目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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3-1-罠

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「甫伊吹生くんは忽那凌貴くんのカノジョなんでしょ?」

結束バンドで両手を拘束された伊吹生は馬鹿げた質問を寄越してきた相手を睨みつける。

「これ、カノジョってツラか?」
「そもそもアルファだろ」
「オスのアルファ同士とか拒絶反応しかねぇわな」

そこは繁華街の一角にある雑居ビルの地下一階だった。

三月半ばの平日の夕方、適度な広さのバーには人の姿が疎らにあった。

「いや、睨むんじゃなくて? ちゃんと答えてくれません?」

薄暗いフロアの片隅に跪かされた伊吹生は、すぐ真正面に立つ相手に向かって否定しようとし、はたと口を閉ざす。

「おーい? もしかしてびびっちゃって頭がはたらかないですかー?」

質問を寄越してくるのは伊吹生と同じアルファ性だった。

以前、文化祭で凌貴に喉を潰された元被害者だ。

どうにも彼は相当根に持っていたようで、凌貴に復讐するため、このバーを経営している半グレ組織に協力を仰いで今回の計画に至ったらしい。

「見た目的にはまーまー男前だけど、中身はしょーもないみたいね」
「てかさ、アイツの下でハァハァしちゃってるわけでしょ」
「アルファのプライド、どこいったんでしょーかね」

彼の両隣にいる二人のアルファも文化祭のときに見かけた顔だった。

「忽那凌貴って奴、写真で見る限り絶世のイケメンって感じしたけどよ」
「オメガならまだしも、そんな男男したアルファに興奮すんのか」
「アルファってやっぱイカレてんの多いのな」

バーにいる残りの十数人、二十代後半と思しき半グレ組織のメンバーは全てベータであった。

金属バットの素振り、シャドーボクシングに興じている者がいたりと物々しい雰囲気に満ちている。

テーブルにはハンマーといった鈍器、折り畳み式のナイフまで無造作に置かれ、伊吹生の携帯で連絡をとって呼び出した凌貴を迎え撃つ気満々のようだ。

(別に凌貴がどうなろうと俺には関係ない、ただ……)

店内の様子を冷静に横目で窺っていた伊吹生は、最後の一人に目をやり、きつく唇を噛む。

(……心春……)

正面で両手を拘束され、目隠し、猿ぐつわまでされている制服姿の心春は一人掛けのレザーソファに座らされていた。

『お姉さんと迷ったんだけどね、持ち運びしやすそーな方を選んでみました』

狡猾な元被害者は復讐対象の凌貴のみならず伊吹生の身辺もざっと調べ、事前にベータに彼女を拉致させて人質にし、このバーに来るしかない選択を伊吹生に強いたのだ。

(心春だけは無事に家へ帰さないと)

薄ら笑いを浮かべ合う三人のアルファを伊吹生は見上げる。

タバコや酒、香水の匂いが絡まる空気を乾いた喉に迎え入れるように口を開いた。

「俺は凌貴の恋人だ」



まさか自分がこんなおぞましい言葉を口走る日が来ようとは思いもしなかった。



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