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第四十話 変化球
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「皇女様は、皇帝陛下に話してみると言っていました」
私が皇女様の反応を話すと、ラウル様は何かを考えるように口を閉ざした。
「私は皇帝陛下にお会いしたことがないので想像がつかないのですが、皇女様のお話を聞いて、どう思われるでしょうか?」
「先代の陛下なら、耳を貸されたかもしれませんが、現在の陛下は大きな変化を望まない方なので…よほど皇女が強く訴えない限り、難しいかもしれません」
先代の陛下は、確か数年前に亡くなられたはずだ。
ということは、皇女様が皇帝陛下に話をしたとしても、当面は大きな動きはない可能性が高い。
(少しでも早く皇女様が動いてくれれば、皇位継承の争いも早く終結すると思ったのだけど…)
そううまくは行ってくれないようだ。
ただ、皇女様がその気になれば、少しぐらいはその時期が早まる可能性はある。
「皇女様は、もしそういう話になったときには、力を貸して欲しいと仰っていました」
「私にできることは限られていますが、その時には公爵家が後ろ盾になることは可能です」
リリア皇女様が物語の筋書き通りに皇太女になり、やがて女帝となることは、ラウル様にとってもカイルにとっても、唯一の救いの道になるはずだ。
それが早まれば、なおさらラウル様とカイルの身の安全も保障される。
「皇女様からは、微力どころか目一杯協力してもらう…と言われてしまいました…大丈夫でしょうか…」
私が言うと、ラウル様が声を立てて笑ったので、ちょっと驚いてしまう。
「あの人に安易な約束はしないほうがいいですよ。後で酷い目に遭うことがありますから」
冗談っぽくラウル様が言うので、私も思わず笑ってしまう。
勝手にそんな話を進めるなと怒られることを心配していたけれど…その心配はなさそうだった。
「そういえば、建国祭には出席しないのかと聞かれました。たぶん出席しないと答えましたけど」
「毎年招待状は来ますけど、この地に来てからは参加したことがないですね。もしかして、シャーレットさんは参加したかったですか?」
「あ、いえ、私はそういう公の場に一度も出たことがないので…あまり参加したいとも思わないです」
「では、デビュタントは?」
「私は妾の子…私生児なので…一応、最低限の教育は受けてきましたが、公の場に出る機会はありませんでした」
シャーレットの腹違いの姉たちは、目一杯着飾ってデビュタントに参加していた。
ただ、妾の子であるシャーレットにはその機会は与えられなかった。
ラウル様が申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、余計なことを聞きました」
「いえ、私はそんなに社交的でもないし、デビュタントに参加したとしても、きっと居場所がなかったと思います」
前世でも、人が大勢いる場所は苦手だった。
たくさんの子どもに囲まれることに苦痛を感じたことはなかったけど。
たくさんの大人がいる場所は、常に息苦しく感じた。
(でも、ここでは息苦しさは感じない…人が少ないっていうのもあるのかもしれないけれど…)
「私はここが好きだし、ラウル様やカイルが好きだし、このお城のみんなが好きです。だから、ここを守りたいって思います。それが今の気持ちです」
翌日、朝の早い時間に、私はカイルの部屋に向かった。
カイルが少なからず傷ついているだろうと考えると、いてもたってもいられない気持ちにだった。
(ラウル様も時間を見つけて様子を見に行くとは言っていたけれど……)
案の定、カイルは泣きはらした顔をしていた。
実の父親だと思っていた人から、「父親ではない」と言われたら、5歳の子どもでなくてもショックを受けるはずだ。
「カイル…」
「お母さん…お父さんが、お父さんじゃないって言うの…」
私を見つめるカイルの瞳が、みるみるうちに潤んでいく。
カイルは、ラウル様から「父親ではない」と言われたことが一番ショックだったのだ。
「もう、お父さんって呼んじゃダメなの?」
「それは違うわ。お父さん…ラウル様は、カイルに本当のお父さんとお母さんがいるっていうことを伝えたかっただけなの。もうカイルのお父さんじゃないっていう意味じゃないのよ」
「本当?」
すがるように聞いてくるカイルに、私は頷いた。
「カイルに本当のお父さんはいるけど、お父さんはお父さんよ。私がカイルの本当のお母さんじゃなくても、お母さんであるように。本当のお母さんじゃなかったら、私はお母さんじゃない?」
「ううん…お母さんは、お母さんだよ」
「お父さんも同じよ。カイルがお父さんだと思っている限り、ラウル様はカイルのお父さんだから、心配しないで」
「本当?」
「本当よ」
カイルの表情が、少しだけ和らいだ。
「お父さんは…ぼくの本当のお父さんとお母さんを守れなかったって言ってた…」
「お父さん…ラウル様は、強いお方だから、必ずカイルの本当のお父さんとお母さんを守ろうと思っていたの。だから、守れなかったことを自分のせいのように感じているの。でも、一番悪いのは誰か、カイルなら分かるわよね?」
「うん…お父さんとお母さんをころした人が、一番悪いよ」
「それが分かっていたらいいの」
私はカイルの小さな体を抱きしめた。
1つ1つ、絡まっている部分をほどいていくことが、大切だと思う。
「お母さん…一つ聞いてもいい?」
「うん、何でも聞いていいわよ」
「どうして公爵様じゃなくて、ラウル様って呼んでるの?」
「え…」
思わぬ変化球が飛んできた。
私が皇女様の反応を話すと、ラウル様は何かを考えるように口を閉ざした。
「私は皇帝陛下にお会いしたことがないので想像がつかないのですが、皇女様のお話を聞いて、どう思われるでしょうか?」
「先代の陛下なら、耳を貸されたかもしれませんが、現在の陛下は大きな変化を望まない方なので…よほど皇女が強く訴えない限り、難しいかもしれません」
先代の陛下は、確か数年前に亡くなられたはずだ。
ということは、皇女様が皇帝陛下に話をしたとしても、当面は大きな動きはない可能性が高い。
(少しでも早く皇女様が動いてくれれば、皇位継承の争いも早く終結すると思ったのだけど…)
そううまくは行ってくれないようだ。
ただ、皇女様がその気になれば、少しぐらいはその時期が早まる可能性はある。
「皇女様は、もしそういう話になったときには、力を貸して欲しいと仰っていました」
「私にできることは限られていますが、その時には公爵家が後ろ盾になることは可能です」
リリア皇女様が物語の筋書き通りに皇太女になり、やがて女帝となることは、ラウル様にとってもカイルにとっても、唯一の救いの道になるはずだ。
それが早まれば、なおさらラウル様とカイルの身の安全も保障される。
「皇女様からは、微力どころか目一杯協力してもらう…と言われてしまいました…大丈夫でしょうか…」
私が言うと、ラウル様が声を立てて笑ったので、ちょっと驚いてしまう。
「あの人に安易な約束はしないほうがいいですよ。後で酷い目に遭うことがありますから」
冗談っぽくラウル様が言うので、私も思わず笑ってしまう。
勝手にそんな話を進めるなと怒られることを心配していたけれど…その心配はなさそうだった。
「そういえば、建国祭には出席しないのかと聞かれました。たぶん出席しないと答えましたけど」
「毎年招待状は来ますけど、この地に来てからは参加したことがないですね。もしかして、シャーレットさんは参加したかったですか?」
「あ、いえ、私はそういう公の場に一度も出たことがないので…あまり参加したいとも思わないです」
「では、デビュタントは?」
「私は妾の子…私生児なので…一応、最低限の教育は受けてきましたが、公の場に出る機会はありませんでした」
シャーレットの腹違いの姉たちは、目一杯着飾ってデビュタントに参加していた。
ただ、妾の子であるシャーレットにはその機会は与えられなかった。
ラウル様が申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、余計なことを聞きました」
「いえ、私はそんなに社交的でもないし、デビュタントに参加したとしても、きっと居場所がなかったと思います」
前世でも、人が大勢いる場所は苦手だった。
たくさんの子どもに囲まれることに苦痛を感じたことはなかったけど。
たくさんの大人がいる場所は、常に息苦しく感じた。
(でも、ここでは息苦しさは感じない…人が少ないっていうのもあるのかもしれないけれど…)
「私はここが好きだし、ラウル様やカイルが好きだし、このお城のみんなが好きです。だから、ここを守りたいって思います。それが今の気持ちです」
翌日、朝の早い時間に、私はカイルの部屋に向かった。
カイルが少なからず傷ついているだろうと考えると、いてもたってもいられない気持ちにだった。
(ラウル様も時間を見つけて様子を見に行くとは言っていたけれど……)
案の定、カイルは泣きはらした顔をしていた。
実の父親だと思っていた人から、「父親ではない」と言われたら、5歳の子どもでなくてもショックを受けるはずだ。
「カイル…」
「お母さん…お父さんが、お父さんじゃないって言うの…」
私を見つめるカイルの瞳が、みるみるうちに潤んでいく。
カイルは、ラウル様から「父親ではない」と言われたことが一番ショックだったのだ。
「もう、お父さんって呼んじゃダメなの?」
「それは違うわ。お父さん…ラウル様は、カイルに本当のお父さんとお母さんがいるっていうことを伝えたかっただけなの。もうカイルのお父さんじゃないっていう意味じゃないのよ」
「本当?」
すがるように聞いてくるカイルに、私は頷いた。
「カイルに本当のお父さんはいるけど、お父さんはお父さんよ。私がカイルの本当のお母さんじゃなくても、お母さんであるように。本当のお母さんじゃなかったら、私はお母さんじゃない?」
「ううん…お母さんは、お母さんだよ」
「お父さんも同じよ。カイルがお父さんだと思っている限り、ラウル様はカイルのお父さんだから、心配しないで」
「本当?」
「本当よ」
カイルの表情が、少しだけ和らいだ。
「お父さんは…ぼくの本当のお父さんとお母さんを守れなかったって言ってた…」
「お父さん…ラウル様は、強いお方だから、必ずカイルの本当のお父さんとお母さんを守ろうと思っていたの。だから、守れなかったことを自分のせいのように感じているの。でも、一番悪いのは誰か、カイルなら分かるわよね?」
「うん…お父さんとお母さんをころした人が、一番悪いよ」
「それが分かっていたらいいの」
私はカイルの小さな体を抱きしめた。
1つ1つ、絡まっている部分をほどいていくことが、大切だと思う。
「お母さん…一つ聞いてもいい?」
「うん、何でも聞いていいわよ」
「どうして公爵様じゃなくて、ラウル様って呼んでるの?」
「え…」
思わぬ変化球が飛んできた。
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