平蜘蛛と姫――歪んだ愛

梵天丸

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平蜘蛛と姫――歪んだ愛(20)

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 その日の夜、久秀はようやく可那を自分の寝所に呼んだ。可那の部屋を訪れるのではなく、可那のほうが呼ばれた。これもちょっと珍しいことだった。
 久秀が自分の部屋に可那を呼ばないのは、仕事を山のように部屋に持ち込んでいるからだ、と以前に聞いたことがある。
 確かに、その理由は可那にも納得できるものだった。
 だから今夜、久秀に部屋に呼ばれた理由がよく分からなかった。
(あれだけ忙しかったのだから、きっと部屋の中にはまだ片付いていない仕事もあるはずなのに……)
 不思議に思いつつも、案内する女房について、久秀の部屋に向かう。
「こちらです。中でお待ちになっておられます」
 可那は案内された部屋に入ってみて、言葉を失った。
 そこはまるで異国のようだった。
 見たこともないような寝具が部屋の中央に置いてある。寝具というよりも、そこが小さな部屋になっているかのようだった。
 天井がある。そこから向こうが透けて見えそうなほど薄い布が垂らされていて、寝具の中をかろうじて隠している。布団はその上に敷いてあるようだが、その布団も、異国のもののようだった。
「これを一度貴方に見せたくてね。ようやくその時間が取れたものですから」
 気がつくと久秀が目の前に立っていた。
 可那の手をとり、その小部屋のような寝具の前に連れて行く。
 部屋は全体的に薄暗いけれども、部屋に灯りをもたらす燭も、やはり異国のもののようだ。
 そのせいか、灯りが映し出す部屋の様子は、まるで夢でも見ているみたいに別の世界だった。
「すごい部屋……」
 可那は思わず呟いていた。
「南蛮人に指導を受けながら造った部屋ですよ。彼らはこのような寝所で愛しあうそうです」
 愛し合う、などという言葉を唐突に言われ、可那は思わず顔を赤くする。
 ここのところそういう行為とはご無沙汰だっただけに、両足の合間の一部分が燃えるように熱くなった。
「あ、あの、仕事は……丈夫なの……?」
「ええ、ようやく落ち着きました。とはいえ、また大きな仕事を一つ成さねばならなくなりましたが」
「筒井は? 三好は?」
「当面は問題ないでしょう。ただ、いつまでも胡坐をかいているわけにもいきません」
 久秀はそう言うと、背後から可那の体を抱きしめる。
「ああ、この感じだ……」
 久秀は可那の髪に接吻し、そこから首筋へと唇を滑らせる。
「……っ……」
 毎晩のようにその準備だけはしていたものの、やはり本当にその時間が来てしまうと、胸の鼓動が落ち着かない。
「どうしたのですか? 緊張でもしているのですか?」
「そ、そうね……久しぶりだから……」
「私も緊張していますよ」
「嘘でしょう?」
 可那は久秀を睨み付ける。久秀が緊張なんてするはずがない。
「本当ですよ」
 久秀は笑って、肩をすくめて見せる。
「ほら……これで分かるでしょう?」
 久秀は可那の手をとって、自分の胸に当てさせる。久秀の心臓の鼓動が、可那の手のひらを伝わってくる。確かに少しその動きは速いようにも感じる。
(本当に……緊張してるの……?)
 可那はまだ疑わしい気持ちだった。久秀はいつものように涼しげな笑みを浮かべているし、とても落ち着いているように見える。
 だけど、胸の鼓動は可那と同じぐらいに速い……。
「私は嘘をつくのが上手なんですよ。表面上はいくらでも嘘がつけます。それが仕事ですから。でも、ここまではさすがにごまかせない……」
 とくんとくんと、心の臓の音が伝わってくる。ちょっと落ち着きのない感じ。
「信じてくれますか?」
 微笑んだまま、久秀が首を傾げてくる。
「ええ、信じるわ……」
 可那はそう答えて頷いた。
「良かった……」
 久秀は心から安堵したように言うと、可那の体を再び背後から強く抱き寄せた。
「……っあ……」
 首筋に久秀の熱い息を感じ、可那はびくんと体を震わせた。
「いつも通り、敏感な体をしていますね」
 まるでからかうように言われ、可那は赤くなった顔を背ける。
(そんな体にしたのは貴方じゃない……)
 文句を言ってやりたかったが、上手く言葉が出てこなかった。
「顔を見せてはくれないのですか? 久しぶりだというのに」
「見たかったら……自分で見れば?」
 可那がつい意地悪なことを言ってしまうのは、恥ずかしさがもう自分の許容量をとっくに越えてしまっていたからだ。
 久しぶりだということもあるし、こんな異国の匂いの強い変わった部屋でどうしていいか分からないという気持ちもある。
「そうですね。自分で見るしかなさそうですね」
 気がつくと、久秀の手が可那の顎を持ち上げていた。久秀の顔が間近に迫って、可那はどうしていいか分からなくなる。
 先日はすっかり疲れきった顔をしてたけれども、今日の久秀はいつものようにたっぷりの余裕を見せている。
 可那の体を抱き上げると、薄い目隠しの布をくぐって、南蛮風だというその寝具の上に寝かせた。
 布団は驚くほどにふかふかで、何だか背中が宙に浮いているようにも感じるほどだった。
「すごい……こんなふわふわしたところで、南蛮の人はよく眠れるのね……」
「私もこの寝具は普段は使いません。とても眠れそうにないですしね。でも、今日はよく眠れそうな気がします」
 久秀の言葉の意味をはかりかねて可那は首をかしげる。
「貴方がいれば、どんな場所でもよく眠れるということですよ。それに、その前にたっぷりと体を動かす予定もありますしね」
「……っ……」
 久秀のあまりにも直接的な言葉に、可那はまた顔を赤くした。
 そんな可那の様子に、久秀はくすくすと笑っている。
「な、何がおかしいの?」
「貴方が真っ赤な顔をするのを、今日はよく見るな、と」
「だ、だって……こんなの見たの……初めてだし……そ、それに……久しぶりだし……」
「そうですね。久しぶりですね」
 ふかふかの布団の上で体を優しく抱きしめられ、唇に接吻される。まるで夢のような心地だった。
「私が緊張している理由を教えてあげましょうか?」
「え……?」
 緊張している理由なんてあったのか、と可那は目を見開いた。ただ単に、久しぶりに可那に触れるから緊張しているものとばかり思っていたのに。
「今夜はね、少しおねだりをしたくてやって来たのですよ」
 久秀の意外な言葉に、可那は小首をかしげる。
「おねだり? 私に?」
「ええ、まだ貴方から頂いていないものがある。今日はそれが欲しいのです」
 これまでさんざん体を好きに開発され、見られていないところなんてないのではないかと思うほどなのに、一体久秀は何をよこせというのだろう。
 怪訝に思う気持ちと同時に、可那は微かな興奮も感じていた。
「何が……欲しいの?」
 震える声で尋ねてみる。怖い気もしたけれど、少し期待もあった。久秀は可那に対して一体何をしようとしているのだろう……。
「ここを私のものにしたい」
 久秀はそう言って、可那の尻をねっとりと撫でてくる。
「そ、そこを貴方のものにって……意味がよく分からないわ……」
「そうでしょうね」
 久秀はくすくすと笑い続けている。可那の尻を撫でる手は止めようとしない。
「ね、ねえ……どういうことなの? 教えて?」
 可那は本当に意味が分からず、困惑していた。
 尻を久秀のものにしたい?
 もう一度考えてみても、意味が分からなかった。
 久秀は可那の体を抱き寄せながら、着物の上から執拗なほどに尻を撫で回している。
「……ぁ……ゃ……っ……」
 撫で回されているうちに、そこにすべての感覚が集中していくようだった。
「やはりここも敏感なようだ……」
 久秀は嬉しそうに言い、下帯の隙間から手を潜り込ませると、尻の肉を割って、その中心部にある部分を突いてくる。
「……っ……!」
 その部分に久秀の指が触れた瞬間、可那の尻が跳ね上がった。まさかそんなところを他人の指で触れられるなんて思わなかったからだ。
「ここですよ。ここを私のものにしたいのです」
 可那はようやく久秀の言っている意味が分かった。
 要するに、尻のすぼみのような穴に、久秀の肉の棒を入れたいと言っているのだろう。
 あまりにも意外で、そして恥ずかしすぎるおねだりに、可那は赤面してしまう。
「そ、それは……っ……」
「駄目ですか?」
 本当におねだりするように、耳元で久秀が囁いてくる。その声に体の感覚も感情も、痺れさせられてしまうようだ。
 それに、先ほど久秀が緊張し、胸の鼓動が速かった理由がこれなのだと思うと、断るのはかわいそうな気もしてしまう。
(でも……本当にそんなところを使って……?)
 想像してみようとしても、想像がつかなかった。
「ど、どうしても……そこじゃないと駄目なの?」
「ええ……貴方のここが欲しい」
 久秀は指でその周囲に円を描くようにした。体全体がぞくぞくとする感じがした。
「で、でも……っ……」
 可那はすぐには決心がつかなかった。
 久秀がどうしても欲しがっていることは分かる。分かるけれども、決心がつかない。
 久秀はその周囲を指で優しく撫でながら、甘えるように囁いてくる。
「私は欲張りなんですよ。貴方のすべてを私のものにしたい。今度の戦でずっとそのことばかり考えていたんです。ここを私のものにするまでは死ねないと」
 久秀の指が、その部分を指で何度も行き来する。
 戦の最中に久秀がそんなことを考えていたのかと思うと、可那は妙に落ち着かない気分になる。
「……っ……ぁ……ん……」
 だんだん変な感覚が、その周囲を中心に広がっていって、可那は息を喘がせる。いつの間にか可那は尻に力をこめていた。
「ん……っ……く……ぅ……」
 久秀のもう片方の手は、すでに可那の着物の袂を潜り抜け、胸の突起をもてあそんでいた。
 可那は堪らずに喘ぐ。
「……ん、ぁ……っ……んっ……」
「駄目ですか? 私がこんなに懇願しているのに」
 甘えるような声で囁かれ、可那は両足に力をこめる。
「だ、だって……そ、そんな場所……」
「ここは衆道の交尾の際にも使用される場所ですよ。別にここを使うのは珍しくはありません」
「で、でも……っ……」
 衆道の交尾……確かに男同士の場合はそこを使うしかないのだろう。だけど、可那の場合はわざわざそんな場所を使う必要なんてないはずなのに。
 でも、ぐるぐるとその場所で小さな円を描き続ける久秀の指の感触が、可那の知らない感覚を生み出し始めていた。
 可那はその感覚の行き着く先を見てみたいと、少し思い始めていた。
「いつもの場所とは違った快楽を貴方に教えてあげますよ」
「い、痛くはないの……?」
「最初は少し痛みもあるかも。でも、最初のうちだけです。私を信じてください……」
 久秀は可那の耳元で囁き続ける。その淫らな誘惑に、可那の心は傾きかけていた。
 でも、自分からそれを望むということには、まだ抵抗があった。
「わ、私が貴方の所有物だっていうのなら……許可なんて必要……んぁっ……ないでしょ……?」
「私は貴方が納得の上で私に所有されると良いなと思っているんです。貴方から望まれて、ここをものにしたい……」
「私が望むって……ん、ぁっ……そんな……っ……」
「嫌ですか?」
「嫌っていうか……その……っ……ぁ、ん……っ……」
 可那が曖昧な返事しか出来ないのは、行為への抵抗感よりも、自分から望んでそんな場所に入れて欲しいなどとは口が裂けても言いたくなかったからだ。
 もしもここで久秀の言うとおりに望んでしまえば、いくら彼が促したこととはいえ、可那のことを軽蔑してしまうのではないだろうか。そんな不安があった。
「貴方に……嫌われたくない……っ……」
 可那は久秀の着物を強く握り締めながら、声を振り絞った。
「私が……嫌う? 貴方のことを?」
「じ、自分から望んだりしたら……軽蔑するでしょ……?」
「そんなはずはないでしょう。むしろ喜びますよ」
「嘘……信じられない……っ……」
「ふむ……」
 久秀は手を止めた。それと同時に、尻の中心に感じていた奇妙な感覚も止まった。
「私は貴方が自分から望んだからといって、軽蔑したり、嫌ったりはしません。信じてくれないのですか?」
「だ、だって……そんな場所に……っ……」
「では、ひとつ告白をしましょう。私もかつて、この場所を主人に差し出したことがあります。長い間私は長慶様の閨で可愛がってもらっていましたからね」
「え、そ、そうなの?」
 可那は驚いてしまう。久秀ほどの美しい男なら、確かにそういう役目をするのも、当然といえば当然かもしれないけれど。
 久秀が誰かに抱かれている姿というのは、ちょっと考えただけでは想像できなかった。
「だから、貴方がここを差し出したからといって、軽蔑することもないし、嫌うこともないんです。分かっていただけますか?」
「す、少し……」
「良かった。で、どうします?」
 久秀は返事を促してくる。可那はまだ少し迷いつつも、こくんと頷いた。
「貴方に……あげてもいい……」
「分かりました。では、遠慮なくいただきましょう」
 自分でもとんでもないことを決断してしまったと可那は思いつつも、久秀なら乱暴なことはしないだろうという部分では安堵していた。特にそこを誰かに貫かれた経験があるのなら。
「私を信じて……ゆだねてください……」
「ええ……信じる……」
 久秀は可那の唇に優しく接吻する。
 ゆっくりと、着物を脱がせていく。いつも以上に時間をかけて。もどかしいほどに、少しずつ、可那の肌があわらになっていく。
「あ……ぁ……」
 着物が肌を滑る感覚だけで、感じてしまう。体が想像しているよりもずっと敏感になってしまったようだった。
 久秀の手が下帯にかけられる。するりとそれも剥ぎ取られ、可那は生まれたままの姿で異国の寝台に横たわった。
「あぁ……貴方の体はいつ見ても美しい……」
 そうため息をつきながら、久秀は目を細め、まるで平蜘蛛を撫でるように可那の体を撫でていく。
「ん……ぁ……ぁ……っ……」
 可那は小さく喘いだ。久秀の手が腰骨の辺りに触れると、両足がびくびくと反応してしまう。
 こうして彼に触れられるのは、本当に久しぶりのことだ。だからかもしれない。優しくなぞるように触れられただけで、体全体に痺れが走ってしまう。
「うつぶせになりましょうか」
 久秀にそう促され、可那は体をうつぶせにする。雲の上に寝転んだら、こんな感触だろうか……。ふわふわと体が落ち着かないし、少し動いただけで、体がものすごく浮き沈みしてしまう。
「少し腰を上げてください。そうです。お尻を突き出すように」
 可那はもうどうにでもなれという気持ちで、久秀に言われたとおりに尻を突き出した。
「いいですね……とても素晴らしい。さわり心地も最高です」
 久秀は嬉しそうに言いながら、可那の尻の形を確かめるかのように撫でている。
「んっ……んんっ……」
 もぞもぞとくすぐったいような痺れるような感覚が、尻を中心に広がっている。こんなに尻ばかりを愛撫されたのは初めてだから、妙な感覚だった。
 久秀は寝台の隅で何かごそごそとしている。
「少し冷たいかもしれませんが、我慢してください」
 久秀はそう言うと、何かを可那の尻のそぼにみに塗りつけてきた。ぬるぬるとしていて、冷たい何か。うつぶせになり、尻を高く上げている可那には、一体久秀が何を塗りこんでいるのかは分からなかった。
「な、何を塗ってるの?」
「丁子の油ですよ」
「あ、油!?」
 可那は驚いてしまう。そんなものを、そんな場所に塗るなんて……でも、久秀は経験があるから、そこを使うときには使うものなのだろう……可那はそう思い込むことにした。
 久秀の指はぐるぐると円を描くようにしながら、丁子油を可那の尻のすぼみに塗りこんでいる。
「ん……っ……ぁ……ぁっ……んんっ……」
 そこをぬるぬると指が動くと、感じたことのない感覚が広がっていく。快楽にとてもよく似ているものだ。
「気持ち良いですか?」
「ん……わ、分からない……でも、それに近い感じ……」
「もう少し指を奥まで入れてみます」
 久秀はそう言うと、丁子油をたっぷりと塗りこんだらしい指を、ぐいっと奥のほうまで差し入れてくる。
「んぁっ……ぁ……あぁ……っ……」
 異物感とともに、やはり何だか妙な感覚が広がっていく。痛みは感じない。
 久秀は指をねじ回したり、抽送したりしながら、その場所を慣らしているようだった。
(ここに……彼のあれが……入って来る……)
 可那はそれを想像してみようとしたが、やっぱり無理だった。指の何倍もあるものが、そこをこじ開けて入ってこれるとはとうてい思えない。
 でも衆道ではそうやって営んでいるのだから、きっと女のあそこが広がるように、そこもその時になれば広がるのかもしれない。
「ここは自分では濡れてくれませんからね。こうして、しっかりと濡らす必要があるんです」
「そ、そう……」
「それに、出来るだけ広げておかないといけない。ここは女性のあの場所よりは、上手く広がってくれませんから」
「ん……分かった……」
 久秀の指は休むことなく蠢き続けている。その部分では緩やかに、何かが形を成そうとしていた。その形が何なのかは、今の可那にはまだ分からない。
 だけど、久秀には分かっているのだろう。
 久秀の指の動きには迷いがない。まるで知り尽くしているかのように、可那の尻のすぼみを行き来し続けている。
「ん……んんっ……ぁ……ん……っ……」
 長い時間をかけ、久秀はその場所を使えるように慣らしていった。
 やがて準備が整う頃には、可那はもうその部分に久秀の硬く大きなものを求めていた。早く……一刻も早く入れて欲しい。
「随分と柔らかくなりましたね……」
 久秀は満足そうに自分の仕事を確認しながら、可那の尻のすぼみに指を出し入れする。最初の頃のような圧迫感は今は感じない。ただし、それは指の話だ。指の一本や二本なら大して苦痛は感じないだろうが、久秀の一物がそこへ入るとなると、どうなるのか分からない。
「大丈夫ですよ。優しくしますから」
 久秀はそう言って、可那の尻に接吻を繰り返す。
「ん……っ……ふ……っ……」
 もう尻全体がかなり敏感になってしまっているようだった。
「ここも濡れている……」
 久秀は尻をなでていた手を移動させ、可那の前の穴に軽く指を差し入れる。くちゅりと濡れたいやらしい音が可那の耳にも届いた。
「いよいよ、ここを私のものにするときがきたようですね」
 久秀の手は、いつの間にかまた尻のすぼみに戻っていた。尻の双丘を優しく撫でながら、すぼみの周囲を指先でなぞる。そんな優しい動作だけで、可那はひくひくと体を震わせた。
 ごそごそと背後で衣擦れの音がする。
 久秀が着物の前を開いているのだろう。
 やがてそっと、硬いものがそこに押し当てられた。久秀の分身であることはすぐに分かった。可那の全身に力が入ってしまう。
「力を抜いてください」
 久秀はそう言いつつ、軽く可那の尻を叩く。
「ぬ、抜いてるつもり……だけど……」
「しっかり力が入ってしまっているみたいですよ。もっと力を抜いて」
 優しく尻を撫でられると、自然に力が抜けていってしまう。
「よし、良い感じです。そのまま力を抜いたままで……」
 ぐっとその入り口が押し広げられる感触があった。
「あっ……」
 可那の唇から思わず声が漏れた。また体に力が入ってしまったみたいだ。
「ゆっくり入れますからね。なるべく力を抜いて、あまり力まないようにしてください」
 久秀はそう忠告すると、たっぷりと解し、丁子油を塗りこんだその入り口からゆっくりと可那の中へと入ってきた。
「んぁぁっ……あ、んぅっ、っく……!」
 余りにも強い圧迫感に、可那は自分の顔を柔らかな布団に押し付けて耐えた。想像していた以上に、体が広がっている感じがする。
「力を抜いて……」
 久秀はまた同じ事を言った。でも、とても力を抜くことなんて出来そうになかった。
 久秀は可那の体の前方に手を伸ばし、乳房と乳首を優しく撫でるように愛撫する。その愛撫に、ほんの少し力が抜けた。
「あっ……っく、んんぅ……はぁ、はぁっ……」
 快楽などを感じる余裕はまったくなかった。圧倒的な異物感に耐えることだけに集中しなければ、体が壊れてしまいそうだった。
「ほら……そんなに力を入れないで。大丈夫ですよ。痛くないようにしますから」
 耳元で囁かれる声に頷いて、可那は何とか体の力を抜こうとする。でも、久秀が少し進むたびに、体には必要以上の力が入ってしまった。
 やがて、ようやく久秀の分身が根元まで可那の中に収まった。
「ふう、ようやく収まりましたね……」
 ひと仕事終えたように、久秀が息を吐く。
 ここまでの道のりは可那にとっても相当に長かった。
 久秀はそのまましばらくじっと動かなかった。可那の胸や陰部に手を伸ばし、体を解すように愛撫を繰り返す。
「ん……ぁ……ん……ふ……ん……」
 尻の中の感覚よりも、久秀の愛撫が与える感覚が徐々に大きくなっていく。自分でも全身の力が抜け落ちていくのが分かった。
 久秀は時間をかけて、可那の敏感なところへ刺激を送り続ける。いつもなら、可那が落ち着くのを待つこともなく動き始めるのに、今日はかなり慎重になっているようだ。
「んぅ……んっ、く……ぁっ……んっ……」
 可那の息が熱く弾み始める。愛撫されている刺激だけで、達してしまいそうになる。久秀は可那の体を本人以上に知り尽くしているから、こうなるのは当然のことかもしれなかった。
「んぁっ、んんっ……!」
 やがて可那が軽く達すると、息を喘がせるその体を久秀は背後から優しく抱きしめる。行為の最中に久秀からこんなに優しい扱いを受けることは珍しかった。
 可那の背中に舌を這わせ、口づけをし、久秀はその内部が落ち着くのを辛抱強く待っているようだった。
 けれども、可那の体の奥深くに埋められた久秀の一物は、まるで早く動きたいと訴えるかのように、びくびくと震えているのが分かる。
「んっ……あ、ん……もう動いても……大丈夫……」
 久秀が必死に耐えているのではないかという気がして、可那はそう促した。
「そうですか……では、少し動いてみましょう」
 久秀は少し苦しげに息を吐きながら、ゆっくりと腰を引き上げた。そしてまたゆっくりと肉の棒を可那の体の中へと戻していく。
「んぅ……く……んっ、んんっ……」
 やはり異物を挿入されているという感覚が強い。ただ、痛みは感じなかった。可那は激しい異物感を、布団をぎゅっと握り締めながら耐えていた。
 久秀は性急に動くことはせず、同じ速度でゆっくりと動き続けている。
「ぁ……ん……ふ……ぁっ……んくぅ……」
「もう少し力を抜けませんか? あまり力が入りすぎていると、私が気をつけていても貴方を傷つけてしまう」
「そ、そんな……っ……無茶……言わないで……っ……」
 搾り出すような声で可那は答えた。今はこの状況を受け止めるのが精一杯で、力を抜くとかそんな余裕はまったくない。
 久秀は可那の乳房を優しく撫でながら、根気強くその場所を広げるようにして抽送を続けている。最初の挿入の時よりは随分と楽になって来たが、まだ少し窒息しそうな息苦しさを感じてしまう。
「……んぅ……く……んっ……んんっ……」
 わざわざこんな場所に入れてまで楽しみたいなどという気持ちは、可那にはとうてい理解できそうになかった。でも、こういう場所に入れて楽しむ趣向があるということは、慣れれば前に入れられるのと同じように気持ちよくなったりするんだろうか。
「良い具合に力が抜けてきましたね。少し強く動きますよ」
 久秀はそう告げると、少し勢いをつけるようにして突き上げてくる。ゆるゆると出し入れされていた時とは何だか感覚が違う。
「んっ、あっ……んっ……く……んんっ……」
 可那は柔らかすぎる感触のする布団をぎゅっと握り締めながら、突き上げの衝撃に耐え続けている。いつもの久秀の動きから考えると、これでもまだかなり手加減をしているほうなのだろう。
 けれども慣れというのは恐ろしいもので、最初は苦痛しか感じなかったその場所に、未知の感覚が広がりつつあるのを可那は感じていた。
 これはこれまでに経験してきた快楽とよく似た感覚だ。まさか自分がこんな場所でまで感じてしまうとは……自分自身が信じられない気持ちだった。
「あ、ん……ふ……ぁっ……んんっ……」
 久秀は可那の背中や首筋に接吻を繰り返し、乳房や前の突起を愛撫しながら、次第に速度を上げて突き上げてくる。
「やはり……貴方のこの場所も名器だったようだ。私の目に狂いはなかった……」
 可那が感じ始めている様子を見て、久秀は嬉しそうに囁いた。久秀自身も気持ちよいのか、その声が少し掠れている。
 やがて容赦のない突き上げを久秀がしてくる頃には、可那の中でぼんやりとしていた感覚は、明確な快楽となって襲い掛かっていた。
「あぁっ……あ、んっ、あぁっ……!」
 突き上げられるたびに恥ずかしいほど淫らな声が漏れてしまう。でも、とめられない。
 久秀自身も限界が近づいているのか、その動きはさらに強く忙しないものになっていく。
「あっ、はぁっ……あ、ぁっ……達く……っ……!」
 可那は悲鳴のような声をあげ、大きく背をそらせながら達した。その直後、可那の尻の中へ熱いものが濁流のような勢いで流れ込んできた。

 南蛮風の寝台の上でも、久秀はいつもと同じように、可那の体を丁寧に拭っていく。
 いつもは部屋の天井を眺めているのに、今日は寝台の天井を眺めている。
 今日は特に、尻の辺りを執拗なほどに拭われた。確かにそこをよく使ったのだから、当然といえば当然だけど、それでもやはり何か気恥ずかしい。
 結局、今夜は尻を使って二回、その後に前に位置を変えて数回営んだ。途中からもう数を数えるような理性は残っていなかった。
 可那の体を清め続ける久秀は、何だか機嫌が良さそうだった。久しぶりに性欲を満足させたということもあるのだろうし、可那自身が望んで尻を差し出したこともあるのだろう。
 可那は未だに信じられない気持ちだった。強く望まれたからといって、自らそんなところを差し出すなんて。
 けれども、不思議と後悔はなかった。行為を思い出すと恥ずかしさはあるけれど、久秀が言うように、これで本当に自分のすべてが彼に所有されたような気持ちになった。
 こうして体を拭われている時間も、最初の頃は苦痛と屈辱しかなかったのに、今は行為の後の穏やかで幸せな時間に感じられる。
「何だか……嬉しそう……」
 微笑みながら可那の体を清め続ける彼に言ってみる。
「ええ、とても嬉しいですよ」
 彼は自分の気持ちを隠そうともせず言った。
「貴方のすべてを私のものにすることが出来たのですから」
「私も……嬉しい。貴方のものになれて……」
 可那が恥ずかしそうに言うと、久秀は少し驚いたように目を見開く。
「まさか、貴方にそう言ってもらえるとは思いませんでしたよ」
 久秀も少し照れくさそうに言う。
「所有物がこんなことを言うのは気に食わない?」
「まさか」
「だったら、良かった」
「むしろ、そんなことを言われて、ますます愛着が湧いてしまいました」
「平蜘蛛よりも?」
「ええ、平蜘蛛よりも」
 『平蜘蛛よりも?』と聞いた可那の言葉は、軽い皮肉をこめたつもりだった。でも、久秀はその皮肉にはまったく気づかなかったようだ。
(やっぱり私と平蜘蛛って……同列だったのね……)
 可那はそのことを改めて再確認し、少しがっかりもしたけれど、それが久秀らしいと思いなおした。
(難しく考えても理解できない……だから難しく考えるのはやめよう……)
 可那はそう決めたようだった。
 ちゃぷちゃぷと布を桶で洗う音がする。
 奇妙な異国の寝台と、何だか不思議な異国の香りに包まれて、可那は先ほどの行為も今の状態も、何だかすべて夢の中の出来事ではないかと思えた。

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