練習台のドブネズミ

なすみそ

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10 sideアーヴェント

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「…ミオ?」

魔界にミオを連れて来て2年近くが経つ。

今日もミオを横抱きにして、ゆらゆらしながら他愛もない話をしていると、ミオはいつの間にか腕の中ですぅすぅと静かに寝息を立て始めた。アーヴェントは優しくベッドにおろす。

最近ミオはアーヴェントの腕の中でも安心して眠るようになった。

名前を奪われてもミオと呼ばれる方が落ち着くようで、あの男がつけた名前だと思うと腹が立つが、そう呼ぶことにしている。

「可愛い」

アーヴェントは初めてミオに会った日を思い出す。

あれは気まぐれに人間界を散歩していた時だった。田舎の小国から何とも美味しそうな香りがしたのだ。

近づいてみると、召喚式に絡めとられ、まんまと餌に釣られて召喚されてしまったのだと気づく。

「これは、これは!高貴なるお方~!」

召喚士は王妃ロミリア。あまり精巧な召喚式ではなかったのは本人も自覚があったようで、アーヴェントのように上位魔族が釣れて驚いているようだった。

召喚式はともかく贄の人間の香りは極上だった。

たまたま近くを散歩していたから気づけたようなもので、魔界から中途半端な悪魔を呼び出され、贄を食い散らかされる所だったと思うとぞっとする。

「願いは、簡潔に。早くその髪の持ち主に合わせてもらおうか」

暗く古い石づくりの空間にあるボロボロのソファでもアーヴェントが腰掛ければ、そこはもう魔王城のように気品がある空間に変わる。

ロミリアは跪き、拝む様にアーヴェントに言う。

「妾は、長い間ずっとこの国の国王と第二王妃に苦しめられてきたのじゃ」

よくある私怨か、歯向かう者の命を奪い国を支配する。それくらい朝飯前だ。

「妾を魔界に連れて行っておくれ!イケメン魔族からチヤホヤされたいのじゃ!」

「え?!」

ロミリアの願いは魔界で男遊びをしたいという事だった。

「復讐はいいのか?」

「それは、妾がせずとも」

 ― 結果的に貴方様がなさいますわ。

ロミリアが微笑んだ理由はアーヴェントにはわからない。

「ところで、高貴なる御方。貴方様は贄をどうなるおつもりで?魂を喰らうのですか?」

「私は魂は不要だ。力は大気から取り込めるからな。もちろん精気は食べるが、まぁ精気は何というか嗜好品だ。実は魔族全体が少子化に悩んでおってな、我がラッテンフェルガー家も例外ではない」

「つまり、贄は兼繁殖用の性奴隷という事ですか?」

ロミリアは口に手を当て、顔を赤くする。

「奴隷では無く、伴侶だ。魔力でわかるのだ」

「まぁまぁまぁ!では、ピッタリですわ!贄はとても可愛くて魂の清らかな子で人気があって…

あだ名はドブネズミですのっ」

ロミリアは目をキラキラさせて恥じらうように顔を振った。

「ドブネズミか…ネズミは古代より人間達を苦しめ出来た小さな悪魔。それに繁殖力がありそうだな。我が伴侶に相応しい」

アーヴェントの真面目な呟きにロミリアはにやにや笑ってしまう。

「贄はお前の男遊びの犠牲になるのに、どうしてそんなにはしゃいでいるのだ?」

ロミリアにあきれるアーヴェントだが、贄の姿を目に留めた瞬間に全て吹き飛んだ。

それは艶のあるシルバーグレーの髪に少し吊り目の黄金の瞳をもつ美少年だった。

少年から青年にかわりつつある身体はスラっとしていて、今にも食べて下さいとばかりに色香を振りまいている。

アーヴェントはジュルリ…と唾を飲み込んだ。

「名前はミオちゃんじゃ、可愛いじゃろ?」

可愛い。一目で気に入ってしまった。

しかしその少年は簡単に手が入らない事がわかる。
自然とその横にいる大柄な男に目がいく。金髪碧眼に派手な美貌。男からは〈勇者〉の血を感じた。

「あの男は第三王子エドワルド。ミオちゃんの保護者みたいな者じゃ、ミオちゃんはエドワルドに拾われた大恩を感じていて、あの2人を引き離すのは難しいかもしれぬ」

うーむ、とロミリアは指を顎に当てて考える。

「聖剣や女神の祝福も無い人間を殺すのは容易いが…」

あの男を殺せばミオの心は手に入らないだろう。
人の思考に疎いアーヴェントだが、それくらいはわかる。
全てを操る事も可能だが、そうすると味が落ちる。

極上の人間だ。鮮度のいいまま精気を堪能したい。

「まぁまぁ、妾にお任せあれ!アドバイス料として若返りと不老の魔術もお願い出来るかのぉ?」

ロミリアは上目遣いで言った。アーヴェントはロミリアの抜け目のなさに呆れた。

「それはお前の働き次第だな」

「ふふふっ。では次は妾の息子を紹介しますわ。しっかり者で何かあったら息子に言ってくだされ」


***

アーヴェントはミオの横にするりと身を滑らせると、ミオの額を撫でる。

出産を終えた後、身体がおかしくならないか心配だったが、ミオの中の魔力が高く、あっさり順応した。

ミオは他国であれば〈魔術師〉となれるほどの魔力と器を持っていた。
だからアーヴェントの術に抵抗できたし、無理矢理身体を変えられても大丈夫だったのだ。
勇者に拾われた事も彼らは輪廻のどこかで共に戦ったのかもしれないと思わせる。
その姿を想像して…アーヴェントは自分で考えて、ムッとしてしまった。

あるいは〈聖女〉かもな。

あれだけ酷い事をしたのに仕方ないなという感じで、自分の元に残ってくれた。最近は気丈にも叱ってくる事さえある。
天人族もビックリの懐の深さだろう。

それにミオのあたたかい身体を抱きしめると、とても癒されるのだ。

その体温を感じ、サラサラの髪を堪能すると、ミオが「ん、うん…」と身じろいだ。その声がどこか色っぽくて思わず唇に口づけると、パリッと軽い電流に阻まれる。

お腹には2番目の子の命が宿っている。その子が母親を守ろうと結界を張りはじめたのだ。

(こいつは私に似るかもしれない)

最初の子はこちらに連れてきたテンションのまま、無理矢理生ませてしまったが、生まれてきた子は可愛かったのだろう。

赤子はミオに似ていたので、アーヴェントも赤子を可愛がった。

最初は男でありながら妊娠と出産を経験し混乱していたミオだったが、アーヴェントが子供を可愛がる姿を見て警戒心を徐々に解いてくれて…

聖母のように赤子をあやすミオを見て、興奮して襲いかかってしまい…

また家族が増えた。

その時は呆れた様に冷たい視線を向けられたが、(なんとロミリアからも!)悪阻も収まり胎動を感じるとミオはまた穏やかな表情をみせる。

人間同士では子供を設ける事は出来なかったわけだし、ミオに家族を与えて孤独感を癒せるのは自分だけだと思う。

いや、悠久の孤独にあたたかい陽だまりのような安らぎを与えてもらったのは自分の方か、と安らかに眠る伴侶を見てアーヴェントは考えなおす。

今度は電流など気にせず、深く深く口づける。

彼の永遠の伴侶はそれに応える様にそっとアーヴェントの背に手をまわした。




fin


***


最後までご覧いただきありがとうございました!




**設定と後日譚**

※魔族の出産は小さく産んで大きく育てます!ファンタジーです!


・アーヴェント

アーヴェントロート ドイツ語で夕焼け
ラッテンフェンガー ドイツ語で笛吹き男

ネズミと大切な子供達を連れ去ってしまう事からハーメルンの笛吹き男とかけてみました。

アーヴェントはその後魔界のビッグダディとなり、魔王となります。

・ミオ

魔王の王妃となり、たくさんの家族に囲まれて賑やかな日々を送ります。
アーヴェントに似た子は大きくなっても体液を吸いたがるので困っています。

2人の子供

・ツヴァイ ドイツ語で2

ツヴァイは1番最初の子です。1番上は大きくて手のかかる子がいるのでミオがツヴァイと名づけました。お母さんは大変です。

・エルフ ドイツ語で11

ミオに最も似ていてアーヴェントが溺愛しています。
兄の悪戯で人間界で迷子になり、エドワルドが保護してアーヴェントとバトルになる話を書きましたが、ドタバタ感がすごくてやめました。

・レオンハルト

2人の子のうち何人かに執着されますが、筋肉隆々の男が好みなので、迷惑そうです。相変わらずの苦労人。

・ロミリア

すべての元凶。
宝珠の映像を見てからBLに目覚めてしまい、イケメン魔族同士を無理やり性交させるので、若い魔族の男達から変態女王と恐れられます。

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