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12 悪女は牢に入る

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 そうだった、昔それぞれにではあったけれど、私はこの兄弟と約束をしたのだ。
 ウィリーと共にある、と。

「なのに! 好きだったのに、愛していたのに! 母上はおっしゃっていた、裏切ったのだと、俺よりも奴を選んだと!! わかるか、俺の気持ちが!!」

 王子は両手で顔を覆った。
 泣いているのかも知れなかった。

「あれはっ」
「違うウィリー! 最近の彼女は自分の汚名をそそぎたかっただけだ! 事実王妃教育は毎日頑張っていたじゃないか、王城に来て王妃様と何時間も部屋にこもっていたのを俺は見」
「うるさいうるさいうるさい! 黙れ悪女黙れ盗人ぬすっと!! 言い訳など聞きたくない! おいそこの、人を突き落としたのはあの女だ。牢に入れろ!!」
「待ってください、ウィリー殿下!!」

 王子の掛け声に学園に常駐している王子専属の騎士が、私の両脇に来て引っ立てられる。

「殿下!!」

 誤解だと説明がしたくて抵抗した途端。
 危険行動ありと見られたのだろう、こめかみを殴られ私の意識はそこで途切れた。



 ※ ※ ※



 頬を何かが往復する感触がする。
 私はそのくすぐったさで、まぶたをあけた。

「ひっ!」
「目が、覚めたか」

 手のひらごしに見えたのはウィリー殿下だった。
 気を失い横になっていた私の傍らに座り、頬をぜていたらしい。

 思わず後ずさって、けれどすぐに背中が壁に当たってしまう。
 見渡すと、石造りの質素な部屋に私が今いるベッドと部屋の角にお花摘み(トイレ)の場所。
 部屋の一辺は全て鉄格子となっていて、自身が牢に運び込まれたということがわかる。
 じゃらり、と金属の擦れる音が足元からして、見るとかせが足首についていて鎖がベッドの脚に繋がれているようだった。

「殿下、デューデン様の容態は?!」

 気を失う前の情景を思い出して、私は気になって尋ねた。

「笑わせる。お前がああしてしまったのに、形ばかりの心配か?」
「決して、決してそのようなことはっ!」
「黙れ!!」

 ベッドへ乗り上がると私へとにじり寄り、顎を掴まれ上に向けさせられる。
 怒りのこもった双眸そうぼうに、気持ちがひるんだ。
 右頬に、手の甲が当てられゆるゆると移動していく。

「女はベッドの上だけでさえずっていればいい」
「なっ!」

 思わずカッとなって王子の頬を張ろうとして、けれどその手は掴まれ阻まれた。
 そのまま手を横に引っ張られ、姿勢が崩れてベッドに仰向けになってしまう。
 いつの間にか両手首に王子の手があり、それは頭の上でひとまとめにされ彼の右手で縫い止められた。
 太ももの上、王子が跨いで座ってくる。

「ゼファーに国をやろうとでも言われたか?」
「なに、を……」

 制服の上着のボタンが次々と外されて。

「残念だったな、あれは妾腹の中でも実家の後ろ盾がないやつだ。王になることはないだろう」

 彼の左手が、頬、首筋、鎖骨をなぞっていく。

 嫌な予感がして体がだんだん震えてきた。

「……っ、デューデン様へは何もしておりませんし、王妃の座に固執もしておりません! 婚約解消をなさってく、痛っ」
「否定するな否定するな否定するな否定するな否定するな!!」

 王子が私の右胸を強く掴んだ。

「俺の、ことを、ひていするな!!!!」

 ブラウスのボタンが弾け飛ぶ。

「いやっ!!」

 いよいよと危険に気づいて私は全力で抵抗した。
 頬を打たれる。
 だけどこの先に待つ未来の方が、おぞましい!
 両手を突っぱねようとしたところ、もう一度打たれる。
 その衝撃で少し思考が揺れ、反応が遅くなったところに頭上で両腕が縛られる感触がした。
 ヘッドの柵に結えつけられたのか、そこから腕を動かすことができない。



 助けてゼファー!!!!



 ……ぁ……。
 私、何を……。

 お父様でもなく、お母様でもなく、どうして彼の名を……。


 この状況で自身の気持ちなんて気づきたくなくて。

 一筋。

 涙が頬を伝った。









 何かが私をまさぐっている。
 自由な瞳は見ていたくなくて瞼を閉じた。
 両腕の縛りは何をどうしても隙間すら生まれない。
 足はいくらばたつかせようとしても、王子が太ももに乗っているから大した動きにならない。



 諦めかけたその時。

「殿下」

 城の騎士だろうか、王子に声をかけるのが聞こえた。

「忙しい、後にしろ」
「そういうわけには。お忍びと理解しております、探されるのは本意ではないのでは。王がお呼びですので」
「チッ。……舌など噛むなよ。お前の父親が立ち回っている、長生きの方が親孝行だ」
「殿下」
「わかっている。うるさく言うな」

 面倒くさそうに前髪をかき上げながら、王子は腕の拘束をとき乗っていた私から離れると牢から出た。
 そうして格子越しに振り返り口を開く。

「処罰が決まるまでは、お前は俺の物だ。勝手に死ねばお前の家族がどうなるか……わかっているな?」

 その言葉に、ただただ恐怖しかなくて私の体はびくついた。

「……また来る」

 言って満足したのか、王子は騎士を連れて牢から離れていった。
 緊張がいっときほぐれる。
 けれど今の自分の状態を見るのも理解するのも、何もできなくて。
 弾け飛んだ先のボタンを見ながら、私はただただ涙を流した。
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