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第二話 夜明けの抱擁 — Embrace Before Dawn
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付き合ってから、まだ一週間。
でも、もうずっと前から惹かれ合っていた気がする。
映画を観終えた帰り道、並んで歩く距離がいつもより近い。
涼介の肩が、何度も碧の腕に触れるたび、心臓が大きく音を立てた。
そして自然に、涼介のマンションの前に辿り着いていた。
「……寄ってく?」
低く落ち着いた声が、夜の空気に溶ける。
「うん」
拒む理由なんてなかった。碧は唾を飲み込み、小さく頷く。
その瞬間、涼介が少し安心したように微笑んだのが分かった。
周囲に誰もいないことを確認してから、碧はそっと涼介の手に触れる。涼介は、迷うことなくその指を絡め、強く握りしめた。
◆
玄関のドアを閉めると、街のざわめきがすっと遠ざかる。
静寂が二人を包み、涼介の香りがふわりと碧の鼻をかすめた。
落ち着いた照明と、整えられたリビング。黒とグレーを基調にしたインテリアは、涼介そのもののようにシンプルで誠実だった。
ソファに並んで腰を下ろす。何を話せばいいか分からず、ただグラスの水滴がテーブルに落ちる音だけがやけに大きく聞こえた。
碧の落ち着かない仕草に気づいて、涼介がふっと笑う。
「そんなに緊張しなくていい」
「……だって……男とは、初めてだから…」
「俺もだよ」
からかうでもなく、優しく告げる声に、碧の肩の力が少し抜ける。
やがて二人は、好きな映画の結末や、休日の過ごし方を語り合った。笑い合ううちに、強張っていた心がゆっくりと解けていくのを感じる。
けれど会話の合間に、ふと沈黙が落ちると、胸の奥にしまい込んでいた不安が顔を出す。
グラスの縁に残った水滴を指先でなぞりながら、碧は口を開いた。
「……俺、恋愛に関してはあんまり上手くいったことがないんだ」
言いながら、自分でもこんな話をするつもりじゃなかったと後悔する。
涼介はただ静かに聞いていた。
「学生の頃も、社会人になってからも……気づいたら距離ができて、結局続かなかった。だから、もしまた同じことになったらって思うと……」
言葉が途切れる。
けれど涼介は、笑ったり茶化したりせず、まっすぐな目で碧を見ていた。
「俺は違う。碧を手放すつもりはないよ」
低く落ち着いた声に、胸がじんと熱くなった。
「本当に……俺でいいの?」
思わず漏らした声に、涼介は驚いたように目を瞬かせた。
すぐに大きな手が、震える碧の手を包み込む。
「碧だからいいんだ。他の誰でもなく」
その真っ直ぐな言葉に、胸が熱くなった。見つめ合う視線が絡み、空気が変わる。
不意に、涼介が碧の頬に触れた。
指先がかすかに震えているのは、自分か、それとも彼か。
ゆっくりと顔が近づき、唇がそっと重なった。
最初は、確かめるような触れるだけのキス。
けれど、どちらからともなく角度を変え、もう一度深く重ねる。涼介の舌が唇をなぞり、許しを乞うように開かれた隙間から入り込んできた。熱い舌が絡み合うたびに、思考が溶けていく。碧の背中に腕が回され、支えるように強く抱きしめられた。
「……ベッド、行こ」
掠れた声で囁かれ、碧はこくりと頷いた。
手を引かれ、寝室へ向かう。白いシーツが、間接照明の柔らかな光を反射していた。
ベッドの縁に腰掛けた碧の前に、涼介が膝をつく。見上げるような視線に、息が詰まる。
「嫌なら、本当に止める。ちゃんと言って」
「……嫌じゃない」
声は震えていたけれど、嘘ではなかった。
涼介の瞳に映る不安そうな自分を見ていると、不思議と恐怖よりも、この人をもっと知りたいという気持ちが勝った。
涼介の指が、碧のシャツのボタンに触れる。一つ、また一つと外され、露わになった胸に彼の指先が滑った。びくりと身体が跳ね、熱い疼きが全身を駆け巡る。
肌に直接触れる涼介の手は、ためらいがちに、そして慈しむように碧の身体をなぞっていく。唇が首筋を辿り、耳元に熱い吐息がかかった。
「碧……」
名前を呼ばれるだけで、身体の奥が痺れるように甘く疼く。
なされるがままにシーツへ横たわると、涼介が覆いかぶさってきた。彼の体重を感じながら、碧は恐る恐るその背中に腕を回す。
初めて触れる、男の硬い筋肉。自分とは違う、骨張った感触。そのすべてが新鮮で、どうしようもなく官能的だった。
涼介は焦らなかった。碧の身体が完全に力を抜き、彼を受け入れるまで、何度も髪を撫で、額や瞼に優しいキスを落とし続ける。
やがて、ためらいがちに互いのすべてを晒し、一つに重なった時、碧は息を呑んだ。
初めての感覚に戸惑い、身体が強張る。
「大丈夫…? 痛い?」
「……っ、大丈夫…」
涼介は碧の返事を待って、ゆっくりと動き始める。それは想像していたよりもずっと優しく、碧を気遣うものだった。与えられる熱と、身体の奥で増していく痺れるような快感に、碧はシーツを強く握りしめる。
何度も視線が交差し、互いの名前を呼び合った。愛されているのだと、全身で感じていた。それはこんなにも甘く、切なく、そして幸せなものなのだと初めて知った。
夜が更け、静寂が戻っても、二人は眠れなかった。
涼介は碧のために水を用意し、汗で濡れた髪を優しく撫でながら「大丈夫だった?」と何度も尋ねた。そのどこまでも優しい気遣いに、碧は胸がいっぱいになる。
「涼介といると……すごく、安心する」
「俺もだよ。碧となら、どこまでも行ける気がする」
夜明け前、窓から差し込む淡い光の中で、二人は裸のまま抱き合った。
窓の外は、群青から橙へとゆっくり色を変えていく。
碧は涼介の胸に耳を預け、規則正しい鼓動を数えていた。
「……寝ちゃった?」
小さく囁くと、頭の上から低い声が返ってくる。
「起きてる。碧のこと考えてた」
「なにそれ、ずるい」
そう言いながらも、頬が熱くなる。
ただの冗談じゃない。彼の声からは、確かな愛情が滲んでいた。
胸がいっぱいになり、碧は思わず目を閉じた。
──この人となら、大丈夫だ。
碧は、その温もりの中で強く確信しながら、目を閉じた。
***********
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「夜明けの抱擁 — Embrace Before Dawn」をベースに作成したものです。良かったら、楽曲のほうも聴いてみてくださいね♫
「夜明けの抱擁 — Embrace Before Dawn」はこちら⇒ https://youtu.be/mBkSRksDHb8
でも、もうずっと前から惹かれ合っていた気がする。
映画を観終えた帰り道、並んで歩く距離がいつもより近い。
涼介の肩が、何度も碧の腕に触れるたび、心臓が大きく音を立てた。
そして自然に、涼介のマンションの前に辿り着いていた。
「……寄ってく?」
低く落ち着いた声が、夜の空気に溶ける。
「うん」
拒む理由なんてなかった。碧は唾を飲み込み、小さく頷く。
その瞬間、涼介が少し安心したように微笑んだのが分かった。
周囲に誰もいないことを確認してから、碧はそっと涼介の手に触れる。涼介は、迷うことなくその指を絡め、強く握りしめた。
◆
玄関のドアを閉めると、街のざわめきがすっと遠ざかる。
静寂が二人を包み、涼介の香りがふわりと碧の鼻をかすめた。
落ち着いた照明と、整えられたリビング。黒とグレーを基調にしたインテリアは、涼介そのもののようにシンプルで誠実だった。
ソファに並んで腰を下ろす。何を話せばいいか分からず、ただグラスの水滴がテーブルに落ちる音だけがやけに大きく聞こえた。
碧の落ち着かない仕草に気づいて、涼介がふっと笑う。
「そんなに緊張しなくていい」
「……だって……男とは、初めてだから…」
「俺もだよ」
からかうでもなく、優しく告げる声に、碧の肩の力が少し抜ける。
やがて二人は、好きな映画の結末や、休日の過ごし方を語り合った。笑い合ううちに、強張っていた心がゆっくりと解けていくのを感じる。
けれど会話の合間に、ふと沈黙が落ちると、胸の奥にしまい込んでいた不安が顔を出す。
グラスの縁に残った水滴を指先でなぞりながら、碧は口を開いた。
「……俺、恋愛に関してはあんまり上手くいったことがないんだ」
言いながら、自分でもこんな話をするつもりじゃなかったと後悔する。
涼介はただ静かに聞いていた。
「学生の頃も、社会人になってからも……気づいたら距離ができて、結局続かなかった。だから、もしまた同じことになったらって思うと……」
言葉が途切れる。
けれど涼介は、笑ったり茶化したりせず、まっすぐな目で碧を見ていた。
「俺は違う。碧を手放すつもりはないよ」
低く落ち着いた声に、胸がじんと熱くなった。
「本当に……俺でいいの?」
思わず漏らした声に、涼介は驚いたように目を瞬かせた。
すぐに大きな手が、震える碧の手を包み込む。
「碧だからいいんだ。他の誰でもなく」
その真っ直ぐな言葉に、胸が熱くなった。見つめ合う視線が絡み、空気が変わる。
不意に、涼介が碧の頬に触れた。
指先がかすかに震えているのは、自分か、それとも彼か。
ゆっくりと顔が近づき、唇がそっと重なった。
最初は、確かめるような触れるだけのキス。
けれど、どちらからともなく角度を変え、もう一度深く重ねる。涼介の舌が唇をなぞり、許しを乞うように開かれた隙間から入り込んできた。熱い舌が絡み合うたびに、思考が溶けていく。碧の背中に腕が回され、支えるように強く抱きしめられた。
「……ベッド、行こ」
掠れた声で囁かれ、碧はこくりと頷いた。
手を引かれ、寝室へ向かう。白いシーツが、間接照明の柔らかな光を反射していた。
ベッドの縁に腰掛けた碧の前に、涼介が膝をつく。見上げるような視線に、息が詰まる。
「嫌なら、本当に止める。ちゃんと言って」
「……嫌じゃない」
声は震えていたけれど、嘘ではなかった。
涼介の瞳に映る不安そうな自分を見ていると、不思議と恐怖よりも、この人をもっと知りたいという気持ちが勝った。
涼介の指が、碧のシャツのボタンに触れる。一つ、また一つと外され、露わになった胸に彼の指先が滑った。びくりと身体が跳ね、熱い疼きが全身を駆け巡る。
肌に直接触れる涼介の手は、ためらいがちに、そして慈しむように碧の身体をなぞっていく。唇が首筋を辿り、耳元に熱い吐息がかかった。
「碧……」
名前を呼ばれるだけで、身体の奥が痺れるように甘く疼く。
なされるがままにシーツへ横たわると、涼介が覆いかぶさってきた。彼の体重を感じながら、碧は恐る恐るその背中に腕を回す。
初めて触れる、男の硬い筋肉。自分とは違う、骨張った感触。そのすべてが新鮮で、どうしようもなく官能的だった。
涼介は焦らなかった。碧の身体が完全に力を抜き、彼を受け入れるまで、何度も髪を撫で、額や瞼に優しいキスを落とし続ける。
やがて、ためらいがちに互いのすべてを晒し、一つに重なった時、碧は息を呑んだ。
初めての感覚に戸惑い、身体が強張る。
「大丈夫…? 痛い?」
「……っ、大丈夫…」
涼介は碧の返事を待って、ゆっくりと動き始める。それは想像していたよりもずっと優しく、碧を気遣うものだった。与えられる熱と、身体の奥で増していく痺れるような快感に、碧はシーツを強く握りしめる。
何度も視線が交差し、互いの名前を呼び合った。愛されているのだと、全身で感じていた。それはこんなにも甘く、切なく、そして幸せなものなのだと初めて知った。
夜が更け、静寂が戻っても、二人は眠れなかった。
涼介は碧のために水を用意し、汗で濡れた髪を優しく撫でながら「大丈夫だった?」と何度も尋ねた。そのどこまでも優しい気遣いに、碧は胸がいっぱいになる。
「涼介といると……すごく、安心する」
「俺もだよ。碧となら、どこまでも行ける気がする」
夜明け前、窓から差し込む淡い光の中で、二人は裸のまま抱き合った。
窓の外は、群青から橙へとゆっくり色を変えていく。
碧は涼介の胸に耳を預け、規則正しい鼓動を数えていた。
「……寝ちゃった?」
小さく囁くと、頭の上から低い声が返ってくる。
「起きてる。碧のこと考えてた」
「なにそれ、ずるい」
そう言いながらも、頬が熱くなる。
ただの冗談じゃない。彼の声からは、確かな愛情が滲んでいた。
胸がいっぱいになり、碧は思わず目を閉じた。
──この人となら、大丈夫だ。
碧は、その温もりの中で強く確信しながら、目を閉じた。
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