正義の美形ヒーローは悪のマッドサイエンティストにイタズラしたい

石月煤子

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その声には聞き覚えがあった。

『つまらない男ね』

「七狗は見当たらないし、その目隠し男、見覚えがあるわ」
「ひゃゥゥ……ぜ、零様ァ……お許しォ」

大幹部零、人知を超えた怪力の持ち主であり「コクローチ」の脳、配下となる手足に命を下す、シナプスを支配する要柱。

「ヒーローとの不純同性交遊なんざアタシは一度だって認めてないわよ」

どごぉんッ!

「ひィん、お気に入りの壁紙に穴がァ」
「とっととお退き、いつまでくっついてんの」

ずるるるるッッ

「うっ」
「ッ……あゥゥ……青様のおちんちん、抜けちゃったァ」
「あーもう、ばっちぃけど仕方ないわね、粗大ゴミに捨ててくるわ」
「いやァァ……青様ァァ……」
「伍魅はとっとと七狗連れ戻しなさい」

拘束具を破壊していく音が連続していたかと思えば、台にぐるぐる巻きにされていたはずの俺は、乱暴に持ち上げられて……どうやら肩に背負われたようだ。

カッツンカッツンカッツンカッツン

伍魅の泣き声がどんどん遠ざかり、ヒールによる足音がしばし奏でられて。

どさっ!!

「う……ッ」
「情けないったらありゃあしないわね」

アイマスクがするりと剥がされた。
目の前には……黒の軍服に赤い腕章をつけた、常に高いヒールの革ブーツで闊歩するように混沌の狭間を練り歩く、プラチナ色の髪に、隻眼でアイパッチの、怪力の持ち主とはとても思えない……美丈夫がいた。

零だ。

「……ぜ、ろ」

そこは独房だった。
白黒格子柄の床には剥き出しのパイプベッドだけが置かれ、鉄格子によって通路と区切られている。

「俺を……捕らえるのか」
「つまんないわ」

以前にも同じことを言われた俺は、やましい熱に浮かされた身でありながら、胸の奥が鋭く抉られるような痛みに眉根を寄せた。

「こーんなダッサダサなヒーロー一匹捕まえたって、全然、面白くも何ともないわ」
「……」
「鍵はかけないでおいてあげる、ただし配下に見つかったら連れ戻されるでしょうけど、ね。さぁ、ここから逃げ出せるかしらね、群青」
「……脱出してみせる」
「フン。それにしても股間のソレどうするつもり?」
「ッ……」
「あら、やーね。今更恥ずかしがって。伍魅とたっぷりお楽しみ中だったじゃない?」
「ッ、あれは無理矢理――」
「言い訳はいらない、興味ないから。スムーズに逃げ果せたいのなら処理しといた方が賢明よ。それに配下に捕まったときに、そんな状態だったら、ね。生き恥曝す語り草ね」
「……うるさい」

零は笑った。
カツーン、カツーン、ヒールの音色を響かせながら俺の前から本当に……去って行った。
確かにこの状態で逃げるのは……よろしくない。
とにかく熱を解放させるため俺は不本意ながらも自己処理を始めた。
パイプベッドに座り、目を閉じ、集中していたら。
何故か脳裏に浮かんできたのは……つい先ほどまでここにいた……零で……。

『あ……ん、群青……』

あの艶やかな唇で何度も俺を呼んで。
奥を貫けば無心で縋りついてきて、もちろん、普段の怪力は成りを潜めてそれはとても……心地よい束縛で。

『もっと……奥まで……群青のものにして?』

『本当は……アタシ、私は……群青のこと……』

『あぁ……っ群青……っ!』

なんだこれはどうしようもなく昂ぶる。
どうしてなんて悩む余地もなしに妄想が独りでに暴走する。

『あ……すごぃ……奥』

きっと零の奥はキツく熱く俺を包み込んでくれる。
奥の奥にまで打ちつけてやれば、あの冷ややかに整った顔を悩ましげに歪ませて。
俺を求めてくる。

「はぁ……っあ……零……ッ」

貫いて、暴いて、曝して。
彼の全てを受け止める。
それはきっと……何物にも変え難い至福の時……。

「あぁ……いく……っ」

つまらない、なんて、言わせない。



***



「群青、どうしてそんな風に僕を見るのかな」
「ッ……どんな風に見ていた、赤紫?」
「何年も前に賞味期限が切れて腐り切ったナマモノでも見ているような眼差しだった」
「ッ……す、すまない」


***


「自分は至極マトモだって思ってる人間ほど底抜けにアブノーマルだったりするのよねぇ」

戻ってきた七狗の頭を撫でて私は笑う。

「まぁ、甘美な夢の中で名前を呼ばれるのも悪かぁないわよね」
「?」
「七狗、アタシにもレモンティー頂けるかしら」

つまらない男から脱皮してごらんなさいな、まだまだ青いヒーローさん。




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