最後の恋人。

かのん

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睡眠薬

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「お帰り、葵。」



「…来るなら連絡しろって言ったよな?」



「だって弁当が冷めそうでさ。しかしこの部屋いつ来てもすごいなー金大丈夫なわけ?」



「まだ残ってる。」



「まだ残ってるって言ってもこんな家に住んでたら無くなるぞ。」



「いいんだよ、無くなって………女から巻き上げたお金なんだから。形が残らないもので早く使い切りたいんだ。」



「ふーん………だけどこんな部屋に連れて込まれてあの女も目がハートになったんじゃねぇの?」



「そんなことないよ………」



お金でココロが開くような人じゃない。



「葵…?」



「いや、ここはさ、生き別れた父親が貸してくれた部屋って言ったから同情してたよ。俺は妾の子だって言ったし。」



「ハハッ……いや、葵の話は本当リアリティあって俺まで騙されるわ。」



「………半分本当で半分嘘だからな。」



「はい、これ………」



「何?」



「睡眠薬のこと。お前にとっていい情報か悪い情報かわかんないけど。」



龍に渡された資料には当時ミサキが自殺した時の詳細が書かれていたーー



「これ………本当なのか?」



「………いつも犬の散歩をしている人が見かけたらしい。」



「だけどこれが本当だったら、美咲さんは………」



資料には美咲が救急車に電話したこと



美咲が手を突っ込んで吐くように言っていたことが綴られていた。



「助けようとしたんじゃ………」



「………それでも!ミサキが自殺しようとしたことに変わりはない。それに最後は結局自殺したんだ……許せねぇよ。」



龍は握っていた割り箸がバキッと音を立てて折れてしまう。



龍のその態度を見ると月日がどれだけ流れても怒りは収まらない、そう語っているようだーー



「……そういえば睡眠薬はどうやって手に入れたんだ?」



「それは……ネットとか今は簡単に手に入るし、あ、病院に行ったとか?」



「病院の行く時は施設の先生の付き添いが必要だったはずだよ。」



「言わなかっただけじゃない?」



保険証を先生たちが持っていたし、保険使わないと結構な金額がしたはずなのにーー



「そういえばさ、関係ないかもしれないけどさ……」



「何?」



「確かミサキって母親らしき人と一緒にいるのを見たことがあるって聞いたなぁ~」



「母親……?」



「ミサキに聞いたら母親じゃないって言ってたらしいけど。」



「母親……ミサキが自殺したとき、母親は?」



「あれ?そういえばどうだったっけ?葬儀のとき来てなかったよな?」



「ミサキの母親について調べよう。母親も何か知ってるかもしれない。」



ミサキを虐待した母親



俺の母親と同じで最低だ



だけど皮肉なことに虐待をしてたから



ミサキに会えたんだーー







ミサキは想像していたのだろうか?




俺がミサキの母親に会うなんて




きっと想像してなかったと思う……




想像したいたらミサキはきっと自殺なんてしなかったはずだ。




「お前は睡眠薬止めたの?」



「なんとなく……」



本当はまだ眠れないけど



でも美咲さんにあんな風に怒られるなんて思いもしなくて



ほんの少しミサキと重ねてしまった自分が憎くて



睡眠薬に手を伸ばしては引っ込む毎日だ



「じゃあ俺帰るわ。」



「泊まっていかないの?」




「何々、寂しいの~?」



「別に……」



「施設にいた頃はさ……早く1人の部屋欲しかったよな。」



「そうだったな。1人の部屋がほしくて……広い部屋に住みたくて…」



「でもミサキは嫌がってたよな。私は狭い部屋がいいって……」



「狭いほうが寂しくないって言ってたな。」



その気持ちが今は分かる気がする。



広い部屋に1人でいると思い出したくないことまで思い出す。



虐待されたこと、ミサキのこと。。。
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