正義の美形ヒーローは悪のマッドサイエンティストにイタズラしたい

石月煤子

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俺様、七狗は何を隠そうマッドサイエンティストだ。
世界征服を第一目標に掲げる悪の組織「コクローチ」でこつこつ禁断の実験を繰り返してはどぎついクリーチャーなんぞを生みこしらえて……いた。

奴らはいきなりやってきた。
どぎついクリーチャーを上回る醜いゾンビども。

B級ホラーのノリで街はあっという間に壊滅状態、征服するはずだった世界が壊れ出しちゃったんだ……。





「うわぁぁぁんっ!!」

今、俺様、正に大ピンチ!
グロテスクなゾンビらに追い回されて袋小路に追い詰められた!
背後にはバカ高いフェンス、正面には両腕を前に突き出してフラフラやってくるゾンビが三体。
正直に言おう、怖い! おもらししそう! ちょべりば!(超verybad!)

「お、お前だけでも逃げろ!!」

頭に巣食っていた友達のカラスを曇り空に向かって放したら、カラス、ほんとに逃げちゃった。
この薄情カラスめ! 「カアーー」じゃねぇよ! ここはお前が盾になって感動の名場面になるとこじゃないのか! このちょべりばが!

俺様、潔く観念した。
バカ高いフェンスにしがみついて泣きながらよじ登って恥もかなぐり捨てて叫んだ。

「うわぁぁぁん、怖いーーーー!! 誰か助けてーーーー!! 零様っ、伍魅っ、カラス戻ってこぉぉいっっ……レモンパイッ……じゃないッ……あ、赤……っ赤紫っ……助けて赤紫ぃぃぃぃ!!」


「呼んだかい、七狗?」


無駄にヒーロー臭を振り撒いて高いところからクルクル回転してアスファルトに降り立った赤紫。
そんで体勢を切り替えるのと同時にショットガンでゾンビ三体の頭を立て続けにバン×3!
なにその武器、今まで持ってなかったじゃん、正義の味方が持つアイテムにしては露骨にリアルで嫌なんだぞ!

つぅかタイミングよすぎだぞ。
こいつ、まさか俺様が助けを呼ぶのをどこかで隠れて待ってたんじゃあ……。

「僕を呼ぶ前にゾンビに襲われるんじゃないかと気が気じゃなかったよ、七狗?」
「やっぱり! ばかばかばかばかっ! 人でなし!」

フェンスにしがみついたまま罵倒してやれば赤紫は無駄に爽やかなスマイルを決めて両手を差し伸べてきた。

「迷子のカラスみたいにそんなところにしがみついていないで。降りておいで、七狗?」

でもまー、ほっとした。
こいつといれば地獄でも生き延びられそう。


***


愛しの小ガラス、七狗、君が隣にいてくれるのなら。
世界がゾンビだらけになろうと僕は何も怖くない。

「ひっぃっぃっぃっんっ!!」

ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!

「あ……っあほあほあほあほっ! こんなとこで発情すんな~~! ゾンビがいつ来るかっ!」

薄汚れた大き目の白衣で萌え袖状態の七狗はとっても軽い。
抱き上げて、背中からフェンスに押しつけて、薄暗い曇天ながらも白昼から外で愛を確かめ合う。

通行人で溢れる平和な世界の街角では不可能だった悦びの交歓。
ゾンビがはびこる混沌世界も案外悪くないかもしれないね、七狗?

「きゃーーーーーー!」
「うえっ!? ちょ、あっちで悲鳴っ、誰かゾンビに襲われてんぞっ!?」
「今はそれどころじゃないよ、七狗」
「お前ほんとに正義のヒーロー戦隊のリーダーかっ!? んぶぶっ!!」

不安で心細くて堪らないのだろう、喋り続ける七狗を安心させようと僕はおしゃべりな唇に唇で栓をした。

「ん・ん・ん・ん~~っっ!!」

熱ではち切れそうなペニスで七狗のナカを残さず愛し尽くしてやる。
頼りない腰を抱え直し、着衣のまま及んだ愛の交歓をさらに深めてゆく。

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!!

「んぶーーーーーッ!!」
「七狗……もしも僕がゾンビに襲われたら、そのときは……」
「ッ……赤紫ぃ……」

全力でしがみついてくる七狗に僕は愛を誓った。

「すぐに噛みついて君も同じゾンビにしてあげる」
「勝手に一人でくたばりやがれーーーーーーーッ!!」

七狗、本当、君ってコは……おちゃめな強がりさん(笑)


***


「きゃーーーーーー!」

伍魅の悲鳴が曇天を貫いた。
俺の全身を蝕むは……忌むべきゾンビウィルス。
咬みつかれた腕の傷口から感染し、やがて、俺は……世にも哀れな彷徨う屍となる。
まさかこんな終わりを迎えることになんて。

「いやァァァァ! 青様ァァァァ!」
「群青」

でも後悔はしていない。
アスファルトに倒れ伏した俺はそばに立つ彼を目だけで見上げた。
血生臭い風に靡くプラチナの髪。
悲鳴がやまない終わりかけの世界にひどく映える黒い軍服と赤い腕章。
誰もが立ち竦む混沌なる地上を毅然と踏みしめる革ブーツの高いヒール。

つい先刻、零の背後にゆらりと迫ったゾンビ。
何も考えずに俺は別のゾンビと交戦していた彼を突き飛ばした。
代わりに俺が腕を噛まれた。
俺の腕に噛みついたゾンビを引き剥がすなりその頭を回し蹴りで粉砕した零。
ソイツが襲撃してきた群れ最後の一体だった。
釘バットを持った伍魅と「コクローチ」の所属兵によって他のゾンビはあらかた片づけられていて。
敵なが、らも、大し、た奴等だ……ああ、駄目だ、思考が鈍って、い、く。

俺が俺じゃなくなっていく。
その前に。

「零……俺を殺せ」
「いやァーーーーーー!」
「誰か伍魅の口を塞ぎなさい、ゾンビが来ちゃうわ」

自身のゾンビ化を防いだ俺に礼を言うでもなく普段通りの眼差しで見下ろしてくる隻眼の零。
綺麗だ。
最後の光景に相応しい。

「ゾンビになるのは御免だ……お前の手にかかって死にたい」
「なにそれ」

愛の告白みたい、と彼は微笑交じりに囁いた。

告白、か。
ちゃんと伝えるべきか?

……いや、やめておこう。
……死ぬ寸前に愛の告白なんて生者にとって枷に他ならない。

「群青、貴方の願い、叶えてあげる」

もうじき恐ろしいものに生まれ変わろうとしている肉体。
変異の苦痛に思わず目を閉じた俺に零の囁きが届いた、次の瞬間。

ブスッッッ

俺は目を見開かせた。
祈りを捧げるようにその場に跪いた零の手には注射器が。
そして俺の意識はそこで途切れた……。



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