おれがアレを授かりまして

石月煤子

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平凡DKのおれがアレを授かりまして

8-4

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黄昏の空の下、おっかなびっくりジェットバスに入浴した柚木。


「あ、このボタンがボコボコ泡が出るやつっ? こっちのボタンは……ぶはっ、お風呂ん中が青色に光ってる……っ」


物珍しいジェット機能に興味津々、テンションが上がっているフリをした。


本当は。


「一緒に入るのは初めてだな」


比良との初入浴に対し、ボコボコ泡と共に噴き上がってくる緊張感を誤魔化したく、無理してはしゃいでいた。


以前、一度だけ行ったラブホではお風呂に入る余裕など微塵もなかった。

放課後の逢瀬はたいてい学校から近い柚木の家で、家族の帰りを気にしてゆっくり寛ぐことも叶わなかった。


「そ、そだね、うん」


ウッドデッキテラスに設置された埋め込みタイプの白いバスタブ。


先に入っていた比良を真正面にし、あっち向いてホイばりに上下左右を落ち着きなく見回した後、柚木は不自然に体を捻じ曲げて海の方へ顔を傾けた。


「やばい、海、きれいすぎ」


日の名残りが滲む水平線。
海は凪いで、単調な波音が聞こえてきた。


「柚木は……旅行に来たくなかったか?」


柚木は目を見開かせる。

ボコボコ泡が生じるお風呂の中で恐る恐る比良と向かい合った。


「柚木、ここに来てから動作や表情がいつも以上にぎこちない」


……う、わ、ぁ。
……比良くんってば裸だぁ。


当たり前のことにイチイチびっくりしてしまう。


しかし、自宅ではすっぽんぽんになるのも気が気じゃなく、比良の引き締まった裸体をマトモに目の当たりにするのは二月のラブホ訪問以来、まぁまぁ致し方ないとも言えた。


「……今だって俺から目を逸らしてる」
「っ、違う違う、それはさ、えーと」
「?」


比良くんの裸、ガン見なんかしたら、それこそキャパオーバーで天に召される!


「……楽しくないか……?」


ジェットバス内で体育座りしていた柚木はありったけの力をこめて首を左右にブンブン振った。


「さっきも、俺のこと置き去りにして、散歩中のワンコに駆け寄っていった」


……やっぱりまずかったか。

……それにしても比良くんが「ワンコ」って言うの、破壊力凄まじいな。


「あれはごめん……てか、ぜんぶごめん……」
「春休み中も、メール一つだって、くれなかった」
「えぇぇえ? それは比良くんもじゃん? おれはさ、てっきり部活とかで忙しいのかと思って控えてたんだよ?」


思いがけない批判を浴びて柚木は咄嗟に比良を正視する。


「そうなのか」


濡れた前髪が目元に伝い、いつにもまして雄色気に磨きがかかっている比良を正視するのは五秒が限界だ、そうだ、五秒ルールを設定しよう、柚木は自分にそう言い聞かせた。


「そんな簡単に諦めがつくのか?」


逃げ場のないバスタブ。

ロマンチック極まりない絶好のロケーションで体育座りの柚木はさらに縮こまる。


「クラスが分かれても平気そうだった」


きつい口調ではなく、むしろ淋しげで、それが却って平凡男子に追い討ちをかける。


「昼休みもすぐ教室に戻ろうとする」


柚木はとうとう立てた膝に顔を埋めた。


仄かな明かりを灯す複数のキャンドルライトにつむじが照らされる。

ひんやりした海風がうなじを掠めていった。


「比良くん、おれだって、淋しかったよ」


呑気にボコボコ泡を育むジェットバスの振動音に今にも掻き消されそうな、小さな声で、柚木は正直な気持ちを伝えた。


「でも。クラス替えで教室が別々になったこと以上に。これからのこと考えたら不安で」
「これからのこと?」


柚木は膝に顔を埋めたまま、うんうん頷いてみせた。


「ずっと気になってたけど、怖くて聞けなかった……逆に避けてたかもしんない、その話……」
「その話って、どういう話だろう、柚木」


答えを聞いてしまったら。
約一年後の未来が駆け足で迫ってくるようで。


「……進路のこと……」


先延ばしにすれば、するほど、不安は徐々に確実に膨らんでいった。


正に悪循環だった。


「比良くんのことだから、第一志望、もう決めてますよね……どうするの……きっと、すンごい偏差値高くて立派な大学なんでしょーね……」


比良は体育の授業ばりに体育座りを貫く柚木にはっきり答えてみせた。


「俺は●●大学の▲▲学部■■学科を目指す」


しばし、二人の間に流れた沈黙。


「……それ、ほんと……?」


顔を伏せている相手に対して比良は頷き、濡れた手を伸ばし、水気を含んでしんなりした柚木の頭を撫でた。


「本当だよ」


柚木はもぞりと顔を上げる。

ほっぺたどころか耳朶の隅から隅まで赤くなっていた。


「なにそれ、すンごい偶然すぎ……大学から学科までぜんぶおれの第一志望といっしょだよ、比良くん……」


偶然なわけがない。


比良はそう思いながら鈍感にも程がある柚木に笑ってみせた。
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