夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸

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第四十一話 難しい事なんて、何もありません

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「え、ええと、それはね…」

こういうのは、どう説明すればいいんだろう。
カイルは目をキラキラ輝かせて私の返答を待っている。
言葉を取り繕ったり、照れ隠しで違うことを言うのは違う気がした。
私はあの時の状況や経緯を、そのままカイルに話した。

「お父さんとお母さんは夫婦なのに、そういう呼び方はおかしいと皇女様に言われたの。そう言われるとそうだなと思ったので、呼び方を変えたのよ」
「ふうふだと、公爵様と呼んではいけないの?」
「いけないわけではないけど…親しい人への呼び方ではないかもしれないわね」
「ふーん…」
「お母さんも、勉強中なの。結婚したばかりだから、言われないと気づかないことも多いのよ」
「そっかー…」

話をしているうちに、カイルのまぶたが重くなってきたようだった。

(きっと、昨日はあまり眠れなかったのね)

「カイル、お昼寝しようか」
「うん…」

もう今にも眠ってしまいそうなカイルを抱き上げ、ベッドに運ぶ。
ベッドに寝かせて布団をかけると、私の手を握りしめてきた。

「カイルが眠るまでここにいるから大丈夫よ」
「うん…」

(寝ちゃった…やっぱりこの年齢の子は寝るのが早い…)

カイルの寝顔はあどけなくて可愛くて、いつまでも見ていたくなる。

(あっちの世界の子ども達も元気かな…)

最後の記憶をたどると、きっと私は交通事故で亡くなったことになっているのだろう。
保育園の先生が交通事故で亡くなったなんて聞かされて、子ども達のトラウマになっていなければいいけれど…。

(同僚の保育士たちも、元気にしてるかな。私が急にいなくなって、大変だっただろうな…)

保育士はどこも人手不足で、一人一人の負担が大きい。
風邪なんかで誰かが休もうものなら、出勤している保育士達はてんてこ舞い状態になる。
次のお誕生日会やクリスマスでやろうと思っていたことまで思い出し、少し感傷的な気持ちになってしまった。
この世界に来てから…特に結婚してからは慌ただしい日々で、元の世界でもし生きていたら…なんてことは考える余裕もなかったけど。
カイルの寝顔を見ていると、いろんなことを思い出した。
気がつくと、眠るときにはぎゅっと握りしめていたカイルの手が離れている。
私はカイルを起こさないように、そっと立ち上がった。
そして、部屋の外に出たところで、ラウル様が立っているのに気づいた。

「すみません、カイルのことが気になってきてしまいました…」
「大丈夫です。もうずいぶんと落ち着いていました。昨日は眠れなかったようで、今眠ったところです」

私がそう言うと、ライル様はホッとしたような表情をする。

「ありがとうございます。少し安心しました」

廊下を歩きながら、私はカイルと話したことをラウル様に伝える。
カイルにとっては、本当の両親が死んでいたということよりも、ラウル様が父親ではないということのほうにショックを受けていたということ。
でも、今までと関係が変わることはないと伝えると、少し安心していたということ。

「だから、今まで通り、カイルを息子だと思って接してあげたほうがいいと思います。お兄様に遠慮する部分はあるかもしれないですが…」
「分かりました」
「たぶん、次に会ったときは、元気になってると思います。たくさん抱きしめてあげてください。今のカイルに必要なのは、ラウル様との関係は今までと何も変わらないという確信だと思います」
「はい。問題は、私のほうにあったのですね…」

ラウル様は苦笑気味に言う。
責めているつもりはなかったのだけど、そういう気持ちにさせてしまったのかもしれない。

「あの、問題というか…カイルはラウル様のことが、大好きなんです。だから離れたくない、嫌われたくないと思っている。それだけなんです。難しい事なんて、何もありません。子どもは大人とは違って、とてもシンプルですから」

前世で関わった子ども達も同じだった。
子ども達の気持ちはいつでもシンプルで、それをややこしくしているのは、ほとんどの場合、大人のほうだった。

「シャーレットさんは、すごいですね。私にも子どもの時代はあったはずですが、カイルの気持ちはまったく分かっていなかったなと思いました」
「いえ、私は…子どもが好きなんです。それだけですよ。すごくなんてないです」

前世で保育士としてたくさんの個性豊かな子ども達と過ごしてきた時間も、カイルの気持ちを理解するのに役に立っていると思う。
でも、それはラウル様に言っても分からないことだけど。

(いつか、そういう話をする日も来るのかな…)
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