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人魚王子、泡になる。
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まるで濁った海水の中にいるようだった。これが現実とはとても思えない。
だが、見下ろしたオルクの顔は紙みたいに真っ白で、辺り一面どんどん赤く染まっていく。
「さぁ、海に帰りましょう」
ギィの言葉も、オルクの心臓の音も、全てが濁って消えていく。
そんな馬鹿な。このまま、オルクは死ぬのか?
オレのせいで……オレが地上に来たせいで。
「いやだ……」
そんな事は、絶対に許されない。
オレは夢中でギィに体当たりした。油断していたギィの手元から短刀が落ちると、素早く拾い上げる。
「あっ」
──絶対に助けるっ。
ギィが止めるよりも先に、短刀を自分の心臓に突き刺した。
「シレーヌ様ッッッ!」
悲痛なギィの叫びが波の音にかき消される。
とにかく必死で、痛みの感覚は殆ど無かった。ただ、貫いた心臓の悲鳴のように軋んだ音が、鼓膜に届く。
「シレーヌ様ァァァァ! ダメだ、やめてくれぇぇ!」
びっくりするくらい血が噴き出た。人魚の血液も赤いんだ、なんてどうでもいい事を思う。
岩場で傷付いても、怪我なんてする間も無く治っているので自分の血を見た事が無かった。でも、心臓を貫けばただでは済まない。人魚なら誰でも知っていることだった。
そこには、魂が宿っているから。
「オ、ルク」
そう言ったつもりだけど、ヒューヒューと空気が抜ける音が虚しく響いた。
「飲、んで……」
刺した時に噴き出た血はオルクにもかかったから大丈夫だとは思うけど。最後の力を振り絞って何とかオルクに覆い被さるようにして心臓の血液を顔に垂らした。自分の真っ赤な指をオルクの唇に捩じ込む。
人魚の血肉を食べても不老不死にはならない。でも、傷や病気なら治せる。そして魂が宿る心臓の血なら、死人も蘇る。子どもの頃に御伽噺として聞いた話でしかないけど。いまはそれを信じるしかない。
ギィにも手助けさせようと姿を探そうとしたが、うまく見えなかった。夜の帳が落ちたかのように、目の前は暗く何も見えない。
心臓は今や燃えがあがりそうほど熱いのに、身体は深海の岩になったようだった。これが寒いという感覚かもしれない。
「──おれ、の、ち」
最早、口も動かせているのか分からない。
でも、絶対、オルクは死なせない。
ギィがまた何か叫んだ。途端、身体が宙に浮かんだ感覚の後、衝撃が身体に走る。息が出来ない事で、海に落とされたことに気付いた。
きっとオレが泡になれるように、死ぬ前に、海に落としてくれたんだろう。
いつもオレの考える事を分かってくれていたギィ。オレのことを考え過ぎて、オルクを刺してしまったんだろう。でも、きっとオレが自分を刺したことで、オレの想いは通じたはず。オルクの事も必ず助けてくれる。
オルクを助けられて、海の泡になれるなら、もうこれ以上望む事はないと心の底から思った。
──どうか、幸せに……。
そして、オレは、海に漂う泡となった。
だが、見下ろしたオルクの顔は紙みたいに真っ白で、辺り一面どんどん赤く染まっていく。
「さぁ、海に帰りましょう」
ギィの言葉も、オルクの心臓の音も、全てが濁って消えていく。
そんな馬鹿な。このまま、オルクは死ぬのか?
オレのせいで……オレが地上に来たせいで。
「いやだ……」
そんな事は、絶対に許されない。
オレは夢中でギィに体当たりした。油断していたギィの手元から短刀が落ちると、素早く拾い上げる。
「あっ」
──絶対に助けるっ。
ギィが止めるよりも先に、短刀を自分の心臓に突き刺した。
「シレーヌ様ッッッ!」
悲痛なギィの叫びが波の音にかき消される。
とにかく必死で、痛みの感覚は殆ど無かった。ただ、貫いた心臓の悲鳴のように軋んだ音が、鼓膜に届く。
「シレーヌ様ァァァァ! ダメだ、やめてくれぇぇ!」
びっくりするくらい血が噴き出た。人魚の血液も赤いんだ、なんてどうでもいい事を思う。
岩場で傷付いても、怪我なんてする間も無く治っているので自分の血を見た事が無かった。でも、心臓を貫けばただでは済まない。人魚なら誰でも知っていることだった。
そこには、魂が宿っているから。
「オ、ルク」
そう言ったつもりだけど、ヒューヒューと空気が抜ける音が虚しく響いた。
「飲、んで……」
刺した時に噴き出た血はオルクにもかかったから大丈夫だとは思うけど。最後の力を振り絞って何とかオルクに覆い被さるようにして心臓の血液を顔に垂らした。自分の真っ赤な指をオルクの唇に捩じ込む。
人魚の血肉を食べても不老不死にはならない。でも、傷や病気なら治せる。そして魂が宿る心臓の血なら、死人も蘇る。子どもの頃に御伽噺として聞いた話でしかないけど。いまはそれを信じるしかない。
ギィにも手助けさせようと姿を探そうとしたが、うまく見えなかった。夜の帳が落ちたかのように、目の前は暗く何も見えない。
心臓は今や燃えがあがりそうほど熱いのに、身体は深海の岩になったようだった。これが寒いという感覚かもしれない。
「──おれ、の、ち」
最早、口も動かせているのか分からない。
でも、絶対、オルクは死なせない。
ギィがまた何か叫んだ。途端、身体が宙に浮かんだ感覚の後、衝撃が身体に走る。息が出来ない事で、海に落とされたことに気付いた。
きっとオレが泡になれるように、死ぬ前に、海に落としてくれたんだろう。
いつもオレの考える事を分かってくれていたギィ。オレのことを考え過ぎて、オルクを刺してしまったんだろう。でも、きっとオレが自分を刺したことで、オレの想いは通じたはず。オルクの事も必ず助けてくれる。
オルクを助けられて、海の泡になれるなら、もうこれ以上望む事はないと心の底から思った。
──どうか、幸せに……。
そして、オレは、海に漂う泡となった。
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