sweet!!-short story-

仔犬

文字の大きさ
上 下
141 / 188
双子にしか分からない

2

しおりを挟む


双子は俺に鍵を押しつけて嵐のように去って行った。手のひらに残る柴犬付きの鍵を見つめて居た堪れなくなった俺はお昼ご飯も食べず秋に泣きつきに行ったのだ。
昼休みの教室はどこも賑やかだけど数個となりの秋達のクラスは特に賑やかである。覗けば見慣れた秋といつもセットの唯と優の姿。それから話したことはないけど美人と話題の転校生誠司桃花と、陸上部で大人気の本田式まで同じく机を囲っていた。3人だけでも目立つのに男前と美人まで居て、なんだこの集団は。集まるだけで目がチカチカするわ。

しかも勉強机をつなげた大きなテーブルの真ん中には高校生活ではお目にかかれないお弁当というかレストランのランチのような豪華なご飯が並べられている。
出前か?それは出前なのか?

本人たちは特に変わった様子もなく秋は覗いている俺に気が付くと軽く手を挙げた。


「あれ、リョウじゃん。珍しいな、いつも自分のクラスメートと食べんのに」

「……秋いぃぃ」


安心する顔を見たら涙腺が緩んできた。相変わらず屈託の無い爽やかな笑顔に抱き着く。

「……ああー、なんか察した。お前のクラスさっき騒がしかったから、もしかして神さんと才さん来た?」

頷いた俺は情けない顔をしているだろうに唯と優は俺の席を秋の横に作ってくれた。この2人は前回の交流でかなり仲良くなったので俺の扱いも慣れている。俺も2人も人見知りをしないので仲良くなるのは割と一瞬だった。

どこから持ってきたのか紙皿と箸、コップを渡され男にしては、いや女よりもかわいい顔で唯が微笑んだ。


「リョウ君お昼は食べた?おれ作ったんだけど良かったら食べてね」

「……え、作った!?」

「今日はシチリア料理の詰め合わせ~」

「シチリア料理?!……ってどんな?」


俺はわかりやすい料理ばかり食べているので難しい名前なんて知らない。オムライスとか焼肉とかハンバーグとかラーメンとか、とにかくうまければいいわけだ。だけど鼻をくすぐるこのいい匂いは名前に身に覚えがなくても食欲が沸く。よく見ればクラスの他の奴らも同じく紙皿と箸を持っていた。教室でまさかのブッフェスタイルか。

「まあ話はいくらでも聞くから。まずは食べろって」

「そうそう、お腹すくとネガティブになるよ」

隣で優まできれいに微笑むのでありがたく頂くことにする。手を合わせていざ口の中へ。


「……んまあああ」


うまい、なんかさっきまでの嵐が夢のように感じるほど美味い。流石あの人の恋人なだけある。可愛い顔に料理まで出来るとは。


「お前良い奥さんになるなぁ」

「やったあ~!」


きゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ唯を誠司桃花がくすりと笑った。噂通りやっぱり美人だ。優も美人系だけど、優よりも大人っぽさがある。

「良かったですね」

「奥さんで喜ぶのお前くらいだな」

何故か唯にだけ敬語な誠司の隣で本田式が鼻で笑った。
とは言っても嫌味な感じはしない。秋達とは対照的に見えるけど最近よく一緒に居るのを見るので気が合うのだろう。

考えてみればそんな仲に俺がいきなり入ってしまったわけだ。混乱していたせいで周りが見えなくなるの、悪い癖だ。改めて箸を置いて挨拶をする。

「えーと、いきなり悪かった。俺、長谷リョウ。本田式と、誠司桃花、だよな?」

「宜しくね、リョウくん」

「リョウな。式でいい、桃花も名前でいいだろ?」

もちろんと微笑んだ桃花、無愛想に見えるが式も接しやすい性格だ。こういうのはフィーリングなので理由はないけど、案外外れない。特に秋の周りはそんな奴らばっかりだ。

俺が口の中の幸せを楽しんでいると桃花が悪魔の名前を口にしたので一気に現実に戻される。


「神さんと才さん、最近よく来てるよね」

「そういえば……何だ、このリョウと関係あるのか?」


俺はともかく式が2人の名前を聞くと嫌そうな顔をするのは何故だ。

「え、知り合い?」

「知り合いも何も桃花と式はチームの幹部だよ」

「げほっ!!」


びっくりしすぎて吹き出しそうになるのをなんとか堪えたら喉に詰まった。やばいと思ったらすぐに唯が飲み物を渡してくれる。ようやく呼吸が楽になり改めて桃花と式を見つめ直し、拳に力を入れて台パン。

「ま、またチームの人かよおおおおお」

一応料理に被害が行かないように力加減。秋が背中をさすってくれる。

「あーはいはい、そうだな。でも2人はとっても良いやつだからな」

「そんなん伝わるわ、くそおおおお」

違うのだ。今更チームの人間だからどうのこうのとか言わないのだ。だってこうして話して嫌な感じがしなければ俺と合うのだから。でもこのチームの人間と会った時、悔しいと言うかやばいなと思ってしまうのは双子のせいだ。

「やっぱり逃れられないのかなぁ……うぅ」

うつ伏せになって泣き始めると頭上で会話は続いた。式のどうしたんだと不思議そうな声。

「神さんと才さん、好きなんだってよ。リョウの事」

「わあ、そうなんだ。素敵だね」

桃花が嬉しそうな声を上げたが俺からしてみたら地獄だ。顔を上げたら目の前で唯一俺と同じような顔をする式の姿があった。


「そりゃ大変だな……」


その言葉だけで今日1番報われた気がしてまた泣けてきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】Hで淫らなボクの夏休み!【完結】

瀬能なつ
BL
全寮制の名門男子校に通う主人公は、憧れの上級生の九条理史と夏休みの間だけ、同室になることに。 先輩に勉強を教えてもらうつもりが、Hなコトをアレコレする羽目になって…… 「星影のセレナーデ」完結  / 「ロミオの純情」完結

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

悪役令息は断罪を利用されました。

いお
BL
レオン・ディーウィンド 受 18歳 身長174cm (悪役令息、灰色の髪に黒色の目の平凡貴族、アダム・ウェアリダとは幼い頃から婚約者として共に居た アダム・ウェアリダ 攻 19歳 身長182cm (国の第2王子、腰まで長い白髪に赤目の美形、王座には興味が無く、彼の興味を引くのはただ1人しか居ない。

夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す

夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。 それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。 しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。 リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。 そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。 何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。 その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。 果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。 これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。 ※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。

異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓
BL
病弱なため若くして死んでしまったルカは、気付くと異世界マフィアを題材とした人気小説の悪役、ルカ・ベルナルディに転生していた。 ルカは受け主人公の弟で、序盤で殺されてしまう予定の小物な悪役。せっかく生まれ変わったのにすぐに死んでしまうなんて理不尽だ!と憤ったルカは、生存のために早速行動を開始する。 その結果ルカは、小説では最悪の仲だった兄への媚売りに成功しすぎてしまい、兄を立派なブラコンに成長させてしまった。 受け要素を全て排して攻めっぽくなってしまった兄は、本来恋人になるはずの攻め主人公を『弟を狙う不届きもの』として目の敵にするように。 更には兄に惚れるはずの攻め主人公も、兄ではなくルカに執着するようになり──? 冷酷無情なマフィア攻め×ポンコツショタ受け 怖がりなポンコツショタがマフィアのヤバい人達からの総愛されと執着に気付かず、クールを演じて生き残りに励む話。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

【第一部完結】その美人、執着系攻めにつき。

月城雪華
BL
【第一部】朔真(さくま)はブラック企業に勤めており、今日も嫌々ながら会社へ行くはずだった。 しかし準備をしている途中に気絶し、次に目を開けた時には環境だけでなく姿も変わっていた。 どうやら、アルト・ムーンバレイという公爵位の肩書きを持つ貴族に転生したらしく、ここリネスト国での有力貴族らしい。 それだけでなく、王太子であるエルと自分は婚約しているようで── 目覚めたら異世界で、王太子から逃げ出したい公爵VS絶対結婚したい王太子の幕が開ける── 【第二部】アルト・ムーンバレイこと、朔真はリネスト国王太子であるエルと結婚した。 穏やかで時に甘い日々を過ごしていたが、そんな中一筋の暗雲が立ち込める。 二人の式をよく思っていない第二王妃・レティシアを始め、お偉方による「王妃を娶れ」と催促されたのだ。 これにはエルも立腹し、何度も「アルト以外を娶る気はない」と言うが、人知れずレティシアは他国から王女を送り込んだ。 王女は亡き第三王妃であり、育ての母であるベアトリスに似ていて── ✿.•¨•.¸¸.•¨•.¸¸❀✿❀.•¨•.¸¸.•¨•.✿ R-18シーンは★で区別しています 攻めの口調が変わります 第二部から王女が登場しますが、攻めや受けと直接的な絡み(★シーン)はありません 攻めが一部の時よりも暴走気味です

処理中です...