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平蜘蛛と姫――歪んだ愛(8)
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城内で休憩後、久秀は義栄と可那をつれ、城のあちらこちらを丁寧に案内してくれた。驚くほど広い城なのに、人にはまったく出会わなかった。
信貴山城は、まるで夢のような場所だった。
城内の廊下はすべて綺麗に磨かれ、歩いていても気持ちが良い。
城の中には何箇所かの中庭があった。その中庭のあちらこちらには、丁寧に手入れされた花が咲き乱れている。今は秋の花、桔梗、夾竹桃、萩、さらには菊……。このような山頂では手入れも容易くはないだろうに、花々は美しく、整然と、花を咲かせていた。
雑然とした手入れをしていたならば、これほど見事に見栄えのする花畑を作ることは出来ないだろう。
可那も自分で花を育てていただけに、それはとてもよく分かる。
「は、花……すごいね……き、綺麗だね……」
「ええ……」
「もうじき、この山は紅葉の山になります。山頂から眺める紅葉もまた素晴らしいですよ。まるで山が燃えているかのような景色をご覧になれます」
「へ、へえ……そ、それは、た、楽しみだなぁ……」
「春には桜です。麓から桜が駆け上ってくるような光景を目にすることが出来ます」
「桜……」
可那は想像してみた。麓から薄桃色に染まる山の景色。どれだけ見事だろう。
想像しながら、ふと思った。
その桜の咲く頃、自分は一体どうなっているのだろう。そして、義栄は。
(明日のことも想像できないのに、春のことを考えるのはやめよう……)
可那がそう思ったとき、久秀が思いついたように言った。
「春になったら、桜を眺めながらの茶会をしましょう。とても美味い茶が飲めるはずです」
まるで可那の不安が伝わったかのような、彼の言葉だった。
(桜を眺めながらのお茶会……悪くないかも……)
そういう楽しみがあれば、不安があっても何とか頑張れそうな気はする。
「ぼ、僕……ちゃ、茶会って……したこと……な、ないんだけど……」
「春までまだ時間があります。よろしければ、私がお教えしますよ」
「う、うん……ぜ、ぜひ……よろしく……」
「…………」
可那は目を見張りながら二人の会話を聞いていた。
(お義兄さまが茶の湯の勉強をしたいなんて……)
久秀と出会ってからの短期間の間に、義栄はどれだけの変化を遂げたのだろう。一体どんな魔法を、彼は使っているのだろう。
自分には出来ないことを、久秀はいとも簡単にやってのけてしまう。
「可那姫様は茶のご経験は?」
「い、一応、手順だけは。でも、それほど深くは嗜んでおりません」
「では、義栄様とご一緒にお教えしましょうか? もちろん、お一人ずつ個別でも構いませんが」
「い、一緒でいいです……貴方もお忙しいでしょうし」
可那は反射的にそう答えていた。あまり久秀と二人きりにはなりたくない。ただでさえ所有物などといわれ、これからどうなるか分からない身の上なのに。
「か、可那が一緒だと……べ、勉強も……は、はかどりそうだね……」
義栄はどことなく嬉しそうな様子だ。その表情を見て可那はほっとする。もしも自分が加わることに義栄が難色を示したりなどしたら、可那は立ち直れなかったかもしれない。
「ほ、本当に……ひ、人が……いないんだね……」
「いないわけではないですが、義栄様が人と会わずに済むようにすることは、それほど難しいことではありません」
「そ、そうか……で、でも……お、落ち着くよ……あ、ありがとう……」
確かに、人の気配はあるものの、義栄の前にその姿を見せることはなかった。
これだけ人に出会わずに済むのなら、極度の人見知りの義栄でも、四国にいた時のように穏やかに過ごすこともできるだろう。
(それに、お義兄さまも久秀には懐いているようだし……)
こんな短期間の間に、義栄が久秀にここまで懐くとは思わなかった。少し寂しい気持ちはあったけれど、義栄の成長を考えると、決して悪いことじゃない。
ただ心配なのは、間もなく彼の立場が変わることだった。
三好家の推薦によって、義栄は室町幕府の十四代将軍となる。その際には、義栄も自分の立場と役目を知ることになる。
そうなったときに目に見えない負担が義栄を苦しめはしないだろうか……可那の今の不安はそれだった。
「か、可那、こ、ここは本当に綺麗で静かなところだね」
久秀が少し席を外した時に、義栄が小声で言ってきた。
「はい。そうですね。お気に入りましたか、お義兄さま?」
「う、うん。今のところはとても気に入っているよ。ひ、人よりも獣のほうが多いなんて、す、すごくいい……人は嫌だ……ひ、人は怖いから……」
義栄の極端な人嫌いは、彼を幼い頃に育てた実母の仕打ちによるものだと古くから仕える使用人に聞いたことがある。
可那が四国へやって来るのとほぼ入れ替わりに、その実母は屋敷からいなくなったという。離縁されたのだ。
義栄の実母は激しい折檻を彼に対して繰り返していたという。周囲には教育のためと言っていたようだが、実際には彼女をほとんど振り向かなかった義栄の父に対する八つ当たりのようなものだったのかもしれない。
やがて実母は離縁されたが、もうその時には遅かった。義栄は限られた者にしか心を開くことが出来ないほどになっていた。
幼い頃、兄の義輝と父、そして母の愛を一身に受けて育った可那とは大違いだ。そして可那はその身を案じる家族の愛によって、四国へと送られた。もしも可那があのまま京に残っていたら、今頃は義輝とともにこの世の者ではなくなっていただろう。
けれども、一人残されてしまった自分の身を思うと、果たして生き残ったことが幸せだったのか、それとも兄たちと共に逝ったほうが幸せだったのか分からない。
特にこうして兄の仇である松永久秀によって、捕らわれの身となってしまった今は。
「風が冷たくなって来ましたね。そろそろ室内に戻りましょう」
いつの間にか久秀が戻ってきていた。可那は義栄とともに城の中へと戻った。
「実は少し茶室によって、茶の用意をしてきました。お二人に一服差し上げようと思うのですが」
どうやら少し席を外していたのは、茶の準備のためだったらしい。
「ほ、本当? う、嬉しいな……」
義栄はとても嬉しそうだ。
「可那姫様はいかがです? お疲れでなければ、ご一緒にどうぞ」
「い、いえ、大丈夫です。ご一緒させていただきます」
可那がそう答えると、久秀は目をすっと細めて微笑んだ。その微笑に、可那はまた背筋がぞくりと震えるのを感じた。
義栄に見せる顔と、可那に見せる顔がこうも違うのは可那が久秀を殺そうとしたあの事件のせいなのだろうか。あの一件のせいで、可那は久秀のものになることを約束させられた。
(今のところ……嫌なことは何もされてない……でも、これから何かされたりするのかも……)
そのことを考えると可那は不安になる。久秀が一体可那に何をしようとしているのか、何をさせようとしているのか……。
義栄に見せる顔だけを見ていると、本当は彼は良い人なのではないかと錯覚させられるほどだ。
だけど、義栄に見せる顔が久秀の本当の顔だと思っては駄目だ。
(ううん……私は騙されちゃ駄目……だってあの男はお兄様の仇なんだから……)
茶室に案内する久秀の背中をにらみつけながら、可那はぎゅっと手を握り締める。
仇が討てれば、どれだけ気持ちがすっきりとするだろう。目の前に仇がいるというのに、可那は手も足も出せず、それどころか義栄を盾に取られて久秀の意思に逆らうことさえ出来ない。
「さあ、こちらですよ」
久秀が部屋の襖を開けたその瞬間、可那も義栄も思わず口を開けてぽかんとした。
格子窓が開け放たれ、外の景色が一望できる。眼下に広がるのは大和国だろう。広くて、豊かで、栄えている。その大和国の町や村を通って、可那たちはここまでやって来たからよく分かる。
どの田んぼの稲は秋の実りを前に、重たそうに風に揺られていた。
可那は戦でぼろぼろになった田畑を幼い頃に見ている。手入れする者がいなくなった田畑も見ている。
だから久秀の治めるこの領地がいかに豊かなものかということが、身にしみるようにして分かった。
(少なくとも、民を虐げるような酷い政治はしていない……)
可那はそのことに安堵していた。
義栄が将軍となれば、彼らが代わってその政治を行なう。たとえ義栄が傀儡の将軍であったとしても、義栄の名のもとに非情な政治はして欲しくなかった。
「どうぞ、こちらへ。今日は楽にしていただいて結構ですよ」
久秀に促され、可那と義栄は席につく。
中央に囲炉裏があり、そこにはすでに火がおこされ、茶釜が湯気を噴いている。その茶釜がとても変わった形をしていた。普通に茶席で使われる茶釜とは違って、とても平べったい奇妙な形だ。
可那はそのまま視線を前に向ける。
ちょうど山に日が沈みかけている頃で、格子窓から見える山々が燃えるように赤い。
「す、すごいね……や、山が赤くなっているよ……」
「ええ……すごい景色……」
夕焼けは人を不安にさせる。だけど、こうして山の頂から眺める夕焼けは、素直に綺麗だと可那は思った。
「今日は作法などは気にせず、気楽に茶の味を楽しんでください」
久秀は薄茶を点てている。どうやら濃茶ではないようだ。
可那はひと通りの作法を知っている、という程度だが、久秀のその手さばきは実に優雅なものだった。
手ほどきをすると自信たっぷりに言えるほどに嗜みがあるのだろう。誰か有名な人について茶の勉強をしていたのかもしれない。
部屋の片隅には、外の花畑で見た桔梗の花が生けてある。
「その茶釜は……とても変わった形をしているのね……」
可那は好奇心に勝てなくなって聞いてみた。
「ええ。平蜘蛛の釜です」
久秀は少し嬉しそうな笑みを浮かべながら答える。
「平蜘蛛……」
「蜘蛛が這い蹲ったような形をしているでしょう?」
「ああ、そういえば……」
言われて見直してみると、確かに蜘蛛が這い蹲っているように見えなくもない。いや……そういう目で見ていると、囲炉裏にかけられた茶釜が、もう蜘蛛にしか見えなくなっていた。
(蜘蛛って……気持ち悪い……)
可那が顔をしかめたからだろうか。久秀は肩をすくめつつ、苦笑いする。
「これも私にとって大切な所有物なのですよ。ひょっとすると、命よりも大切かもしれません」
久秀はその細い指で、平蜘蛛を撫でた。その指が釜の表面を滑る瞬間、可那は自分の体に触れられているような感覚を味わっていた。
(所有物……あの釜も、そして私も……)
久秀は可那のことを自分の所有物にすると宣言した。そして可那も義栄のために彼の所有物になることを渋々了承した。
久秀は目を細めながら、愛おしそうに平蜘蛛を撫で続けている。まるで釜に命でもあるかのように。
「ああ、失礼。茶が冷めてしまいますね」
久秀は思い出したかのように言い、平蜘蛛から離れた。それで可那もようやく解放されたような気持ちになった。
「平蜘蛛はいくら見ても触れても、飽きるということがないのですよ」
久秀はそう言い、可那にまとわりつくような視線を向けてくる。可那は思わず目を背けた。何故だか胸の鼓動が騒がしい。
「薄茶です。あまり作法など気にせずお召しください」
久秀が義栄の前に茶碗をおき、さらに可那の前にも茶碗をおく。
「頂戴します」
可那がそう言って茶碗を手に取ると、義栄も慌てて同じようにした。
「い、いただき……ます……」
口に含んでみると、薄茶なのに、かなり高級な茶を使用していることが可那にも分かった。その苦味と甘みがすうっと口の中に嫌味なく広がっていく。
茶は少し温くなっていたけれど、その味わいはかえって深くなっているようだった。
「美味しい……」
「う、うん、お、おいしいね、とても……」
どうやら義栄も茶の味を気に入ったようだった。
可那も義栄に茶を教えようと思ったことがある。けれども、その時の義栄はあまり気乗りがしなかったようで、結局そのままになっていた。
もう一度声をかけてみれば、義栄は可那から茶を学ぶ気になっていたかもしれない。
味わって茶を飲み干し、袱紗で呑口を拭った。義栄はとっくに飲み終わっていたようで、すでに茶碗を戻している。
可那は茶碗を手にとって眺めた。とても美しい桜の絵が描かれている。
「綺麗……」
「それは私の気に入りのものなのですよ。きっと可那姫様にも気に入っていただけると思っていました」
「綺麗だし、とても良いものだということが分かるわ」
「どうですか? 私に弟子入りする決心はつきましたか?」
からかうように問われ、可那は顔を赤くする。
「ぜ、ぜひ教えてもらいたい……いえ、教えていただきたいです」
薄茶とはいえ、久秀の作法は見事だったし、本格的な濃茶を練っている彼の姿も見てみたかった。
純粋な探究心で、可那は久秀から茶を教わりたいと思った。たぶん、今日の武家や公家でも、彼ほどの人はあまりいないかもしれない。
「貴方の作法を見ていると、私が習った作法は子供のままごとのみたい。本当に一から教えてもらえると嬉しいのだけど……」
可那が恥じ入るように言うと、久秀は穏やかに微笑んだ。
「貴方が完璧に作法を覚えると、とても美しいでしょうね。そこにいるだけで絵になる。きっとこの平蜘蛛のように……」
可那ははっとして顔を上げる。久秀はその細い指でまた平蜘蛛を撫でている。可那はまた自分の肌を撫でられているようにぞくりとした。
平蜘蛛の細部までそのさわり心地を確かめるように、久秀は指を這わせ続けている。
「……っ……」
可那は思わず息を詰めた。見ているだけで、妙な気持ちになってくる。
先ほどまで湯気を立てていた釜なのに、熱くないんだろうか……。
「ね、眠い……」
気がつくと、義栄が隣でこくりこくりとしていた。
「もうじき食事の支度が整いますが、まだ起きていられますか?」
「う、うん……頑張って……みる……」
そう言いつつも、義栄はもう眠気に勝てなくなってきているようだ。可那は少し驚いていた。
旅の途中、義栄は気持ちが落ち着かず、あまり満足に眠れていなかった。
屋敷にいても、悪い夢を見たときなどは不眠が続いたりしていた。時には薬を調合してもらうこともあったほど、義栄の睡眠には問題があった。
だから、いろいろと落ち着くまでは不眠が続くのではないかと可那は心配していたのだが。どうやらその心配は必要なさそうだった。
「良かったら……このまま寝かせてあげたい。初めての場所で眠れるのか心配だったけど、今なら眠れそうだし……」
「そうですね」
どうやら久秀も納得してくれたようだった。
「お義兄さま、お部屋まで歩けますか?」
「う、うん……だ、大丈夫……あ、歩けるよ……」
義栄は眠そうな頭を軽く振り、立ち上がった。どうやら何とか部屋までは歩いていけそうだった。
信貴山には良い湯が湧き出るらしく、風呂はその湧湯を贅沢に使ったものだった。確かに蒔で沸かした湯とは違い、湯からあがった後も体がぽかぽかと温かく、肌もいつもより滑らかになった気がした。
「すごい……外にお風呂を造るなんて……」
ここは湯殿の外にある露天の風呂だ。
義栄を部屋に連れて行き、眠らせた後、久秀が風呂を勧めてくれた。旅の汚れも落としたかったので、可那はありがたく風呂を使わせてもらうことにしたのだ。
外はもうすっかり暗くなっていて景色は見えないけれど、それでも満天に輝く星は見える。その星だけで十分だった。
山の上だからだろうか……夜になるとかなり冷える。でも、少し熱めの湯のおかげで、体が冷えることはなさそうだった。
「ふう……気持ちいい……」
可那は空を見上げながら、ゆったりと湯に体を浸す。疲れがどんどん湯の中に流れ出していくようだった。
四国にもこうした温泉はあった。
傷や病によく効くとされ、義栄を連れて何度か訪れたことがある。ただ、義栄にとっては温泉の効能よりも、否応なく知らない人と顔を合わせなければならない道中の旅のほうが苦痛だったようだ。
もう行きたくないと義栄が言ったことで、それきり可那も温泉には行っていない。
「いいお湯……」
四国のお湯は白く濁っていた。
けれどもここのお湯は色がない。だけどとても柔らかで、肌を滑らかにしてくれる。
ひとしきり湯を堪能して、可那は風呂からあがった。
信貴山城は、まるで夢のような場所だった。
城内の廊下はすべて綺麗に磨かれ、歩いていても気持ちが良い。
城の中には何箇所かの中庭があった。その中庭のあちらこちらには、丁寧に手入れされた花が咲き乱れている。今は秋の花、桔梗、夾竹桃、萩、さらには菊……。このような山頂では手入れも容易くはないだろうに、花々は美しく、整然と、花を咲かせていた。
雑然とした手入れをしていたならば、これほど見事に見栄えのする花畑を作ることは出来ないだろう。
可那も自分で花を育てていただけに、それはとてもよく分かる。
「は、花……すごいね……き、綺麗だね……」
「ええ……」
「もうじき、この山は紅葉の山になります。山頂から眺める紅葉もまた素晴らしいですよ。まるで山が燃えているかのような景色をご覧になれます」
「へ、へえ……そ、それは、た、楽しみだなぁ……」
「春には桜です。麓から桜が駆け上ってくるような光景を目にすることが出来ます」
「桜……」
可那は想像してみた。麓から薄桃色に染まる山の景色。どれだけ見事だろう。
想像しながら、ふと思った。
その桜の咲く頃、自分は一体どうなっているのだろう。そして、義栄は。
(明日のことも想像できないのに、春のことを考えるのはやめよう……)
可那がそう思ったとき、久秀が思いついたように言った。
「春になったら、桜を眺めながらの茶会をしましょう。とても美味い茶が飲めるはずです」
まるで可那の不安が伝わったかのような、彼の言葉だった。
(桜を眺めながらのお茶会……悪くないかも……)
そういう楽しみがあれば、不安があっても何とか頑張れそうな気はする。
「ぼ、僕……ちゃ、茶会って……したこと……な、ないんだけど……」
「春までまだ時間があります。よろしければ、私がお教えしますよ」
「う、うん……ぜ、ぜひ……よろしく……」
「…………」
可那は目を見張りながら二人の会話を聞いていた。
(お義兄さまが茶の湯の勉強をしたいなんて……)
久秀と出会ってからの短期間の間に、義栄はどれだけの変化を遂げたのだろう。一体どんな魔法を、彼は使っているのだろう。
自分には出来ないことを、久秀はいとも簡単にやってのけてしまう。
「可那姫様は茶のご経験は?」
「い、一応、手順だけは。でも、それほど深くは嗜んでおりません」
「では、義栄様とご一緒にお教えしましょうか? もちろん、お一人ずつ個別でも構いませんが」
「い、一緒でいいです……貴方もお忙しいでしょうし」
可那は反射的にそう答えていた。あまり久秀と二人きりにはなりたくない。ただでさえ所有物などといわれ、これからどうなるか分からない身の上なのに。
「か、可那が一緒だと……べ、勉強も……は、はかどりそうだね……」
義栄はどことなく嬉しそうな様子だ。その表情を見て可那はほっとする。もしも自分が加わることに義栄が難色を示したりなどしたら、可那は立ち直れなかったかもしれない。
「ほ、本当に……ひ、人が……いないんだね……」
「いないわけではないですが、義栄様が人と会わずに済むようにすることは、それほど難しいことではありません」
「そ、そうか……で、でも……お、落ち着くよ……あ、ありがとう……」
確かに、人の気配はあるものの、義栄の前にその姿を見せることはなかった。
これだけ人に出会わずに済むのなら、極度の人見知りの義栄でも、四国にいた時のように穏やかに過ごすこともできるだろう。
(それに、お義兄さまも久秀には懐いているようだし……)
こんな短期間の間に、義栄が久秀にここまで懐くとは思わなかった。少し寂しい気持ちはあったけれど、義栄の成長を考えると、決して悪いことじゃない。
ただ心配なのは、間もなく彼の立場が変わることだった。
三好家の推薦によって、義栄は室町幕府の十四代将軍となる。その際には、義栄も自分の立場と役目を知ることになる。
そうなったときに目に見えない負担が義栄を苦しめはしないだろうか……可那の今の不安はそれだった。
「か、可那、こ、ここは本当に綺麗で静かなところだね」
久秀が少し席を外した時に、義栄が小声で言ってきた。
「はい。そうですね。お気に入りましたか、お義兄さま?」
「う、うん。今のところはとても気に入っているよ。ひ、人よりも獣のほうが多いなんて、す、すごくいい……人は嫌だ……ひ、人は怖いから……」
義栄の極端な人嫌いは、彼を幼い頃に育てた実母の仕打ちによるものだと古くから仕える使用人に聞いたことがある。
可那が四国へやって来るのとほぼ入れ替わりに、その実母は屋敷からいなくなったという。離縁されたのだ。
義栄の実母は激しい折檻を彼に対して繰り返していたという。周囲には教育のためと言っていたようだが、実際には彼女をほとんど振り向かなかった義栄の父に対する八つ当たりのようなものだったのかもしれない。
やがて実母は離縁されたが、もうその時には遅かった。義栄は限られた者にしか心を開くことが出来ないほどになっていた。
幼い頃、兄の義輝と父、そして母の愛を一身に受けて育った可那とは大違いだ。そして可那はその身を案じる家族の愛によって、四国へと送られた。もしも可那があのまま京に残っていたら、今頃は義輝とともにこの世の者ではなくなっていただろう。
けれども、一人残されてしまった自分の身を思うと、果たして生き残ったことが幸せだったのか、それとも兄たちと共に逝ったほうが幸せだったのか分からない。
特にこうして兄の仇である松永久秀によって、捕らわれの身となってしまった今は。
「風が冷たくなって来ましたね。そろそろ室内に戻りましょう」
いつの間にか久秀が戻ってきていた。可那は義栄とともに城の中へと戻った。
「実は少し茶室によって、茶の用意をしてきました。お二人に一服差し上げようと思うのですが」
どうやら少し席を外していたのは、茶の準備のためだったらしい。
「ほ、本当? う、嬉しいな……」
義栄はとても嬉しそうだ。
「可那姫様はいかがです? お疲れでなければ、ご一緒にどうぞ」
「い、いえ、大丈夫です。ご一緒させていただきます」
可那がそう答えると、久秀は目をすっと細めて微笑んだ。その微笑に、可那はまた背筋がぞくりと震えるのを感じた。
義栄に見せる顔と、可那に見せる顔がこうも違うのは可那が久秀を殺そうとしたあの事件のせいなのだろうか。あの一件のせいで、可那は久秀のものになることを約束させられた。
(今のところ……嫌なことは何もされてない……でも、これから何かされたりするのかも……)
そのことを考えると可那は不安になる。久秀が一体可那に何をしようとしているのか、何をさせようとしているのか……。
義栄に見せる顔だけを見ていると、本当は彼は良い人なのではないかと錯覚させられるほどだ。
だけど、義栄に見せる顔が久秀の本当の顔だと思っては駄目だ。
(ううん……私は騙されちゃ駄目……だってあの男はお兄様の仇なんだから……)
茶室に案内する久秀の背中をにらみつけながら、可那はぎゅっと手を握り締める。
仇が討てれば、どれだけ気持ちがすっきりとするだろう。目の前に仇がいるというのに、可那は手も足も出せず、それどころか義栄を盾に取られて久秀の意思に逆らうことさえ出来ない。
「さあ、こちらですよ」
久秀が部屋の襖を開けたその瞬間、可那も義栄も思わず口を開けてぽかんとした。
格子窓が開け放たれ、外の景色が一望できる。眼下に広がるのは大和国だろう。広くて、豊かで、栄えている。その大和国の町や村を通って、可那たちはここまでやって来たからよく分かる。
どの田んぼの稲は秋の実りを前に、重たそうに風に揺られていた。
可那は戦でぼろぼろになった田畑を幼い頃に見ている。手入れする者がいなくなった田畑も見ている。
だから久秀の治めるこの領地がいかに豊かなものかということが、身にしみるようにして分かった。
(少なくとも、民を虐げるような酷い政治はしていない……)
可那はそのことに安堵していた。
義栄が将軍となれば、彼らが代わってその政治を行なう。たとえ義栄が傀儡の将軍であったとしても、義栄の名のもとに非情な政治はして欲しくなかった。
「どうぞ、こちらへ。今日は楽にしていただいて結構ですよ」
久秀に促され、可那と義栄は席につく。
中央に囲炉裏があり、そこにはすでに火がおこされ、茶釜が湯気を噴いている。その茶釜がとても変わった形をしていた。普通に茶席で使われる茶釜とは違って、とても平べったい奇妙な形だ。
可那はそのまま視線を前に向ける。
ちょうど山に日が沈みかけている頃で、格子窓から見える山々が燃えるように赤い。
「す、すごいね……や、山が赤くなっているよ……」
「ええ……すごい景色……」
夕焼けは人を不安にさせる。だけど、こうして山の頂から眺める夕焼けは、素直に綺麗だと可那は思った。
「今日は作法などは気にせず、気楽に茶の味を楽しんでください」
久秀は薄茶を点てている。どうやら濃茶ではないようだ。
可那はひと通りの作法を知っている、という程度だが、久秀のその手さばきは実に優雅なものだった。
手ほどきをすると自信たっぷりに言えるほどに嗜みがあるのだろう。誰か有名な人について茶の勉強をしていたのかもしれない。
部屋の片隅には、外の花畑で見た桔梗の花が生けてある。
「その茶釜は……とても変わった形をしているのね……」
可那は好奇心に勝てなくなって聞いてみた。
「ええ。平蜘蛛の釜です」
久秀は少し嬉しそうな笑みを浮かべながら答える。
「平蜘蛛……」
「蜘蛛が這い蹲ったような形をしているでしょう?」
「ああ、そういえば……」
言われて見直してみると、確かに蜘蛛が這い蹲っているように見えなくもない。いや……そういう目で見ていると、囲炉裏にかけられた茶釜が、もう蜘蛛にしか見えなくなっていた。
(蜘蛛って……気持ち悪い……)
可那が顔をしかめたからだろうか。久秀は肩をすくめつつ、苦笑いする。
「これも私にとって大切な所有物なのですよ。ひょっとすると、命よりも大切かもしれません」
久秀はその細い指で、平蜘蛛を撫でた。その指が釜の表面を滑る瞬間、可那は自分の体に触れられているような感覚を味わっていた。
(所有物……あの釜も、そして私も……)
久秀は可那のことを自分の所有物にすると宣言した。そして可那も義栄のために彼の所有物になることを渋々了承した。
久秀は目を細めながら、愛おしそうに平蜘蛛を撫で続けている。まるで釜に命でもあるかのように。
「ああ、失礼。茶が冷めてしまいますね」
久秀は思い出したかのように言い、平蜘蛛から離れた。それで可那もようやく解放されたような気持ちになった。
「平蜘蛛はいくら見ても触れても、飽きるということがないのですよ」
久秀はそう言い、可那にまとわりつくような視線を向けてくる。可那は思わず目を背けた。何故だか胸の鼓動が騒がしい。
「薄茶です。あまり作法など気にせずお召しください」
久秀が義栄の前に茶碗をおき、さらに可那の前にも茶碗をおく。
「頂戴します」
可那がそう言って茶碗を手に取ると、義栄も慌てて同じようにした。
「い、いただき……ます……」
口に含んでみると、薄茶なのに、かなり高級な茶を使用していることが可那にも分かった。その苦味と甘みがすうっと口の中に嫌味なく広がっていく。
茶は少し温くなっていたけれど、その味わいはかえって深くなっているようだった。
「美味しい……」
「う、うん、お、おいしいね、とても……」
どうやら義栄も茶の味を気に入ったようだった。
可那も義栄に茶を教えようと思ったことがある。けれども、その時の義栄はあまり気乗りがしなかったようで、結局そのままになっていた。
もう一度声をかけてみれば、義栄は可那から茶を学ぶ気になっていたかもしれない。
味わって茶を飲み干し、袱紗で呑口を拭った。義栄はとっくに飲み終わっていたようで、すでに茶碗を戻している。
可那は茶碗を手にとって眺めた。とても美しい桜の絵が描かれている。
「綺麗……」
「それは私の気に入りのものなのですよ。きっと可那姫様にも気に入っていただけると思っていました」
「綺麗だし、とても良いものだということが分かるわ」
「どうですか? 私に弟子入りする決心はつきましたか?」
からかうように問われ、可那は顔を赤くする。
「ぜ、ぜひ教えてもらいたい……いえ、教えていただきたいです」
薄茶とはいえ、久秀の作法は見事だったし、本格的な濃茶を練っている彼の姿も見てみたかった。
純粋な探究心で、可那は久秀から茶を教わりたいと思った。たぶん、今日の武家や公家でも、彼ほどの人はあまりいないかもしれない。
「貴方の作法を見ていると、私が習った作法は子供のままごとのみたい。本当に一から教えてもらえると嬉しいのだけど……」
可那が恥じ入るように言うと、久秀は穏やかに微笑んだ。
「貴方が完璧に作法を覚えると、とても美しいでしょうね。そこにいるだけで絵になる。きっとこの平蜘蛛のように……」
可那ははっとして顔を上げる。久秀はその細い指でまた平蜘蛛を撫でている。可那はまた自分の肌を撫でられているようにぞくりとした。
平蜘蛛の細部までそのさわり心地を確かめるように、久秀は指を這わせ続けている。
「……っ……」
可那は思わず息を詰めた。見ているだけで、妙な気持ちになってくる。
先ほどまで湯気を立てていた釜なのに、熱くないんだろうか……。
「ね、眠い……」
気がつくと、義栄が隣でこくりこくりとしていた。
「もうじき食事の支度が整いますが、まだ起きていられますか?」
「う、うん……頑張って……みる……」
そう言いつつも、義栄はもう眠気に勝てなくなってきているようだ。可那は少し驚いていた。
旅の途中、義栄は気持ちが落ち着かず、あまり満足に眠れていなかった。
屋敷にいても、悪い夢を見たときなどは不眠が続いたりしていた。時には薬を調合してもらうこともあったほど、義栄の睡眠には問題があった。
だから、いろいろと落ち着くまでは不眠が続くのではないかと可那は心配していたのだが。どうやらその心配は必要なさそうだった。
「良かったら……このまま寝かせてあげたい。初めての場所で眠れるのか心配だったけど、今なら眠れそうだし……」
「そうですね」
どうやら久秀も納得してくれたようだった。
「お義兄さま、お部屋まで歩けますか?」
「う、うん……だ、大丈夫……あ、歩けるよ……」
義栄は眠そうな頭を軽く振り、立ち上がった。どうやら何とか部屋までは歩いていけそうだった。
信貴山には良い湯が湧き出るらしく、風呂はその湧湯を贅沢に使ったものだった。確かに蒔で沸かした湯とは違い、湯からあがった後も体がぽかぽかと温かく、肌もいつもより滑らかになった気がした。
「すごい……外にお風呂を造るなんて……」
ここは湯殿の外にある露天の風呂だ。
義栄を部屋に連れて行き、眠らせた後、久秀が風呂を勧めてくれた。旅の汚れも落としたかったので、可那はありがたく風呂を使わせてもらうことにしたのだ。
外はもうすっかり暗くなっていて景色は見えないけれど、それでも満天に輝く星は見える。その星だけで十分だった。
山の上だからだろうか……夜になるとかなり冷える。でも、少し熱めの湯のおかげで、体が冷えることはなさそうだった。
「ふう……気持ちいい……」
可那は空を見上げながら、ゆったりと湯に体を浸す。疲れがどんどん湯の中に流れ出していくようだった。
四国にもこうした温泉はあった。
傷や病によく効くとされ、義栄を連れて何度か訪れたことがある。ただ、義栄にとっては温泉の効能よりも、否応なく知らない人と顔を合わせなければならない道中の旅のほうが苦痛だったようだ。
もう行きたくないと義栄が言ったことで、それきり可那も温泉には行っていない。
「いいお湯……」
四国のお湯は白く濁っていた。
けれどもここのお湯は色がない。だけどとても柔らかで、肌を滑らかにしてくれる。
ひとしきり湯を堪能して、可那は風呂からあがった。
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