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第二章
身代わり濃姫(30)
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美夜たちが清洲に戻ったのは、信長に一日遅れてのことだった。
藤ノ助とともに行商人に変装して今川領へ向かった甘音の帰りを待っていたことと、槙の傷の回復を待っていたためだった。
今川家家臣である父親の顔を見るために、藤ノ助とともに今川領へと向かった甘音は、今日の早朝には戻ってきた。
甘音は無事に父親の顔を見ることができたようだが、『兄者たちに比べたら他人だった』という感想を笑いながら美夜に伝えて来た。
それが甘音の本心かどうかは分からない。
けれども美夜は何も言わず、その言葉をそのまま受け止めた。
ひとまず甘音が、自分なりに気持ちに決着をつけてきたことは間違いなさそうだった。
肩に矢傷を負って負傷していた槙も、とりあえず輿に乗って座っていることはできる程度に回復した。
昼前には里を出発し、今回は大勢の護衛の兵たちとともに清洲へ戻ることになったのだった。
「何だか……すごーく久しぶりのような気がする……」
清洲城の城門前で美夜は感慨深く呟いた。
清洲城の前に立つのは四日ぶりのはずなのに、一ヵ月ぐらい離れていたような、そんな感覚だった。
「わたくしも何だか懐かしゅうございます」
各務野がそう言うと、他の侍女たちも頷いた。
「あぁ……やっと自分のお布団で眠れます……」
ここまで輿で運ばれてきた槙だが、傷の痛みは大丈夫そうだ。
里で薬師に処方してもらった薬も、良い具合に効いてくれているようだ。
「ここが清洲城かぁ。すんげーな! でかい!」
甘音は清洲城を見るのは初めてだったようで、あちこちきょろきょろと首を動かしている。
甘音は里から脱走を繰り返してはいたものの、いつも近隣で捕まって連れ戻されていたらしい。
だから、甘音にとってはこの道中の景色も、珍しいものばかりだったようだ。
「無事に戻ったか」
城門まで、信長が出迎えに来てくれた。
「はい、無事に戻りました」
「今回は道中の様子も逐一報告させていたから、さほど心配はしていなかったが……万が一ということもあるからな」
四日前にここを出発するときは、侍女や美夜たちも合わせて総勢三十名だった。
しかし、忍びの里からの帰り道は、三百名の兵に守られながらの帰還だった。
槙を輿に乗せたりもしていたので、倍ほどの時間はかかったものの、道中は完全に安全といっても良かった。
生きて戻ってくることのできなかった者たちのことを考えると胸が痛むが、重症を負って治療を受けている二人の近習は、何とか快方に向かっているのだという。
そのことは、美夜にとっても大きな救いだった。
「甘音、ここでは行儀良くせぬと、うるさい者が多いぞ」
信長がからかうように言うと、甘音は笑った。
「吉法師にできてることが、あたしにできねーはずねーだろ!」
甘音の反撃に、信長はむっとした顔をする。
「それはどういう意味だ。非常に不愉快だぞ」
「吉法師がやってる程度には、行儀良くできるって言ってんだよ!」
「貴様!」
信長が腕を振り上げると、甘音はひょいっとそれを交わし、美夜の背後に隠れる。
「え? そこ?」
美夜が驚いて振り返ると、
「ここが一番安全そうだし!」
と、甘音はにやりと笑った。
護衛をするはずの者を盾にするなんて、と美夜は呆れたが。
「まあ、そうかもね」
美夜は苦笑しつつも、元気になってくれた甘音の姿に、安堵を覚える。
そして、信長も、甘音といるときは、いつもと少し違う顔……十六歳の少年の顔をのぞかせるのが、美夜にとっては意外だったし、少し嬉しくもあった。
「帰蝶、城に戻って少し休め。甘音、そなたは来なくて良いぞ」
信長はそう告げると、美夜の手を引いて歩き出した。
その後を、甘音が慌てて追いかけてくる。
「あたしは帰蝶とずっと一緒にいるんだから! 吉法師のほうこそ邪魔すんなー!」
「喧しい。そなたは邪魔をしないように、離れた場所で護衛しておれ」
(本当に子どもの喧嘩みたい……)
信長に手を引かれながら美夜は思う。
でも、信長にもこんなふうに言い合える気安い者が近くにいるというのは、決して悪いことではないような気がした。
その夜……二人は久しぶりに城の寝室で過ごしていた。
「甘音が元気になってくれて良かったです。信長様、ありがとうございます」
寝室で二人きりになった美夜は、まずその礼を言った。
無茶とも思える美夜の願いを聞いてくれたばかりか、甘音の心情やこれからのことに配慮して、彼女を父親に会わせてくれたこと。
それは、甘音にとってもそうだろうが、美夜にとってもありがたいことだった。
「甘音のことは俺もずっと気にはしていた。父上は今も里へ来るたびに甘音の母の墓へ参っておられるというしな」
「そうなのですね……」
だから信長は、藤ノ助に甘音の父親のことを調べさせたりしていたのかもしれない。
いつか必要があれば会わせてやろうと考えて……。
「甘音は……何だか友達のようで、私も傍に彼女がいてくれると、とても心強いです」
「そうか。ならば良かった。きっと甘音もそなたの傍におることを、嬉しいと感じているだろう」
「そうだったら良いんですけど」
美夜が微笑むと、信長の顔が近づいてきて、二人の唇が重なる。
離れていた時間を埋めるように、互いに求め合うようにして、唇を吸い合う。
元の世界にいたときは、キスはもっと甘くて軽いものだと思っていた。
けれども、こうして唇を重ねることで、言葉にしなくても伝わる想いがあるのだと、美夜は信長を通して知った。
おととい、床を共にしたときは、気がついた時には自分も信長も眠ってしまっていたので、そうしたことはせずじまいだった。
だから、信長と身体を重ねるのは、少し久しぶりということになるのかもしれない。
「んっふ……ぅ……んぅ……信長……さま……っ……」
信長は唇を離すと、美夜の頬を両手で包み込むようにして、顔をのぞき込んでくる。
「俺はこの数日で……改めてそなたを失いたくないと思った……失わぬためにどうすれば良いのかも考えた……それでも、不安になるときがある……」
「信長様……私はどこにも行きません……」
「そうだな……そなたはそう約束してくれた……」
「はい……約束しました……私も……信長様のお側にいたいのです……」
「美夜……愛している……」
「私も……信長様を愛しています……」
再び二人の唇は重なり合い、先ほどよりもさらに熱い想いを伝え合う。
信長の手が、美夜の身体をまさぐり、美夜もまた信長の身体に触れていく。
美夜は身体の芯からじわじわと熱がこみ上げてくるのを感じていた。
信長がもどかしげに着ているものを脱ぎ捨て、美夜の着物も脱がせていく。
肌に直接信長の手が触れてくると、美夜の息は熱く弾み始める。
「ん、ぁ……んぅっ、ぁ……はぁっ、んぅ、んっ……」
信長が身体に触れてくるだけで、どうしてこんなに心臓が落ち着かなくなるのだろう。
どうしてこんなに身体が熱くなってしまうのだろう。
美夜は信長の愛撫に喘ぎながら、自らも信長のモノを探った。
それに触れた瞬間、信長が息を詰める気配がして、いっそう愛おしさが増した。
(まだそんなに……上手にはなれないけど……)
とりあえず、信長に教えられた通りに手を動かしていく。
信長の手も、気がつくと美夜のあの場所へとのび、濡れたその場所を弄り始めていた。
「んぁっ、ん……んっ、ぁ……信長様……っ……」
声が弾んでしまうのを、止めることができない。
信長の指がその場所に触れるたび、身体が反応してしまう。
ふいに信長が、自分の一物を扱く美夜の手を握る。
「ん……ぁ? の、信長……様……?」
動きを止められて、美夜は少し驚いた。
気持ち良く……なかったのだろうか……?
「今日は美夜に気持ち良くなってもらいたい……」
信長はそう告げると、驚くようなことをし始めた。
美夜の両足を開き、熱い蜜を滴らせるその場所に、顔を埋めてしまったのだ。
「の、信長様っ!?」
美夜は思わず悲鳴のような声を上げた。
そんなところに顔を埋めて何をするつもりなのか……恥ずかしさと驚きに思考が混乱しながら、美夜はその場所に熱いものが触れるのを感じた。
「ひっ、ぁっ、や、の、のぶ……さ……あっ、いっ、ぁっ!」
声にならない声が漏れてしまう。
信長が美夜の陰部に顔を埋めて何をしているのかということは、少し経ってからようやく理解できた。
信長はその場所に、舌を這わせているのだ。
濡れた熱いものが、美夜の敏感なところを何度もくすぐっていく。
「あ、ぁっ、あ、ひっ、ぁっ、あぁ……あぁっ……」
美夜は自分が今、どんな恥ずかしい格好をしているのかということも、考える余裕すらなくしていた。
身体の中心がしびれて、火でもともされたみたいに熱い……。
「あ、ぁっ、あぁっ……の、ぶ……あっ、ぁっ、ぁっ!」
信長が舌を使う音が、美夜の腹の下あたりから響き続けている。
それを恥ずかしいと思う気持ちさえ、信長の与える快楽が蕩かしてしまう。
「あ、ふぁっ……あ、ぁっ、ぁぁっ……イッあ、ぁ……!」
身体の熱が沸騰しそうなほどになり、美夜は全身がはじき飛ばされるような感覚を味わった。
信長に顔を見つめられそうになり、美夜は慌てて両手で自分の顔を隠した。
「いや、恥ずかしい……」
顔を隠す両手を外され、真上から信長に見つめられてしまう。
「恥ずかしがる必要などない……」
そう囁いて、信長が接吻をしてくる。
顔を見るのも見られるのも恥ずかしくて死にそうだったが、その恥ずかしさも忘れるほどに、激しく唇を貪られる。
「んふっ、ぅ、んっく……ぅ、ふ……ぁっ……」
「そなたの中に入るぞ」
接吻を解いて信長はそう告げると、自身の熱の塊で美夜の身体を貫いていく。
「あ、ぁぁっ!! 信長様……っ……!!」
身体の中を行き来する信長の感覚を感じながら、美夜は再び身体が熱くなってくるのを感じていた。
先ほど激しい頂きを迎えたばかりだというのに、自分の身体はいったいどうなってしまったのだろうかと思う。
「そなたの中は……温かいな……」
ふと気がつくと、信長は動くのをやめ、美夜の顔を見つめていた。
美夜は息を軽く喘がせながら、とろんとした瞳で、信長を見つめ返す。
欲情した目で見つめられ、美夜はまた身体の芯のほうが疼いてくるのを感じた。
求められることが、こんなにも自分を興奮させるのだということを、美夜は今、その身体に思い知らされている。
信長が再び動き出す。
唇が重なり合い、美夜も激しく求めた。
もっと信長を感じたいと思った。
「んぅっ、ん、ぁっ、ぁああっ……んっ、ふ……んぁっ……信長様……っ……!」
信長の熱いものが身体の中で動くたび、美夜は自分の身体が蕩かされていくようだと思った。
強く奥のほうを突き上げられると、身体が跳ね上がるように反応してしまう。
信長は休むことなく美夜の中を動きながらも、美夜の胸や腰に手を這わせてくる。
身体中が敏感になっていて、信長が触れるだけで、美夜はまた息を荒くしてしまうのだ。
「あ、ぁんっ……あ、は……ぁっ……信長様……っ……!」
美夜自身は、身体に注ぎ込まれる快楽を必死に受け止め、信長にしがみつくのが精一杯だった。
信長の息も荒くなってきていた。
信長も、自分の身体の中で興奮しているのだと思うと、美夜は何ともいえない喜びがこみ上げてくるのを感じた。
(もっと……気持ち良くなって欲しい……)
そう考えてその部分に力を込めると、信長が顔をしかめて呻いた。
信長の動きがさらに激しくなり、美夜はもう余裕というものをほとんど奪われてしまう。
「あぁっ、あっ、んぁっ、はぁ、あっ、んっ、あぁぁ!」
美夜は喘ぎながら、自分の身体が覚えのある感覚に近づいているのを感じた。
美夜の身体の中で信長のモノはさらに大きくなったように感じられる。
身体の中の信長の存在が、そろそろ限界だと訴えているかのようだった。
美夜自身も、その瞬間に近づいている。
「あああぁっ! あっ、んっ、信長……様……っ……!!」
まるで美夜を追い詰めようとするかのように、信長は激しく揺さぶってくる。
頭の中がしびれて何も考えることはできず、ただ近づいてくるものを美夜は必死に追いかけた。
(もう……来る……!)
信長の汗が美夜の顔にも滴り落ちる。
美夜も身体に汗をかいていた。
そして、身体の熱がいっせいに爆発したように感じた瞬間、美夜は思わず悲鳴のような声を上げていた。
「あぁあっ、ああぁぁぁ――っ!」
それを見届けた信長が、美夜の身体の奥に熱い迸りを放った。
信長が手を握りしめてくるので、美夜もそれを握りしめた。
信長に何度も求められ、身体は疲れ果てていたが、気持ちはとても満たされていた。
こうして身体を重ねて存在を確かめ合うということは、気持ちの繋がりも深めていくことなのだと、美夜は最近感じている。
(夫婦としての義務だって思っていたときもあったのにな……)
信長の存在が、自分の中で唯一無二のものであると自覚した時から……そして、この世界で自分は信長の妻として生きていこうと決めたときから。
美夜にとって、信長と触れあうこうした時間が、かけがえのないものになった。
そして、身体を重ねるたびに、信長への自分の想いを再確認させられてしまう。
(こんなにも好きになってしまって……少し怖い……)
こうして平和な時は良いけれども、もしも信長を失った時のことを考えると、美夜はたとえようのない恐怖を感じてしまう。
先ほど信長も言っていた。
美夜を失うのは怖いと……。
それと同じ気持ちを、美夜は今感じていた。
「何を考えておる?」
気がつくと、信長が美夜の顔をのぞき込んでいる。
「私も……信長様を失いたくないと思って……それを想像してしまいました……信長様を失うのは今の私にとってとても恐ろしいことです。でも、だからといって、守勢に回ってしまえば、自分でも気づかないうちに泥沼にはまってしまうのかなと思って……道三のように……」
「そうだな……」
信長は握りしめた手にぎゅっと力を込めてくる。
「俺はそなたのために生きる。そなたを生かすために、俺は生きる。だから、俺は必死になってあがくのだ。そうすることで、必ず二人とも生きることができると信じておる」
「はい……私も……信長様と同じようにあがきます。信長様のためにも……そして自分のためにも」
「ただ……俺とて時折弱気になってしまうことがある。先ほどのようにな。それだけ、俺にとってそなたの存在は大きい……」
「信長様……」
「だから、俺がもし守勢に回っていると感じたら、そなたは俺を遠慮なく叱って欲しい。そなたにしか、それはできぬと思うから」
美夜にしかできないこと……。
信長を叱るなどということは考えたことがなかったし、美夜は信長を叱るような立場ではないと思う気持ちはあるが。
しかし、それが信長を助けることになるのなら……。
「はい……もしもそう感じたときは、遠慮なくお説教させていただきますね」
美夜がそう言うと、信長は微笑んで、そっと唇を重ねてきた。
藤ノ助とともに行商人に変装して今川領へ向かった甘音の帰りを待っていたことと、槙の傷の回復を待っていたためだった。
今川家家臣である父親の顔を見るために、藤ノ助とともに今川領へと向かった甘音は、今日の早朝には戻ってきた。
甘音は無事に父親の顔を見ることができたようだが、『兄者たちに比べたら他人だった』という感想を笑いながら美夜に伝えて来た。
それが甘音の本心かどうかは分からない。
けれども美夜は何も言わず、その言葉をそのまま受け止めた。
ひとまず甘音が、自分なりに気持ちに決着をつけてきたことは間違いなさそうだった。
肩に矢傷を負って負傷していた槙も、とりあえず輿に乗って座っていることはできる程度に回復した。
昼前には里を出発し、今回は大勢の護衛の兵たちとともに清洲へ戻ることになったのだった。
「何だか……すごーく久しぶりのような気がする……」
清洲城の城門前で美夜は感慨深く呟いた。
清洲城の前に立つのは四日ぶりのはずなのに、一ヵ月ぐらい離れていたような、そんな感覚だった。
「わたくしも何だか懐かしゅうございます」
各務野がそう言うと、他の侍女たちも頷いた。
「あぁ……やっと自分のお布団で眠れます……」
ここまで輿で運ばれてきた槙だが、傷の痛みは大丈夫そうだ。
里で薬師に処方してもらった薬も、良い具合に効いてくれているようだ。
「ここが清洲城かぁ。すんげーな! でかい!」
甘音は清洲城を見るのは初めてだったようで、あちこちきょろきょろと首を動かしている。
甘音は里から脱走を繰り返してはいたものの、いつも近隣で捕まって連れ戻されていたらしい。
だから、甘音にとってはこの道中の景色も、珍しいものばかりだったようだ。
「無事に戻ったか」
城門まで、信長が出迎えに来てくれた。
「はい、無事に戻りました」
「今回は道中の様子も逐一報告させていたから、さほど心配はしていなかったが……万が一ということもあるからな」
四日前にここを出発するときは、侍女や美夜たちも合わせて総勢三十名だった。
しかし、忍びの里からの帰り道は、三百名の兵に守られながらの帰還だった。
槙を輿に乗せたりもしていたので、倍ほどの時間はかかったものの、道中は完全に安全といっても良かった。
生きて戻ってくることのできなかった者たちのことを考えると胸が痛むが、重症を負って治療を受けている二人の近習は、何とか快方に向かっているのだという。
そのことは、美夜にとっても大きな救いだった。
「甘音、ここでは行儀良くせぬと、うるさい者が多いぞ」
信長がからかうように言うと、甘音は笑った。
「吉法師にできてることが、あたしにできねーはずねーだろ!」
甘音の反撃に、信長はむっとした顔をする。
「それはどういう意味だ。非常に不愉快だぞ」
「吉法師がやってる程度には、行儀良くできるって言ってんだよ!」
「貴様!」
信長が腕を振り上げると、甘音はひょいっとそれを交わし、美夜の背後に隠れる。
「え? そこ?」
美夜が驚いて振り返ると、
「ここが一番安全そうだし!」
と、甘音はにやりと笑った。
護衛をするはずの者を盾にするなんて、と美夜は呆れたが。
「まあ、そうかもね」
美夜は苦笑しつつも、元気になってくれた甘音の姿に、安堵を覚える。
そして、信長も、甘音といるときは、いつもと少し違う顔……十六歳の少年の顔をのぞかせるのが、美夜にとっては意外だったし、少し嬉しくもあった。
「帰蝶、城に戻って少し休め。甘音、そなたは来なくて良いぞ」
信長はそう告げると、美夜の手を引いて歩き出した。
その後を、甘音が慌てて追いかけてくる。
「あたしは帰蝶とずっと一緒にいるんだから! 吉法師のほうこそ邪魔すんなー!」
「喧しい。そなたは邪魔をしないように、離れた場所で護衛しておれ」
(本当に子どもの喧嘩みたい……)
信長に手を引かれながら美夜は思う。
でも、信長にもこんなふうに言い合える気安い者が近くにいるというのは、決して悪いことではないような気がした。
その夜……二人は久しぶりに城の寝室で過ごしていた。
「甘音が元気になってくれて良かったです。信長様、ありがとうございます」
寝室で二人きりになった美夜は、まずその礼を言った。
無茶とも思える美夜の願いを聞いてくれたばかりか、甘音の心情やこれからのことに配慮して、彼女を父親に会わせてくれたこと。
それは、甘音にとってもそうだろうが、美夜にとってもありがたいことだった。
「甘音のことは俺もずっと気にはしていた。父上は今も里へ来るたびに甘音の母の墓へ参っておられるというしな」
「そうなのですね……」
だから信長は、藤ノ助に甘音の父親のことを調べさせたりしていたのかもしれない。
いつか必要があれば会わせてやろうと考えて……。
「甘音は……何だか友達のようで、私も傍に彼女がいてくれると、とても心強いです」
「そうか。ならば良かった。きっと甘音もそなたの傍におることを、嬉しいと感じているだろう」
「そうだったら良いんですけど」
美夜が微笑むと、信長の顔が近づいてきて、二人の唇が重なる。
離れていた時間を埋めるように、互いに求め合うようにして、唇を吸い合う。
元の世界にいたときは、キスはもっと甘くて軽いものだと思っていた。
けれども、こうして唇を重ねることで、言葉にしなくても伝わる想いがあるのだと、美夜は信長を通して知った。
おととい、床を共にしたときは、気がついた時には自分も信長も眠ってしまっていたので、そうしたことはせずじまいだった。
だから、信長と身体を重ねるのは、少し久しぶりということになるのかもしれない。
「んっふ……ぅ……んぅ……信長……さま……っ……」
信長は唇を離すと、美夜の頬を両手で包み込むようにして、顔をのぞき込んでくる。
「俺はこの数日で……改めてそなたを失いたくないと思った……失わぬためにどうすれば良いのかも考えた……それでも、不安になるときがある……」
「信長様……私はどこにも行きません……」
「そうだな……そなたはそう約束してくれた……」
「はい……約束しました……私も……信長様のお側にいたいのです……」
「美夜……愛している……」
「私も……信長様を愛しています……」
再び二人の唇は重なり合い、先ほどよりもさらに熱い想いを伝え合う。
信長の手が、美夜の身体をまさぐり、美夜もまた信長の身体に触れていく。
美夜は身体の芯からじわじわと熱がこみ上げてくるのを感じていた。
信長がもどかしげに着ているものを脱ぎ捨て、美夜の着物も脱がせていく。
肌に直接信長の手が触れてくると、美夜の息は熱く弾み始める。
「ん、ぁ……んぅっ、ぁ……はぁっ、んぅ、んっ……」
信長が身体に触れてくるだけで、どうしてこんなに心臓が落ち着かなくなるのだろう。
どうしてこんなに身体が熱くなってしまうのだろう。
美夜は信長の愛撫に喘ぎながら、自らも信長のモノを探った。
それに触れた瞬間、信長が息を詰める気配がして、いっそう愛おしさが増した。
(まだそんなに……上手にはなれないけど……)
とりあえず、信長に教えられた通りに手を動かしていく。
信長の手も、気がつくと美夜のあの場所へとのび、濡れたその場所を弄り始めていた。
「んぁっ、ん……んっ、ぁ……信長様……っ……」
声が弾んでしまうのを、止めることができない。
信長の指がその場所に触れるたび、身体が反応してしまう。
ふいに信長が、自分の一物を扱く美夜の手を握る。
「ん……ぁ? の、信長……様……?」
動きを止められて、美夜は少し驚いた。
気持ち良く……なかったのだろうか……?
「今日は美夜に気持ち良くなってもらいたい……」
信長はそう告げると、驚くようなことをし始めた。
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「の、信長様っ!?」
美夜は思わず悲鳴のような声を上げた。
そんなところに顔を埋めて何をするつもりなのか……恥ずかしさと驚きに思考が混乱しながら、美夜はその場所に熱いものが触れるのを感じた。
「ひっ、ぁっ、や、の、のぶ……さ……あっ、いっ、ぁっ!」
声にならない声が漏れてしまう。
信長が美夜の陰部に顔を埋めて何をしているのかということは、少し経ってからようやく理解できた。
信長はその場所に、舌を這わせているのだ。
濡れた熱いものが、美夜の敏感なところを何度もくすぐっていく。
「あ、ぁっ、あ、ひっ、ぁっ、あぁ……あぁっ……」
美夜は自分が今、どんな恥ずかしい格好をしているのかということも、考える余裕すらなくしていた。
身体の中心がしびれて、火でもともされたみたいに熱い……。
「あ、ぁっ、あぁっ……の、ぶ……あっ、ぁっ、ぁっ!」
信長が舌を使う音が、美夜の腹の下あたりから響き続けている。
それを恥ずかしいと思う気持ちさえ、信長の与える快楽が蕩かしてしまう。
「あ、ふぁっ……あ、ぁっ、ぁぁっ……イッあ、ぁ……!」
身体の熱が沸騰しそうなほどになり、美夜は全身がはじき飛ばされるような感覚を味わった。
信長に顔を見つめられそうになり、美夜は慌てて両手で自分の顔を隠した。
「いや、恥ずかしい……」
顔を隠す両手を外され、真上から信長に見つめられてしまう。
「恥ずかしがる必要などない……」
そう囁いて、信長が接吻をしてくる。
顔を見るのも見られるのも恥ずかしくて死にそうだったが、その恥ずかしさも忘れるほどに、激しく唇を貪られる。
「んふっ、ぅ、んっく……ぅ、ふ……ぁっ……」
「そなたの中に入るぞ」
接吻を解いて信長はそう告げると、自身の熱の塊で美夜の身体を貫いていく。
「あ、ぁぁっ!! 信長様……っ……!!」
身体の中を行き来する信長の感覚を感じながら、美夜は再び身体が熱くなってくるのを感じていた。
先ほど激しい頂きを迎えたばかりだというのに、自分の身体はいったいどうなってしまったのだろうかと思う。
「そなたの中は……温かいな……」
ふと気がつくと、信長は動くのをやめ、美夜の顔を見つめていた。
美夜は息を軽く喘がせながら、とろんとした瞳で、信長を見つめ返す。
欲情した目で見つめられ、美夜はまた身体の芯のほうが疼いてくるのを感じた。
求められることが、こんなにも自分を興奮させるのだということを、美夜は今、その身体に思い知らされている。
信長が再び動き出す。
唇が重なり合い、美夜も激しく求めた。
もっと信長を感じたいと思った。
「んぅっ、ん、ぁっ、ぁああっ……んっ、ふ……んぁっ……信長様……っ……!」
信長の熱いものが身体の中で動くたび、美夜は自分の身体が蕩かされていくようだと思った。
強く奥のほうを突き上げられると、身体が跳ね上がるように反応してしまう。
信長は休むことなく美夜の中を動きながらも、美夜の胸や腰に手を這わせてくる。
身体中が敏感になっていて、信長が触れるだけで、美夜はまた息を荒くしてしまうのだ。
「あ、ぁんっ……あ、は……ぁっ……信長様……っ……!」
美夜自身は、身体に注ぎ込まれる快楽を必死に受け止め、信長にしがみつくのが精一杯だった。
信長の息も荒くなってきていた。
信長も、自分の身体の中で興奮しているのだと思うと、美夜は何ともいえない喜びがこみ上げてくるのを感じた。
(もっと……気持ち良くなって欲しい……)
そう考えてその部分に力を込めると、信長が顔をしかめて呻いた。
信長の動きがさらに激しくなり、美夜はもう余裕というものをほとんど奪われてしまう。
「あぁっ、あっ、んぁっ、はぁ、あっ、んっ、あぁぁ!」
美夜は喘ぎながら、自分の身体が覚えのある感覚に近づいているのを感じた。
美夜の身体の中で信長のモノはさらに大きくなったように感じられる。
身体の中の信長の存在が、そろそろ限界だと訴えているかのようだった。
美夜自身も、その瞬間に近づいている。
「あああぁっ! あっ、んっ、信長……様……っ……!!」
まるで美夜を追い詰めようとするかのように、信長は激しく揺さぶってくる。
頭の中がしびれて何も考えることはできず、ただ近づいてくるものを美夜は必死に追いかけた。
(もう……来る……!)
信長の汗が美夜の顔にも滴り落ちる。
美夜も身体に汗をかいていた。
そして、身体の熱がいっせいに爆発したように感じた瞬間、美夜は思わず悲鳴のような声を上げていた。
「あぁあっ、ああぁぁぁ――っ!」
それを見届けた信長が、美夜の身体の奥に熱い迸りを放った。
信長が手を握りしめてくるので、美夜もそれを握りしめた。
信長に何度も求められ、身体は疲れ果てていたが、気持ちはとても満たされていた。
こうして身体を重ねて存在を確かめ合うということは、気持ちの繋がりも深めていくことなのだと、美夜は最近感じている。
(夫婦としての義務だって思っていたときもあったのにな……)
信長の存在が、自分の中で唯一無二のものであると自覚した時から……そして、この世界で自分は信長の妻として生きていこうと決めたときから。
美夜にとって、信長と触れあうこうした時間が、かけがえのないものになった。
そして、身体を重ねるたびに、信長への自分の想いを再確認させられてしまう。
(こんなにも好きになってしまって……少し怖い……)
こうして平和な時は良いけれども、もしも信長を失った時のことを考えると、美夜はたとえようのない恐怖を感じてしまう。
先ほど信長も言っていた。
美夜を失うのは怖いと……。
それと同じ気持ちを、美夜は今感じていた。
「何を考えておる?」
気がつくと、信長が美夜の顔をのぞき込んでいる。
「私も……信長様を失いたくないと思って……それを想像してしまいました……信長様を失うのは今の私にとってとても恐ろしいことです。でも、だからといって、守勢に回ってしまえば、自分でも気づかないうちに泥沼にはまってしまうのかなと思って……道三のように……」
「そうだな……」
信長は握りしめた手にぎゅっと力を込めてくる。
「俺はそなたのために生きる。そなたを生かすために、俺は生きる。だから、俺は必死になってあがくのだ。そうすることで、必ず二人とも生きることができると信じておる」
「はい……私も……信長様と同じようにあがきます。信長様のためにも……そして自分のためにも」
「ただ……俺とて時折弱気になってしまうことがある。先ほどのようにな。それだけ、俺にとってそなたの存在は大きい……」
「信長様……」
「だから、俺がもし守勢に回っていると感じたら、そなたは俺を遠慮なく叱って欲しい。そなたにしか、それはできぬと思うから」
美夜にしかできないこと……。
信長を叱るなどということは考えたことがなかったし、美夜は信長を叱るような立場ではないと思う気持ちはあるが。
しかし、それが信長を助けることになるのなら……。
「はい……もしもそう感じたときは、遠慮なくお説教させていただきますね」
美夜がそう言うと、信長は微笑んで、そっと唇を重ねてきた。
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