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第百十四話 違和感の理由が分かった気がします
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「シャーレットさん?どうかしましたか?」
「え、ええと…」
たとえば、自分で作曲したと大嘘をつけば、とりあえずこの場はごまかせるかもしれない。
でも、あの時弾いた曲はさまざまな曲調のものが混ざっていたし、一人が作曲したものと主張するのは難しいだろう。
それに、教本を全部覚えるほどピアノの知識と技術があるのなら、ごまかそうとすればするほど、話がこじれてしまうかもしれない。
ここまで夫婦として信頼関係を築いてきたのに、ごまかしたり嘘をついたりするのは嫌だった。
(全部真実を話さないまでも、私が他の人とは少し違うということは、伝えておくべきかもしれない…)
特にラウル様が国で重要な立ち位置にいる以上、私が前世に関わる知識を披露することで、引っ張る可能性も出てくる。
ラウル様には私が他の人と違う理由を話しておけば、人に言っていいこととやめておいたことの判断もしてもらえるだろうし…。
(私自身はほとんど無意識に前世が出てしまうときがあるから…)
「あの…ものすごく奇天烈なことを今から話しますが、聞いてもらえますか?」
「はい、それはもちろん…どうしたんですか、急に?」
ラウル様は不思議そうに首をかしげる。
「私が、普通の人とは少し違うことを、ラウル様には知っておいてももらいたくて…」
「分かりました。話してください」
「私…実は前世の記憶があるんです。今まで、実家の本で読んだとか言ってたことは嘘で、ほとんど全部前世の知識です」
私が言うと、ラウル様は思い出したように言った。
「あ…もしかして凧もそうですか?」
「はい…すみません…あれは、前世で作ったり遊んだりしたことがあるものでした。実家の本には、そんな情報が書いてあるものはありません」
「では、ピアノの曲も?」
「はい、あれも全部、前世で私が覚えたものです。だから、この世界の作曲家のものではありません」
とりあえず、自分で作曲したなどという大嘘をつかなくて済んだことにホッとした。
ただ、ラウル様の反応は気になってしまう。
「なるほど……」
そう言ったまま、ラウル様はしばらく黙り込んでしまった。
やはり頭がおかしいと思われてしまったのかもしれない…。
「シャーレットさんがたまに寝言で私がまったく理解できない言葉を話すことがあるのですが、それもひょっとして…?」
「ええと、どんなことを言ったかは分かりませんが、たぶん、そうだと思います…」
まさか寝言までしっかり聞かれているとは思わなかったので、少し恥ずかしくなる。
私は緊張しながら、ラウル様の言葉を待った。
「ずっとシャーレットさんへの理解が足りないと思ってたんですが、その理由が判明してすっきりしました」
ラウル様が笑ってそう言うので、私は拍子抜けしてしまった。
「え…信じてくれるんですか?頭がおかしいとか、思わないですか?」
「思いませんよ。凧は非常に考えられた構造のものでしたし、ピアノの曲も変わった旋律でしたが、心を和ませる不思議な雰囲気がありましたし。前世の記憶と言われれば、納得できます」
「良かった…信じてもらえて…」
ここが小説の中の世界だとかそういう話は、ややこしくなるだけだからしないほうが良いだろう。
ひとまず私が他の人たちと少し違う部分があるということが伝わっただけでも良かった。
「私自身、あまり考えずに前世の知識を持ち出すことがあるので、これはおかしいと思われるというようなことがあったら、指摘してもらえると助かります」
「分かりました。確かに、理解できない人も多いでしょうから、気をつけたほうが良い時もあるかもしれませんね」
「はい…」
やはり話してみて良かったと思った。
ラウル様は腕を伸ばして、私の体を引き寄せた。
その温もりを感じて、改めて気持ちがホッとする。
「前世のシャーレットさんは、どんな人だったのですか?」
「どんな人…普通の人だったと思います。特に身分もない世界だったし。仕事は、子どもを預かる保育士という職業でした。ちょうどカイルと同じぐらいの年の子どもを、20人ぐらい見ていました」
「20人…カイルが20人と考えると、ちょっとすごいですね…」
「あ、でも、担当の保育士がもう一人いるので、正確には1人当たり10人ですね」
「それでもすごいです。シャーレットさんが子どもの扱いに慣れていたのは、そういう理由があったのですね」
「子どもが好きで選んだ仕事だったので…毎日とても楽しかったです」
「でも、子どもは機嫌の良いときばかりではないでしょう。それを一人で10人預かるのは、やはりすごいです…」
確かにそう言われれば、すごいのかもしれないと思う。
ただその渦中にいる時は、それが当然だと思っているから大変だという気持ちはあまりなかった。
「話しにくいことを話してくれて、ありがとうございます。何となくシャーレットさんに感じていた違和感の理由が分かった気がします」
「そうですよね…違和感を感じられて当然だったと思います。私も話せて良かったです。これからは少し慎重になろうと思ってますけど、私がうっかりしていたら指摘してくださいね」
「それは任せてください。確かにシャーレットさんの前世の知識をそのまま披露し続けると、悪意のある者は魔女だとか言い出すでしょうから…」
ラウル様の言葉で、私は自分が今までいかに危険なことをしていたのかということに気づいた。
確かに、私が何の考えもなしに前世の知識を持ち出し続けていたら、魔女の疑いを抱かせてしまう可能性もある。
そうなると、ラウル様も立場も微妙なものになってしまうだろう。
(特にこれからは、本当に気をつけないと…)
「え、ええと…」
たとえば、自分で作曲したと大嘘をつけば、とりあえずこの場はごまかせるかもしれない。
でも、あの時弾いた曲はさまざまな曲調のものが混ざっていたし、一人が作曲したものと主張するのは難しいだろう。
それに、教本を全部覚えるほどピアノの知識と技術があるのなら、ごまかそうとすればするほど、話がこじれてしまうかもしれない。
ここまで夫婦として信頼関係を築いてきたのに、ごまかしたり嘘をついたりするのは嫌だった。
(全部真実を話さないまでも、私が他の人とは少し違うということは、伝えておくべきかもしれない…)
特にラウル様が国で重要な立ち位置にいる以上、私が前世に関わる知識を披露することで、引っ張る可能性も出てくる。
ラウル様には私が他の人と違う理由を話しておけば、人に言っていいこととやめておいたことの判断もしてもらえるだろうし…。
(私自身はほとんど無意識に前世が出てしまうときがあるから…)
「あの…ものすごく奇天烈なことを今から話しますが、聞いてもらえますか?」
「はい、それはもちろん…どうしたんですか、急に?」
ラウル様は不思議そうに首をかしげる。
「私が、普通の人とは少し違うことを、ラウル様には知っておいてももらいたくて…」
「分かりました。話してください」
「私…実は前世の記憶があるんです。今まで、実家の本で読んだとか言ってたことは嘘で、ほとんど全部前世の知識です」
私が言うと、ラウル様は思い出したように言った。
「あ…もしかして凧もそうですか?」
「はい…すみません…あれは、前世で作ったり遊んだりしたことがあるものでした。実家の本には、そんな情報が書いてあるものはありません」
「では、ピアノの曲も?」
「はい、あれも全部、前世で私が覚えたものです。だから、この世界の作曲家のものではありません」
とりあえず、自分で作曲したなどという大嘘をつかなくて済んだことにホッとした。
ただ、ラウル様の反応は気になってしまう。
「なるほど……」
そう言ったまま、ラウル様はしばらく黙り込んでしまった。
やはり頭がおかしいと思われてしまったのかもしれない…。
「シャーレットさんがたまに寝言で私がまったく理解できない言葉を話すことがあるのですが、それもひょっとして…?」
「ええと、どんなことを言ったかは分かりませんが、たぶん、そうだと思います…」
まさか寝言までしっかり聞かれているとは思わなかったので、少し恥ずかしくなる。
私は緊張しながら、ラウル様の言葉を待った。
「ずっとシャーレットさんへの理解が足りないと思ってたんですが、その理由が判明してすっきりしました」
ラウル様が笑ってそう言うので、私は拍子抜けしてしまった。
「え…信じてくれるんですか?頭がおかしいとか、思わないですか?」
「思いませんよ。凧は非常に考えられた構造のものでしたし、ピアノの曲も変わった旋律でしたが、心を和ませる不思議な雰囲気がありましたし。前世の記憶と言われれば、納得できます」
「良かった…信じてもらえて…」
ここが小説の中の世界だとかそういう話は、ややこしくなるだけだからしないほうが良いだろう。
ひとまず私が他の人たちと少し違う部分があるということが伝わっただけでも良かった。
「私自身、あまり考えずに前世の知識を持ち出すことがあるので、これはおかしいと思われるというようなことがあったら、指摘してもらえると助かります」
「分かりました。確かに、理解できない人も多いでしょうから、気をつけたほうが良い時もあるかもしれませんね」
「はい…」
やはり話してみて良かったと思った。
ラウル様は腕を伸ばして、私の体を引き寄せた。
その温もりを感じて、改めて気持ちがホッとする。
「前世のシャーレットさんは、どんな人だったのですか?」
「どんな人…普通の人だったと思います。特に身分もない世界だったし。仕事は、子どもを預かる保育士という職業でした。ちょうどカイルと同じぐらいの年の子どもを、20人ぐらい見ていました」
「20人…カイルが20人と考えると、ちょっとすごいですね…」
「あ、でも、担当の保育士がもう一人いるので、正確には1人当たり10人ですね」
「それでもすごいです。シャーレットさんが子どもの扱いに慣れていたのは、そういう理由があったのですね」
「子どもが好きで選んだ仕事だったので…毎日とても楽しかったです」
「でも、子どもは機嫌の良いときばかりではないでしょう。それを一人で10人預かるのは、やはりすごいです…」
確かにそう言われれば、すごいのかもしれないと思う。
ただその渦中にいる時は、それが当然だと思っているから大変だという気持ちはあまりなかった。
「話しにくいことを話してくれて、ありがとうございます。何となくシャーレットさんに感じていた違和感の理由が分かった気がします」
「そうですよね…違和感を感じられて当然だったと思います。私も話せて良かったです。これからは少し慎重になろうと思ってますけど、私がうっかりしていたら指摘してくださいね」
「それは任せてください。確かにシャーレットさんの前世の知識をそのまま披露し続けると、悪意のある者は魔女だとか言い出すでしょうから…」
ラウル様の言葉で、私は自分が今までいかに危険なことをしていたのかということに気づいた。
確かに、私が何の考えもなしに前世の知識を持ち出し続けていたら、魔女の疑いを抱かせてしまう可能性もある。
そうなると、ラウル様も立場も微妙なものになってしまうだろう。
(特にこれからは、本当に気をつけないと…)
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