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百十六話 あの兄弟、クセが強すぎるの
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憲法審議会の第一回目の会議が行われる日。
私は皇女様の侍女として、参加することになった。
皇帝陛下が議長をつとめ、皇女様はその補佐という形だ。
無理に参加しなくても良いと皇女様は言ってくれたのだけど、会議の中身が気になったので、ラウル様の許可を頂いて、私も出席することにしたのだった。
もし皇女様の侍女でなければこういう機会も得られなかったことを考えると、やはり侍女になっておいて良かったと思った。
「これより第一回の憲法審議会を始める。議題は帝国憲法第二条1項の皇位継承者の条件について。現在は性別が男性と限られているが、これを女性にも広げるべきかどうかの議論を行う。意見のある者は挙手するように」
司会進行をつとめるのは、日頃は裁判所で裁判長をつとめる皇宮警察所属の裁判官だ。
今回の審議会は皇帝が参加しているということもあり、それなりの数の警察官が議場内に配備されている。
ラウル様は今回、審議会の議員として出席しているため、席は公爵位を含む高位貴族たちの席だ。
この場には貴族だけではなく平民の代表者も参加しているため、日頃はあまり見られないような光景が広がっていた。
「はい。よろしいでしょうか?」
真っ先に挙手したのは、エルザさんの恋人のリンツ男爵だった。
「私は仕事柄、帝国外の国へ行くことが多いのですが、現在世界の国々では…」
リンツ男爵は、世界で女性の皇帝・国王を認めている国の事例をあげ、それらの国では女性の君主が立つことによって、どのような影響があるのかなどを分かりやすく説明してくれた。
「しかし、帝国には女帝は馴染まない。戦争が起こったらどうするつもりだ。皇軍の士気にも関わるぞ」
形成が不利になったと感じたのか、ベーレンドルフ公爵が発言した。
ベーレンドルフ公爵は、ラウル様が皇軍時代に皇宮警察送りになった原因のバカ息子の父親でもある。
ついでに言うと、シャーレットの上の姉の義父になる予定の人だ。
「それに関しては、皇軍に司令官職が新設されたので問題はないのではないですか?」
「しかし、その司令官職もまとめるのが皇帝の役割だろう。失礼ながら、女性にその役割がつとまるとは思えない」
こうやって話を聞いていると、この帝国は、相当に女性蔑視の強いお国柄であることが分かる。
それは、帝国が戦争によって栄えてきた国であるということも関係しているのかもしれない。
皇軍も皇宮警察も女性の登用はなく、文官でさえ女性の登用はかなりすくなかった。
この国では女性の役割を、結婚して子どもを産むことだけだと考えている人も少なくない。
(シャーレットの父親のグリーン侯爵も、そんな考えだったものね…)
私は先日、グリーン侯爵に言われた言葉を思い出した。
皇女様は今後、皇軍や皇宮警察での女性登用を考えているようだけど、定着するまでにはかなりの時間がかかりそうだ。
第一回目の憲法審議会は、定時に始まり、終了予定時刻よりやや遅れて終了した。
今回は第一回目ということもあり、幅広く意見を募るという形で進められたが、次回は今回の議論を元に、発言者を絞って行われることになった。
その中には、改憲賛成派のリンツ男爵や反対派のベーレンドルフ公爵も含まれている。
発言者を限定するのは、今日の議論よりもやや踏み込んだ議論を行いたいという目的があるようだった。
「まあ、今日のところはお互いに様子見といった感じね」
会議が終わった後、皇女様がお部屋に誘ってくれた。
皇女様のお部屋は明るい色彩が印象的で、観葉植物や花が多く配置されていた。
「誰が賛成派で誰が反対派なのかは、何となく分かった気がします」
「ベーレンドルフ公爵みたいなのは置いておいて。賛成派に変わりそうな委員をピックアップしておくことが必要ね」
「はい。いちおう今日の発言者とその発言については、こちらにまとめておきました」
私は自分のノートを皇女様に手渡す。
「ありがとう。やっぱり高位貴族には反対派が多いわね…」
「そうですね…私の父…グリーン侯爵も筋金入りの反対派ですし…ただ、ヘレフォード伯爵は、エルザさんとリンツ男爵の説得で賛成派に味方してくれるみたいです」
「リンツ男爵は頼もしいわね。賛成派のまとめ役になってくれそう」
「はい。世界を実際に見ている方なので、発言にも説得力がありました」
「今のところ、賛成派とは違って反対派は観念的な意見が多いから、このまま国民投票に持ち込めれば、憲法改正できる可能性は高いと思う。ただし、反対派がおとなしくしていればのことだけど」
「そうですね…お金も地位もある人たちばかりなので、何か仕掛けてきそうな気もします…」
「まあ、起きてもないことを考えても仕方がないわね。建国祭の時にもらった珍しいお菓子があるんだけど、食べる?」
「はい、いただきます!」
堅苦しい話はそれで終わりだった。
「こういうときにランベルトが生きていたらなって思うのよね…でもまあ、彼が生きていたら彼が皇太子になっていただろうから、こんな会議も必要なかっただろうし、私も帝位なんて目指さなくて済んだんだけど」
「ランベルト大公はラウル様のお兄様ですよね。皇女様から見て、どんな方だったんですか?」
「ん~、ラウルとはまた違った意味でつかみ所の無い性格をしていたかな。あの兄弟、クセが強すぎるの…」
「お兄様にはお会いしたことがないので分かりませんが…ラウル様はけっこう普通だと思いますよ」
「え~……」
皇女様は変なものでも見るように、私を見つめてくる。
何かおかしなことでも、言ってしまったのだろうか……?
「まあ、そこまで彼のことを寛容に受け入れてくれているのは、いとことしては嬉しいけれど」
ランベルト大公の話は、時々ラウル様やマルティン卿からも聞いていたけれど、奥様の話はあまり聞いたことがなkった。
奥様のマリーゼ様は、カイルの本当のお母様でもある。
「そういえば、ランベルト大公の奥様はどんな方だったのですか?」
せっかくの機会なので、私は皇女様に聞いてみた。
「マリーゼは…ダールマン伯爵家の一人娘で、私の友人でもあったの」
「そうだったんですね…」
ランベルト大公夫妻の死は、皇女様にとってはいとこだけではなく、友人の死でもあったのだ。
「二人は貴族同士の結婚にしては珍しく、恋愛結婚だったのよ」
「そうなんですか」
「ランベルトとラウルの両親は彼が16歳、ラウルが14歳の時に亡くなったんだけど、その少し前に知り合ってたの」
そういえば、ラウル様のご両親の死の理由も、他殺の可能性があると言っていたことを思い出した。
「出会った当初はまだ交際はしていなかったんだけど、両親が亡くなった後にマリーゼがランベルトの支えになって、自然と付き合うようになったのよね」
「そうだったんですね…マリーゼ様はきっと、とても素敵な方だったんでしょうね」
「控えめだけど芯が強くて…自分のことはあまり話さないけど、人の話をよく聞いてくれる子だった」
「ランベルト大公は、素敵な方と巡り会われたのですね。結婚は成人してすぐに?」
「ううん…ランベルトが爵位を継いだのが成人した18歳だったけど、結婚は2年後だったかな。その後はランベルトに向いていた令嬢達の興味が、一気にラウルに傾いたわね…」
「な、なるほど…」
ラウル様とランベルト大公は見た目がそっくりだし、軍人という経歴も同じだから、ランベルト大公に夢中になっていた令嬢がラウル様にシフトするのは、自然な流れだったのだろう。
その後も、皇女様とラウル様の子どもの頃の話やランベルト大公の話などをして、穏やかな時間を過ごした。
私は皇女様の侍女として、参加することになった。
皇帝陛下が議長をつとめ、皇女様はその補佐という形だ。
無理に参加しなくても良いと皇女様は言ってくれたのだけど、会議の中身が気になったので、ラウル様の許可を頂いて、私も出席することにしたのだった。
もし皇女様の侍女でなければこういう機会も得られなかったことを考えると、やはり侍女になっておいて良かったと思った。
「これより第一回の憲法審議会を始める。議題は帝国憲法第二条1項の皇位継承者の条件について。現在は性別が男性と限られているが、これを女性にも広げるべきかどうかの議論を行う。意見のある者は挙手するように」
司会進行をつとめるのは、日頃は裁判所で裁判長をつとめる皇宮警察所属の裁判官だ。
今回の審議会は皇帝が参加しているということもあり、それなりの数の警察官が議場内に配備されている。
ラウル様は今回、審議会の議員として出席しているため、席は公爵位を含む高位貴族たちの席だ。
この場には貴族だけではなく平民の代表者も参加しているため、日頃はあまり見られないような光景が広がっていた。
「はい。よろしいでしょうか?」
真っ先に挙手したのは、エルザさんの恋人のリンツ男爵だった。
「私は仕事柄、帝国外の国へ行くことが多いのですが、現在世界の国々では…」
リンツ男爵は、世界で女性の皇帝・国王を認めている国の事例をあげ、それらの国では女性の君主が立つことによって、どのような影響があるのかなどを分かりやすく説明してくれた。
「しかし、帝国には女帝は馴染まない。戦争が起こったらどうするつもりだ。皇軍の士気にも関わるぞ」
形成が不利になったと感じたのか、ベーレンドルフ公爵が発言した。
ベーレンドルフ公爵は、ラウル様が皇軍時代に皇宮警察送りになった原因のバカ息子の父親でもある。
ついでに言うと、シャーレットの上の姉の義父になる予定の人だ。
「それに関しては、皇軍に司令官職が新設されたので問題はないのではないですか?」
「しかし、その司令官職もまとめるのが皇帝の役割だろう。失礼ながら、女性にその役割がつとまるとは思えない」
こうやって話を聞いていると、この帝国は、相当に女性蔑視の強いお国柄であることが分かる。
それは、帝国が戦争によって栄えてきた国であるということも関係しているのかもしれない。
皇軍も皇宮警察も女性の登用はなく、文官でさえ女性の登用はかなりすくなかった。
この国では女性の役割を、結婚して子どもを産むことだけだと考えている人も少なくない。
(シャーレットの父親のグリーン侯爵も、そんな考えだったものね…)
私は先日、グリーン侯爵に言われた言葉を思い出した。
皇女様は今後、皇軍や皇宮警察での女性登用を考えているようだけど、定着するまでにはかなりの時間がかかりそうだ。
第一回目の憲法審議会は、定時に始まり、終了予定時刻よりやや遅れて終了した。
今回は第一回目ということもあり、幅広く意見を募るという形で進められたが、次回は今回の議論を元に、発言者を絞って行われることになった。
その中には、改憲賛成派のリンツ男爵や反対派のベーレンドルフ公爵も含まれている。
発言者を限定するのは、今日の議論よりもやや踏み込んだ議論を行いたいという目的があるようだった。
「まあ、今日のところはお互いに様子見といった感じね」
会議が終わった後、皇女様がお部屋に誘ってくれた。
皇女様のお部屋は明るい色彩が印象的で、観葉植物や花が多く配置されていた。
「誰が賛成派で誰が反対派なのかは、何となく分かった気がします」
「ベーレンドルフ公爵みたいなのは置いておいて。賛成派に変わりそうな委員をピックアップしておくことが必要ね」
「はい。いちおう今日の発言者とその発言については、こちらにまとめておきました」
私は自分のノートを皇女様に手渡す。
「ありがとう。やっぱり高位貴族には反対派が多いわね…」
「そうですね…私の父…グリーン侯爵も筋金入りの反対派ですし…ただ、ヘレフォード伯爵は、エルザさんとリンツ男爵の説得で賛成派に味方してくれるみたいです」
「リンツ男爵は頼もしいわね。賛成派のまとめ役になってくれそう」
「はい。世界を実際に見ている方なので、発言にも説得力がありました」
「今のところ、賛成派とは違って反対派は観念的な意見が多いから、このまま国民投票に持ち込めれば、憲法改正できる可能性は高いと思う。ただし、反対派がおとなしくしていればのことだけど」
「そうですね…お金も地位もある人たちばかりなので、何か仕掛けてきそうな気もします…」
「まあ、起きてもないことを考えても仕方がないわね。建国祭の時にもらった珍しいお菓子があるんだけど、食べる?」
「はい、いただきます!」
堅苦しい話はそれで終わりだった。
「こういうときにランベルトが生きていたらなって思うのよね…でもまあ、彼が生きていたら彼が皇太子になっていただろうから、こんな会議も必要なかっただろうし、私も帝位なんて目指さなくて済んだんだけど」
「ランベルト大公はラウル様のお兄様ですよね。皇女様から見て、どんな方だったんですか?」
「ん~、ラウルとはまた違った意味でつかみ所の無い性格をしていたかな。あの兄弟、クセが強すぎるの…」
「お兄様にはお会いしたことがないので分かりませんが…ラウル様はけっこう普通だと思いますよ」
「え~……」
皇女様は変なものでも見るように、私を見つめてくる。
何かおかしなことでも、言ってしまったのだろうか……?
「まあ、そこまで彼のことを寛容に受け入れてくれているのは、いとことしては嬉しいけれど」
ランベルト大公の話は、時々ラウル様やマルティン卿からも聞いていたけれど、奥様の話はあまり聞いたことがなkった。
奥様のマリーゼ様は、カイルの本当のお母様でもある。
「そういえば、ランベルト大公の奥様はどんな方だったのですか?」
せっかくの機会なので、私は皇女様に聞いてみた。
「マリーゼは…ダールマン伯爵家の一人娘で、私の友人でもあったの」
「そうだったんですね…」
ランベルト大公夫妻の死は、皇女様にとってはいとこだけではなく、友人の死でもあったのだ。
「二人は貴族同士の結婚にしては珍しく、恋愛結婚だったのよ」
「そうなんですか」
「ランベルトとラウルの両親は彼が16歳、ラウルが14歳の時に亡くなったんだけど、その少し前に知り合ってたの」
そういえば、ラウル様のご両親の死の理由も、他殺の可能性があると言っていたことを思い出した。
「出会った当初はまだ交際はしていなかったんだけど、両親が亡くなった後にマリーゼがランベルトの支えになって、自然と付き合うようになったのよね」
「そうだったんですね…マリーゼ様はきっと、とても素敵な方だったんでしょうね」
「控えめだけど芯が強くて…自分のことはあまり話さないけど、人の話をよく聞いてくれる子だった」
「ランベルト大公は、素敵な方と巡り会われたのですね。結婚は成人してすぐに?」
「ううん…ランベルトが爵位を継いだのが成人した18歳だったけど、結婚は2年後だったかな。その後はランベルトに向いていた令嬢達の興味が、一気にラウルに傾いたわね…」
「な、なるほど…」
ラウル様とランベルト大公は見た目がそっくりだし、軍人という経歴も同じだから、ランベルト大公に夢中になっていた令嬢がラウル様にシフトするのは、自然な流れだったのだろう。
その後も、皇女様とラウル様の子どもの頃の話やランベルト大公の話などをして、穏やかな時間を過ごした。
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