【R18】墜ちた将校、恩讐に啼く【完結済】

譚月遊生季

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第一章 哀れみも、誉れも、愛も

第8話「敵は自分で守れるが、友の裏切りは神に守ってもらうしかない」※

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 酔ったフェルディナンドは、中尉が隣に座った途端大人しくなった。

「プロシュート要る?」
「……はい」
「どうぞ。フェルドちゃんの口に合うかは、わかんないけどね」

 フェルディナンドはまるでツバメの雛みたいに、与えられるツマミを素直に受け取ってもぐもぐ食べる。
 酔ってても、食べ方にはやっぱり品があって、その上で色気もある。なんなんだこの野郎は。どこまで俺の情緒と劣情を振り回せば気が済むんだ。

 一通り食べ終えると眠くなったのか、腕を組んで船を漕ぎ始める。そこに、中尉が自分の上着を被せて背中をポンポンと……
 いや、本当に母親マンマじゃねぇか。

 その間に他の奴らはすっかり出来上がって、そこら辺の酒盛りと変わらねぇ盛況せいきょうさになっている。
 そんな喧騒けんそうに紛れて、こっそりマローネ中尉に近づいた。

「あの……」
「あら、どうしたのジャコモくん」
「フェ……ダリネーラ少尉が……『負傷』なされた作戦について、知りたいんですが」

 素直に教えてくれるかは分からない。フェルディナンドみたいに「新兵には関係ない」って言うかもしれねぇが……それはそうと、少しでも情報が欲しい。

「……ああ、あれね」

 マローネ中尉はきょろきょろと辺りを見回し、小声で囁いた。

「しくじったのはね、もっと上の連中なのよ」

 続きは、ため息とともに吐き出されていく。

「元から無理な作戦だったわけじゃないわ。ただ、誰かさんが行軍こうぐんに失敗して『無理にした』のよ。人員が半数にも満たない状態で、作戦が上手くいくわけないわ」

 行軍……って言うと、軍隊が目的地に来る途中でトラブルがあったってことになる。
 そりゃ、既に現場に着いた奴らにはどうしようもない事情だ。

先遣隊せんけんたいが出陣するまでに、到着するはずの人員が間に合わなかった。フェルドちゃんも、何度も確認に行ってくれたんだけどね……」

 ああ、そうか。訓練にまで顔を出してきたのは、その「確認」のついでだったってことか。……で、苛立いらだってたのもあって訓練兵に八つ当たりして帰ってったと……。

「でも、魔獣にも活動しやすい時間帯があるわけで、遅らせれば遅らせるほどこっちが不利になるわ。……決行するなら、先遣隊の出陣をあれ以上遅らせるわけにはいかなかった」
「中止は……」
「もちろん、みんな考えたわよ。大尉は援軍がすぐに来るって言うけど、同じセリフを一時間に三度も聞いたら信用なんてできないわよね? ……で、小隊の将校達は決断を投げたわ。自分たちは何もしないし何も関与しない……って」
「ええー……」
「面倒くさくなったんでしょうね。行軍失敗の尻拭しりぬぐいもしたくないし、命も賭けたくないと。でも作戦自体はやらなきゃ、大尉のメンツが丸潰れ。その場合、突入した面々の命は保証されない……」

 話を聞いてるだけで、こっちも頭が痛くなってきた。
 あのアホみたいな「訓練」の裏で、とんでもねぇ責任のなすり付けあいが起こってやがったんだな……。

「……本来、フェルドちゃんみたいな重要人物は、先遣隊の隊長なんて危険な任務に着いたりしないわ。だけど、人員不足に陥った結果、先遣隊について行ってくれるのはフェルドちゃんしかいなかった」
「……」
「嫌な予感はしたわ。あの子、自分の命なんてどうでもいい代わりに、功を急いでいたもの」
「…………」
「兵士たちだって、いつも組まない上官が突然指揮官として現れたら『何かあった』って察するわ。……士気も下がって当然。だけど……フェルドちゃんは、それでも……例え、手柄を立てられるならそれで良かったの」

 フェルディナンドが、酔って絡んできた時の言葉を思い出す。
 ……あの年齢で少尉なんて何もおかしくねぇのに、あいつは気にしてやがった。「もっと上」を望んでいやがった。
 その結果が、死ぬよりもひでぇ屈辱ってのは皮肉なもんだがな。

「で、フェルドちゃんが行方不明であたしが探し回ってる間に、上官たちはしれっと口裏合わせてあたしの責任にしちゃったの。嫌んなっちゃう」

 マローネ中尉は冗談めかして笑うが、全然笑いごとじゃない。上から都合良く切り捨てられそうになったってことだよな、それ。

「……ねぇ。あの子が推薦したってことは、あなたが命の恩人なんでしょう」

 ……さすがに、この人は勘がいいな。
 まあ……恩人って言うには、かなり微妙なところだが……。

「……成り行きですよ」

 特に否定せず呟くと、マローネ中尉は困ったように笑った。

「フェルドちゃん……難しい子だけど、根っから悪い子なわけじゃないの。……本当よ」

 ああ、知ってるよ。
 それくらい。
 ……誰よりも、俺がよく知ってる。



 ***



 ──薄汚いな

 ──るっせぇな! こちとら仕事の手伝い中だっつの。貴族様はお気楽で結構なこって

 ──野良犬や野良猫でも、今の君に比べればずいぶんマトモに見える。……ほら、これでも使え。顔を拭くぐらいはできるだろう

 ──ずいぶん生意気な口聞くようになったじゃねーか。お坊ちゃんが

 ──君の悪影響だ。……なぁ、「庭仕事」の手伝いは……いつ、終わるんだ

 ──オヤジが良いって言うまで?

 ──そうか。……じゃあ、待っている

 ──いつもの公園な。サッカーしようぜサッカー

 ──僕はかくれんぼナスコンディーノがいい

 ──はぁ? またかよ。あんなのガキンチョの遊びだろ

 ──そ、そんなはずはない! 僕は君と出会って初めて遊んだ!

 ──へいへーい。後でコイントスでもして決めようぜ

 ──……うん




 ──ありがとう、××──



 ***



 眠ったフェルディナンドを背負い、奴の部屋へと運ぶ。
 中尉には「あたしが運ぶわよ」と言われたが、笑顔で「いえ! 大丈夫です!」と断っておいた。
 どうせこの後ヤることは決まってる。周りの好印象も稼げるし、一石二鳥だ。

「……おい」

 部屋に着いたところで、ベッドに座らせて肩を揺すった。
 フェルディナンドは「ん……」と眠そうな目をこすり、両目をぱちぱちとまたたかせる。
 ……可愛い仕草しやがって。

「ヤるぞ」

 まだ寝ぼけた瞳が、俺を見る。
 フェルディナンドは黙って服を脱ぎ、横になった。

「……早く、済ませろ」

 熱っぽくねだる声が、本能を刺激する。いつもの如く、陰嚢いんのうの奥に隠された孔は愛液でびしょびしょに濡れていた。
 身体の上に覆いかぶさり、首筋に、鎖骨に、胸に、唇の跡を残していく。
 俺を刻みつけるように。……もう、二度と、忘れられたりしないように。

「あ……」

 甘やかな声が漏れ、身体の芯が熱を持つ。
 焦らすこともできたが、俺の方が耐えられなかった。
 よく熟れた蜜壷にいきり勃った欲望を埋め、ずぶずぶと奥へ入っていく。

「あぁっ……ぁ、ン……ッ、ぁあっ」

 そのまま腰を揺すり、より深く、より感じるように、濡れそぼった中を堪能たんのうする。
 つれない態度とは裏腹に、こいつの身体は俺が欲しい、欲しいと握りしめ、求めてくる。

「ふ……ぅ、あぁっ、あ、あぁあぁあっ」

 相手がイッてもお構いなしに腰を振り続ければ、背中に縋り付くような手が伸びる。

「待……っ! まだ、イッ……んぁあぁぁあっ!」

 叫びにも近い喘ぎを上げ、フェルディナンドは繰り返し達する。
 まだまだ貫いていたい想いも虚しく、限界まで張り詰めた俺の欲望は、呆気あっけなくフェルディナンドの胎内へ子種を吐き出した。

 出し切ったモノを抜く間際。
 フェルディナンドの白い頬に、ぽたぽたと透明な雫が落ちる。

「……なぜ、泣いている……?」

 はぁ、はぁと、息を乱したまま、フェルディナンドは俺に問うた。

「……はは……」

 馬鹿みてぇだな。こんなことで感情をかき乱されて、涙まで流すなんてよ。

「……好きだからだよ」

 俺からの求愛に、フェルディナンドはわずかに目を見開く。
 そのまま静かに眉をひそめ、「そうか」とだけ呟いた。

 ──連れて行ってくれ。ここではない、どこかに

 まだガキだった頃の、今より少しばかり高い声が耳の奥で蘇る。

 ──ああ……良いぜ。連れて行ってやる

 お前は約束の場所には現れなかったし、俺も約束を果たせなかった。
 ……だから……だから、もう一度、こうやって会いに来た。

 知らねぇだろ。お前の顔を見た時、どれだけ心が弾んだか。……そもそも、おぼえてねぇんだもんな。ちくしょう。

 ほら、今もだ。
 俺を見るお前の瞳は、あの頃とは違う。……何もかもが違う。

「……ッ、許さねぇ……」

 喉の奥からあふれ出した呪詛じゅそに、フェルディナンドは何も返さなかった。



 ***



 哀れみも、誉れも、愛も。
 老いた身を慰めようが、一輪の花を咲かせはしない。
 人生最期の安らぎも、お前には無縁のものだろう。
 お前の墓石に、優しい言葉は刻まれない。
 罵る声だけが、お前の弔いの歌になるだろう……

 ──歌劇「マクベス」。第四幕より抜粋。
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