれほど氷怜達に大切にされている人間を見たこともなければ、当の本人達も魅力に溢れ自然と護りたくなる素質を持っているからだ。
ちなみに今日集まったのは本気で姫と呼ぶ部類の者である。
「あれ、あと1人か。俺が一番遅いかと思ってた」
ガヤガヤと賑わう店内に入った男は仲間を見つけ手を挙げた。
「遅えよ。あいつは買い物してから来るってよ。氷怜さんが前つけてた香水売ってたから買うって」
「うわ、あいつも好きだね」
そう茶化す彼も暮刃と同じ香水ならばゲットしていた。
結局チームメンバーが集まって仕舞えば話す事と言えばチームの話ばかりだ。
所属しているからと言って基本的に行動を縛られるわけではない。いつクラブに顔を出しても良し、どこで女を作ろうが、どんな行動をしても構わない。それでも所属している者のすべては氷怜達に憧れて集った人間で構成されているため、ほとんどの時間をチームのために使っている。
もちろん、プライベートの時間はたまの休日として発生する。幹部人の下に付く彼らは今日、同じ時期に入ったもの同士で盛り上がり、酒を交わすために少人数で集まったのだ。
後1人くれば全員集合となるこの飲み会はそれぞれ那加、亜蘭、紫苑、美嘉紀の下に着くもの達だ。
自らの上司となる幹部はともかく、まだまだ氷怜達に気軽に話しかけるほどのメンバーはこの会にはいない。いまだに緊張し、見惚れ、固まるのだ。だからこうして仲間にその凄さを吐き出す。氷怜達と、自分達それぞれの上司に当たる幹部の話。そして最近増えた話題はチームのトップ、その3人に出来た恋人達、つまり「姫」の事だ。
「実は俺この前な、姫がいる時にあの部屋入れてもらって少し話したんだけどさー」
「なにそれ、羨ましすぎんだけど」
「え、てかなんで?!」
身を乗り出す2人に得意げになりながらもまあまあと落ち着かせる。あの部屋とはいつも唯斗達が好きに使って良いと言われているVIPルームだった。そもそもそこには氷怜達、もしくは幹部ぐらいしか入らなかったのだが、唯斗達がきたことによりだいぶいろんな人間が出入りするようになったのだ。
「それがちょーど、那加さん手が空かないから料理運んで来いって言われてさー!」
「うわずる!!いーな俺も話してぇ~」
「なっかなか話すタイミングが無いんだよなぁ。姫の周りは氷怜さんたちが居る訳で……今やもう幹部人までもが基本セット、話しかけるなんて緊張よ」
もともともいたメンバーならば唯斗達とは既に面識があり気軽な物だが入ったばかりの彼らには遠い存在だ。
店員に後からくるもう1人の分まで酒とつまみを頼みつつ、話をつづける。
「もうさ、いや人当たり良い人達なのは知ってたけどあの顔の良さにプラスしてやっぱりもうこれでもかってくらいフレンドリーでさ。一緒に食べようとか言われちゃって……!」
「はあ?!ズルすぎだろ!!!……いやてか無理だろ」
「俺だったら断るわ……いろんな意味で」
唯斗達から誘ったのであれば誰も文句は言わないだろうが、もし仮に氷怜達に見られでもしたら心臓が持つかわからない。接触禁止でもなければ話したとしても何かされるわけはないのだが、それでも踏み込めないものがあるのだ。
「俺も断ったよ。でもさ……しょんぼりされたら無理じゃん……」
「あ、それは無理」
「だろ?!さすがに一緒に食べるのは……って言ったらまず唯姫があ、忙しいよね……?ごめんね……みたいな感じでさ。もう可愛い……じゃなくて耳下がってんのかなってくらいしょんぼりしててさ!まずそれで心痛いし、その時俺やる事なかったし嘘ついてるみたいになるし。追撃で優姫と秋姫がさ、新しく入った人だよな?なんか俺たち中々話せる機会なくて、思わずさそちゃった。ごめんね?……ってさあ!!!もうさああ!!!!可愛いかよおおおおお!!!!」
「最後はお前がただ可愛さに悶えてるだけだけど、それ断れないわ。うらやましい、しね」
「うわあ、さすが姫だな、あの顔とその性格は納得の姫だよ。お前はいっぺん、しね」
仲間の辛辣な最後の一言は聞こえなかったようで未だに可愛い思い出に悶えていたその時、ようやく最後の1人が合流した。
何故か顔面蒼白で、小走りで近寄ってきた。だんっと両腕をテーブルにつき座りもせず固まる彼に3人は首を傾げる。
「お疲れー」
「どした?」
「お前ビールな」
それぞれがそう言うが男は動かない。そして顔も上げず絞り出した声でこう言うのだ。
「ひ、氷怜さんが女と腕組んで歩いてた……」
正直言って驚くような事ではなかった。氷怜と暮刃と瑠衣の3人が表の顔としてクラブで振る舞っているのだから、仕事上ある意味接待は発生する。基本的にほとんどの客と話すような事などはないがVIP客ともなれば多少の会話は行われる。その中で女が彼らの腕を勝手に組むなんてよくある話だ。
最初こそ見せてはいけないと焦ったものだが、姫達はそれを美男美女最高~とか言って微笑むのだから懐が広いと言うか、少しだけ色んなことが心配になったほどだ。
「たまたま客と出会したとかじゃん?」
「いやあまじであの人絵になるよな……なんなら俺も腕組みたい」
「やめろよ、お前が横にいたらチンピラが引きずられてるようにしか見えねぇよ」
「ただの悪口だからなそれ!」
酒の力もあってか本人達を目の前にしては絶対に言えない本音が飛び出る3人。それでも青い顔の彼は震えそうなほど拳を握りしめた。
「……お前ら、あの氷怜さんが、あの絶世の美形で、優しくて甘い顔で微笑みかけててもそんな事言えるのか?」
そうなれば、話は変わってくる。
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