したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、胸当てで交渉する。

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 大声で魂の限り叫んだ。

「──は?」

 ギィは呆気にとられ、魔法使いは真っ青になる。

「……じょ、冗談だよね?」
「オレは本気だっ。オレも人間になって、雄同士の交尾がしたいっ」
「えぇ~、いや、ちょっと待って。別に人間にならなくても」
「嘘だっ。人間にならないと、これは出来ないっ」

 オレは魔法使いが隠そうとしていたエロ本を隙をついて再び奪い、父上らしい人間が『イッちゃった』頁を指さす。

「オレもイッちゃいたいっ。魔法使いみたいな雄のペニスを尻穴に入れて、行けるところへ行ってみたいっ」
「──なんか、冒険者みたいな事言い出しましたけど、どうするんですかコレ」

 握りこぶしを天にかざし力説したオレを指さして、ギィが魔法使いを問い詰める。主人に向かってコレとは失礼きまわりない。

「どうするって言われても……だ、駄目。無理だよ。シレーヌ君を人間なんかにしたら、トリトンちゃんに殺されるっ」
「え~」

 魔法使いは顔を真っ青にしながら、ぶんぶんと首を横に振る。

「じゃあ、この真珠の耳飾りをやるからどうだ? この大きさの真珠は滅多にないぞ」

 オレは少し尖った自分の耳を飾っている真珠を指差して詰め寄ったが、魔法使いは頑なに首を縦に振らない。

「いくら大きな真珠を持ってこられても、駄目ったら駄目。この事は忘れてっ。ほら、欲しがってたパンケーキの本をあげよう」

 パンケーキの本とはオレが繰り返し読んで、一番気に入っている本だ。
 人間が捨てられていた犬を拾い、パンケーキを仲良く作って食べるというだけの本だが、その一緒にパンケーキを食べる姿がとても幸せそうで、こちらまで幸福な気持ちになるのだ。
 だからその提案にはちょっとグラついたが、そんな事でオレの『イッちゃう』への探求は失われない。
 魔法使いめ、完全に父上に怯えている。
 かくなる上は──。

「じゃあ、この貝殻の胸当てでどうだ。凄く稀少な貝で出来ているらしい」
「い、いらないよ……。いくら君が可愛くても、そんなもんで」
「父上も使ってた由緒正しき品だぞ」
「トリトンちゃんがっ⁉︎」

 ガバッと凄い勢いで近くに寄ってきて、オレの胸当てをまじまじと見てくる。ちょっと、鼻息がくすぐったい。

「お障りはご遠慮ください」

 ギィが後ろから、グィっと蛸の触手を引っ張った。
 オレは胸当てをとり、魔法使いに手渡す。魔法使いは震える手で受け取り、クンクンと匂いを嗅いだ。
 人魚は人間の何倍も嗅覚があるが、魔法使いは元人間なのでそこまで嗅覚は発達してないはずなんだけどな。
 ギィとオレが無言で暫く見守っていると、魔法使いがゴホンと咳払いして、重々しく言った。

「……仕方ないな。トリトンちゃんには絶対内緒ね」
「降参するの、はやっ」
「わぁい。魔法使い、だいすきっ」

 魔法使いは全く調子がいいんだから、とブツブツ言いつつ船の中にズルリと入っていくと、暫くして小瓶を片手に持って帰ってきた。

「これが人間になる薬だよ。勿論効果は一時的。一口飲むごとに一日人間になれる薬だ」
「父上は何口飲んだんだ?」
「トリトンちゃんの薬は僕が作ったわけじゃないんだ。多分自分で作ったんだろうね。トリトンちゃんは魔法薬学も得意だから。僕はトリトンちゃんが人間になった初日に海岸で会ったけど、それから三日ほど人間になってたと思うよ」

 まるでオレは得意じゃないみたいな言い方なのが気になるが、この際どうでもいい。
 小瓶を受け取り、そっと中を覗く。瓶の中に入っている液体は心なしか紫色に光り輝いて見えた。

「必ず、地上に出てから飲むんだよ。飲んだらすぐ尾びれがなくなり二本足になって、エラ呼吸から肺呼吸に切り替わるから。海の中で飲んだら直ぐに溺れて死んでしまう」
「分かった」
「これは、俺が飲んでも人間になれるんですか?」

 横からギィが聞いてきた。

「なれるよ」
「じゃあ、良かった。では早速地上にでましょう」
「え……ギィも行くの?」

 びっくりしてギィの顔を見ると、当然と言った様子で体をくねらせる。

「当たり前です。俺はアンタの護衛ですよ。というか、人間の雄になったら俺がアンタに突っ込んでサクッと終わらせてあげますよ」
「え~!」

 予想外の展開に混乱して頭を抱えると、魔法使いが助け船をだしてくれた。

「まあまあ、ギィくん。悪いけど人間の雄同士で相手を気持ちよくするのは、なかなか難しい。人間になりたての君じゃ、無理だと思うよ」
「そんなの、やって見なきゃ分からないじゃ無いですか」

 ムッとした様子で威嚇体勢に入ったギィを気にした様子もなく、「それに……」と魔法使いはなおも続けた。

「悪いけど、君にはもっと大事なお役目がある」
「お役目?」

 オレももギィも首を傾げる。魔法使いはもったいぶった仕草で人差し指をギィに突きつけた。

「そう!それは、シレーヌ君の身代わりだっ」

 
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