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16 悪女は王子の狂愛をみる
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デューデン様は階段から落ちた割には軽い怪我だったのか包帯を腕と足首に巻き、流石に歩きづらいのだろう、良く一緒にいる女子生徒の肩を借りていた。
「……ゼファー、これはどういうことだ!」
叫ぶなり王子がゼファーの胸ぐらを掴みつつ、ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばる。
その目は灼熱を思わせるほどだ。
彼はその両腕を掴むと下へと離させながら答えた。
「言葉の通りだよ、無実のものに刑を執行する謂れはないからね」
「ウルムは罪を犯した、それは明白だ。証人もいるし直接被害に遭った彼女のことはどうする?!」
王子が叫ぶ。
下がり切らない王子の両腕は、今にも殴りかかりそうなほど力が入っているのが見てとれる。
「ゼファー様ぁ、わたくしが突き落とされたのはあなた様も見ていたはずですわ。今もとっても怖いんですの、わたくし……」
潤んだ目でゼファーを見つめながらデューデン様が訴えた。
彼はちらと彼女を見たが、すぐさま目の前の王子へと視線を戻す。
「私は突き落としたりしておりませんし、何なら足を引っ掛けられたり、机に刃物を入れられましたわ」
「わ、わたくしだって!! わたくしだって筆記帳を破られたりしましたのよ? 悲しゅうございましたわぁ。お友達が、シュテール様の後ろ姿を見た、と言ってましたの……」
私はここぞとばかりに事実を羅列して、された側だと訴えた。
が、敵も負けておらず被せるようにして自分がされたということを情感たっぷりに話し、果ては涙まで流した。
やってないというのに!!
こんっっっっっの、性悪女!!
埒のあかない言い合い罪のひっかぶせ合いに、お互いがお互いを密かに睨む。
そんな中。
遅れて国王様も、悠然とお供と騎士を連れて歩いてくる。
そして処刑場の中心へ着くと、ぴたりと足を止めその場の者へとぐるり、視線を向けた。
王子、デューデン様、ゼファーに私、刑執行官の三人や民衆が、国王様の動向を固唾を呑んで見守っている。
「私は刑を許可しておらぬ」
谷へと深く響くような声音は、風格を伴って周りへと伝播した。
刑執行官達は目を見開き、民衆からはどよめきが起こった。
その声に風向きが変わる予感がして、私は国王様を見た。
頭上にいただくは王冠、ゆったりとした顎髭を貯えたその風貌はとても厳しいけれど、その瞳の優しげな光に中和されどこか柔和だ。
婚約者選定の時にお会いしたけれど、緊張していてよく覚えていなくて。
私はつい改めてまじまじと国王様を眺めてしまう。
すると、つい、と国王様の視線がこちらへときて、破顔された。
「ウルム、久しいな。ウィリーの婚約者としてよくやってくれていると報告は受けていた」
「は、ははは、はっ。勿体なきお言葉でございます」
いきなりのお声がけにうっかりと噛んだ。
私は正式な挨拶をと腰を落とそうとしたけれど、国王様自らにとめられた。
「挨拶は良い。此度は兄弟喧嘩に巻き込んでしまったようだしな。私の監督不行き届きだ、すまぬ」
「滅相もございません」
曖昧な微笑みと共に私がそう返すと同時に、国王様の瞳に険が宿る。
そしてすぐさまウィリーへと言葉が飛んだ。
「ウィリー」
「はい父上!」
「誰の断りで刑を決めた」
「そ、それは……しかし!」
「でもではない。私怨を認めれば国は崩れる、わかっておるのか」
とても、静かな声だった。
けど何かが王子の気に引っかかったらしい、国王様の言葉に反論が出た。
「私怨などではございません!!」
「ほう。お前はこれが公の元に晒されるべき罪、だと?」
「そうです!! ウルムはデューデン嬢を階段から突き落とした、他にも鉢植えが落ちてきたりとその魔の手は枚挙にいとまがない。私はデューデン嬢を新たな婚約者にと考えていました。婚約者候補を害すのなら国へ仇なすことと同義ではないですか!!」
王子の演説ともいえる長口上に、表情を変えることなく相対していた国王様が口を開く。
「ふむ。お前の言い分はわかった」
「なら」
「証拠を見せよ」
「え……」
戸惑いが王子の口から漏れた。
その表情は、本当にわかっていないようだ。
国王様は渋面のままさらに言い募る。
「国家への反逆である証拠を見せよ、と言った。聞こえなんだか。ゼファーからはお前の口上より優に数倍近い報告書を得ておるぞ」
「しょ、証人ならいます!!」
「それもゼファーから、かなり仔細に聞き済みだ。何時何分に誰それが何をしておったのか、きちんと報告書にも記載があった。書面に書かれた者に尋ねればいくらでも証言が得られよう」
「私にだってそれくらい!」
言いながら王子を見つめるその瞳には、苦悩と慈愛があるようにも見えた。
王子はなおも食い下がる。
「それくらい、か。ならば以前よりシュテールが婚約解消を願い出ていたことを何とする? 世間の感覚を交えれば、辞退したい立場を守るために他者を害する、ということがいかに矛盾しているかわからぬか」
「だからそれはゼファーがっ」
「ゼファーではない、お前の問題なのだ。お前がウルムを手籠めにしようとしていたのも報告を受けた。それを阻止するに手を貸したのは私だ」
「なっ」
国王様を驚きの表情で見つめながら、王子は声を上げた。
「国は人で成り立つ。またその成り立つ元の人も、支え合わねば崩れやすい。ウィリー、お前はウルムを支えたか?」
国王様が理によって王子を現実に引き戻そうとする。
何が起こるかわからなくて私が内心恐ろしく思っていると、不意に肩に何かの感触がした。
見ると、手を置きゼファーが力づけるようにそばに寄ってくれたらしい。
少しホッとする。
「……っ、ゼファぁあああ、その汚い手を離せウルムは俺の物だあああああ!!!!」
と、突然王子がこちらへと飛びかかってこようとした。
同時に、国王様がさっと手を挙げたかと思うと王子のいる方向へと手を下ろす。
それが合図だったようで、彼はすぐさま国王様の脇に控えていた騎士に取り押さえられた。
「……ゼファー、これはどういうことだ!」
叫ぶなり王子がゼファーの胸ぐらを掴みつつ、ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばる。
その目は灼熱を思わせるほどだ。
彼はその両腕を掴むと下へと離させながら答えた。
「言葉の通りだよ、無実のものに刑を執行する謂れはないからね」
「ウルムは罪を犯した、それは明白だ。証人もいるし直接被害に遭った彼女のことはどうする?!」
王子が叫ぶ。
下がり切らない王子の両腕は、今にも殴りかかりそうなほど力が入っているのが見てとれる。
「ゼファー様ぁ、わたくしが突き落とされたのはあなた様も見ていたはずですわ。今もとっても怖いんですの、わたくし……」
潤んだ目でゼファーを見つめながらデューデン様が訴えた。
彼はちらと彼女を見たが、すぐさま目の前の王子へと視線を戻す。
「私は突き落としたりしておりませんし、何なら足を引っ掛けられたり、机に刃物を入れられましたわ」
「わ、わたくしだって!! わたくしだって筆記帳を破られたりしましたのよ? 悲しゅうございましたわぁ。お友達が、シュテール様の後ろ姿を見た、と言ってましたの……」
私はここぞとばかりに事実を羅列して、された側だと訴えた。
が、敵も負けておらず被せるようにして自分がされたということを情感たっぷりに話し、果ては涙まで流した。
やってないというのに!!
こんっっっっっの、性悪女!!
埒のあかない言い合い罪のひっかぶせ合いに、お互いがお互いを密かに睨む。
そんな中。
遅れて国王様も、悠然とお供と騎士を連れて歩いてくる。
そして処刑場の中心へ着くと、ぴたりと足を止めその場の者へとぐるり、視線を向けた。
王子、デューデン様、ゼファーに私、刑執行官の三人や民衆が、国王様の動向を固唾を呑んで見守っている。
「私は刑を許可しておらぬ」
谷へと深く響くような声音は、風格を伴って周りへと伝播した。
刑執行官達は目を見開き、民衆からはどよめきが起こった。
その声に風向きが変わる予感がして、私は国王様を見た。
頭上にいただくは王冠、ゆったりとした顎髭を貯えたその風貌はとても厳しいけれど、その瞳の優しげな光に中和されどこか柔和だ。
婚約者選定の時にお会いしたけれど、緊張していてよく覚えていなくて。
私はつい改めてまじまじと国王様を眺めてしまう。
すると、つい、と国王様の視線がこちらへときて、破顔された。
「ウルム、久しいな。ウィリーの婚約者としてよくやってくれていると報告は受けていた」
「は、ははは、はっ。勿体なきお言葉でございます」
いきなりのお声がけにうっかりと噛んだ。
私は正式な挨拶をと腰を落とそうとしたけれど、国王様自らにとめられた。
「挨拶は良い。此度は兄弟喧嘩に巻き込んでしまったようだしな。私の監督不行き届きだ、すまぬ」
「滅相もございません」
曖昧な微笑みと共に私がそう返すと同時に、国王様の瞳に険が宿る。
そしてすぐさまウィリーへと言葉が飛んだ。
「ウィリー」
「はい父上!」
「誰の断りで刑を決めた」
「そ、それは……しかし!」
「でもではない。私怨を認めれば国は崩れる、わかっておるのか」
とても、静かな声だった。
けど何かが王子の気に引っかかったらしい、国王様の言葉に反論が出た。
「私怨などではございません!!」
「ほう。お前はこれが公の元に晒されるべき罪、だと?」
「そうです!! ウルムはデューデン嬢を階段から突き落とした、他にも鉢植えが落ちてきたりとその魔の手は枚挙にいとまがない。私はデューデン嬢を新たな婚約者にと考えていました。婚約者候補を害すのなら国へ仇なすことと同義ではないですか!!」
王子の演説ともいえる長口上に、表情を変えることなく相対していた国王様が口を開く。
「ふむ。お前の言い分はわかった」
「なら」
「証拠を見せよ」
「え……」
戸惑いが王子の口から漏れた。
その表情は、本当にわかっていないようだ。
国王様は渋面のままさらに言い募る。
「国家への反逆である証拠を見せよ、と言った。聞こえなんだか。ゼファーからはお前の口上より優に数倍近い報告書を得ておるぞ」
「しょ、証人ならいます!!」
「それもゼファーから、かなり仔細に聞き済みだ。何時何分に誰それが何をしておったのか、きちんと報告書にも記載があった。書面に書かれた者に尋ねればいくらでも証言が得られよう」
「私にだってそれくらい!」
言いながら王子を見つめるその瞳には、苦悩と慈愛があるようにも見えた。
王子はなおも食い下がる。
「それくらい、か。ならば以前よりシュテールが婚約解消を願い出ていたことを何とする? 世間の感覚を交えれば、辞退したい立場を守るために他者を害する、ということがいかに矛盾しているかわからぬか」
「だからそれはゼファーがっ」
「ゼファーではない、お前の問題なのだ。お前がウルムを手籠めにしようとしていたのも報告を受けた。それを阻止するに手を貸したのは私だ」
「なっ」
国王様を驚きの表情で見つめながら、王子は声を上げた。
「国は人で成り立つ。またその成り立つ元の人も、支え合わねば崩れやすい。ウィリー、お前はウルムを支えたか?」
国王様が理によって王子を現実に引き戻そうとする。
何が起こるかわからなくて私が内心恐ろしく思っていると、不意に肩に何かの感触がした。
見ると、手を置きゼファーが力づけるようにそばに寄ってくれたらしい。
少しホッとする。
「……っ、ゼファぁあああ、その汚い手を離せウルムは俺の物だあああああ!!!!」
と、突然王子がこちらへと飛びかかってこようとした。
同時に、国王様がさっと手を挙げたかと思うと王子のいる方向へと手を下ろす。
それが合図だったようで、彼はすぐさま国王様の脇に控えていた騎士に取り押さえられた。
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