花冠とベールの君よ、黒き勇者と誓いのキスを

石月煤子

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9-1-勇者様のキス

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 一体、どうしたらいいのか。
 一体、いつ、解放されるのか。
 ひょっとすると、このまま、ここで息絶えてしまうのでは……?

「う……ぅ……ぅ……う」

 顔が真っ赤っ赤になるどころか、体の隅から隅まで発熱してきて、ステュは困り果てる。

(勇者様、ずっと離してくれない)

 ステュはディナイに再び抱き締められていた。
 いや、掻き抱かれているといってもよかった。
 つい先程の抱擁とは比べ物にならない、痛いくらいの過激な密着に、ステュの眉間には皺が寄りっぱなしだった。

(俺のこと、腕の中で圧死させるつもりなのでしょうか、この勇者様)

 そもそも、今し方のキスは何だったのか。
 正真正銘、純潔であるステュにとっては一瞬で終わった口づけでも影響大、頭の中は「?」だらけであった。

(え!?)

 体に頑なに巻きついていた両腕が漸く弛んで、ほっとしたのも束の間、弄るような手つきで上半身を撫でられてステュは絶句した。
 お尻まで触られると口をパクパクさせた。
 スカートを捲られそうになると、さすがに耐えられず、喉の奥から悲鳴を絞り出した。

「うううう~~~~ッ!!」

 ピタリと止まった不埒な愛撫。

「……おい、ステュ、いきなりシロウミガメみたいに鳴くな」
「シロウミガメ!? このッ……スケべ勇者! 何考えてんだ! ていうか苦しい! 圧死する!」

 まだスカート越しに執拗にお尻を触ってくるディナイを涙目で睨めば、魔物と対峙したときと同じくらい鋭い眼光を宿した片目が、おもむろに見開かれた。

「今、理性がぶっ飛んでた」

 恐ろしい言葉にステュは竦み上がる。もう少しで退治されるところだったのではと、肝を冷やした。

「うう……いい加減、みんなに顔見せにいってよぉ……」
「だから、それは明朝だ。今は接客中だろうが」
「そ、それはそうだけど……っ……うわ、ぁ……?」

 会話の途中でステュはディナイに軽々と抱き上げられた。
 そのまま持ち運ばれて寝台へ。
 ギシリと端に腰かけた彼の膝上にお座りさせられる羽目に。

「初っ端からがっついて悪かった」

 近い。
 近過ぎる。

「……あんなの、誰だってびっくりするよ……退治されるかと思ったもん」
「退治? 俺がお前を?」

 ディナイの膝の上だと一向に落ち着かない。始終身じろぎしていたステュは、鋭い片目に至近距離から覗き込まれ、はたと静止した。

「そうだな。もしも、こんなに魅力的な魔物が目の前を横切ったら、迷わず手を出すかもな」

 最早、我慢の限界だった。
 ステュは真顔でいるディナイと自分の額に手をあてがい、彼に熱の症状が出ていないか確かめた。

「何やってるんだ」
「勇者様、お熱あるんじゃないの。さっきから変なことばっかり言ってる」
「そうか? 気づかなかった」
「何か、妙に、その、スケべですし」
「お前の方こそ熱があるんじゃないのか」

 今度はディナイがステュの額に手を押し当ててきた。

「ほらな。熱い」

 顔の半分を簡単に覆ってしまう大きな掌。心地いい温もりが革手袋越しにじんわりと伝わってきて、ステュは、我知らず吐息を洩らした。
 どうしようもなく甘えたくなってしまう。
 だが、熱があるかもしれないディナイを心配し、何とか踏ん張ろうとした。

「俺を探す旅に出ようとするなんて、さすが、俺が好きになっただけある」

 ステュは、片時も自分から視線を逸らさずにいるディナイを見つめ返した。

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