魔王の娘、幻覚の中で嘘を抱く

スッタ

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第一部

1.7

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 広大な玉座の間。

 闇の中心に、魔王が座していた。

 赤黒い角。
 圧倒的な魔力。
 玉座に座る姿は、まるで世界そのもののようだった。

 「来たか……人間の勇者よ」

 低く、重い声。

 リュナは剣を抜く。

 (倒さなきゃ)

 それしか考えられなかった。

 アレンが一歩、前に出る。

 「リュナ、俺が――」

 その瞬間だった。

 魔王の視線が、まっすぐアレンを射抜く。

 「――邪魔だ」

 一瞬。

 黒い影が走り、
 アレンの身体が、宙に浮いた。

 「……っ!?」

 声を上げる間もなかった。

 鋭い衝撃音。
 血の匂い。

 アレンの胸を、魔王の一撃が貫いていた。

 時間が、止まった。

 「……ア、レン……?」

 彼の身体が、床に落ちる。
 赤が、石畳に広がっていく。

 「嘘……だよね……?」

 駆け寄ろうとした足が、動かない。

 魔王が立ち上がる。

 「感情に縋るとは……人間は脆い」

 その言葉が、引き金だった。

 ――何かが、切れた。

 「……殺す」

 声は、震えていなかった。

 リュナの中で、記憶が雪崩のように溢れ出す。
 剣を通じて、過去の勇者たちの戦い方が重なり合う。

 否。

 それだけじゃない。

 知らないはずの景色。
 知らないはずの温もり。

 「……あ、あ……」

 身体が、勝手に動く。

 斬撃。
 回避。
 踏み込み。

 魔王と互角以上に渡り合う自分に、恐怖すら覚える。

 「なぜ……ここまで……!」

 魔王が、苦悶の声を漏らす。

 最後の一撃。

 互いに、渾身の力を込める。

 剣が振り下ろされる瞬間。

 魔王の瞳が、大きく見開かれた。

 「……まさか……」

 その声は、震えていた。

 「……リュナ……?」

 ――知っている名前。

 次の瞬間、魔王の動きが止まる。

 剣は、止まらなかった。

 刃が、魔王の身体を貫く。

 同時に、リュナは魔王に触れた。

 ――流れ込む記憶。

 幼い声。
 泣き叫ぶ我が子を探す日々。
 侵攻。破壊。
 すべては、娘を取り戻すためだった。

 「……あ……ああ……」

 魔王は、微笑んでいた。

 「……やっと……会えた……」

 その身体が、崩れ落ちる。

 玉座の間に、静寂が落ちた。

 リュナは、立ち尽くす。

 足元には、アレンの亡骸。
 そして、魔王(父親)の死。

 「……アレン……」

 声をかけても、返事はない。

 胸の奥が、空っぽだった。

 ――その瞬間。

 リュナの中で、何かが完全に目覚めた。

 角が、はっきりと姿を現す。
 溢れ出す魔力が、城を震わせる。

 「……全部……壊してしまえば……」

 誰も、失わなくて済む。

 そう思ってしまった。

 玉座の間には、
 新しい魔王が立っていた。

 その名を、まだ誰も知らない。
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