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最終話:君と灯す冬の灯 ー Winter Lights, With You
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12月の空気は澄んでいて、窓の外には柔らかな街灯りが流れていた。
クリスマスイブの夜。
俺たちは匠真のマンションで、久しぶりの完全なオフを過ごしていた。
京都から戻ってきてから数ヶ月。
いろんなことが落ち着き、ようやく日常を取り戻せた。
俺は大学院のオンラインプログラムがスタートして大忙しだ。
仕事も年末進行で慌ただしく、合間を縫ってレポートに取り組む毎日。
年末年始は実家に帰る予定もあって、心身ともにテンパっていた。
隆哉は事件のあと、アメリカへ戻った。
今も時折オンラインで連絡をくれる。
あのとき彼の気持ちに触れてしまったことで、以前とはほんの少しだけ空気が変わったように思う。
でも、隆哉も俺も、努めて今まで通りに接しようとしていた。
いつかまた、何も考えずにただ一緒にいるだけで楽しかった頃のように戻れる日が来るだろうか……そんな淡い願いを抱きながら。
一方で、怜央はあれから匠真に――どころか、誰にも接触してこなかった。
九条ホールディングの会長を解任されたと聞いたとき、胸の奥に冷たい風が吹いた。
寂しさではなく、ようやく「終わった」という実感だった。
そして俺たちは、例のセキュリティー万全のマンションを出て、元のマンションに戻った。
匠真は「住み慣れてる方が落ち着く」と言い、俺は俺で母親から
「いつまで人の家にお世話になるつもり?」
と刺すような小言を言われた結果だった。
同棲はしていない。
でも実際には、ほとんど毎日、どちらかの部屋で一緒に過ごしている。
溝口さんには、感謝と報告のために山梨まで会いに行った。
匠真の父親に封の勾玉を渡したのも宗雅さんの手配だと知り、溝口さんは目を細めて
「……そうか。九条は終わるか」
と静かに呟いた。その背中は、ほんの少しだけ軽くなって見えた。
──そんな日々を経て、今日のクリスマスイブだ。
◆
「颯、こっちは切ったぞ」
キッチンで匠真が、手際よくチキンを切り分けていた。
皿に盛られたローストチキンとラザニア。
二人で一緒に作った料理がテーブルに並ぶ。
小さな丸いケーキは、冬華さんが差し入れてくれた限定品。
クリスマスイブのために、早々に予約してくれていたらしい。
冬華さん曰く「お歳暮」なのだとか。
彼女が社長を務める「丸友AIエージェンシー」とは良好な取引が続いている。
来年も早々から、新規のAIプロジェクトを合同で進める予定だ。
料理を食べ終え、ケーキにフォークを入れながら
「これ、めっちゃ美味しいな……」
と俺が幸せそうに呟いたとき、
「そうだ。プレゼント、渡していいか?」
匠真が思い出したように言った。
「もちろん」
渡された包みを開けた瞬間、呼吸が止まった。
──最新のiPad。
しかもフルスペック、最上位モデル。
「まじで……これ……?」
「おまえ、秋の発売時に“これいいなぁ”って言ってただろ。覚えてた」
胸の奥がぎゅっと熱を帯びた。
欲しかった。でも、手が回らなかった。
大学院進学のタイミングでパソコンを買い換えたから、タブレットまでは無理だった。
まさか匠真が、そんな独り言を覚えていてくれたとは思わなかった。
「……ありがとう。ほんとに、嬉しい」
そう言って立ち上がり、俺も匠真にプレゼントを渡した。
「俺からは、これ」
匠真が愛用しているブランドの冬用コート。
色も素材も実用性も、何度も悩んで選んだ。
「いい色だな」
「気に入った?」
「ああ、ありがとう。さっそく明日から着るよ」
匠真は俺の頭を軽く撫でた。
そのさりげない仕草がやさしくて、胸がまた熱くなった。
会社では強面なのに、俺を見る目はいつもやさしい。
シャンパンを開けると、二つのグラスに泡が立つ。
「……乾杯」
「うん」
静かにグラスを合わせる。
冬の冷たい空気の向こうで、遠くのイルミネーションが微かに瞬いていた。
部屋の灯りが柔らかく反射し、グラスの中の黄金色が揺れる。
ふと、匠真が言った。
「来年のクリスマスも……再来年も……」
言葉を区切ったあと、俺を見る。
「颯、おまえと過ごしたい」
心臓が静かに跳ねた。
返事は考えるまでもない。
俺はグラスを置き、匠真の手にそっと触れた。
「……うん。一緒に」
匠真は目を細め、小さく息を吐いて、
そのまま俺をそっと引き寄せた。
額が触れ合い、指が絡む。
この冬の夜は静かで温かくて、
どこにも逃げ場のないほどに優しかった。
◆
俺たちの日常はまだ続いていく。
二人で歩く季節が、これからも重なっていく。
あの夜、深く静かに願った。
来年も、再来年も、その先も。
この景色の隣には、おまえがいる。
ー完ー
*************************
この物語を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
匠真と颯の物語は、ひとまずここで一区切りとなります。
ただ、彼らの日常はこれからも続いていきます。
もし読者のみなさんから「もっと見たい」「二人のその後を知りたい」という声をいただけたら、
番外編や外伝の形で、また少しだけ彼らの世界を覗いてみたいと思っています。
まずは、二人の静かなクリスマスの夜が、みなさんにも温かく届きますように。
*************************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「君と灯す冬の灯 ー Winter Lights, With You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「君と灯す冬の灯 ー Winter Lights, With You」はこちら⇒ https://youtu.be/diahYVkYwow
クリスマスイブの夜。
俺たちは匠真のマンションで、久しぶりの完全なオフを過ごしていた。
京都から戻ってきてから数ヶ月。
いろんなことが落ち着き、ようやく日常を取り戻せた。
俺は大学院のオンラインプログラムがスタートして大忙しだ。
仕事も年末進行で慌ただしく、合間を縫ってレポートに取り組む毎日。
年末年始は実家に帰る予定もあって、心身ともにテンパっていた。
隆哉は事件のあと、アメリカへ戻った。
今も時折オンラインで連絡をくれる。
あのとき彼の気持ちに触れてしまったことで、以前とはほんの少しだけ空気が変わったように思う。
でも、隆哉も俺も、努めて今まで通りに接しようとしていた。
いつかまた、何も考えずにただ一緒にいるだけで楽しかった頃のように戻れる日が来るだろうか……そんな淡い願いを抱きながら。
一方で、怜央はあれから匠真に――どころか、誰にも接触してこなかった。
九条ホールディングの会長を解任されたと聞いたとき、胸の奥に冷たい風が吹いた。
寂しさではなく、ようやく「終わった」という実感だった。
そして俺たちは、例のセキュリティー万全のマンションを出て、元のマンションに戻った。
匠真は「住み慣れてる方が落ち着く」と言い、俺は俺で母親から
「いつまで人の家にお世話になるつもり?」
と刺すような小言を言われた結果だった。
同棲はしていない。
でも実際には、ほとんど毎日、どちらかの部屋で一緒に過ごしている。
溝口さんには、感謝と報告のために山梨まで会いに行った。
匠真の父親に封の勾玉を渡したのも宗雅さんの手配だと知り、溝口さんは目を細めて
「……そうか。九条は終わるか」
と静かに呟いた。その背中は、ほんの少しだけ軽くなって見えた。
──そんな日々を経て、今日のクリスマスイブだ。
◆
「颯、こっちは切ったぞ」
キッチンで匠真が、手際よくチキンを切り分けていた。
皿に盛られたローストチキンとラザニア。
二人で一緒に作った料理がテーブルに並ぶ。
小さな丸いケーキは、冬華さんが差し入れてくれた限定品。
クリスマスイブのために、早々に予約してくれていたらしい。
冬華さん曰く「お歳暮」なのだとか。
彼女が社長を務める「丸友AIエージェンシー」とは良好な取引が続いている。
来年も早々から、新規のAIプロジェクトを合同で進める予定だ。
料理を食べ終え、ケーキにフォークを入れながら
「これ、めっちゃ美味しいな……」
と俺が幸せそうに呟いたとき、
「そうだ。プレゼント、渡していいか?」
匠真が思い出したように言った。
「もちろん」
渡された包みを開けた瞬間、呼吸が止まった。
──最新のiPad。
しかもフルスペック、最上位モデル。
「まじで……これ……?」
「おまえ、秋の発売時に“これいいなぁ”って言ってただろ。覚えてた」
胸の奥がぎゅっと熱を帯びた。
欲しかった。でも、手が回らなかった。
大学院進学のタイミングでパソコンを買い換えたから、タブレットまでは無理だった。
まさか匠真が、そんな独り言を覚えていてくれたとは思わなかった。
「……ありがとう。ほんとに、嬉しい」
そう言って立ち上がり、俺も匠真にプレゼントを渡した。
「俺からは、これ」
匠真が愛用しているブランドの冬用コート。
色も素材も実用性も、何度も悩んで選んだ。
「いい色だな」
「気に入った?」
「ああ、ありがとう。さっそく明日から着るよ」
匠真は俺の頭を軽く撫でた。
そのさりげない仕草がやさしくて、胸がまた熱くなった。
会社では強面なのに、俺を見る目はいつもやさしい。
シャンパンを開けると、二つのグラスに泡が立つ。
「……乾杯」
「うん」
静かにグラスを合わせる。
冬の冷たい空気の向こうで、遠くのイルミネーションが微かに瞬いていた。
部屋の灯りが柔らかく反射し、グラスの中の黄金色が揺れる。
ふと、匠真が言った。
「来年のクリスマスも……再来年も……」
言葉を区切ったあと、俺を見る。
「颯、おまえと過ごしたい」
心臓が静かに跳ねた。
返事は考えるまでもない。
俺はグラスを置き、匠真の手にそっと触れた。
「……うん。一緒に」
匠真は目を細め、小さく息を吐いて、
そのまま俺をそっと引き寄せた。
額が触れ合い、指が絡む。
この冬の夜は静かで温かくて、
どこにも逃げ場のないほどに優しかった。
◆
俺たちの日常はまだ続いていく。
二人で歩く季節が、これからも重なっていく。
あの夜、深く静かに願った。
来年も、再来年も、その先も。
この景色の隣には、おまえがいる。
ー完ー
*************************
この物語を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
匠真と颯の物語は、ひとまずここで一区切りとなります。
ただ、彼らの日常はこれからも続いていきます。
もし読者のみなさんから「もっと見たい」「二人のその後を知りたい」という声をいただけたら、
番外編や外伝の形で、また少しだけ彼らの世界を覗いてみたいと思っています。
まずは、二人の静かなクリスマスの夜が、みなさんにも温かく届きますように。
*************************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「君と灯す冬の灯 ー Winter Lights, With You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「君と灯す冬の灯 ー Winter Lights, With You」はこちら⇒ https://youtu.be/diahYVkYwow
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