ファンタスティック☆まじかるマリーと夢見る王子サマ

三屋城衣智子

文字の大きさ
3 / 7

第三話 勉強の日々

しおりを挟む

「いえ、なんでも。このおドレスとか、布で作ったお花がついていて素敵です!」

 今私は、アンナ様の好意で洋服をあててもらいながら、じじいの相手もしていた。アンナ様との交流に邪魔なのですっこんでて欲しかったけど、これも介護なのかもしれない。
 という冗談はさておき、具体的な方法を知らされていなかったのできちんと知っておくのも大事だった。

「なら、これを少し手直ししてもらいましょう」
「何から何まで、ありがとうございます」
「マルク様のお願いですもの、幼馴染の頼み事は断らないことにしているのよ」

 花がほころぶ様に微笑む。彼女の王子への信頼が、見えた気がした。

「……彼は、アンナ様にとって素敵な人ですか?」
「あら、それは婚約者であるマリーの方が、よく知っているのではなくって? まぁ、幼馴染としてからなら、そうね。とても聡明で、楽しくて、優しい人よ」
「そうですか、答えてくださってありがとうございます」
「どういたしまして? じゃ、これとこれを、直しに出してくるわね」

 言うと、彼女は部屋を出て行く。残ったのは私とじじいだけだ。

「で。具体的に何をどうすれば良いわけ? 魔法少女って」
『単刀直入じゃのぅ。そうじゃな、お前さんがドボンと言いながら目を見た相手の魅了、眠れと言って見た範囲の人間の気絶。殲滅せよって言いながら名前を思い浮かべたやつの死、くらいが授けられる力かの』
「充分過ぎるし」
『ワシとしてはファンミするくらいの勢力にしたいのぅ』
「ファンミーティングはアイドルの仕事でしょじじい」
『外交も内政も、敵にせず味方や仲間と思わせたが勝ちぢゃよ。要はふぁんにすればよい。その点アイドルといえなくもないじゃろ?』
「なんか違う気がする」
『まぁ何はともあれ、行動あるのみじゃて』

 婚約者という立場、存分に使うと良いぞい。そう言った後、神様(仮)は沈黙した。アンナ様の足音を聞きつけたらしい。

(行動って言ったって、さぁ……)

 具体的なやる事を何も言われなかったものだから、私はちょっと困ってしまった。だって、この間まで小学生で、お姉さんのなりたてだ。何をすればいいのか想像すらつかなかった。



 ※



 戸惑ったまま、貴族のお屋敷の中で婚約者としての教育が始まった。この国の歴史、他国の歴史、近年の外交事情エトセトラエトセトラ。
 魔法少女としては、街ゆく人の困りごと解消、喧嘩の仲裁、歌って踊れる魔法少女になる為の練習(これが一番意味わかんない)、犯罪者の逮捕補助エトセトラエトセトラ。
 王子様と勉強する度、神様にレクチャーを受ける度、段々とイレギュラーが日常に溶け込んで、紅茶がミルクティーになるみたいに、混ざって当たり前になっていく。
 そうして半年があっという間に過ぎ、私は十三歳になっていた。ぅぅ……先生の新刊……。

「マリー、そこ間違っているよ。正しくは、」
「え、どこ。あ! わかるわかる、デムトラード皇国だよね。うっかりしてた」
「ふふ。うっかりに気付けたんだから、マリーはすごいよ」

 マルク様に褒められた。ちょっと得意げにすると、しょうがないなぁと彼が笑う。
 今私たちは王城で後継者としての勉強中だ。日本でとった杵柄とばかりに猛勉強して、王子の勉強範囲に追いついたので、たまに一緒にさせてもらっている。
 この半年、何くれと情報をもらったり、こうして一緒の時間を過ごしていく中で、マルク様とはちょっと仲良くなった。
 何より仮の婚約者だし、そうみせる必要もあったのでそれはもう積極的に仲良くなりにいったのも、ある。
 けど彼、勉強を一緒にする様になってから観察していたんだけど、本当に国のことを思っていて熱心だ。周りに仕える人にも優しく、不調なんて本人より早く気づいてお休みをあげていたり。けれど甘やかし過ぎない感じで、アンナ様がベタ褒めするのも理解できた。

「あれ、マリー。ちょっとじっとしていて」
「え」

 ふいに手が伸びてきて私の頬を擦る。

「とれた」

 微笑まれて見せられた彼の親指には、いつの間についていたのか、ペンのインクが掠れてついていて。

「……あり、がとう」
「どういたしまして」

 声がインクのように掠れていませんように。そう願いながら声を振り絞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...