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第34話 灯の下で、君を知る ー Under the Quiet Light
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宿泊地である有馬温泉に着く頃には、もう外はすっかり暗くなっていた。
有馬の中でも老舗の有名な宿。
宿泊費は出張にはふさわしくない金額だが、匠真が自分のカードを切って決済していた。
最初から、会社に請求するつもりはなかったらしい。
「なんか思い出すな……」
Lucent Coreに入社してすぐの頃にも、二人で出張に行ったことがある。
あのときも匠真は勝手にホテルをキャンセルして、温泉旅館を予約していた。
今となっては笑い話だが、当時の俺は、彼に別の恋人がいると信じ切っていた。
だから触れられるたびに拒絶感があり、見知らぬ誰かへの罪悪感に苛まれていた。
(でも、今回は違う)
誤解は解け、今は“恋人”として隣にいる。
迷いも、怒りも、もうない。
ただ、彼の隣にいることが自然になっていた。
夕食を終えた後、部屋付きの露天風呂に二人で入る。
有馬の湯は金色に輝き、星明かりを映して揺れていた。
「星がすごい……」
「そうだな」
「そういえばこの前、出張先から“空がでかい”とかいうメール送ってきただろ」
「ああ、そんなこともあったな」
「らしくなさすぎて笑った」
「失礼な」
「でも、そういうおまえも好きだよ」
自分でも驚くほど、素直に言葉が出た。
匠真は少しだけ目を見開き、照れ隠しのように笑う。
「……そんなこと言われるとは思わなかった。誘ってるのか?」
「なんでそうなる」
「そうとしか取れないだろ」
からかうような声の奥に、静かな熱があった。
肩越しに見える星空がゆらぎ、湯の表面が細かく光を散らす。
彼が視線を落とした瞬間、呼吸が止まる。
言葉はもういらなかった。
熱を帯びた目で見つめられ、胸がきゅっとしまる感じがする。
自分が言ったさっきの言葉を思い出して、つい目をそらした。
「誘っておいて、逃げるなよ」
匠真の腕に引き寄せられ、唇が重なる。
「んっ、ちょ…待て…ここじゃ…」
「ここじゃ…なんだ?」
「こ、声…が…」
「おまえが悪い」
咎めるような、それでいて甘さを滲ませた声と共に、キスは深くなる。
湯の中で支えられた体は自由がきかず、なすすべなく熱を受け入れるしかなかった。
ちゃぷん、と水音が立ち、俺たちの間にあった最後の隙間が埋められる。
匠真は俺を抱きかかえると、湯船の縁に腰掛けさせた。
火照った肌にひんやりとした夜気が触れ、思わず身震いする。
しかし、すぐに匠真の熱い体が覆いかぶさり、寒さなど感じる暇もなかった。
「誰もいない。聞こえるのは、虫の声とおまえの声だけだ」
耳元で囁かれ、濡れた指がゆっくりと体の内側へと侵入してくる。
温泉の滑らかな湯が、ローションの代わりのようにぬるりと肌を滑った。
「ぁ……っ、だめ、そんな……とこ…」
「ここだろう? おまえが一番感じるところは」
的確に敏感な場所を探り当てられ、腰が勝手に揺れる。水面がぱしゃぱしゃと音を立て、羞恥心で顔が熱くなった。
見上げた夜空では、星が瞬いている。この広大な宇宙の下で、自分はなんて破廉恥なことをしているのだろう。
だが、思考とは裏腹に、身体は正直に快感を求めていた。
準備が整ったと判断したのか、匠真は俺の腰を掴み、自身の熱をゆっくりと押し当ててきた。
「颯……全部、受け入れろ」
その言葉を合図に、一気に体を貫かれる。
「……っ、ぁああっ……!」
天を仰ぎ、口からこぼれた声は思ったよりも大きく、静かな夜に響いた。
だが、もうどうでもよかった。痛みと快感の波が交互に押し寄せ、思考が白く塗りつぶされていく。
湯の中で交わる体は、普段よりもずっと滑らかに、そして深く結合した。
水音がBGMのように響き、突き上げられるたびに背後の湯船で水が跳ねる。
俺は匠真の肩に爪を立て、与えられる快感に必死に耐えた。
「……たくま……っ、もっと……」
いつしか懇願するような声が出ていた。星空がぐにゃりと歪み、匠真の顔しか見えなくなる。彼の瞳の中に映る、快感に溺れた自分の顔から、もう目を逸らすことはできなかった。
「……いい声だ、颯」
満足げに囁き、匠真は最後の一突きを深く打ち込む。体の奥が灼けつくように熱くなり、俺は彼の背中にしがみついたまま、夜空に向かって絶頂を迎えた。
荒い息が静まる頃、遠くで鹿の鳴き声が聞こえた。俺たちはどちらからともなく、再び湯船の中へと体を沈める。疲労感と満足感が入り混じった心地よい気だるさの中、匠真が俺の濡れた髪を優しく撫でた。
「……やっぱり、おまえが誘ったんだ」
その声は、もう怒ってはいなかった。
◆
数日後。Lucent Core・重役会議。
壁一面のスクリーンに、TENPOU SHUZO PROJECTの文字が映る。
「丸友AIAgencyさまのご支援のもと、天峰酒造様へのAI導入案件を獲得しました」
匠真の声は平板で、しかし迷いがない。
「テーマは“地方創生と製造最適化”。発酵工程のデータ化、需要予測、出荷最適化、物流の再設計。長期の共同プロジェクトを想定しています」
「よくやった。これで九条の件は保留だな」
社長の一言に、会議室の空気が途端に軽くなる。
颯は横に立つ匠真の横顔を見る。冷静な笑み。
誇らしい――が、その奥で、言葉にならないざわめきが泡のように残った。
◆
夜。営業部フロア。
匠真のデスクに、一枚の名刺が置かれていた。
――九条ホールディングス 代表取締役 九条 怜央。
「……やっぱり、そういうことだったか」
背後から覗き込んだ俺が、小さく呟く。
「彼、九条ホールディングスの代表になったんだ?」
「そうでないと、わざわざうちを指名しては来ない。こっちからはアクションは起こさないが――向こうから来られると、さすがに“受けない”わけにはいかなくなるかもしれないな」
「実は、隆哉の会社にも九条からオファーがあったみたいなんだ。うちだけってわけじゃない。だから、たぶん大丈夫だと思う」
「営業部としては、拒否だ。当面は天峰酒造の案件で手が一杯だからな」
匠真は笑った。
たぶん、俺に余計な心配をさせないために。
――こいつを守りたい、と思った。
仕事も、立場も、その奥にあるものも。
自分のわがままだと分かっていても。
プリンタが最後の紙を吐き出す音が、やけに大きく響いた。
小さな火種のような不穏だけが、静かに、机の影に残っていた。
******************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「灯の下で、君を知る ー Under the Quiet Light」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「灯の下で、君を知る ー Under the Quiet Light」はこちら⇒ https://youtu.be/6mYwAV4iXVA
有馬の中でも老舗の有名な宿。
宿泊費は出張にはふさわしくない金額だが、匠真が自分のカードを切って決済していた。
最初から、会社に請求するつもりはなかったらしい。
「なんか思い出すな……」
Lucent Coreに入社してすぐの頃にも、二人で出張に行ったことがある。
あのときも匠真は勝手にホテルをキャンセルして、温泉旅館を予約していた。
今となっては笑い話だが、当時の俺は、彼に別の恋人がいると信じ切っていた。
だから触れられるたびに拒絶感があり、見知らぬ誰かへの罪悪感に苛まれていた。
(でも、今回は違う)
誤解は解け、今は“恋人”として隣にいる。
迷いも、怒りも、もうない。
ただ、彼の隣にいることが自然になっていた。
夕食を終えた後、部屋付きの露天風呂に二人で入る。
有馬の湯は金色に輝き、星明かりを映して揺れていた。
「星がすごい……」
「そうだな」
「そういえばこの前、出張先から“空がでかい”とかいうメール送ってきただろ」
「ああ、そんなこともあったな」
「らしくなさすぎて笑った」
「失礼な」
「でも、そういうおまえも好きだよ」
自分でも驚くほど、素直に言葉が出た。
匠真は少しだけ目を見開き、照れ隠しのように笑う。
「……そんなこと言われるとは思わなかった。誘ってるのか?」
「なんでそうなる」
「そうとしか取れないだろ」
からかうような声の奥に、静かな熱があった。
肩越しに見える星空がゆらぎ、湯の表面が細かく光を散らす。
彼が視線を落とした瞬間、呼吸が止まる。
言葉はもういらなかった。
熱を帯びた目で見つめられ、胸がきゅっとしまる感じがする。
自分が言ったさっきの言葉を思い出して、つい目をそらした。
「誘っておいて、逃げるなよ」
匠真の腕に引き寄せられ、唇が重なる。
「んっ、ちょ…待て…ここじゃ…」
「ここじゃ…なんだ?」
「こ、声…が…」
「おまえが悪い」
咎めるような、それでいて甘さを滲ませた声と共に、キスは深くなる。
湯の中で支えられた体は自由がきかず、なすすべなく熱を受け入れるしかなかった。
ちゃぷん、と水音が立ち、俺たちの間にあった最後の隙間が埋められる。
匠真は俺を抱きかかえると、湯船の縁に腰掛けさせた。
火照った肌にひんやりとした夜気が触れ、思わず身震いする。
しかし、すぐに匠真の熱い体が覆いかぶさり、寒さなど感じる暇もなかった。
「誰もいない。聞こえるのは、虫の声とおまえの声だけだ」
耳元で囁かれ、濡れた指がゆっくりと体の内側へと侵入してくる。
温泉の滑らかな湯が、ローションの代わりのようにぬるりと肌を滑った。
「ぁ……っ、だめ、そんな……とこ…」
「ここだろう? おまえが一番感じるところは」
的確に敏感な場所を探り当てられ、腰が勝手に揺れる。水面がぱしゃぱしゃと音を立て、羞恥心で顔が熱くなった。
見上げた夜空では、星が瞬いている。この広大な宇宙の下で、自分はなんて破廉恥なことをしているのだろう。
だが、思考とは裏腹に、身体は正直に快感を求めていた。
準備が整ったと判断したのか、匠真は俺の腰を掴み、自身の熱をゆっくりと押し当ててきた。
「颯……全部、受け入れろ」
その言葉を合図に、一気に体を貫かれる。
「……っ、ぁああっ……!」
天を仰ぎ、口からこぼれた声は思ったよりも大きく、静かな夜に響いた。
だが、もうどうでもよかった。痛みと快感の波が交互に押し寄せ、思考が白く塗りつぶされていく。
湯の中で交わる体は、普段よりもずっと滑らかに、そして深く結合した。
水音がBGMのように響き、突き上げられるたびに背後の湯船で水が跳ねる。
俺は匠真の肩に爪を立て、与えられる快感に必死に耐えた。
「……たくま……っ、もっと……」
いつしか懇願するような声が出ていた。星空がぐにゃりと歪み、匠真の顔しか見えなくなる。彼の瞳の中に映る、快感に溺れた自分の顔から、もう目を逸らすことはできなかった。
「……いい声だ、颯」
満足げに囁き、匠真は最後の一突きを深く打ち込む。体の奥が灼けつくように熱くなり、俺は彼の背中にしがみついたまま、夜空に向かって絶頂を迎えた。
荒い息が静まる頃、遠くで鹿の鳴き声が聞こえた。俺たちはどちらからともなく、再び湯船の中へと体を沈める。疲労感と満足感が入り混じった心地よい気だるさの中、匠真が俺の濡れた髪を優しく撫でた。
「……やっぱり、おまえが誘ったんだ」
その声は、もう怒ってはいなかった。
◆
数日後。Lucent Core・重役会議。
壁一面のスクリーンに、TENPOU SHUZO PROJECTの文字が映る。
「丸友AIAgencyさまのご支援のもと、天峰酒造様へのAI導入案件を獲得しました」
匠真の声は平板で、しかし迷いがない。
「テーマは“地方創生と製造最適化”。発酵工程のデータ化、需要予測、出荷最適化、物流の再設計。長期の共同プロジェクトを想定しています」
「よくやった。これで九条の件は保留だな」
社長の一言に、会議室の空気が途端に軽くなる。
颯は横に立つ匠真の横顔を見る。冷静な笑み。
誇らしい――が、その奥で、言葉にならないざわめきが泡のように残った。
◆
夜。営業部フロア。
匠真のデスクに、一枚の名刺が置かれていた。
――九条ホールディングス 代表取締役 九条 怜央。
「……やっぱり、そういうことだったか」
背後から覗き込んだ俺が、小さく呟く。
「彼、九条ホールディングスの代表になったんだ?」
「そうでないと、わざわざうちを指名しては来ない。こっちからはアクションは起こさないが――向こうから来られると、さすがに“受けない”わけにはいかなくなるかもしれないな」
「実は、隆哉の会社にも九条からオファーがあったみたいなんだ。うちだけってわけじゃない。だから、たぶん大丈夫だと思う」
「営業部としては、拒否だ。当面は天峰酒造の案件で手が一杯だからな」
匠真は笑った。
たぶん、俺に余計な心配をさせないために。
――こいつを守りたい、と思った。
仕事も、立場も、その奥にあるものも。
自分のわがままだと分かっていても。
プリンタが最後の紙を吐き出す音が、やけに大きく響いた。
小さな火種のような不穏だけが、静かに、机の影に残っていた。
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「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
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