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双子にしか分からない
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しおりを挟む「リョウー、遊びにきたから喜べー」
「意外と学校まで来んの遠いんだぜ」
「しらねぇよ!」
俺の事をオトすと宣言した双子は、それ以前とは比べ物にならない程出現率が上がったのだ。しかも大体教室の窓から入ってくるし、学校のセキュリティどうなってんだよ。見逃すなよこんな危ない双子を。
「今日は何だよ、先に言っとくけど今日放課後は空いてない、ダンスあるから……明日も明後日も、用事あるからな!」
「ふーん?」
よっこらせと窓を軽々と飛び越え双子が俺の目の前の席に座った。そこの席ミコちゃんの席なんだけど。ああでもミコちゃん座られて嬉しそうだよ。教室の端っこできゃあきゃあ言ってるよ。イケメンってマジでこれだからタチが悪い。
今やこの双子の乱入がこのクラスの名物だ。秋達がこの高校ではかなり目立ってるけど、俺も俺でこれは目立ってるのではないだろうか。俺はこんな事じゃなくて、ダンスで目立ちたいのに。
「んじゃ、明々後日デートね」
デートという言葉にきゃあという黄色い悲鳴が聞こえた。わからん、これのどこがきゃあなんだよ。俺は怖えよ、このめげなさと俺相手に大の大人の男がデート発言は怖えよ。しかも目の前には同じ顔のやつが2人いて綺麗に揃ってそう言うんだ。怖えよ。
「しない!」
「全くわがままだなぁ」
「わがままだねぇ」
一つの椅子に見事にバランス良く座った2人が大袈裟にため息をついた。絶対俺が我がままじゃないことは確かだ。秋にはちょっと我がまま言ってたかもしれないけど、この2人の上を行くことはないだろう。
ああ、困る。大変困る。騒がしい上にとんでもなく強引でタチが悪いので出来れば会いたくない。でも避けようにもこうして突然目の前に出てくるのだから仕方がないのだ。無視したら一生両脇で話し続けるし、しかも顔が目立つから周りにも見られるし、打開策はさっさと話してさっさと解散。
「この話は終わり!以上!」
「じゃあ一緒に住もう?」
「はあ?」
……解散、したいのだがそんなに上手くは行かない。連絡が来ても返してないし、理由をつけては遊びの誘いも、デートの誘いも全て断っているが断ったとしてもこうして会いにくる。しかも当然また同じ誘いをするのだ。
てかなんだよ、デートって。それ好き同士でやることだろ。そんでなんだって?一緒に住もう?
「……いや住まねぇよ!」
しかも今日は特にしつこいのか帰る気配がない。
「なんで住まないの?」
「嫌だから」
「俺らは嫌じゃないよ」
「そう嫌じゃないよ」
さっきからずっとこれだ。
会話が平行線でお互いに折れると言うことを知らない。いや、俺は折れてはいけないだろ。100歩譲って俺に惚れた双子が俺とデートしたいと言うのは分かる。しかし一緒に住むって、何なんだよ。なんでデート断られた奴が段階飛び越えて先に行けるんだよ。
「じゃあまだ住まなくていいよ。代わりに合鍵あげるから週2は来いな」
「……あ?!」
ひょいっと渡された鍵にはこの前秋のデートに着いって行った時に双子が買っていたキーホルダーがついていた。柴犬が威嚇してるやつ。
「……いや、何これ」
「だから合鍵。あ、それはお前に似てるから買った柴犬」
しかも俺かよ。って違うそうじゃない。
なんで俺合鍵貰ってんだ。渡された鍵を両手で持ちながら身体が固まってしまい、口だけを何とか動かした。
「何で俺がお前らの家に行くんだよ……」
「忙しいなら夜泊まればいい、お前の予定とやら、毎日オールなんて言わないよな?」
「そうそう、それに嬉しいでしょ俺らと居れて」
同じようにテーブルに肘をついた双子はにこやかだけど俺としては全く嬉しくない訳だ。家なんて行ったらこの2人に振り回されるのは確実。何をされるか分かったものではない。
「あとうち結構綺麗だよー」
才のズレた発言。自慢げにそう言ったけど、たとえどんなに綺麗でも行きたくないのが本音だ。
「これは要らない。お返しします」
スッと差し出すと2人は同じタイミングでキョトンとした顔をするが、一方は不満げに、もう一方は悪魔のような笑顔に変化する。これだ、こんなにも違うのになぜ周りの奴らはこの差が分からないのだ。
「お前の家の合鍵勝手に作られるのと、それ受け取って俺たちの家に遊びにくるの。どっちが良いわけ?」
「あーそれも最高!」
何も素晴らしい答えじゃないが賛同した才は兄の神と同じ笑顔を作るのだ。
「どっちが良い訳?」
綺麗に重なった声が呪詛のように頭をぐるぐると回っていく。秋よ、ほんとにこんな奴らといて大丈夫なのかお前は。幸せにしろと宣言した手前もう今更秋を引き剥がすなんて考えてもないがこの2人を見ていると不安になる。
「くそおおお、本気でやりかねない奴らがそういうこと言うなよおおお」
「ってことはつまりお前は鍵を受け取るわけか。良いねそれが正しい選択」
「そうそう無い頭使ったって、俺たちから逃げらんないから」
俺には悪魔がついたのかもしれない。
同じ顔をした悪魔がふたり。
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