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第百十三話 英雄は色を好むとは言うが…
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側近の騎士を通じてラウルから連絡があったのは、5年前のあの事件の直後。
その4年ほど前、イザークは新任の警官として、懲罰中だったラウルと一緒に仕事をする機会があった。
期間は4ヶ月ほどだったが、皇帝直属の特殊部隊の一員として、ラウルの指揮下で働いていた。
最初は伯爵令嬢の取り合いで懲罰を受けた皇帝の孫…ということで忠誠心など皆無だったが、一緒に仕事をするうちに能力の優秀さを知ることになった。
そして彼が、公子という高位の身分でありながら、平民も貴族も区別なく平等に接する姿に好感を持った。
皇宮警察に所属する貴族は子爵や男爵などの下位貴族が多く、ことさら平民の警官を見下すような風潮があっただけに、イザークは驚いた。
そして実力主義のラウルの方針もあり、平民貴族関係なく優秀な者に優先して任務を振り分けられ、自然とイザークと接する機会も増えていった。
気がつくと年下でありながら、上官として敬意を持って接するようになっていた。
さらにイザークともう一人の平民の警官・アヒムが関わったある出来事のために、ラウルの懲罰期間が1ヶ月延びてしまうということがあった。
ラウルは自分が公爵家の次男で皇帝の孫である立場を利用して、兄のランベルト大公とともにイザークとアヒムを助けたのだった。
前皇帝は激怒して一週間の懲罰房入りと懲罰期間を1ヶ月延長する処分を行った。
当時、皇帝の寵愛を一身に受けていたはずのラウルが、そこまでの懲罰を受けることになるほど、その怒りはすさまじかった。
(理由も理由だったからだろうけど…)
皇宮警察の警官の中でも、ごく一部しか知らない皇帝のタブーを知っているイザークから見れば、懲罰として皇宮警察勤務を命じられたのも、過酷な懲罰房入りとなったのも、理由は単純に皇帝の『嫉妬』だろうと思う。
(英雄は色を好むとは言うが…あまりにも歪んでいた…)
ただその皇帝の『嫉妬』のおかげで、イザークたち平民警官は、長年悩まされていた皇宮警察の悪弊とも完全に決別することができたという一面もあった。
ラウルが『悪弊』の詳細について皇帝に報告したところ、激怒した皇帝によって『悪弊』に関わった者たちがことごとく処罰され、その後はそういうこともなくなり、話も聞かなくなった。
さらに、皇宮警察の職務倫理の規則にも明記されたため、現在そういうことを行えば、すぐに厳罰の対象となる。
おそらくラウルは、自分を溺愛している皇帝にそれを報告すれば、悪弊は一瞬にしてなくなるだろうと計算していたのだと思う。
それぐらい、前皇帝の時代は、皇帝の権力が強かった。
あるとき、イザークはラウルと皇帝のタブーについて話す機会があったが、彼は完全に『仕事』と割り切っていた。
そして彼にとって『皇帝』は『祖父』ではなく『皇帝』でしかなかった。
そう割り切らなければ、まともな神経ではいられないという理由もあったのかもしれない。
だからこそ、自分が受けている寵愛を利用して、平民警官たちを『悪弊』から解放してくれたのだとイザークは思っている。
(閣下の独特の危うさを感じる雰囲気や自分を軽く扱うクセは、間違いなくあの老皇帝のせいだろう…)
ラウル自身、タブーの部分とは別として、皇帝に対しては素直に尊敬の気持ちを抱いている様子もあったから、その心の内は相当に複雑だったに違いない。
(結婚したと聞いたときは驚いたけど…)
ラウルが普通に夫婦として夫人と良好な関係を築いていることには、自分のことのように安堵した。
イザーク自身、童顔のせいでたびたび悪弊の餌食になっていた過去の影響もあり、未だに恋愛に積極的になれないトラウマを抱えている。
ただラウルの姿を見ていると、いつか自分も伴侶を見つけて当たり前の幸せを手に入れることができるかもしれないという希望も抱いていた。
ともかく、イザークには、ラウルに対してさまざまな恩があった。
だからラウルからカイルの件で助けを求められたとき、皇宮警察の警官としての義務感よりも恩を返すことを優先した。
5年前の事件で、大公夫妻の長男であるカイルを死んだように偽装したのは、他ならぬイザークとアヒムだった。
バレれば処刑も免れない重罪だ。
ただ、それだけラウルに受けた恩が二人にとっては大きかった。
現在、アヒムは退官して結婚し、南部の実家にある宿屋を継いでいる。
休暇の際などに彼の宿屋に遊びがてら宿泊することがあるが、二人きりになった時には毎回ラウルの話になる。
5年前の事件以降、北部への領地替えを認められたラウルが首都に戻ってくることはなかった。
それが突然、皇宮警察を含む皇軍の司令官という職位を経て戻って来ると聞いたときには驚いた。
さらに自分を側近の一人として招集してくれたときには、素直に嬉しかった。
本当はアヒムのことも呼びたかったようだが、すでに退官済みだと伝えると、残念がっていた。
皇宮警察が身分に関係なく出世できる組織になったのは、ラウルが先代皇帝に提出した報告書によるところが大きい。
だから、平民出身の警官たちの多くも、今回の人事を好意的に受け止めている。
もちろん、そうでない者たちもいるが…。
ラウル様が本邸に戻ってきたのは、違法賭博の貴族たちが一斉検挙された日から6日目のことだった。
皇女様も当面は皇宮に来なくても良いと言ってくれたので、この6日間、私は本邸でカイルと一緒に時間を過ごしていた。
久しぶりに会ったラウル様は、激務を物語るように、かなり疲れている様子だった。
ただ、少し状況が落ち着いたのか、すっきりとした表情をしている。
「おかえりなさい」
伸びてきた腕に引き寄せられる。
久しぶりに、ラウル様の体の温もりを感じた。
「ずっと戻れなくて、すみませんでした…」
「大変だって聞いてたので…ラウル様は大丈夫ですか?ちゃんと眠れていましたか?」
「あまり…」
「ですよね…ずっとそれだけが心配でした…」
「とりあえず明日は休みです。あと、当面は泊まり込むほどのことはないと思います」
つまり、いちおう一段落はついた…ということなのだろう。
「お疲れ様でした」
「ずっとあなたに会いたかったです」
「私も…」
ラウル様の顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。
一度目のキスは、お互いの存在を確かめるように。
二度目のキスは、お互いの思いを確かめるように。
何度もキスを繰り返すうちに、離れていた時間が埋まっていくように、心が安堵感で満たされていった。
(外が…明るい…)
目を開けるとラウル様がいるという安心感…。
しばらく一人でベッドを使う日々が続いていたので、眠っているラウル様の姿を見るのは久しぶりのことだった。
(今日は休みだって言ってたから、思う存分寝てもらおう…)
そう思ったのに、ぴくりとまつげが動いたかと思うと、ラウル様が目を覚ましてしまった。
私の存在を探すように手が伸びてきたので、その手をとった。
「起きてたんですね」
「さっき起きたところです」
「久しぶりによく眠ったような気がします」
「もう少しお休みになった方が良いのではないですか?お疲れでしょうし。さすがに体が心配になります…」
「それもいいですが…せっかくの休みなので、シャーレットさんと過ごす時間も大切にしたいなと思って」
「何かしたいこととかありますか?」
「そうですね…マルティンがいれば乗馬もいいかなと思ったんですが、彼も今日は休暇で自宅に戻ってますし…そうだ、シャーレットさんのピアノが聴きたいです」
「あんな演奏で良ければ…」
「私も教養の一環でピアノの教本は一通り学んだのですが、その中にはない曲ばかりでしたね」
ラウル様の言葉に、私は一瞬、かたまってしまった。
「え?ラウル様は教養でピアノを習っていたんですか?」
「はい。両親の方針もあって」
(そういえばラウル様って、恐ろしいほど記憶力が良かったっけ…)
「まさか、教本を全部暗記されていたりとか…」
「はい。とりあえず教本は全て暗記しています」
じわじわと追い詰められていく感覚というのは、こういうものかもしれないと思った。
まさか、教本を丸暗記している貴族が、こんな身近にいたとは…。
「あの時弾いていた曲は、どの作曲家のものなんですか?」
「え、ええと…」
(どうしよう…まさかラウル様が教養でピアノをやっていたとは…しかも教本の曲を全部覚えてるってことは、今までのような言い訳は通用しないかも…)
※ラウルの皇宮警察時代の出来事の一部エピソードについては、第九十三話を参照(https://www.alphapolis.co.jp/novel/332389240/254930019/episode/9417945)
その4年ほど前、イザークは新任の警官として、懲罰中だったラウルと一緒に仕事をする機会があった。
期間は4ヶ月ほどだったが、皇帝直属の特殊部隊の一員として、ラウルの指揮下で働いていた。
最初は伯爵令嬢の取り合いで懲罰を受けた皇帝の孫…ということで忠誠心など皆無だったが、一緒に仕事をするうちに能力の優秀さを知ることになった。
そして彼が、公子という高位の身分でありながら、平民も貴族も区別なく平等に接する姿に好感を持った。
皇宮警察に所属する貴族は子爵や男爵などの下位貴族が多く、ことさら平民の警官を見下すような風潮があっただけに、イザークは驚いた。
そして実力主義のラウルの方針もあり、平民貴族関係なく優秀な者に優先して任務を振り分けられ、自然とイザークと接する機会も増えていった。
気がつくと年下でありながら、上官として敬意を持って接するようになっていた。
さらにイザークともう一人の平民の警官・アヒムが関わったある出来事のために、ラウルの懲罰期間が1ヶ月延びてしまうということがあった。
ラウルは自分が公爵家の次男で皇帝の孫である立場を利用して、兄のランベルト大公とともにイザークとアヒムを助けたのだった。
前皇帝は激怒して一週間の懲罰房入りと懲罰期間を1ヶ月延長する処分を行った。
当時、皇帝の寵愛を一身に受けていたはずのラウルが、そこまでの懲罰を受けることになるほど、その怒りはすさまじかった。
(理由も理由だったからだろうけど…)
皇宮警察の警官の中でも、ごく一部しか知らない皇帝のタブーを知っているイザークから見れば、懲罰として皇宮警察勤務を命じられたのも、過酷な懲罰房入りとなったのも、理由は単純に皇帝の『嫉妬』だろうと思う。
(英雄は色を好むとは言うが…あまりにも歪んでいた…)
ただその皇帝の『嫉妬』のおかげで、イザークたち平民警官は、長年悩まされていた皇宮警察の悪弊とも完全に決別することができたという一面もあった。
ラウルが『悪弊』の詳細について皇帝に報告したところ、激怒した皇帝によって『悪弊』に関わった者たちがことごとく処罰され、その後はそういうこともなくなり、話も聞かなくなった。
さらに、皇宮警察の職務倫理の規則にも明記されたため、現在そういうことを行えば、すぐに厳罰の対象となる。
おそらくラウルは、自分を溺愛している皇帝にそれを報告すれば、悪弊は一瞬にしてなくなるだろうと計算していたのだと思う。
それぐらい、前皇帝の時代は、皇帝の権力が強かった。
あるとき、イザークはラウルと皇帝のタブーについて話す機会があったが、彼は完全に『仕事』と割り切っていた。
そして彼にとって『皇帝』は『祖父』ではなく『皇帝』でしかなかった。
そう割り切らなければ、まともな神経ではいられないという理由もあったのかもしれない。
だからこそ、自分が受けている寵愛を利用して、平民警官たちを『悪弊』から解放してくれたのだとイザークは思っている。
(閣下の独特の危うさを感じる雰囲気や自分を軽く扱うクセは、間違いなくあの老皇帝のせいだろう…)
ラウル自身、タブーの部分とは別として、皇帝に対しては素直に尊敬の気持ちを抱いている様子もあったから、その心の内は相当に複雑だったに違いない。
(結婚したと聞いたときは驚いたけど…)
ラウルが普通に夫婦として夫人と良好な関係を築いていることには、自分のことのように安堵した。
イザーク自身、童顔のせいでたびたび悪弊の餌食になっていた過去の影響もあり、未だに恋愛に積極的になれないトラウマを抱えている。
ただラウルの姿を見ていると、いつか自分も伴侶を見つけて当たり前の幸せを手に入れることができるかもしれないという希望も抱いていた。
ともかく、イザークには、ラウルに対してさまざまな恩があった。
だからラウルからカイルの件で助けを求められたとき、皇宮警察の警官としての義務感よりも恩を返すことを優先した。
5年前の事件で、大公夫妻の長男であるカイルを死んだように偽装したのは、他ならぬイザークとアヒムだった。
バレれば処刑も免れない重罪だ。
ただ、それだけラウルに受けた恩が二人にとっては大きかった。
現在、アヒムは退官して結婚し、南部の実家にある宿屋を継いでいる。
休暇の際などに彼の宿屋に遊びがてら宿泊することがあるが、二人きりになった時には毎回ラウルの話になる。
5年前の事件以降、北部への領地替えを認められたラウルが首都に戻ってくることはなかった。
それが突然、皇宮警察を含む皇軍の司令官という職位を経て戻って来ると聞いたときには驚いた。
さらに自分を側近の一人として招集してくれたときには、素直に嬉しかった。
本当はアヒムのことも呼びたかったようだが、すでに退官済みだと伝えると、残念がっていた。
皇宮警察が身分に関係なく出世できる組織になったのは、ラウルが先代皇帝に提出した報告書によるところが大きい。
だから、平民出身の警官たちの多くも、今回の人事を好意的に受け止めている。
もちろん、そうでない者たちもいるが…。
ラウル様が本邸に戻ってきたのは、違法賭博の貴族たちが一斉検挙された日から6日目のことだった。
皇女様も当面は皇宮に来なくても良いと言ってくれたので、この6日間、私は本邸でカイルと一緒に時間を過ごしていた。
久しぶりに会ったラウル様は、激務を物語るように、かなり疲れている様子だった。
ただ、少し状況が落ち着いたのか、すっきりとした表情をしている。
「おかえりなさい」
伸びてきた腕に引き寄せられる。
久しぶりに、ラウル様の体の温もりを感じた。
「ずっと戻れなくて、すみませんでした…」
「大変だって聞いてたので…ラウル様は大丈夫ですか?ちゃんと眠れていましたか?」
「あまり…」
「ですよね…ずっとそれだけが心配でした…」
「とりあえず明日は休みです。あと、当面は泊まり込むほどのことはないと思います」
つまり、いちおう一段落はついた…ということなのだろう。
「お疲れ様でした」
「ずっとあなたに会いたかったです」
「私も…」
ラウル様の顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。
一度目のキスは、お互いの存在を確かめるように。
二度目のキスは、お互いの思いを確かめるように。
何度もキスを繰り返すうちに、離れていた時間が埋まっていくように、心が安堵感で満たされていった。
(外が…明るい…)
目を開けるとラウル様がいるという安心感…。
しばらく一人でベッドを使う日々が続いていたので、眠っているラウル様の姿を見るのは久しぶりのことだった。
(今日は休みだって言ってたから、思う存分寝てもらおう…)
そう思ったのに、ぴくりとまつげが動いたかと思うと、ラウル様が目を覚ましてしまった。
私の存在を探すように手が伸びてきたので、その手をとった。
「起きてたんですね」
「さっき起きたところです」
「久しぶりによく眠ったような気がします」
「もう少しお休みになった方が良いのではないですか?お疲れでしょうし。さすがに体が心配になります…」
「それもいいですが…せっかくの休みなので、シャーレットさんと過ごす時間も大切にしたいなと思って」
「何かしたいこととかありますか?」
「そうですね…マルティンがいれば乗馬もいいかなと思ったんですが、彼も今日は休暇で自宅に戻ってますし…そうだ、シャーレットさんのピアノが聴きたいです」
「あんな演奏で良ければ…」
「私も教養の一環でピアノの教本は一通り学んだのですが、その中にはない曲ばかりでしたね」
ラウル様の言葉に、私は一瞬、かたまってしまった。
「え?ラウル様は教養でピアノを習っていたんですか?」
「はい。両親の方針もあって」
(そういえばラウル様って、恐ろしいほど記憶力が良かったっけ…)
「まさか、教本を全部暗記されていたりとか…」
「はい。とりあえず教本は全て暗記しています」
じわじわと追い詰められていく感覚というのは、こういうものかもしれないと思った。
まさか、教本を丸暗記している貴族が、こんな身近にいたとは…。
「あの時弾いていた曲は、どの作曲家のものなんですか?」
「え、ええと…」
(どうしよう…まさかラウル様が教養でピアノをやっていたとは…しかも教本の曲を全部覚えてるってことは、今までのような言い訳は通用しないかも…)
※ラウルの皇宮警察時代の出来事の一部エピソードについては、第九十三話を参照(https://www.alphapolis.co.jp/novel/332389240/254930019/episode/9417945)
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