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なんで、なんでだよ、どうして。
俺の目の前で俺以外の奴とキスなんかするんだよ。
「……志摩センセェのバカヤロー……」
好きなのに。
「岬」
数人の通行人にぶつかり、今は詫びる気力も配慮も削がれ、ひたすら歩道を突き進んでいた岬は彼の呼号を無視した。
「止まれ」
ガードレール沿いの植え込みそばで後ろから腕を掴まれると、苛立ちが加速し、背後も確認せずに力任せに振り払おうとした。
しかし相手も手加減なしの力を込めていた。
容易に振り払えず、やっと足を止めた岬は板についた仏頂面で振り返る。
「離せよ」
「通行人に噛みつきかねない勢いで突っ走っていたから捕獲しただけだ」
自分を追ってきた志摩の言葉に見事に神経を逆撫でされ、岬は、いつにもましてヤンキー然とした眼光で教師を睨み据えた。
「野良犬扱いすんな」
「そうか? 時々犬みたいな反応するけどな、お前」
教師も教師である、いつになく挑発的な物言いに剣呑な眼差しで、すこぶる機嫌の悪い生徒を煽ってきた。
「このまま野放しにしたら保健所の職員を呼ばれかねない」
「ッ……だから腕離せよ! ウチ帰るっつってんだろ!?」
「だから。周りが見えていない、闇雲に走り回る生徒を野放しにはできない。行くぞ」
過剰なくらい強い力で腕を引っ張られる。
岬は眉間の縦皺をさらに一つ増やした。
「首輪とリードと無駄吠え防止の口枷があればよかった」
「は?」
「来い」
自宅である雑居ビルの方向へ向かう志摩の後頭部目掛け、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせようとし、何もかもが空しくなって岬は口を閉じた。
……もうほっといてくれよ……。
センセェといると情けない自分が浮き彫りになる。
結局、こんな風にアンタの言いなりになる俺の弱点を見せつけられて嫌になる。
今は教師と生徒。
でも二年後にはそうじゃなくなる。
セフレとも言えない、なんて名づけたらいいのかわからないこの関係に、いつまでもお気楽に依存できるわけじゃねぇ……。
やり場のない不安に胸を蝕まれ、気分はどんより低下気味、口数が極端に減っていた岬は気がつけば雑居ビルに辿り着いていた。
「ッ……おい、志摩センセェ?」
ぎょっとした。
細い階段を上って最上階へ、玄関で靴を脱ぐ暇も与えられずに部屋の中へ引っ張り込まれて困惑した。
その上、連れて行かれた先は浴室で。
突拍子もない招かれ方に唖然としていたところへ、全開のシャワーを頭からぶっかけられた。
「は……?」
岬は直立不動に陥った。
ジャケットは素早く脱ぎ、セーターを腕捲りし、スニーカーを履いたままシャワーホースを握って真正面に立つ志摩を凝視した。
「頭、冷やしてやろうかと思って」
逆効果とは正にこのことか。
どんより気分だったはずのヤンキー淫魔は激昂した。
いけ好かないにも程がある教師に全力で掴みかかろうとした。
「ぎゃっ」
が、全開シャワーが顔面を直撃して思わず怯めば、当の教師は吹き出した。
「本当に犬みたいだな」
「ッ……テメェなぁッ、虐待だッ、名誉毀損だッ、侮辱罪だッ!!」
「反抗期わんちゃん、難しい言葉よく知ってるな」
「わんちゃん言うな!!」
主に上半身ずぶ濡れになった岬は志摩の胸倉を鷲掴みにした。
「こンのクソどS教師!! ブレザーもネクタイもビチョビチョじゃねぇか!! クリーニング代払え!!」
「乾かせばいいだろ」
「皺ンなるし湿気くさくなんだろーが!! ほんっと……テメェ、何考えてんだよ!?」
鬼の形相になって目の前でぎゃーすか喚き散らす岬を志摩は真っ直ぐに見つめた。
風呂床に転がったシャワーヘッドから無駄遣いされる水。
革靴とスニーカーが瞬く間に濡れていく。
「淫魔だからって倫理観ゼロの無秩序なセックスジャンキーにでもなるつもりか」
上下とも睫毛の濡れ渡った吊り目が忙しなく瞬きした。
「……夜の街、闊歩してたセンセェに言われたかねぇ」
「慰めてくれるなら誰彼構わず射精するビッチちゃんか、お前」
岬は水滴の飛んだ眼鏡を今すぐにでもぶっ壊したい衝動に駆られた。
代わりに、薄暗い浴室、レンズ奥で淡く光る双眸を食い入るように見つめ返した。
「あのなぁ、淫魔だからって誰彼構わず濡れるワケじゃねぇよ、誰がそんな見境なく盛るか!!」
「阿久刀川のところにお強請りにいっておいて、そんなこと言える立場か、お前」
「おねだり!? だからッ……俺はッ……」
その先を言えずに真一文字に口を結んだ岬に、志摩は、これみよがしに吐き捨てる。
「俺の目の前で御立派な友達と御大層なキスしておいてよく言う」
……やっぱり。
……寸止めだったの、志摩センセェには見えなかったのか。
「……」
冷えた浴室で志摩の影に呑まれて、今度は、岬は瞬きを忘れた。
初めてのキス。
世界が止まったような気がした。
排水溝に吸い込まれていく水の流れがやっと止まった。
「歩道橋で言ってたな」
浴室の壁に背中を預けて放心していた岬は、古くさいシャワーの蛇口を捻って締めた志摩を見上げた。
「同種のよしみで、単なる同情で慰められてるだけだって」
……今、センセェ、俺にキスしたよな?
……気のせいじゃねぇよな?
「そこまで純粋に面倒見のいい淫魔じゃないよ、俺は」
眼鏡を外し、ポケットから取り出したハンカチでレンズの水滴を拭った志摩に、岬はしかめっ面になる。
なんでもないことのように初めてのキスを掻っ攫われた。
動揺しているのは自分だけ。
掻っ攫っていった教師は冷静に眼鏡を拭いたりなんかして、その真意がまるで読めず、不貞腐れたヤンキー淫魔はそっぽを向いて吐き捨てた。
「現に俺は慰められっぱなしだったじゃねぇか」
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「俺もお前に慰められてたよ」
志摩はそう答えると岬の頬を一撫でした。
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