したがり人魚王子は、王様の犬になりたいっ!

二月こまじ

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人魚王子、囚われの身になる。

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 なんだか、ずっと身体が揺れているようで気持ち悪い。少しでも楽になりたくて深く息をすうと、変な臭いがしてむせそうになった。嗅いだことのない、鼻がツンとする不快な香り。
 重い瞼を必死に持ち上げて目を凝らす。もう日は昇ったはずなのに、あたりは薄暗い。また夜になってしまったんだろうか。
 でも、それならオレは泡になるか、どうにかなっているはずなのに。
 やっと目が慣れてきてあたりを見回す。見たこともない小部屋には窓のようなものは見当たらず、扉から漏れる僅かな明かりだけを頼りに目を凝らした。あたりには樽と箱があたりにぎっしり置かれ、アルコールや、生き物が腐った匂いに、塩と独特の不快な匂いが混じって部屋に充満していた。
 立ち上がろうとしたところで、自分が縛られていることに気がつく。潮の香りのする縄で、手足を縛られ壁に繋がれている。
 
(ここは何処だろう?)
 
 嫌な予感がしていたところで、木戸が開いた。予感的中だ。
 
「これはこれは、人魚どの。お目覚めですかな」
「……やはりお前か」
 
 アルバカス帝国の使者がニタニタと笑いながら入ってきた。
 
「またオレにワインを注がれたいらしいな」
「オホホッ、おやめください人魚どの。状況は分かっているでしょう。簡単に囚われの身になった間抜けな人魚どのは、私に取り入った方が得策ですよ」
 
 間抜けな人魚……。否定出来ないのが悔しい。どこかに液体があればこんな奴、叩きのめしてやるのに。
 アルコールの香りがするってことは、そこら中にある樽は酒が入っているのかもしれない。視線を巡らせると、使者が嘲りの声をあげる。
 
「残念ですが、酒が入った樽はすべて杭でしっかりと閉じてあります。それにいくら貴方でも、その状態から抜け出せる魔法はお持ちではないようだ。観念しなさい」
 
 無力感に押し潰されそうになりながら、負けじと使者を睨みつけた。
 
「卑怯者め。髪をくれてやると言ったのに」
「そうですねぇ。貴方の髪は凄かった。一本煎じて飲んだだけで、まるで十歳は若返ったように活力が漲りました」

 使者がニヤついた顔を近づけてきた。腐ったような息が顔にかかり、思わず顔を顰める。
 
「そうなれば、やはり髪以外の物ではどうなるのか、試したくなるのが人というもんです」

 じっとりと湿った手で、太腿を撫でられた。嫌悪感で尻がゾゾッとなる。
 
「やめろよっ。気色悪いッ!」
「なんて白い肌なんだ。まるで真珠のようだ……」
 
 抵抗など物ともせず、使者は舌なめずりしながらオレの服を剥がしていく。
 
「無礼者! 触るなッ!」
 
 必死に体を捩るが、縄はどんどん身体を締め付け一方だ。使者は、はぁはぁと荒い息を吐きながら身体を寄せてくる。気持ち悪すぎて、発狂しそうだ。
 
「その目ですよ。この世のものとは思えぬ美しい姿形に、気位い高く私を蔑む目。なんて美しいんだ」
「オレを殺せば、この目が開くこともなくなるぞ」
「殺す? そんな勿体ないことしませんよ」
 
 使者の意外な言葉に驚いていると、上着を左右に大きく開かれ胸元が空気に晒された。使者が、ほう、と息を飲むのが分かる。
 
「これはこれは……素晴らしい。女性よりもしなやかで、男性よりも柔らかな造形。人魚に性別はないんですかな?」
「オレは男だって言っただろうが」
「それにしては素敵な乳房をお持ちだ。どちらにせよ、美しい」
 
 そう言うと、おもむろにオレの乳首を抓ってきた。
 
「……っ!」
「ふっ、とんがって実に愛らしいですな。はぁ、本国に着くまでとてもじゃないが我慢できん」
「ちょっ、嘘っ、やだっ」
 
 使者はのしかかるようにして、オレの乳首を舐めてきた。
 
「やだやだっ! やめろっ」
 
 オルクには、何をどうされも気持ちよかったのに。こいつに同じことをされても気持ち悪いしかない。
 海に居たときは海藻に乳首をイジられても気持ちよかったけど……。もう、オルク以外にここに触れられたくなかった。
 
「抵抗しても無駄ですよ。ほう。やはり男子なようですね。これは、良い」
「やめろっ。触るなよっ」
 
 使者はオレの乳首をベロベロ舐めながら、ペニスがある位置を探ってきた。もちろんそこは昨日と違い、しんと静まりかえっている。
 
「ここなら、髪の毛と違って、白いものが毎日でるでしょう。これを飲むほうが、髪の毛を煎じるよりずっと効果がありそうだ」
 
 ニタニタと醜悪に笑いながら、何の反応もない俺のものを取り出す。
 
「ここも舐めて差し上げましょう。すぐに気持ちよくなりますよ」
 
 手のぬくもりが気持ち悪い。息がかかるのが気持ち悪い。
 泡になるまでの辛抱だと、思いたいが、今すぐにでも死んでしまいたいほど不快だ。
 そもそも、海の中にいないから泡になれないかもしれない。
 普通に死んだとしても、この男はオレの死体をいいように使うだろうし。更に考えたくはないが、このままこの男に嬲られ続けなければいけないなんてことにはならないだろうか。言いようのない恐怖が、全身を凍らせた。
 
「オルク……」
 
 思わず呟いた言葉に、使者は眉を上げて嘲笑った。
 
「王が助けに来てくれるとでも? 残念ながら、それはあり得ません。この船は、もうとうに出航しているんですよ」
 
 まさか、そんな……。じゃあ、ここは。
 
「貴方が逃げ出さないように、今は船の食料庫で窮屈な思いをさせてしまいますが、本国に帰ったら、我が屋敷の一番日当たりのいい部屋にご案内しますので、それまで暫しの辛抱を。貴方に似合いそうな、銀色の檻を用意しなくては」
 
 使者が悦に入りながら、聞きたくもないような話を言って聞かせてくる。
 
 じゃあ、このままオルクに会えないままなのだろうか。
 
 そんなのは絶対、嫌だ。
 オルクにもう会えないなら、せめて、海で泡になって死にたい。
 なんとか、なんとかここから逃げる方法はないだろうか。
 項垂れて思い悩む。そして、ふと視界に入ったものに、ひとつの可能性を思いついた。
 
 
 
 
 
 
 
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