24 / 29
9-1-勇者様のキス
しおりを挟む一体、どうしたらいいのか。
一体、いつ、解放されるのか。
ひょっとすると、このまま、ここで息絶えてしまうのでは……?
「う……ぅ……ぅ……う」
顔が真っ赤っ赤になるどころか、体の隅から隅まで発熱してきて、ステュは困り果てる。
(勇者様、ずっと離してくれない)
ステュはディナイに再び抱き締められていた。
いや、掻き抱かれているといってもよかった。
つい先程の抱擁とは比べ物にならない、痛いくらいの過激な密着に、ステュの眉間には皺が寄りっぱなしだった。
(俺のこと、腕の中で圧死させるつもりなのでしょうか、この勇者様)
そもそも、今し方のキスは何だったのか。
正真正銘、純潔であるステュにとっては一瞬で終わった口づけでも影響大、頭の中は「?」だらけであった。
(え!?)
体に頑なに巻きついていた両腕が漸く弛んで、ほっとしたのも束の間、弄るような手つきで上半身を撫でられてステュは絶句した。
お尻まで触られると口をパクパクさせた。
スカートを捲られそうになると、さすがに耐えられず、喉の奥から悲鳴を絞り出した。
「うううう~~~~ッ!!」
ピタリと止まった不埒な愛撫。
「……おい、ステュ、いきなりシロウミガメみたいに鳴くな」
「シロウミガメ!? このッ……スケべ勇者! 何考えてんだ! ていうか苦しい! 圧死する!」
まだスカート越しに執拗にお尻を触ってくるディナイを涙目で睨めば、魔物と対峙したときと同じくらい鋭い眼光を宿した片目が、おもむろに見開かれた。
「今、理性がぶっ飛んでた」
恐ろしい言葉にステュは竦み上がる。もう少しで退治されるところだったのではと、肝を冷やした。
「うう……いい加減、みんなに顔見せにいってよぉ……」
「だから、それは明朝だ。今は接客中だろうが」
「そ、それはそうだけど……っ……うわ、ぁ……?」
会話の途中でステュはディナイに軽々と抱き上げられた。
そのまま持ち運ばれて寝台へ。
ギシリと端に腰かけた彼の膝上にお座りさせられる羽目に。
「初っ端からがっついて悪かった」
近い。
近過ぎる。
「……あんなの、誰だってびっくりするよ……退治されるかと思ったもん」
「退治? 俺がお前を?」
ディナイの膝の上だと一向に落ち着かない。始終身じろぎしていたステュは、鋭い片目に至近距離から覗き込まれ、はたと静止した。
「そうだな。もしも、こんなに魅力的な魔物が目の前を横切ったら、迷わず手を出すかもな」
最早、我慢の限界だった。
ステュは真顔でいるディナイと自分の額に手をあてがい、彼に熱の症状が出ていないか確かめた。
「何やってるんだ」
「勇者様、お熱あるんじゃないの。さっきから変なことばっかり言ってる」
「そうか? 気づかなかった」
「何か、妙に、その、スケべですし」
「お前の方こそ熱があるんじゃないのか」
今度はディナイがステュの額に手を押し当ててきた。
「ほらな。熱い」
顔の半分を簡単に覆ってしまう大きな掌。心地いい温もりが革手袋越しにじんわりと伝わってきて、ステュは、我知らず吐息を洩らした。
どうしようもなく甘えたくなってしまう。
だが、熱があるかもしれないディナイを心配し、何とか踏ん張ろうとした。
「俺を探す旅に出ようとするなんて、さすが、俺が好きになっただけある」
ステュは、片時も自分から視線を逸らさずにいるディナイを見つめ返した。
4
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる