クロスな関係。

かのん

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近いのに、遠い……④

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私はあの人にまた会えるのだろうか…?
手に持っているハンカチの匂いをかいで気持ちを落ち着かせる。
お父さんとお母さんと、お姉ちゃんと…そしてその婚約者の礼人さんが待っている家に帰らないといけない。




逃げても逃げても逃げられない。
だって、家族だからーー



『男は世の中にたくさんいるよ』
この言葉を何度もリピートさせて家に着くまで言い聞かせていた。




変わった人だったかもしれないけど
この時の私を落ちつかせてくれたのは
あの男が言ったありきたりな言葉と
ハンカチから香る金木犀の香りだった。




「未亜!どこ行ってたの?心配したじゃない!電話にも出ないで!礼人が見つけてもどこかに知らない男といったって言うから…何かされてない!?大丈夫!?」



「お姉ちゃん…大丈夫だよ。悪い人じゃないよ。知り合い……だし。」



「でも礼人がホストの人とって…本当に知り合いなの?」



「…みんな心配していたんだぞ。」



体に突き刺さるぐらい冷たい目で礼人さんは見つめてくる。
呆れているのかな……



「未亜、お姉ちゃんも礼人君もお前のこと心配して探していたんだから、何か言うことがあるんじゃないか。それにお前がいなくなってから食事会どころじゃなくなったんだぞ。」



お父さんが言っていることは正しい。
自分の行動でみんなを心配させたことは事実だ。





「お父さん、お母さん、お姉ちゃん……そして……っ…先生、ごめんなさい……」







私が“礼人さん”と呼べたのはたったの一日だけ。



“先生”から解放されたのはたったの一日だけ…お姉ちゃんはこれからたくさん礼人さんの名前を呼べるんだ。




私には、これからはもう“お義兄さん”としか呼べない日々が続くのだろうか。








「顔色が悪いようだけど…気分悪いんじゃないか?」



「そんなこと……っ」



「大丈夫か!?」



「未亜!?」



目の前の世界がグラっと揺らいで足元がふらつく。
礼人さんが支えてくれる肩と頭が熱い…。



「熱があるみたい。お母さん何か冷やすもの持ってきて。」



「わかった。あ…薬とか何もないわ。」



「じゃあ私買ってくる。お父さん車出して。」



「あぁ、わかった。」



「礼人は今日は帰って…礼人?」



「部屋は2階?」




「うん…ドアの前にネームプレートがあるよ…」



お姉ちゃんの何か言いたげな顔が見えたけど
頭がボーっとしていて言葉が話せれない。
体がフワフワと動いて、耳元で心地よい鼓動が聞こえる。
この鼓動……礼人さんの鼓動だ。







ねぇ、礼人さん
私たち、もう学校を卒業して
先生と生徒の関係じゃなくなって自由になったはずだったよね?
だけど……お義兄さんになってしまったら
今まで以上に近い関係だけど、すごく遠くに礼人さんを感じる…。



ココロもカラダも本当はそばにいてほしい……。






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