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人魚王子、口笛を聞く。
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「例えお前と言えど、呪いのかかった短刀で心の臓を刺せばただでは済まないのに。馬鹿者め……」
柔らかな金色の波がオレを包む。この波はどこか懐かしい香りがした。
「いや、私が悪かったのだな。お前のことが可愛すぎで馬鹿な事をした。だが、こうなってはもうどうにも出来ん」
金色の波は泣いているようだった。悲しい気持ちが流れ込んで、弾けて飛んでしまいそうになったところで、金の波が慌ててオレをそっと支える。
「私の力は強すぎて、お前には悪影響だな。これで、お別れだ……」
「生まれ変わらせてはやらないのかい?」
違う声がすぐ側で聞こえた。この声もよく知っている。金の波をそっと撫でているようだった。
「──私のエゴだと分かっている。それでも、もしかしたら……、と思うと」
「でも、君の力で弾けてしまうほど、海の泡は脆く儚いものだ。弾けてしまえば、もう、生まれ変わることも難しいんじゃないかな」
「分かっている。今は僅かに残ったシレーヌ自身の力で形を保っているが、それもいつまで持つか……」
「それでも、奇跡にかけたいんだね」
金の波はじっと黙っていた。
「分かった。じゃあ、僕の庭で預かろう。うちの海藻たちは、シレーヌ君が大好きだし、きっと必死で彼を守る」
「フィヨルド……」
「シレーヌ君は強い子だから、きっと大丈夫。なんせ、僕達の子なんだから」
暖かな波がオレをそっと撫でるように運んだ。今のオレは酷く曖昧で、自分を保つのが難しい。
それでも運ばれた先で、海藻にくるまれると、なんとなく居心地が良かった。ここも、何故か懐かしい。
それから、オレは海藻の中で、長いこと過ごした。
たまに、嵐で波に流されそうになっても、海藻達がオレを包んで守ってくれる。流木がぶつかって来そうなときも、うまくオレから逸れるようにしてくれた。
それでも、危うく弾け飛びそうなときも何回かあった。
すると金色の波と一緒にいた男が、必ず助けに来てくれた。男は「最近トリトンちゃんと会ってるから、シレーヌ君にも影響出ちゃうとやばいよな」とすぐに消えていなくなる。
別にそれが寂しい事はなかった。オレは今の状態に比較的満足していた。
年中弾け飛びそうにはなるが、海の底は安穏として静謐な世界だ。
でも、時折ピーという物哀しい音が海の上から聞こえてくるときだけは違った。
急に自分の周りだけ波打ちだつような心地になる。
そっと、海藻をかき分けて上を覗くと、音と一緒に温かなものが降り注ぐのだ。オレは何故かそれが温かいと知っていた。温かいとは、優しいのと似ている。
なぜ、優しいということを知っているのか。何故、オレはこんなことを考えるのか。
不思議な音を何回か聞いているうちに、自分が少し大きくなっている事に気づいた。
どうやら温かなものが振ってくると、オレは少しづつ大きくなるようだ。
ピーという音は口笛というのだと、たまにやってくる男が教えてくれた。
男はキセキが起こりそうだねぇ、と嬉しそうに言った。キセキとはなんの事か分からなかったが、口笛は気になった。
聞いているとこのままではいけないような、居ても立っても居られない気持ちになる。
口笛のあとに振ってくる温かなものは心地よいが、触れると何もないはずの空っぽな泡の中が焦げ付くような、どうしようもない心地になった。なにか、大事なことを忘れている気がする。
そして、次はいつ口笛が聞こえるだろうかと、日がな一日上を向いて待っていたりするのだった。
「いつまでそうしてるんだい」
柔らかな金色の波がオレを包む。この波はどこか懐かしい香りがした。
「いや、私が悪かったのだな。お前のことが可愛すぎで馬鹿な事をした。だが、こうなってはもうどうにも出来ん」
金色の波は泣いているようだった。悲しい気持ちが流れ込んで、弾けて飛んでしまいそうになったところで、金の波が慌ててオレをそっと支える。
「私の力は強すぎて、お前には悪影響だな。これで、お別れだ……」
「生まれ変わらせてはやらないのかい?」
違う声がすぐ側で聞こえた。この声もよく知っている。金の波をそっと撫でているようだった。
「──私のエゴだと分かっている。それでも、もしかしたら……、と思うと」
「でも、君の力で弾けてしまうほど、海の泡は脆く儚いものだ。弾けてしまえば、もう、生まれ変わることも難しいんじゃないかな」
「分かっている。今は僅かに残ったシレーヌ自身の力で形を保っているが、それもいつまで持つか……」
「それでも、奇跡にかけたいんだね」
金の波はじっと黙っていた。
「分かった。じゃあ、僕の庭で預かろう。うちの海藻たちは、シレーヌ君が大好きだし、きっと必死で彼を守る」
「フィヨルド……」
「シレーヌ君は強い子だから、きっと大丈夫。なんせ、僕達の子なんだから」
暖かな波がオレをそっと撫でるように運んだ。今のオレは酷く曖昧で、自分を保つのが難しい。
それでも運ばれた先で、海藻にくるまれると、なんとなく居心地が良かった。ここも、何故か懐かしい。
それから、オレは海藻の中で、長いこと過ごした。
たまに、嵐で波に流されそうになっても、海藻達がオレを包んで守ってくれる。流木がぶつかって来そうなときも、うまくオレから逸れるようにしてくれた。
それでも、危うく弾け飛びそうなときも何回かあった。
すると金色の波と一緒にいた男が、必ず助けに来てくれた。男は「最近トリトンちゃんと会ってるから、シレーヌ君にも影響出ちゃうとやばいよな」とすぐに消えていなくなる。
別にそれが寂しい事はなかった。オレは今の状態に比較的満足していた。
年中弾け飛びそうにはなるが、海の底は安穏として静謐な世界だ。
でも、時折ピーという物哀しい音が海の上から聞こえてくるときだけは違った。
急に自分の周りだけ波打ちだつような心地になる。
そっと、海藻をかき分けて上を覗くと、音と一緒に温かなものが降り注ぐのだ。オレは何故かそれが温かいと知っていた。温かいとは、優しいのと似ている。
なぜ、優しいということを知っているのか。何故、オレはこんなことを考えるのか。
不思議な音を何回か聞いているうちに、自分が少し大きくなっている事に気づいた。
どうやら温かなものが振ってくると、オレは少しづつ大きくなるようだ。
ピーという音は口笛というのだと、たまにやってくる男が教えてくれた。
男はキセキが起こりそうだねぇ、と嬉しそうに言った。キセキとはなんの事か分からなかったが、口笛は気になった。
聞いているとこのままではいけないような、居ても立っても居られない気持ちになる。
口笛のあとに振ってくる温かなものは心地よいが、触れると何もないはずの空っぽな泡の中が焦げ付くような、どうしようもない心地になった。なにか、大事なことを忘れている気がする。
そして、次はいつ口笛が聞こえるだろうかと、日がな一日上を向いて待っていたりするのだった。
「いつまでそうしてるんだい」
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