おさななゆうしゃ

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ラルゴ

風はどこから

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翌朝。

俺は珍しく熟睡していた。
森の中じゃないからたくさん気を張ることもないし。

トワレも要らんでしょ。

とりあえず昨日の件で俺まで一緒にギルドに呼ばれてるし。
登録してないのにね?
アステルだけでいいんじゃね。


「フィン、起きて。」
「んーー、起きてる起きてる起きてるよ」


ベッドが俺を離してくれず、目もくっついてしまって開けそうにない。

なんか体が重くて俺この世界の地面にこのまま埋まるんじゃないかな。


「ねぇ、フィンってば。」
「起きてるよアステル。俺は起きてる。」

このままでは俺は自力でこの天国のようなベッドの上から出れそうにないのでアステルに手を伸ばす。

「ん。あんがと。」



アステルはすぐ俺の手を引っ張って起こしてくれた。


まだ片目は開かないけど、左目だけは開いたよ。偉いなぁ、俺。


大きなあくびをひとつしていつもの濃い紫のへそ出しのうっすい服に着替えて支給された黒のローブを羽織る。

寒いんだもん。なんでこんなに服薄いねん。
支給された服だけどなんなんこれ?
防御力ほぼゼロよ?俺のなけなしの筋肉が防具ですか?
靴もペタンコのサンダルみたいで昨日靴脱げるかと思ったわ。
ズボンは半ズボンみたいだけど横に広がっててまであってふくらはぎ部分で萎んでる。
風の抵抗受けすぎじゃね?


顔を洗って、髪は簡単に結んで玉ねぎが連なってるかのような髪型にする。

昨日戦ってて思ったんだよね。髪がなびくのってめっちゃ邪魔でうっとおしい。


アステルが待ってるので手短に準備を終わらせる。


ーーー


「いやぁ、昨日は大活躍でしたね、アステル様とそのお連れ様。」

ギルド長とやらと今会話をしている。
なんで?俺ここ場違いじゃない?


ギルド入ったらあれよあれよとここにいたんだが。


「今回の件についてなのですが、…」


話は進んでいくし。
俺は置いてけぼりなんですけど。


「なぜこの町にあんなに魔物が突然現れたのか分からないんです。」


置いてけぼりだからと窓の外を眺めていたら、ギルド長…あれ?町長だっけ?が不思議なことを話し始めた。

「近隣の町も村も襲われたなんて報告はなく、昨日突然、あの大群が町の門の外に現れたんです。」


ふむ?
この流れは良くないぞ?

「勇敢でお強いおふたりに、ぜひ調査していただけないかなと思いまして…」

んん?
この流れはまずいぞ?


「はい、できる限り頑張らせてください。」

アステルくん?
君ってやつはほんとに。


なんで二つ返事なのかな?
もっとこう渋ったりしようよ。

俺まだ了承してないよ?
俺が意見することは許されない感じ?まじで?


「本当ですか、勇者様。ありがとうございます!お連れ様もありがとうございます!!」


俺何も言ってないよ!?
退屈だなとか思ってごめんなさいね!?
人が話してる時に退屈だからと窓の外眺めてちゃダメだよね!?ごめんなさいね!ほんとに!!謝るから!だから勘弁して~!!


「フィ…」

俺の名前を呼ぼうとしたアステルを止める。


「受けますよ!依頼受ければいいんだろ!こうなったらとっととぞ行くぞアステル。…あ、俺はアステルの連れのノクターンと言います。よろしくどうぞ。では!」


ドタバタと部屋を後にする。


報酬の話とかする忘れたァァーーー!!
まぁいいかどうにかなるだろ。

そそくさとアステルを連れてギルドを出る。


そして一旦宿へ。

「アステル、話がある。」

自分の使っているベッドへ腰掛けるとアステルも向かいのベッドに腰掛けた。

夜幕ナイトカーテンをかけて部屋の声が外にもれないようにする。


「俺の名前は呼ぶな。2人の時はいいけどほかの時はノクターンって名前で通す。」

「それはわかった、けど理由は?」


アステルのいい所はちゃんと話を聞けるところだな。うんうん。ただ二つ返事で面倒事を持ってくる癖があるのが難点。

「これは今後起こり得る可能性があるってだけで、必ず起こるとは断言できない。」


ただ俺たちは田舎者だから警戒するに越したことはない。


「魔法使いには正直悪いやつもいる。もちろん魔法使いに限らずの話なんだけど。
ただ魔法使いは一般人とは明らかな違いがある。」

「魔法が使えるかどうか、ってこと?」

「まぁもちろんそれはそう。魔法はセンス。努力でどうにかって話ではない。そりゃ努力は必要だけど魔法使いになれる、命名されるのはセンス+努力で人よりも時間をかけて研鑽して一歩前に運良く進めた人間なんだよ。」

「うん。」


「だから魔法を学ぶ人は魔法に取り憑かれた変人が多い。昔の俺も本の虫だったろ?だから何するかわかったもんじゃない。それももちろん危ないんだけど。」

「うん。」


「努力をしてセンスもあるのに、魔法使いになれない人たちがいる。その人達の中には俺のような魔法使いを恨んでる人がいる。その人たちに名前を知られたら何が起きるかわからん。
正直俺にも全く何が起きるのか、何かあるのか全くわからん。俺は運が良かった人間だからな。」

そう、俺は運が良かった。

みんなより肌の色が濃い俺を拾って、同じように育てて、魔法使いになることに反対することもなく、偶然センスもあって努力もする時間もあって、たまたま運良く一歩前に足を進められた人間。


「俺の…魔法使いの世界は努力だけじゃどうにもならない世界なんだ。魔法が好きだけじゃ、乗り越えられない明らかな隔たりがある。
それに関しては一般人よりも遥かに過酷で明確な壁なんだ。」


魔法は県議とは違って決まった形も型もない。
手探りで自分の才能を探すしかない。

偶然の連続でしかなれない。


「わかったよ、フィン。2人の時以外はノクターンって呼ぶ。」

「ありがとう、アステル。それも外では勇者様って呼ぶ。」


ありがとうの意味を込めて向かいのベッドに腰掛けているアステルに手を伸ばす。

アステル果てを重ね立ち上がり、アステルを立たせて軽く握手する。

すぐに手を離しナイトカーテンを解除してドアの方へ向かう。


「行こう、アステル。」
「うん。」



杖を持って、さっき自分の言った言葉について少し考える。


俺ももし、魔法使いになれなかったらどうだったんだろう、と。

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